国立大学法人 岡山大学

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日本産エゾノツガザクラが雑種由来の遺伝子型を持つことを解明 日本の高山植物の適応進化の理解に寄与

2015年11月19日

 岡山大学資源植物科学研究所の池田啓助教らのグループは、北海道~北半球寒帯に生育する高山植物のエゾノツガザクラのうち、北海道に生育する個体が遺伝的に異なる系統であることを突き止め、近縁種のアオノツガザクラとエゾノツガザクラの雑種に起源したことを発見しました。本研究成果は2015年11月4日、英国の遺伝学雑誌「Heredity」電子版で公開されました。
 北海道の生育環境は、北半球寒帯と比べ、気温や降水量、日長などにおいて大きく異なります。エゾノツガザクラのような日本列島から北極圏まで広範囲に分布している高山植物は、それぞれの生育環境の違いに適応した仕組みを獲得してきたと考えられています。
 本研究成果は、環境の違いに植物が適応するための仕組みを理解する糸口となると期待されます。
<業 績>
 岡山大学資源植物科学研究所の池田啓助教、東京大学、京都大学、ロシア科学アカデミーの共同研究グループは、ツツジ科エゾノツガザクラPhyllodoce caeruleaのDNAを解析。北海道に生育するエゾノツガザクラが、北半球寒帯に分布するものとは遺伝的に異なり、近縁種(アオノツガザクラ)の遺伝子型を獲得した系統であることを発見しました。
 種(しゅ)を越えて遺伝子が伝播する水平伝播(遺伝子浸透)は生物に広く知られた現象です。植物では雑種を介して近縁種の遺伝子型を獲得する浸透性交雑により水平伝播が起こります。植物における浸透性交雑は、DNAの解析により多くの事例が報告されています。 
 本研究の面白い点は、遺伝子浸透を受けた系統と受けていない系統の間で地理的な分布や生育環境が異なっていることを見つけた点です。アオノツガザクラの遺伝子型を獲得したエゾノツガザクラは北海道のみから見つかり、北半球寒帯には見られませんでした。このことは、エゾノツガザクラにとって、アオノツガザクラの遺伝子型を持つことが北海道の環境に生育する上で有利であることを示唆しています。

<背 景>
 日本列島に生育する高山植物は、北極圏やベーリング地域に分布する植物が現在よりも寒冷な氷河期に日本列島まで到来した起源を持つと考えられています。一方で、日本列島と北極圏では気温や降水量、日長といった植物の生育する環境が大きく異なります。そのため、日本列島から北極圏まで広範囲に分布している植物では、それぞれの生育環境の違いに適応した仕組みを獲得してきたことが想像されます。こうした植物における適応進化の背景を探るには、遺伝子を解析することが有効なツールの1つです。

<見込まれる成果>
 遺伝子浸透が植物の進化にもたらす影響はさまざまに議論されています。本研究の成果は遺伝子浸透が適応的な意味を持つことを示す一例として、その進化的な役割の理解に寄与することが期待されます。
今後、アオノツガザクラからエゾツガザクラに浸透した遺伝子を具体的に明らかにすることができれば、北極圏から日本列島の環境に適応するための遺伝的基盤を明らかにすることが期待されます。

 本研究は文部科学省科学研究費(基盤B海外学術)の助成を受け実施しました。

発表論文:Ikeda H, Sakaguchi S, Yakubov V, Barkalov V, Setoguchi H.
Importance of demographic history for phylogeographic inference on the arctic–alpine plant Phyllodoce caerulea in East Asia. 2015.(DOI: 10.1038/hdy.2015.95)

発表論文はこちら

<お問い合わせ>
 岡山大学資源植物科学研究所
助教 池田 啓
(電話番号)086-434-1238
(FAX番号)086-434-1249


図.研究成果の概念図。北海道と北半球寒帯のエゾツガザクラが独自の系統であり、北海道のものがアオノツガザクラからの遺伝子浸透を受けたことを矢印で示す。地図中の色は年間降水量を表しており、寒色が暖色よりも降水量が多いことを示す。(発表論文Fig. 3より改変).

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