国立大学法人 岡山大学

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日本産高級モモの輸出流通システムを構築

2015年12月18日

 岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)の中野龍平准教授、福田文夫准教授らの研究グループは、高級果実の需要が高まる東アジアの中元節・中秋節をターゲットにした多汁な肉質の日本産白桃の安定輸出に着手。海上輸送や氷温貯蔵と空輸を組み合わせた輸送流通システムを構築しました。また同システムで、低温障害が発生しない高品質を維持しつつ輸出できることを実証しました。
 本研究成果をもとに、本プロジェクトの流通システムの実用性を周知するため、農学部附属山陽圏フィールド科学センターで輸出に用いる晩生品種を栽培します。また、現地バイヤー協力の下、モモ輸出モデル事業の展開が期待されます。
 本研究は農研機構生研センター「革新的技術緊急展開事業」の支援により実施しました。
<背 景>
 東アジア地域では、中元節や中秋節の贈答に高級果物を利用する慣習があり、日本産桃の需要も高いです。一方、日本産桃、特に岡山の白桃は日持ちしづらく、長距離輸送は収穫直後の空輸に依存している上に、収穫期が短いために需要のある時期に安定供給できていませんでした。また、モモは5℃で貯蔵すると低温障害を生じ、品質を維持できないため、これまで低温流通システムは確立できていませんでした。

<業 績>
 中野准教授、福田准教授らの研究グループは、温度管理と低温障害について分析。0℃付近で「おかやま夢白桃」の果実を保持した場合、2週間後に常温に移して追熟すると、低温障害が発生することなく美味しく熟すこと、また10℃付近で保持すると低温障害が発生することなくゆっくりと軟化が進み、2週間程度で食べ頃に達することを見出しました。
 これらの知見を活用して、海上輸送や氷温貯蔵と空輸を組み合わせた輸出流通システムの構築に着手。レンゴー株式会社中央研究所、株式会社日本植生グループ本社と共同で、2年間の実証試験に取り組みました。
 初年度となる2014年度は、コンテナ温度条件と輸送ダンボール箱の材質の影響を調査。軟化が急速な8月初めに収穫される品種では、10℃設定コンテナでは過熟となり、1℃設定のコンテナでは凍結もなく、品質を維持して香港に届くことを実証しました。また、9月初めに収穫できる果実では、10℃設定コンテナを利用した輸送によっても、果実を少し軟化させながら到着させられることが分かりました。
 一方、品種や収穫熟度によっては、低温に反応して障害を発生することや、雑味を呈する問題が発生。品種の特性に適合した輸出手段を把握する必要があることを見出しました。
 そこで、2年目となる本年度は、1℃設定コンテナに加えて、箱内が5~10℃になる5℃設定コンテナも利用し、岡山県開発の新品種2種も含めた多くの品種について輸出試験を行いました。
 8月半ば以降に収穫する品種では、果実が著しく硬い状態で海上輸送とならないように、流通や貯蔵前に2~3日間の熟度調整期間を設定。その結果、8月半ば以降に収穫されたいずれの品種においても、収穫直後に空輸した果実と比較して遜色ない状態で輸出することができました。ただし、渋みを呈しやすい品種では、低温コンテナよりも空輸が適していることを確認しました。また、産地近郊で1~2週間程度氷温貯蔵した後、空輸することにより、販売時期を調整することも可能でした。
 輸出したモモ果実は、香港Food Expoへ出展し、高い評価を得ました。また、現地仲卸市場のバイヤーによる評価や、現地大手スーパー、モモ生産関係者との品質評価会を実施し、バイヤー、生産者の両者に海上コンテナ輸送、氷温貯蔵の可能性や品種による違いを実感してもらうことができました。 

<見込まれる成果> 
 今後、本プロジェクトの流通システムの実用性を周知するため、農学部附属山陽圏フィールド科学センターで輸出に用いる晩生品種を栽培し、現地バイヤー協力の下、モモ輸出モデル事業を展開していこうと考えています。



<実 績> 園芸学会平成27年度春季大会 4件 発表
香港経済誌 Economic Digest (2014.8.23)に掲載

<補足・用語説明> 
中元節:道教に由来する年中行事で、三元の1つ。もともと旧暦の7月15日に行われていた。贈答品の需要が増す時期となっている。

中秋節:旧歴の8月15日を指し、新暦では9月中を変動する。お供え用の果物として需要が増す時期となっている。

低温障害:果皮や果肉に褐変が発生したり、果肉の軟化パターンに異常が起こり粉質となり果汁を感じなくなる障害である。酸味や香りも低下して、風味のバランスが著しく悪くなる。

氷温貯蔵:0℃以下の温度帯にて貯蔵する技術。凝固点降下により、−2℃程度まで果実は凍結しない。

 本研究は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術緊急展開事業」(課題ID番号:14525996)の支援を受けて実施しました。


<お問い合わせ>
岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)
准教授 福田 文夫
(電話番号)086-251-8322
(FAX番号)086-251-8388(農学部共通)

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