国立大学法人 岡山大学

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イネの安定多収に必要な籾殻へのケイ素分配の仕組みを解明

2015年08月18日

 岡山大学資源植物科学研究所の山地直樹准教授、馬建鋒教授らと農業環境技術研究所櫻井玄研究員の研究グループは、イネが籾殻にケイ素を優先的に分配・蓄積するための仕組みを解析。節の発達した維管束構造と3種類の輸送体タンパク質Lsi2、Lsi3、Lsi6の統合的な働きを解明しました。本研究成果は2015年8月17日(米国東部時間午後3:00)、『米科学アカデミー紀要電子版』で公開されました。
 本研究成果は、ケイ素に限らず、さまざまな栄養素や毒性元素が穀粒へと蓄積されるメカニズムを理解し、生産性や栄養価、安全性の向上に応用する上で重要なモデルケースです。各栄養素や毒性元素の穀粒への分配を選択的にコントロールできれば、イネ科作物の生産性や栄養価、安全性の向上が期待されます。
<背景>
 植物は土壌からケイ素{ケイ酸: Si(OH)4}を吸収し、葉の表面などにシリカ(SiO2)として沈着させます。このシリカの沈着は、高温や乾燥、倒伏などの非生物的ストレスや、害虫や病原菌などの生物的ストレスから植物を保護する働きを持っています。特にイネは多くのケイ素を蓄積する性質があり、その蓄積はコメの生産性に極めて重要です(図1参照)。
 イネは、藁に乾燥重量の10%未満のケイ素を蓄積しており、最も多い籾殻は10%以上に達します。蒸散の多い葉よりも、蒸散の少ない籾殻に高濃度のケイ素が蓄積する仕組みについて、これまでの研究から、“節”の働きが欠かせないことが明らかになっていました。
 節は葉と茎の接点にあたる部分で、イネ科の植物は節を基本単位とする繰り返し構造から形作られています。節の内部には、葉につながる“肥大維管束”や、上の節または穂につながる“分散維管束”など、著しく発達し特殊化した維管束が規則正しく配置されています。これらの特徴的な構造から、節は養分の分配をコントロールする働きを担っていると推測されてきましたが、その具体的なメカニズムはこれまで断片的に確認されただけでした。

<業績>
 馬教授らの研究グループは、ケイ酸を透過する輸送体とケイ酸の排出する輸送体に着目。籾殻にケイ素を分配する極めて精巧な仕組みの全貌を明らかにしました。
 これまでの研究で既に明らかになっていたケイ酸を透過する輸送体Lsi6に加えて、ケイ酸を細胞外に排出する輸送体Lsi2とLsi3の計3種類の輸送体タンパク質が節でのケイ酸の分配に協調的に働きます。Lsi6は肥大維管束周縁部の“木部転送細胞”の導管に面した側面に、Lsi2は肥大維管束を包む細胞層“維管束鞘”の外側面に、Lsi3は肥大維管束と分散維管束の間の複数の細胞層に発現していました(図2、3参照)。すなわち、葉へと続く肥大維管束の導管にケイ酸を含む蒸散流が流れ込むと、①まずLsi6によって選択的にケイ酸が木部転送細胞に取り込まれ、②続いてLsi2とLsi3によって、上の節や穂へと続く分散維管束の導管に再び積み込まれる、ケイ酸の“維管束間輸送”が行われていると考えられました。実際に、Lsi6、Lsi2、Lsi3の機能が失われた変異イネはいずれも、葉へのケイ素の分配が多くなり、穂への分配が少なくなりました
 さらに本研究では、農業環境技術研究所の櫻井玄研究員との共同研究により、数理モデルを構築し、節におけるケイ酸の維管束間輸送の各過程を確認するとともに、実験的に解明することが困難な、節の特徴的な構造の意味も明らかにしました。具体的には、肥大維管束の肥大による蒸散流の減速、木部転送細胞のひだ状構造による表面積と輸送体発現の増加なども、効率的な維管束間輸送に寄与します。特に、Lsi2が発現する肥大維管束の維管束鞘に新たに見出された、細胞間の水や溶質の透過を妨げるバリアーは、Lsi6とLsi2-Lsi3の連携によって分散維管束側へとケイ酸を濃縮するために欠かせない堤防の役割をしていることが明らかになりました。

<見込まれる成果>
 本研究で得られた、ケイ素の分配メカニズムに関する包括的で定量的な理解は、他のミネラル元素の分配メカニズムを理解するためにも重要なモデルケースです。それらのメカニズムを解明し、各栄養素や毒性元素の穀粒への分配を選択的にコントロールできれば、イネ科作物の生産性や栄養価、安全性の向上が期待できます。

 本研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「劣悪化する土壌環境に適応するための植物の知恵」(研究課題番号22119002)の助成を受け実施しました。
<論文情報>
論 文 名: "Orchestration of three transporters and distinct vascular structures in node for inter-vascular transfer of silicon in rice"著   者:山地直樹、櫻井玄、三谷(上野)奈見季、馬建鋒
発 表 誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
D O I:doi/10.1073/pnas.1508987112

発表論文はこちらからご確認いただけます

図1 ケイ素欠乏の稲穂(lsi1変異体) 深刻な病虫害を被っている


図2 節の断面の染色像(Lsi2は見えていない)


図3 ケイ素の維管束間輸送と穂への優先的分配


<お問い合わせ>
岡山大学資源植物科学研究所
教授  馬 建鋒
(電話番号)086-434-1209
(FAX番号)086-434-1209

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