多くの種類の動物細胞が一酸化窒素 (NO) 合成能を有しており、生成された NO は血圧の調節、血小板の凝集、好中球の活性化、神経伝達、アポトーシスなど、非常に多くの生理現象に関与することが明らかにされている。ウシを含む哺乳動物の雌には、種を維持するための生殖戦略として周期的に排卵を起こすメカニズム (排卵周期) が備わっており、この排卵周期が正常に機能するためには、妊娠が成立しなかった際に黄体が退行することが必須である。黄体退行は黄体細胞のプロジェステロン分泌能の衰退とアポトーシスによる黄体組織の死滅の 2 つの局面からなり、子宮由来のプロスタグランディン F2a (PGF2a) によって誘導されることが知られている。しかし、PGF2a が細胞レベルにおいてどのようなメカニズムで黄体退行を誘導するかは明らかされておらず、また、最近の研究で黄体を構成する血管内皮細胞や免疫細胞が黄体細胞との相互作用を介して黄体退行に関与することが示唆されているものの、その詳細は明らかにされていない。
本講演セミナーでは、ウシの生殖生理、特に黄体退行機構における NO の役割について最近の研究成果を交えて解説する。
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