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植物病理学 (Plant Pathology)

植物の感染症とその原理に基づく免疫制御に関する研究

教員

Kazuhiro TOYODA教授: 豊田 和弘 Prof. Dr. Kazuhiro TOYODA
E-mail: pisatin@ (@以下はokayama-u.ac.jp を付けてください。)
専門分野: 分子植物病理学,病態分子生物学, 植物ゲノム病理学
植物・病原体相互反応における植物免疫と病原性発現の分子機構に関する研究
Yoshiteru NOUTOSHI准教授: 能年 義輝 Assoc. Prof. Dr. Yoshiteru NOUTOSHI
E-mail: noutoshi@ (@以下はokayama-u.ac.jp を付けてください。)
専門分野: 植物病理学,植物免疫学,植物ケミカルバイオロジー
植物の病害抵抗性機構とプライミング誘導剤の開発に関する研究

主な研究テーマ


 作物の病気が私たちの暮らしや文化を大きく変えてきたことはよく知られています。今もなお,世界の食糧生産の約15%(8億人分の食糧に相当)が農作物の病気(伝染病)で失われています【写真1】。私たちは,人間の生存基盤を支える植物の病気のしくみを分子レベルから解き明かし,その予防と制御,新しい臨床的治療技術の開発を通して恒久的な食糧の確保,安全で安心できる暮らしのために闘いつづけています。“あなたもなってみませんか? 植物のお医者さん”,植物病理学は人類を救う学問といえるでしょう。

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カビによる植物の伝染病 【写真1】

1.植物が備える免疫機構

 植物には,動物のような免疫機構はありませんが,病原微生物の表面構造(分子)や代謝産物をいち早く感じとって身をまもるしくみを備えています。当然ですが,ほとんどの植物は自ら移動して危険(感染)から逃れることができないので,動物とは異なる独自の免疫機構を進化させてきたと考えられています。これらには,病原微生物による感染を受ける前からある免疫機構(細胞壁の厚さや硬さ,抗菌成分や病原毒素に対する分解酵素の有無など)や,感染後に誘導される免疫反応(過敏感細胞死,活性酸素の生成【写真2】,ファイトアレキシンの生成,抗菌タンパク質の生産など)などが知られています。

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植物の免疫反応―活性酸素の生成―
【写真2】

2.病原微生物がつくる植物の免疫抑制因子

 植物には様々な免疫機構があるにもかかわらず,病原微生物による侵入や繁殖を許し,発病することがあります。これが植物の伝染病(感染症)であり,多くの場合,感染組織で病原微生物が繁殖し,これが2次伝染源となって新たな植物に伝染します。私たちは,植物伝染病の主要な原因である病原糸状菌(カビ)を例に,病原性に関連する代謝産物について研究し,その多くが宿主植物(*)の免疫機構を一時的に抑制(遅延)する物質を生産していることを突き止めました。 1992年には,世界に先駆けてその分子構造を明らかにし,この物質を“サプレッシン(免疫抑制因子)”と命名しました【写真3】。しかし,サプレッシンの作用には厳密な特異性があり,生産菌の宿主以外にはまったく効果を示しません。つまり,サプレッシンは病原微生物と宿主との組み合せ(宿主特異性)を決定する病原体の提示分子,分かりやすく言えば,宿主細胞への侵入に必要な“鍵分子”といえるでしょう【写真4】。
*宿主植物:病原微生物が寄生する植物(品種)をさす。単に宿主ともいう。

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カビがつくる植物免疫抑制因子
【写真3】

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宿主の扉を開ける“サプレッシン”
【写真4】

3.病原微生物が備える感染戦略

 病原微生物はどのようにして宿主植物へ入り定着するのでしょうか? 病原糸状菌(カビ)を例にすると,植物の気孔や傷口などの自然開口部から侵入するカビもありますが,多くの場合,胞子や菌糸などから分化した“付着器”とよばれる特殊な侵入器官から侵入します。付着器は一般的なカビにはみられず,病原微生物が獲得した病原性の1つといえるでしょう。カビの種類によって異なりますが,侵入したカビは宿主細胞から栄養を摂り,さらに“侵入菌糸”とよばれる栄養繁殖体をつくって細胞内外へと伸展し,最終的に宿主組織を枯死にいたらせます。しかし,先に少し触れましたが,植物には様々な免疫機構があり,侵入力だけでは宿主に定着することはできません。つまり,多くの病原糸状菌は,自らの“侵入力”と“免疫反応を抑える力(サプレッシンの生産)”とのコラボレーションによって宿主への定着を果たしているのです。私たちは,オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を病原糸状菌に導入して“光るカビ”をつくり,侵入から定着にいたる感染の様子を顕微鏡で観察できるようにしました【写真5】。

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光るカビで侵入を追跡する 【写真5】

4.植物感染症の疾病モデル

  私たちの健康がヒトの医学によって守られているように,植物病理学が植物の病気の予防や防除に大きく貢献してきたことはよく知られています。私たちには,植物感染症の分子機構を詳しく解析するために,マメ科のモデル植物(タルウマゴヤシ;Medicago truncatula )と病原糸状菌との疾病モデルを樹立しました【写真6】。タルウマゴヤシは,ゲノムサイズが小さく,シロイヌナズナやイネにつづいて全ゲノムが解読されるモデル植物として注目されています。これによって,従来からの分子生物学的な解析に加え,分子遺伝学の視点からメスを入れることが可能となり,特に,サプレッシンが介在する糸状菌病の病態や原因についての研究が飛躍的に進歩することが期待されています。

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植物感染症の疾病モデル 【写真6】

5.植物免疫の制御―病気に強い植物をつくる-

  近年,病原微生物が生産する病原性因子についての研究が進み,これらは総称して病原性エフェクターと呼ばれています。その多くは宿主細胞の小器官やタンパク質に作用して毒性(病原性)を発現すると考えられています。先のサプレッシンの例では,宿主植物の最外層にある細胞壁に作用し,免疫反応の開始に必要な情報伝達系を阻害(撹乱)していることがわかってきました。そこで,私たちは植物の細胞壁にあるサプレッシンの分子標的(酵素タンパク質)の1つを突き止め,この活性抑制によって免疫反応が著しく阻害されることを明らかにしました。

 その後,詳しい構造解析とコードする遺伝子をクローニングし,実験植物(タバコ)に導入しました。この組み換え植物は,導入遺伝子の発現(タンパク質の増加)によって基本活性が亢進し,病原糸状菌やバクテリア(細菌)による病気に強い性質(耐病性)を示すことがわかりました。このように,私たちは植物を病気からまるための有効な遺伝子を探索し,それらの機能を活用した免疫機構の制御について研究を行っています。また,病原微生物がつくるサプレッシンの分子構造をリード化合物として,拮抗作用のある微生物制御剤(サプレッシンブロック)や分解(不活化)酵素などを利用した新しい予防法や臨床的治療技術の開発にも力を注いでいます【写真7】。


6.専攻を志望する皆さんへ

  植物の感染症による人類の悲惨な歴史をよく理解した上で,植物病理学が「食」をまもるための1つの科学として発展してきた経緯,その必然性と未来の課題について一緒に考えてみませんか? 植物病理学は,細胞学,生理学,生化学,遺伝子工学,分子遺伝学,分子生物学などを基盤とする“植物の健康をまもる”学問の1つですが,同時に“ヒトの命をまもる”大切な科学です。あなたもきっとなれますよ! 植物のお医者さん(^。^)

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夢の病原微生物拮抗薬“サプレッシン
ブロック”の開発 【写真7】

研究業績リスト

・Toyoda, K., Kawakami, E., Nagai, H., Shiobara-Komatsu, T., Tanaka, K., Inagaki, Y., Ichinose, Y. and Shiraishi, T.: Expression of the Medicago truncatula ecto-apyrase MtAPY1;1 in leaves of Nicotiana benthamiana restricts the necrotic disease symptom by a virulent fungus. J. Gen. Plant Pathol. 80, 222-229 (2014).
・能年義輝:植物免疫プライミング剤の単離と作用機序解明.岡山大学農学部学術報告 103, 31-36 (2014). http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/journal/52126
・Toyoda, K., Kawanishi, Y., Kawamoto, Y., Kurihara, C., Yamagishi, N., Tamura, A., Yoshikawa, N., Inagaki, Y., Ichinose, Y. and Shiraishi, T.: Suppression of mRNAs for lipoxygenase (LOX), allene oxide synthase (AOS), allene oxide cyclase (AOC) and 12-oxo-phytodienoic acid reductase (OPR) in pea reduces sensitivity to the phytotoxin coronatine and disease development by Mycosphaerella pinodes. J. Gen. Plant Pathol. 79, 321-334 (2013).
・豊田和弘・田中佳織・稲垣善茂・一瀬勇規・白石友紀:植物細胞壁における病原体認識と応答のダイナミズム. 「植物―微生物相互作用とビオトロフ感染」(古賀博則 他編),日本植物病理学会,東京,9-18 (2013).
・Toyoda, K., Ikeda, S., Morikawa, J., Hirose, M., Maeda, A., Suzuki, T., Inagaki, Y., Ichinose, Y. and Shiraishi, T.: The Medicago truncatula–Mycosphaerella pinodes interaction: A new pathosystem for dissecting fungal-suppressor-mediated disease susceptibility in plants. J. Gen. Plant Pathol. 79, 1-11 (2013).
・Amano, M., Toyoda, K., Kiba, A., Inagaki, Y., Ichinose, Y., and Shiraishi, T.: Plant cell walls as suppliers of potassium and sodium ions for induced resistance in pea (Pisum sativum L.) and cowpea (Vigna ungiculata L.). J. Gen. Plant Pathol. 79, 12-17 (2013).
・Noutoshi, Y. Ikeda, M., Saito, T., Osada, H and Shirasu, K.: Sulfonamides identified as plant immune-priming compounds in high-throughput chemical screening increase disease resistance in Arabidopsis thaliana. Front. Plant Sci. 3, 245 (2012).
・Noutoshi, Y. Jikumaru, Y., Kamiya, Y. and Shirasu, K.: ImprimatinC1, a novel plant immune-priming compound, functions as a partial agonist of salicylic acid. Sci. Rep. 2, 705 (2012).
・Noutoshi, Y. Okazaki, M., Kida, T., Nishina, Y., Morishita, Y., Ogawa, T., Suzuki, H., Shibata, D., Jikumaru Y., Hanada, A., Kamiya, Y. and Shirasu, K.: Novel plant immune-priming compounds identified via high-throughput chemical screening target salicylic acid glucosyltransferases in Arabidopsis. Plant Cell 24, 3795-3804 (2012).
・Toyoda, K., Yasunaga, E., Niwa, M., Ohwatari, Y., Nakashima, A., Inagaki, Y., Ichinose, Y. and Shiraishi, T.: H2O2 production by copper amine oxidase, a component of the ecto-apyrase (ATPase)-containing protein complex(es) in the pea cell wall, is regulated by an elicitor and a suppressor from Mycosphaerella pinodes. J. Gen. Plant Pathol. 78, 311-315 (2012).

卒業生・修了生進路

・大学院進学(岡山大学大学院自然科学研究科),
・製薬(塩野義製薬,萬有製薬,日本イーライリリー,エーザイ製薬など),
・農薬(シンジェンタ),
・食品(オハヨー乳業,日清製粉,メロディアン,武田キリン,ケーオー産業など),
・酒造(霧島酒造,メルシャン),製造・化学関連(西川ゴム工業),
・教育(大学教員,高等学校教諭,ベネッセコーポレーションなど),
・環境アセスメント関連,金融(銀行)
・国家公務員(農林水産省植物防疫所,農政局),
・地方公務員(岡山県,鳥取県,島根県,長崎県,姫路市など),
・海外留学(イギリス,ドイツ)
_など

収穫祭ポスター

 植物病理学ユニットポスター2017年