国立大学法人 岡山大学

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夏場の酷暑がウシ卵管分泌機能に悪影響

2013年06月10日

 本学大学院環境生命科学研究科の奥田潔教授(動物生殖生理学)らの研究グループは、初期胚輸送に必須であるウシ卵管のプロスタグランジン分泌に、夏場の高温環境が悪影響を及ぼすことを明らかにしました。本研究成果は2013年5月23日に英国の生殖科学誌『Reproduction』に掲載されました。今回の成果によって、ウシの夏季不妊の予防または治療の標的として卵管のプロスタグランジン分泌が挙がり、夏季の受胎率の改善、さらにはウシの生産性の向上に繋がることが期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院環境生命科学研究科動物生殖生理学研究室の奥田潔教授、小林芳彦大学院生、山本ゆき特任助教らの研究グループは、夏場の酷暑がウシ卵管のプロスタグランジン (PG) 分泌に悪影響を及ぼすことを明らかにしました。
 卵管内で受精が起こった後、初期胚は卵管平滑筋の蠕動運動によって子宮の方向へ運ばれます。この蠕動運動には 2 種類の PG (PGE2 と PGF2α) が重要な役割を担っています。子宮において、高温環境が PG 分泌を増加させることがこれまでに明らかとなっており、卵管においても夏場の酷暑が PG 分泌に影響を及ぼすという仮説を立てていました。
 今回、同教授らの研究グループは、単離した卵管上皮細胞の PGE2 分泌が高温によって増加することを 試験管内 で証明し、さらに PGE2 合成酵素の発現、ならびに PGE2 合成酵素を活性化する 熱ショックタンパク質 90 の発現が高温環境によって増加することを試験管内 および 生体内 の両面から遺伝子レベルで証明しました。その一方、PGF2α の分泌は高温の影響を受けなかったことから、夏場の酷暑によって 2 種類の PG 分泌のバランスが崩れ、初期胚の輸送に悪影響が及ぶことで不妊となる可能性を示しています。



<見込まれる成果>
 ウシの受胎率は、気温が高くなる夏季に低くなることが知られています。今回の同教授らの成果によって、夏季不妊の予防または治療の新たな標的として卵管 PG の分泌異常が候補として考えられるようになり、夏季の受胎率改善、さらにはウシの生産性向上に繋がることが期待されます。

<補 足>
 卵管内での初期胚輸送には、卵管平滑筋の蠕動運動が必須です。この蠕動運動にはPGが関与しており、PGE2は平滑筋の弛緩、PGF2αは収縮作用を示すことが知られています。蠕動運動には弛緩、収縮の両方が交互にバランス良く起こることが必要ですが、夏場の酷暑が PGE2 分泌のみを増加させることで蠕動運動が正常に起こらなくなり、不妊の原因となる可能性が今回の解析から示されました。
 また、ウシの熱ショックタンパク質 90 発現が夏季に上昇することが今回の成果で初めてわかりました。熱ショックタンパク質 90 は全身の細胞に発現するタンパク質で、細胞内の 100 以上のタンパク質の活性に関与することがこれまでにわかっています。したがって、卵管以外の器官でも夏季の酷暑が熱ショックタンパク質 90 を通じて何らかの影響を与え、ウシの健康に悪影響を及ぼしている可能性があります。

 本研究は農林水産省「ゲノム情報を活用した家畜の革新的な育種・繁殖・疾病予防技術の開発」(Rep1002) ならびに日本学術振興会科研費基盤研究 (B) 「排卵周期を支配する卵巣と子宮の機能調節機構の解明」の一部として実施されました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Kobayashi Y, Wakamiya K, Kohka M, Yamamoto Y, Okuda K. Summer heat stress affects prostaglandin synthesis in the bovine oviduct. Reproduction, in press (doi: 10.1530/REP-12-0479)

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
岡山大学大学院環境生命科学研究科 教授
(氏名)奥田 潔
(電話番号)086-251-8333
(FAX番号)086-251-8349
(URL)http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~kokuda/

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