マウス骨格系の形成と代謝の分子機構を知るために次の二つの遺伝子の機能をノックアウトマウスを用いて解析した結果について述べる。
骨形成因子(Bone Morphogenetic Protein, BMP)は異所的な骨の形成能を指標に発見、精製されたTGFβスーパーファミリーに属する一連の分子である。BMPのI型受容体のうち、BMPIA受容体(Bmpr1a,
Alk3)は通常の方法でノックアウトすると胎生致死となるので、組織特異的ノックアウト法により骨芽細胞特異的にBmpr1aを破壊した。これらマウスは正常マウスに比べて体長が短かったが、明らかな外見上の異常は観察されなかった。X線解析、組織解析により、3カ月令では骨量の低下が示された。骨の代謝速度は低下していたが、骨芽細胞の数自体には変化はなかった。一方、10カ月令では骨の代謝速度が低いのにもかかわらず骨量の上昇が見られた。また、卵巣除去により骨量レベルはコントロールに比べ大幅に低下した。これらのことから、BMPシグナルは月令に応じて骨芽細胞の異なった機能に重要な役割を果たしていると考えられる。
デンチンマトリックス蛋白 (Dentin Matrix Protein 1, Dmp1) は歯のcDNAライブラリーから単離された細胞外マトリックス蛋白である。エクソン6にlacZカセットをノックインすることで発現をXgal染色で検出可能とし、同時に遺伝子の機能破壊を行った。ノックアウトマウスは正常マウスに比べてやや小さくなり、骨密度が低下するとともに、骨の形態に異常を示した。組織学的には石灰化の低下が見られた。骨成長板は肥大軟骨層が拡大し、アポトーシスの低下が観察された。また、関節軟骨にも異常が認められた。これらのことから、Dmp1は骨格系での骨の形成、石灰化、代謝に重要な機能を持っていると考えられる。特に軟骨細胞でのアポトーシスを誘起し、骨芽細胞による骨マトリックス形成に移行する段階に必須であると考えられる。 |