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No.3 キリスト教修道制研究とグローバルヒストリーへの展望

forcus on - Toshio Ohnuki

No.3 キリスト教修道制研究とグローバルヒストリーへの展望

大学院社会文化科学研究科西洋史学研究室 大貫俊夫 准教授

 近年、急速に進んでいる”グローバル化”。国家の垣根を越えてヒトやモノ、お金が動くことを言いますが、大学院社会文化科学研究科の大貫俊夫准教授は「グローバル化は、歴史研究の分野でも急速に進んでいるんですよ」と話します。歴史研究のグローバル化とは? また、歴史学がグローバル化することで得られるものは? 大貫准教授にその疑問を解説してもらいます。

―早速ですが、歴史学のグローバル化について教えてください。

 学問のグローバル化は、一つの課題に対して国の枠を超えて共同研究を行うという理系では当たり前の動きですが、歴史学では比較的新しい動きです。これまで歴史学は、「国の歴史」を解明するために発達してきた学問であるため、狭い枠組みを取り払う必要がありませんでした。しかし近年は、インターネットを使用して史料へのアクセスが容易になったり、国境を越えた研究を支える資金が増大していたりと、状況が変わってきています。歴史学でグローバル化といった場合、具体的に二つのことを指しているように思います。一つ目はさまざまな国の研究者が一緒に特定の対象について研究すること。そして二つ目は、近年発展している「グローバルヒストリー」という研究手法のことを言います。

―グローバルヒストリーとはどういった研究手法なのでしょうか。

 日本の歴史学では、日本史や東洋史、西洋史といった枠組みで研究を進めていくことが通例でした。グローバルヒストリーはそういった枠組みを超え、ある特定の地域を考えるのではなくユーラシア大陸や海域アジアなどという風に、もっと広い視点から歴史を捉えようという手法です。中学校や高校で習った世界史は、地域ごとに時系列に沿って縦に見るイメージですが、グローバルヒストリーという考え方はどんどん横につながっていくというイメージです。戦争や植民地化、物や文化の伝来など、間文化圏的な見方で探っていくことで、地域間の関係性やシステムが明らかにされています。

―大貫先生は具体的にどのような研究をしているのですか?

 私が研究対象としているのは1100~1400年ごろのキリスト教の修道制なのですが、修道制は歴史的に見ると4世紀ごろに始まり、中世にはヨーロッパの各地で修道院が作られました。修道士になるには私有財産を放棄し、厳しい戒律に従った生活を送らなければなりません。私はその中でもシトー会という、ひときわ世俗社会から隔絶されたところに修道院を作る集団に興味を持っています。

―修道院研究に取り組み始めたきっかけは何でしょうか。

 元々、大学の修士論文では10世紀ドイツのオットー朝の王国統治について書きました。10世紀のドイツでは地元貴族の勢力が強かったため国王が国を支配するのが難しかったのですが、なんとか統治をしようと、オットー朝の国王は王国各地の司教座教会に自分の息のかかった司教を送り込んだんです。教会組織を使って王国を統治しようとするこの「帝国教会制」は、上手くシステムが成り立っていたという研究がある一方、そこまでではなかったという批判的な研究もありました。私は、実際はどうだったのか、ミクロに見ていきたいと思い研究を始めました。
 研究を進めていくと、あることが分かったんです。当時、社会全体の信仰心が向上して修道制の運動が活発になっていたのですが、国王から送り込まれた司教のうち、修道院の意向を尊重しない者はどんどん排除されてしまうのです。つまり、修道運動を支援しない支配者はその地域では受け入れられなかったのです。間接的に王権までコントロールしてしまう修道院の影響力とは一体何なんだと感じ、博士課程からは修道士や修道院をテーマに選んで研究するようになりました。

―現代だと、修道制はあまり身近に感じることがないように思いますが…。

 確かに、歴史的に見ると社会に与えた影響はものすごく大きかったのですが、現代ではあまり大きくないですね。しかし、当時の都市生活や都市設計、農村の風景など、修道制が与えたものは実は現代にも多く残っています。身近なところで一つ挙げると、「時間割」は修道院から始まったものだといわれているんですよ。中世の修道院では祈りの時間、集会、労働、読書など、時計をセットする係の修道士がいたほど厳格にスケジュールが決まっていました。修道制は現代の生活規範にも大きく影響を与えており、そういったことを念頭に歴史を振り返ると、人の振舞い、社会のあり方や思想などの源が見えてくるんです。

―こうした研究はグローバルヒストリーにどうつながっていくのでしょう?

 私は中世ヨーロッパにおける修道制について史料を読んできましたが、一見社会から隔離されているようでも、修道制と世俗社会にはとても密接な関係があります。いろいろなチャンネルで結びつき、互いに支えあっています。しかし、決してそれはヨーロッパの中だけで見られる現象ではありません。キリスト教が普及した地域はもちろん、イスラーム教でもスーフィズムと呼ばれる集団生活を送る人々が出てきます。また、仏教に目を向けても、出家をし、僧侶として寺や山で集団生活を送りますよね。修道制は、多様な形態をともないつつ、とてもグローバルな現象だと思うんです。私は国内外の研究者と協力しながら、宗教ごとの修道生活を比較して、この現象を総合的に叙述してみたいと思っています。

―研究を進めていく中で、苦労することはありますか。

研究資料
ラテン語の資料を読み解く大貫准教授

 西洋中世史は英語による単一言語主義はとらず、ヨーロッパの各国語で論文が書かれます。そのため、私は主にドイツの修道院を研究しているのでもちろんドイツ語は必須ですが、英語やフランス語の文献も読まなければなりません。さらに、中世の文書の多くはラテン語で書かれています。ラテン語は一般的に難しい言語だとされていますが、手書き文書だとさらに、省略が多かったり、独特の記号が使われていたり、そもそも羊皮紙が汚れていたり穴が空いていたりと、読み解くこと自体が難しいことがあります。あとは、国際共同研究を進めるには他国の研究者とも密接に関わるので英語でのコミュニケーションは必須ですね。このように、言語だけ見ても日本人研究者にとってはハードルが高い分野ですが…私もいつも研鑽中です。

―教育で力を入れている点を教えて下さい。

大貫准教授

 研究者として研究成果を挙げることはもちろんですが、学生に研究成果を還元することも重要課題だと思っています。これまで文学部にSA(スチューデント・アシスタント)制度を創設し、「人文学インタラクティブ講義」という英米型のディスカッション主体の授業を展開してきました。
 今年度からは、人文学とエンターテイメントの連携をテーマに新しい授業を展開しています。11月にはルネッサンス期のイタリアを舞台にした漫画「チェーザレ 破壊の創造者」(講談社週刊『モーニング」連載中』の監修者である原基晶さん、来年1月には16世紀の神聖ローマ帝国を舞台にした漫画「辺獄のシュヴェスタ」(小学館『月刊!スピリッツ」連載中)の作者・竹良実先生と編集者の方を招き、授業を行う予定です。この取り組みは、現在連載中の漫画を通して、歴史学がエンターテインメント作品にどのように貢献しているのかということを学生に考えてもらうために企画しました。さらにこの企画には裏メッセージがあって、出版物や出版社を学生にもっと身近に感じてほしいと思っています。というのも、文学部にとって本は大変重要で、本が研究の源と言っても過言ではありません。つまり、出版社との連携が私たちにとっての“産学連携”です。ところが岡山大学の学生に聞くと、出版社というのはこんなに身近なのに、東京や大阪など大都市圏の学生が行くべきところで、自分たちは採用の対象者になっていないと言うんです。一方で出版社の方に話を聞くと、ぜひ地方の学生にも来てほしいと言っていて、出版社と学生の間でミスマッチが起こってしまっています。こういった企画を通じ、本づくりの現場を見て、具体的に当事者の話を聞き、意見交換することで、そうした食い違いを解いてもらいたいと考えています。

―今後の展望を教えて下さい。

ドイツ
研究で訪れたマイセン大聖堂(2017年5月撮影)

 私は西洋史を専門としていますが、修道制をグローバルな現象として捉えるには、日本史や東洋史などさまざまな研究者の力が必要です。現在、西洋中世の修道制研究を国際共同研究に進展させるため、①ヨーロッパ最大の研究拠点であるドレスエデン工科大学の「比較修道会史研究所(FOVOG)」と連携すること、②宗教間、地域間の修道制比較研究を立ち上げること、という二点の計画を立てており、平成27年度に新設された科学研究費補助金「国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)」に採択されました。今年も4~9月の半年間、基盤作りのためドレスデンで在外研究を行い、研究パートナーを見つけてきました。今後は修道制研究のグローバル化をより発展させるため、日本史や東洋史の研究者と交流を持ちたいと考えています。

略歴
大貫 俊夫(おおぬき・としお)
1978年生まれ。東京大学文学部卒業、独トリーア大学第三専門分野博士課程修了。専門は西洋中世史。日本学術振興会特別研究員などを経て現職。

(17.11.17)