国立大学法人 岡山大学

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レアアースの含有量を減らした新しい高温超電導体を開発

2013年11月14日

- ヒ素の鎖でレアアースを低減 超伝導線材の低コスト化に期待 -

 名古屋大学 (総長・濵口道成)の研究グループは、岡山大学(学長・森田潔)との共同研究により、新しい鉄系超電導体注1)の開発に成功しました。今回の成果は、名古屋大学工学部工学研究科の片山尚幸助教、大成誠一郎助教、澤博教授、岡山大学大学院自然科学研究科の工藤一貴准教授、野原実教授らの研究グループによるものです。発見当初から高い転移温度を示し期待されていた鉄系超電導体では、多くの物質群が世界中で報告されています。しかし、レアアース注2)を元素比25 %含むことによって生じる高コスト・高い環境負荷という問題が、応用を阻む一因となっていました。今回開発された新しい超電導体は、窒素族元素であるヒ素で鎖を作り、これでレアアースを代用するという新しい発想で作られました。今までの報告にはない新しい結晶構造を持ち、レアアース含有量を元素比5 %以下に抑え、高い転移温度を示すことから超電導線材の実用化に向けて大きな可能性を示すものです。
【ポイント】
 ・レアアースをヒ素の鎖で代用することで、レアアース含有量の大幅な低下を実現
 ・超伝導転移温度が高く、線材・マグネットへの応用に期待
 ・超電導体開発の新たな設計指針

【背景】
 2008年に東京工業大学のグループによって発見された鉄系超電導体は、1986年に発見された銅酸化物高温超電導体と同様に、派生する多くの物質群が存在する革新的な超電導物質として、その超電導発現機構の解明や超電導臨界温度(Tc)の向上に向けた研究が世界中で猛烈な勢いで進行しています。鉄系超電導体の最高Tcは55 K (摂氏-218℃)で、1111系と呼ばれる構造において得られています。しかし、この1111系の構造はレアアースを元素比25%含むことから、線材化の際のコスト高・環境負荷の大きさが懸念されており、よりレアアース含有量の少ない新しい高温超電導材料の開発が求められていました。

【研究の内容】
 鉄系超電導体は超電導を担う『鉄ヒ素層』と、鉄ヒ素層を繋ぐ『スペーサー層』のサンドイッチ構造で構成された結晶構造を持ちます。従来の探索で発見されてきた高温鉄系超電導体はスペーサー層に多くのレアアースが使用されていましたが、今回の研究では、レアアースの代わりに化学結合したヒ素の鎖を利用した新しい鉄系超電導体112系を生み出すことに成功しました。大型放射光施設SPring-8注3)で実験を行い、ヒ素の鎖が結晶中でジグザグな形状をしていることを電子分布レベルで解明しました。

【成果の意義】
 レアアースの代わりにヒ素の鎖を用いることによって、レアアース含有量を2.5-5 %程度と大幅に低減することに成功しました。もともと超電導層に必要な元素であるヒ素を使って、極めて単純な鎖状態を実現したことと関連して、1111系よりも構成元素数は減少しており、実用化における材料加工の難易度が下がるという相乗効果も期待できます。更に、112系の大半は34 Kで超伝導化しますが、試料の一部には45 K (摂氏-228℃)という高い温度で超電導化の兆候を示すものがあり、安価で高性能な超電導線材の実現の可能性が示されました。

【用語説明】
注1) 鉄系高温超電導体
 2008年に日本で発見された新しい高温超電導体。強磁性材料である鉄を含む化合物は超伝導を示さないと考えられてきたので大変注目され、多くの研究がなされている。多くの派生体があり、化学組成に因んだ名前で呼ばれる。1111系と呼ばれる物質SmFeAsO1-xFxで実現する転移温度55 Kが現在の最高記録である。

注2) レアアース
 サマリウムやネオジム、ユーロピウムなどの希土類元素のこと。蛍光体や磁石原料として産業上重要な元素が多く含まれるが、地球上の限られた地域に偏在しており、日本は需要の9割を中国からの輸入に依存している。レアアース価格の高騰に対応し、近年では「脱・レアアース」を目指した研究が官民一体となって進められている。

注3) 大型放射光施設SPring-8
 理化学研究所が所有する兵庫県にある世界最高の放射光を生み出す放射光施設。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

添付資料はこちらをご覧ください

【論文名】 
“Superconductivity in Ca1-xLaxFeAs2: A Novel 112-Type Iron Pnictide with Arsenic Zigzag Bonds”
※この成果は、Journal of the Physical Society of Japan(日本物理学会欧文誌)12月号に掲載されます。(電子版は11月6日に公表されました。)

報道発表資料はこちらをご覧ください

図表

図1 新しい鉄系超電導体の結晶構造(鉄ヒ素層とスペーサー層のサンドイッチ構造)。
右は新しいスペーサー層であるヒ素のジグザグ鎖の俯瞰図を示す。
ヒ素間の化学結合による電子分布の偏りがカラーマップで示されている。



図2 112系超電導体の電気抵抗。
超電導転移を示す抵抗率の減少が45 Kから始まっている。

【問い合わせ先】 
(研究に関すること)
 名古屋大学 大学院工学研究科 応用物理
  片山 尚幸(カタヤマ ナオユキ)
    〒464-8603 名古屋市千種区不老町

 名古屋大学 大学院工学研究科 応用物理
  大成 誠一郎(オオナリ セイイチロウ)
    〒464-8603 名古屋市千種区不老町

 岡山大学 大学院自然科学研究科
  工藤 一貴(クドウ カズタカ)
    〒700-8530 岡山市北区津島中3-1-1
    TEL:086-251-7805 FAX:086-251-7830

(SPring-8に関すること)
 公益財団法人 高輝度光科学研究センター 広報室
    TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786

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