第4回生殖生命科学セミナー
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演題: 自然からの贈り物:精巣形成不全症ラットの解析から学んだこと
演者: 鈴木浩悦
(日本獣医畜産大学 生理学教室) 
日時:2005年 9月22日(木)15:00-16:00
場所:農学部1号館 第4講義室
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 我々の教室では、様々な特性を示す突然変異ラットの同定と解析を行っております。ここでは精巣形成不全症(hgn/ hgn)ラットの解析結果を中心に紹介します。
 hgn/ hgnは雄で精巣の形成不全症による不妊、雌で卵巣の低形成による早期不妊、雌雄で腎臓の低形成による進行性の腎不全を呈します。精巣では、精細管の成長が著しく障害され、精子形成はありません。雌では卵巣に存在する卵母細胞が少ないために早期に不妊となります。腎臓ではネフロン数が正常の約1/4しか存在せず、糸球体硬化を呈して慢性腎不全に進行します。これらのことから、hgn/ hgnでは、胎生期から生後初期の細胞分裂の低下やアポトーシスにより臓器の低形成を生じ、それは細胞分裂機構自体の異常を含んでいる可能性が考えられます。
 連鎖解析によりhgn遺伝子座は第10染色体の320kbの領域にマップされ、最終的に体細胞分裂時に形成される紡錘糸を構成する微小管の安定化に関与するとされている“微小管結合タンパク質”のSpag5(sperm associated antigen 5)に25塩基の挿入変異を見出ました。これにより、Spag5の機能に重要なcoiled coil ドメインを欠落したタンパク質が形成されます。従って、hgn/ hgnのセルトリ細胞で観察された染色体の拡散した分裂中期像とアポトーシスは、Spag5の異常により紡錘糸が正常に形成されず、アポトーシスに陥ったと考えられます。
 生殖系列の細胞でSpag5遺伝子に生じ、表現型としての不妊の原因は、生殖細胞ではなく、それを支持するセルトリ細胞の体細胞分裂異常にあり、Spag5のノックアウトマウスでは異常を見出せなかったと言う事実を考えると、自然発症性のhgnラットはいくつもの偶然(幸運)が重なって生じた自然からの贈り物の様に思えます。また、hgnラットは、遺伝子の機能のin vivoでの評価において、ノックアウトマウスだけでなく、他の動物種、たとえば自然発症突然変異ラットでの解析が有効であることを示す例であると思います。

世話人:国枝 哲夫(連絡先:251-8314)   

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