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No.7 COPD患者の声に耳を傾ける

forcus on - Michiko Morimoto

No.7 COPD患者の声に耳を傾ける

大学院保健学研究科看護学分野 森本美智子 教授

 タバコの煙が90%以上の原因で発症する慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease : COPD)。国内における認知度調査では75%もの人がCOPDを知らないと答えていますが、世界では死亡原因第4位の疾患です。日常生活の中で患者は息切れなどの症状を上手くマネジメントしていくことが必要で、その支援の充実は喫緊の課題です。大学院保健学研究科の森本教授らの研究グループは「呼吸器看護研究検討会」を発足し、COPD患者を含む慢性呼吸器疾患(CRD)患者を対象にした息切れに関する全国調査を行いました。日本におけるCOPD患者の息切れの実態とは? また、その結果から見えてくるものとは?

―COPDはどのような病気なのでしょうか。

 COPDは慢性呼吸器疾患(Chronic Respiratory Disease : CRD)の代表的な一つで、タバコの煙などを吸い込むことで肺や気管支が炎症を起こす病気です。肺はブドウのように、「肺胞」という小さな袋で形成されていて、肺胞とその周りに張り巡らされている毛細血管の間でガス交換が行われています。COPDは肺胞の壁が壊れ、使い古したゴム風船のように弾力性を失い、上手く息を吐き出せないだけでなく、ガス交換が十分できなくなる病気です。安静にしていれば苦しくはないのですが、動けば動くほど、運動に見合うだけの呼吸が必要になるので、息苦しくなってしまいます。さらに、進行は穏やかですが、非可逆的で、一度かかってしまうと治ることはないとされています。

―COPDになってしまうと、どういった症状が出るのでしょうか。

研究資料
血液中の酸素濃度を測定する機器

 誰もが走った後や階段の上り下りで息切れを起こしますから、息切れと聞いてもそれほど重症だと思わないかもしれません。しかし、健康な人であれば階段を上ってもすぐに息切れが治まりますが、COPDの患者さんは階段を上っただけで、激しい息切れが5~10分続くこともあります。呼吸=肺と思っている人も多いかと思いますが、実は呼吸は、横隔膜や肋間筋を使って胸郭の容積を変化させることで行われています。息が苦しいときや酸素消費量の大きい活動を行った際には胸鎖乳突筋や大胸筋、広背筋といった呼吸補助筋も使いながら胸郭の動きを助けています。私たちが走った後に肩で息をするのも、空気が肺に入りやすくなるよう、筋肉の力を使って肺を広げているからなんですよ。COPD患者は歩いたときや重い荷物を持つだけで、息が切れるようになります。さらに病期(ステージ)が進行すると衣服を着替える、歯磨きをするなどの日常動作だけで息切れが生じ、生活に支障を来すようになります。

―日本でも患者は多いのでしょうか?

 日本においては、男性の死亡原因疾患の第8位に入っています。世界では死亡原因第4位の疾患で、WHOは2030年までに第3位になると予測しています。しかし、国内ではその認知度は低く、1万人を対象にした調査では、75%もの人が「COPDを知らない」と答えています(2016年12月)。また、国内のCOPD患者は530万人と推定されていますが、実際に病院にかかっている人は26万人です。COPDは肺活量を調べるだけでスクリーニング(ふるい分け)検査ができますが、健康診断の項目に一律に入っているわけではありません。その点も推定患者数に比べて、病院にかかっている人が少ない理由の一つかもしれません。

―男性の死亡原因疾患の8位ということですが、やはり男性の喫煙者が多いからなのでしょうか。

 日本のCOPD患者は、男性が8割、女性が2割といわれています。アメリカでは半々くらいで、やはり日本は昔から男性の喫煙率が高かったという経緯があります。しかし最近の調査では、男性の喫煙率が下がっていて、30代を中心に女性の喫煙率が若干上がってきているともいわれており、今のような状況が続くと将来女性のCOPDの発症率が高くなるかもしれません。

―COPDにはどういった治療法があるのでしょうか。

 薬物療法や運動療法、酸素療法など、症状を和らげる方法がいくつかあります。薬物療法における臨床試験や、リハビリテーションの効果の検証など、その治療法に対する研究が活発に行われています。しかし残念ながら現在の医療では破壊された肺を元に戻すことはできません。COPD患者は息切れとともに生活することを余儀なくされています。患者の生活の質(QOL)を維持あるいは向上することが医療の目標の一つですから、患者さんの悩みを知り、そのニーズがどのようなものであるかを明らかにすることは医療者としては不可欠な課題となります。そこで私たち大学の研究者と、慢性疾患看護専門看護師(CNS)の計11人で、「呼吸器看護研究検討会」を2012年に発足し、共同で全国調査を実施しました(2015年8月~2016年8月)。COPD患者は先ほども話したとおり、530万人の推定患者のうち、実際に病院にかかっているのは26万人にとどまっています。一つの病院に何百人もの患者さんが通院しているわけではありませんので、複数の研究者が共同して、より多くの患者さんから回答を得ることで、研究的なインパクトがあると考えました。検討会発足には、臨床や患者の実態に即した、患者ケアに役立つ研究がしたいという考えが基盤にありましたので、この調査でさらに患者さんへの理解が深まり、私たち医療者の息切れに対する支援における課題もより明確にできると考えました。

―実際に調査ではどのような結果が得られたのでしょうか。

 全国26施設に通院しているCRD患者835人に調査したところ、623人から返信があり、COPD患者352人を含む565人から有効回答を得ることができました。その調査で明らかになったことは、息切れが軽度の人でもさまざまなマネジメント法を行っていることや、半数以上が「息切れと付き合う心構えを持つ」といった情動的なマネジメント法を行っていることでした。しかし一方で、自分が行っているマネジメント法が息切れを和らげることに役立っている、と感じていると回答した人は2割以下で、医療者が教えているマネジメント法と患者さんが教えてほしいと回答している内容に差があることも判明しました。
 例えば外来で医師が「自分のペースで」、「休み休み行って下さい」と言っても患者さんからすると「どういうタイミングで」と思うことがあります。病院では吸入薬の使い方などは教わるかもしれませんが、ベストなマネジメント法は患者さん一人一人で異なっているので、細かなサポートが必要です。特に、息が苦しい=死を連想してしまう人も多いので、予防的な介入ができるように体制を整える必要もあります。
 また、質問票の最後には自由記載欄も設けていたのですが、31.5%もの人が記載しており、中には「こんなこと教えてもらったことがない」「助けてください」などといった切実な意見もありました。今回の調査は郵送法で行い回収率は74.6%だったのですが、その高さからも患者さんの切実さが伺えます。

―調査中に心がけていることを教えてください。

 今回は、26施設に協力していただき調査を行いました。各施設、一人一人の患者さんの協力がなければ行うことができなかった調査です。今回の調査結果を直接患者さんに還元できるよう、それぞれの施設に対して結果をまとめ、自身の病院に通院している患者が全国と比べてどういう傾向か比較検討できるようまとめた報告書を返送しました。ある施設からは「自分たちはやっていたつもりだったが、患者さんたちはこういうことを求めていたのかと分かり、実際に関わり方を変えていっている」といった報告もありました。研究者としてデータを取得しただけにならないよう、協力していただいている方々に貢献できればと考えています。

―今後の展望を教えてください。

森本教授

 今回の調査は、患者さんが息切れに対してどのような対処をしているのか、何を医療者に教えてもらい、支援ニーズは何であるのかなど、まず実態を知らなければ次に進めないと思い、実施したものです。今回の調査で終わりということではなく、この調査を受けて、実際に医療者のケアの質を高めていけるような教育プログラムを作り、その効果を検証していきたいと考えています。医療者がケアに自信が無ければ、患者さんにも提供できません。自信を持って支援できるようになるよう、検討会でさらに研究を進めていきたいです。

略歴
森本 美智子(もりもと・みちこ)
1962年生まれ。岡山県立大学大学院保健福祉学研究科修士課程、博士課程修了。博士(保健学)。国立岡山病院看護師、国立呉病院厚生教官、岡山大学医学部保健学科助手、鳥取大学医学部保健学科准教授、同教授を経て現職。専門分野は臨床看護学、特に慢性的な病をもつ患者を対象とした研究。

(18.03.19)