第10回生殖生命科学セミナー
Supported by 岡山大学重点プロジェクト

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
演題: 二種類の羊の大きなオシリとmicroRNAs
演者: 竹田 晴子
エージュ大学(ベルギー)、獣医学部、動物遺伝学ユニット
日時:2006年 6月26日(月)16:30-17:30
場所:岡山大学農学部 一階 第3講義室
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 microRNA (miRNA)は22塩基程度の小さな一本鎖Regulatory RNAで、3’UTR領域に部分的な相補的配列を有するmRNAのタンパク質への翻訳を阻害する。たとえば、マウスでは700種類ほどのmiRNAが報告されている。その多くは哺乳類間で高度に保存されており、発生、分化、成長、および代謝等の過程に大きく関与していると考えられている。
 ところで、ベルギーTexel羊は、筋肉量が多いことで知られており、その原因を究明するため、QTL解析を行なった。その結果同定された一塩基多型の有力候補は、Myostatin遺伝子の3’UTR領域に位置していた。ウシ、マウスにおける、Myostatin遺伝子の機能不全変異は筋肥大症を引き起こす。機能解析により、Texel羊に生じたMyostatin遺伝子の3’UTR領域における一塩基置換は、筋肉で発現しているmiRNAのターゲットサイトを作り出し、miRNA によってMyostatinタンパク質の発現が抑制されることによって、筋肥大が生じることが明らかとなった。
 また、Callipyge(キャリピージ、ギリシャ語で美しいオシリの意)はDorset羊における筋肥大症で、Polar over dominanceと呼ばれる特異な遺伝形式を示し、父親からCallipyge変異を、母親から正常型を受け継いだときにだけ、その表現型が現れる。これは、シス効果(インプリンィング領域に生じた点変異が父性および母性遺伝子の発現を上げること)とトランス効果(母性発現遺伝子から生じたmiRNAが父性発現遺伝子の翻訳を阻害すること)によって生じると考えられている。
 ここで見られるように、miRNA制御における変化が家畜動物、あるいはヒトの表現型、多様性、疾患、病気への抵抗性などに影響を与えている可能性が高い。現在公開されているヒト、マウスのmRNA 3’UTR領域内の多型情報を利用して、進化上新たに獲得された、あるいは失われたmiRNAターゲットサイトのデータベースを作成している。miRNAに関する情報は日々増えており、さらにタンパク翻訳制御以外の機能があることも予測されており、今後注目すべき分野のひとつである。

世話人:国枝 哲夫(連絡先:251-8314)   
このページをWordファイルで開く(印刷用)