国立大学法人 岡山大学

LANGUAGE
ENGLISHCHINESE
MENU

正常な幹細胞ががん細胞の悪性度や転移を促進する可能性を明らかに

2014年02月20日

 岡山大学大学院自然科学研究科ナノバイオシステム分子設計学研究室の妹尾昌治教授らの研究グループは、マウスiPS細胞を利用して幹細胞の作り出す環境が、がん細胞の悪性度や転移能を促進する可能性があることを世界で初めて明らかにしました。
 本研究成果は2014年1月15日、米国がん研究科学雑誌『American Journal of Cancer Research』電子版で公開されました。
 一昨年、世界で初めてマウスiPS細胞からがん幹細胞を作り出したことに続き、今回の研究成果は、iPS細胞が作る環境は周囲のがん細胞の性状を変える能力があることを明らかにしました。正常な幹細胞が、がん細胞に作用する可能性は細胞同士のコミュニケーションががん組織の中に留まらないことを示しています。今後、がんの悪性度亢進や転移能獲得の解析を可能にする新しい材料として、新たな治療法開発への応用が期待されます。
<業 績>
 岡山大学を中心とした中国天津医科大学、アメリカ国立がん研究所などの国際共同研究グループは、マウスiPS細胞の作り出す微小環境ががん細胞の上皮間葉移行(Epithelial-Mesenchymal Transition; EMT)を促して、がん細胞の造腫瘍能や遊走能、浸潤能を亢進することを世界で初めて明らかにしました。
 これまでの研究から、がん細胞が作り出す微小環境が「がん幹細胞」を作り出すこと、さらに、がん幹細胞から分化したがん細胞が、がん幹細胞を維持する環境を作り出すことが判ってきました。また、今回の研究によって、正常な幹細胞が作り出す微小環境はがん細胞の性状を変化させる可能性があることが明らかとなりました。これらのことから、がん組織ではがん細胞、がん幹細胞および正常幹細胞が作り出すそれぞれの微小環境がそれぞれの細胞へ相互に影響する可能性が示され、これらががん組織の成長、悪性度および転移能を決定する大きな要因となっていることが示唆されました。

<見込まれる成果>
 正常幹細胞、がん幹細胞およびがん細胞が相互に影響することでがんの悪性度や転移能が亢進するという全く新しい概念をがん研究に導入することにより、介在する因子の解析が進んで、がん根治に向けた新薬開発に拍車がかかることが期待されます。


肺に転移したルイス肺がん(LLC)細胞
LLC: 通常の条件で培養したLLC細胞。
LLC-miPS CM:マウスiPS細胞が作る微小環境で培養したLLC細胞。
黄色点線で囲まれた部分はがんの転移巣を示す。iPS細胞(正常幹細胞)の微小環境下で培養したがん細胞(LLC-miPS CM)をマウスに移植すると多数の転移巣が観察された。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)外国人特別研究員、科学研究費補助金基盤研究(B)の助成を受け実施しました。

<補 足>
1) 2012年、岡山大学大学院自然科学研究科の妹尾昌治教授らの研究グループが、マウスのiPS細胞を用いてがん幹細胞のモデルの作成に世界で初めて成功しています。(岡山大学プレスリリース://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id1574.html
2) 2013年、同研究グループは、がん幹細胞から生まれる細胞が幹細胞自身を養うことを世界で初めて証明しています。(岡山大学プレスリリース://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id125.html

発表論文はこちらからご確認いただけます
Ling Chen, Akifumi Mizutani, Tomonari Kasai, Ting Yan, Guoliang Jin, Arun Vaidyanath, Bishoy YA El-Aarag, Yixin Liu, Takayuki Kudoh, David S Salomon, Li Fu, Masaharu Seno. Mouse induced pluripotent stem cell microenvironment generates epithelial-mesenchymal transition in mouse Lewis lung cancer cells. Am J Cancer Res. 2014; 4(1): 80–88.

参考論文
1) Chen L, Kasai T, Li Y, Sugii Y, Jin G, Okada M, Vaidyanath A, Mizutani A, Satoh A, Kudoh T, Hendrix MJ, Salomon DS, Fu L, Seno M. A model of cancer stem cells derived from mouse induced pluripotent stem cells. PLoS One, 2012, 7(4), e33544; (doi: 10.1371/journal.pone.0033544).

2) Shuichi Matsuda, Ting Yan, Akifumi Mizutani, Tatsuyuki Sota, Yuki Hiramoto, Marta Prieto-Vila, Ling Chen, Ayano Satoh, Takayuki Kudoh, Tomonari Kasai, Hiroshi Murakami, Li Fu, David S. Salomon and Masaharu Seno. Cancer stem cells maintain a hierarchy of differentiation by creating their niche. Article first published online: 9 DEC 2013, DOI: 10.1002/ijc.28648.

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科
ナノバイオシステム分子設計学研究室 教授
妹尾昌治
(電話番号)086-251-8216
(FAX番号)086-251-8216
(妹尾研究室のページ) http://www.cyber.biotech.okayama-u.ac.jp/senolab/

年度