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No.8 生体材料で未来を創る

forcus on - Takuya Matsumoto

No.8 生体材料で未来を創る

大学院医歯薬学総合研究科生体材料学 松本卓也 教授

 再生医療が身近になりつつある今、生体材料(生体に接触する材料:バイオマテリアル)という言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。大学院医歯薬学総合研究科の松本教授の研究室では、バイオロジー(生物学)とマテリアルサイエンス(材料科学)それぞれを基盤として、新たな発見や、バイオマテリアルの開発へアプローチしています。バイオマテリアルと聞くと医療に特化したもののように聞こえますが、私たちの生活にも密接に関わるような、無数の未来が広がっています。

―初めに、先生の研究について教えてください。

 私たちの研究室では、バイオマテリアルの研究をしています。研究室には二つのコンセプトがあって、一つは「マテリアルベースドバイオロジー(Material-based biology)」、もう一つは「バイオロジーベースドマテリアル(Biology-based material)」です。

―具体的に、その二つはどういったものなのでしょうか。

 まず、マテリアルベースドバイオロジーについてですが、これは、材料を使うことで新しい生物学的知見を獲得するという考え方です。
 私たちの研究成果の一つですが、マウスの唾液腺の組織を堅いシートと柔らかいシートの上で培養したところ、柔らかいシートの上に置いた方がよく育ったんです。一方、堅いシートの上で培養した組織は退化するような現象が見られました。回りから力を加えているわけではなく、ただシートの上に置いただけなのにです。これは、バイオロジーの専門家には発見できないことかもしれません。と言うのも、材料も単純に何でもよいというわけではなく、あらかじめ、生体にとって害がないかどうか調べなければなりません。つまり、私たちにとって、バイオマテリアルは武器なんです。自分たちにしかできない実験で、自分たちしか得られないバイオロジーの事実を得ることができるのです。

―周りの環境というのは、大きな影響を与えるんですね。

 そうですね。例えば、薬剤を使って細胞や組織の成長を抑えることはよくされるのですが薬剤を使わずに物理的な環境でここまでの影響がでるのは驚きでした。この堅いシートを使って細胞や組織が育たないような状況を作ってやれば、薬剤の持つ機能などをより明確にすることにつながります。私たちが2015年6月に発表した論文でも、堅いシートにペプチドを化学的に導入したところ、堅い環境にも関わらず、組織の成長が大きく促進されることを確認しました。つまり、このペプチドは組織成長を促進する物質として有望ということです。
 さらに面白いのは、細胞、組織のレベルではなく、私たちヒトにも同じことが言えるかもしれないということです。私たち日本人男性の平均身長は、畳の上に布団を敷いていた昭和初期は160cm程度でした。しかし、フカフカのベッドで寝る人の多い現代は、10cm近くも伸びています。もしかすると堅さの環境というのは、人の成長にも関わってくるのかもしれません(笑)。

―バイオマテリアル=医療というイメージがありましたが、広い分野で関わっているんですね。

 材料を使って新しい生命科学を理解するというのは、医療だけではなく、生活にも関わってきます。硬さというのは人間にとってすごく大事で、血管が硬くなる(動脈硬化)と破れてしまいますし、年をとって骨折しやすくなるのも、骨が硬くなるからです。水虫は、硬くなった皮膚がひび割れてしまい、そこに菌が侵入することで起こります。また植物でも、樹齢の進んだ木はひび割れてコケが生えていたりしますよね。つまり、硬くなるというのは老化とリンクしているんです。
 こういうことを上手くコントロールできるようになれば、組織の成長や老化もコントロールできるようになるかもしれませんね。

―では、バイオロジーベースドマテリアルについて教えてください。

研究室
研究室の原エミリオ助教と松本教授

 バイオロジーベースドマテリアルは、生物学で得られた新しい知見をもとに新しい材料開発につなげるという考え方です。私たちが2018年1月に発表した論文がまさにこの考え方に基づくものです。
 その研究成果はマウスを使って、骨ができる新たなメカニズムを発見し、それをもとに新しい骨誘導材料を作ったというものです。マウス大腿骨の関節部分を調べると、新しい骨は細胞の周りにできていることが分かり、その過程を観察してみると、細胞が肥大化し破裂することや、破裂によってできたスペースに、ミネラルができていることを発見しました。なぜ破裂が起こるのか、左足を固定し、右足だけで歩くようにしたところ、右足の方が石灰化が早いことが判明しました。つまり、歩くことによって力が加わり、破裂が起こったということが分かります。さまざまな環境を人為的に作り、破裂が起こりやすい環境にしてやれば、石灰化を早く起こすことができるかもしれません。
 さらにこの研究にはまだ先があり、最初にできた石灰化物の近くに、さらに細かい白い粒が見えたんです。もしかして、細胞の破裂により細胞膜が残ってしまったものなのかと思い、元素マッピング(電子線を当て、反射の状態を見ることで、どの元素が存在するか調べる手法)をしたところ、リンであることが分かりました。実は細胞膜はリン脂質二重膜でできています。つまり、この白い粒はやはり細胞膜の断片であるということが分かりました。
 破裂が起こることでスペースができ、そのスペースに残された細胞膜の断片が核となってミネラルができることを発見したのです。自分たちで大量に細胞を培養し、超音波などを使って破裂させると、細胞はバラバラになります。バラバラになった細胞の断片を使って石灰化を起こしてやると、通常だと3週間ほどかかる石灰化が、その材料を使うと2日でできました。

―新たな発見から、さらに新たな発見が生まれているんですね。

 僕はやはり材料が大切なので、モノができるプロセスがすごく好きで、骨がどうやってできるのか気になったんです。今回も、一般的に病理学でよく使われる手法で調べていったのですが、材料学的にもっと細かく電子顕微鏡で調べたり、動画を使ったり、力を加えたり…物理や化学も使いながら、普通のバイオロジーでは進まない方向をどんどん攻めていきましたね。

―生体材料学の研究をし始めたきっかけを教えてください。

 大学院に進んだとき、ちょうど「ティッシュエンジニアリング(Tissue Engineering;生命科学と工学を組み合わせて、組織や臓器の再生を目指す医療技術)」という組織工学が日本に入ってきたタイミングで、「未来開拓学術研究推進事業・再生医工学」という再生医療の国家プロジェクトに参加することになりました。そこで、最先端の再生医療・組織工学を目の当たりにして、研究の道に進むことを決めました。知のシャワーを浴び、すごく幸せな気持ちになったことを今でも覚えています。さらにその後留学をして、生命科学における材料や、医用工学(バイオメディカルエンジニアリング)と呼ばれる分野のポテンシャルを感じました。

―研究をしていて良かったと思うことを教えてください。

 自分しか知らないこと、自分しか気付けないことがたくさんあることです。先ほどの骨ができる研究もそうで、白い断片が細胞膜の残った部分だというのに気付いた時の衝撃は、今でも日付を覚えているほどです。寝る前にハッと気付いて、眠れないくらいに興奮して、次の日意気揚々と大学に出勤しましたね。
 自分達しか持っていないデータがあって、自分達しかそれについて考えることができなくて、自分達で定義づけていくことができるというのは本当に幸せなことです。

―今後の展望を教えてください。

松本教授

 もっと生物に近い材料を作りたいと考えています。骨のようなタフな材料は人工では存在しません。骨ができるメカニズムを見ていると、こうやっていけば作れるのかな、ということが参考として分かってきます。今の段階では、小さなサイズの人工骨ができる技術はありますが、今後スケールアップすることができれば、今の人工骨よりももっと良い骨ができるようになるかもしれません。そうなってくると、もしかすると建築物の骨組みなども変わってくるかもしれませんね。今までにないような材料をバイオメミティクス(生物模倣)を使って作り上げていきたいですね。

略歴
松本 卓也(まつもと・たくや)
1971年生まれ。大阪大学歯学部卒業。大阪大学大学院歯学研究科助手、ミシガン大学、ハーバード大学客員研究員などを経て、2011年より現職。

(18.04.16)