国立大学法人 岡山大学

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傷害神経に中和抗体を局所投与することで神経障害性疼痛の痛みが緩和~神経障害性疼痛の新たな鎮痛薬として期待~

2015年11月20日

国立大学法人広島大学
国立大学法人岡山大学
【本研究成果のポイント】
  • 難治性疼痛の一つである神経障害性疼痛(※1)モデルの傷害神経でHMGB1(※2)が増加
  • 慢性的な痛みが発症した後でも、傷害神経周辺部に中和抗体(※3)を投与することでHMGB1の働きを抑制でき、痛みが緩和
  • 神経障害性疼痛の新たな鎮痛薬につながることに期待
【概要】
 広島大学大学院医歯薬保健学研究院の仲田義啓(なかたよしひろ)教授と森岡徳光(もりおかのりみつ)准教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)の西堀正洋(にしぼりまさひろ)教授らの研究グループは、神経障害性疼痛モデルマウスを用いて、炎症性物質の一つであるHMGB1が末梢部位(傷害を受けた坐骨神経)で増加することを確認しました。さらに痛みが慢性化した後でもHMGB1に対する中和抗体をマウスの傷害を受けた坐骨神経周辺部に投与することにより、痛みが緩和することを証明しました。

 現在、ガンの終末期、坐骨神経痛、糖尿病、帯状疱疹後などに認められる神経障害性の難治性疼痛は、患者さんの生活の質(Quality of Life: QOL)を低下させる要因となっています。これらの痛みは、現在汎用されている鎮痛薬であるロキソニンなどの非ステロイド性鎮痛薬やモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬が効きにくく、治療が困難であることから、新たな治療薬・治療法の確立が望まれています。

 今回の結果から、HMGB1に対する中和抗体は、難治性疼痛に対する治療薬として有用性が高く、副作用の発生頻度が少ない局所投与においても鎮痛効果を発揮することから、利便性にも優れているといえます。
HMGB1に対する中和抗体、HMGB1をターゲットにした薬剤は、難治性疼痛に苦しむ多くの患者さんを救う新たな鎮痛薬となることが期待されます。

 本研究成果は、平成27年11月18日(英国時間)、英国科学誌「Journal of Neurochemistry」(オンライン版)に公開されました。

【発表論文】
著 者
Fang Fang Zhang, Norimitsu Morioka*, Sakura Harano, Yoki Nakamura, Keyue Liu, Masahiro Nishibori, Kazue Hisaoka-Nakashima and Yoshihiro Nakata
* Corresponding author(責任著者)
論文題目Perineural expression of high-mobility group box-1 contributes to long-lasting mechanical hypersensitivity via matrix metalloproteinase-9 upregulation in mice with painful peripheral neuropathy.掲載雑誌
 Journal of Neurochemistry, 2015, Impact factor=4.281
DOI番号
 10.1111/jnc.13434

【研究の背景】
 さまざまな難治性疼痛において、“なぜ痛みは慢性化するのか”は不明でした。
 同研究グループは、以前より難治性疼痛モデル動物を用いて痛みに対するHMGB1の役割を解析してきました。これまでに、中枢部位(脊髄内の神経)においてHMGB1が増加し、さらにHMGB1に対する中和抗体を全身に投与(静脈内投与)することで痛みが緩和されることから、HMGB1が痛みの慢性化に関与する原因物質であることを明らかにしてきました。
 一方で、中和抗体は中枢部位には作用しにくいことが報告されており、HMGB1に対する中和抗体は、中枢部位よりも末梢部位(傷害神経)に作用することで、痛みが緩和しているのではないかと考えました。
 また中和抗体を全身に投与することは、副作用の発生頻度を増加させる恐れがあります。そのため、より安全性の高い、病変部位への局所投与により鎮痛効果が得られることが実証されれば、HMGB1に対する中和抗体の鎮痛薬としての有用性がさらに高まると考えました。
 そこで本研究では、神経障害性疼痛モデルマウスを用いて、傷害坐骨神経でのHMGB1の発現変化と痛みに及ぼす影響、HMGB1に対する中和抗体を局所投与することによる鎮痛効果を検討しました。

【研究成果の内容】
 広島大学大学院医歯薬保健学研究院 森岡徳光准教授らの研究グループは、神経障害性疼痛モデルマウスの傷害坐骨神経において、対照群(神経に傷害のないマウス群)と比較してHMGB1発現量が増加することを明らかにしました(図1A)。またこの増加は、傷害によって集積した炎症性細胞に依存していることが分かりました。さらに、傷害坐骨神経の周辺部にHMGB1に対する中和抗体を投与することにより、痛みが有意に緩和されることを発見しました(図1B、図2)。
 また傷害坐骨神経の周辺部で増加したHMGB1は、さらに別の痛み誘発物質を増加させることで痛みを慢性化させていることも明らかになりました。


図1. 神経障害性疼痛時の傷害坐骨神経におけるHMGB1発現量の変化(A)とHMGB1中和抗体局所投与の効果(B)
A. 神経損傷後14日目の坐骨神経において対照群と比べてHMGB1発現量が増加しました。
B. 神経損傷後14日目での痛み(疼痛群)は、HMGB1中和抗体を傷害坐骨神経周辺部に投与することによって抑制されました(グラフ縦軸が低値を示すほど、痛みが強いことを表す)。


図2. 本研究の概略図
 神経障害性疼痛モデルマウスにおける傷害坐骨神経では、炎症性細胞に依存してHMGB1発現量が増加しており、この増加が慢性疼痛に関わっていることが明らかとなりました。また傷害坐骨神経周辺部にHMGB1中和抗体を局所投与することで、鎮痛効果が認められました。

【今後の展開】
 本研究結果から、HMGB1中和抗体やHMGB1の働きを阻害する低分子化合物が新たな鎮痛薬となることが期待されます。
 今後は、HMGB1中和抗体の臨床応用についても研究を進めていく予定です。

【用語解説】
(※1)神経障害性疼痛
ガンや物理的傷害による末梢神経及び中枢神経の傷害や、機能的障害による慢性かつ難治性の疼痛疾患の一種。

(※2)HMGB1
High mobility group box-1の略。タンパク質であり、細胞外に遊離され炎症起因物質として作用する。

(※3)中和抗体
標的タンパク質に結合し、その機能を抑制する抗体。


【お問い合わせ先】
広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門薬学分野薬効解析科学研究室 
准教授 森岡 徳光(もりおか のりみつ)

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科生体制御科学専攻生体薬物制御学講座薬理学分野
教授 西堀 正洋(にしぼり まさひろ)
TEL・FAX:086-235-7140

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