哺乳類に固有な生殖戦略を支える乳腺は、発生時期の違いや分泌様式の多様性から、様々な生体現象を研究する上で良いモデルとして用いられてきた。これまで、乳腺の発達や泌乳のホルモンによる制御については、かなり理解が深まったものと思われる。一方、これらシステミックシグナルに応じて作動する乳腺の生理プログラムについては、プロラクチン受容体/Stat5によるミルクタンパク質の合成促進など、一部のストーリーを除いて、理解が進んでいない。このことは、近年の種々の遺伝子改変動物の解析により突如として乳腺機能に関与することが判明した分子の存在が、如実に示している。私は、乳腺内で働く機能分子を探索する過程で、最近、プロラクチン刺激により発達した乳腺がセロトニン合成の律速酵素であるトリプトファンβ水酸化酵素を発現することを見出した。セロトニンは、傍自己分泌物質として、また細胞内情報伝達物質として、乳汁分泌のネガティブフィードバック機構などに重要な働きをしているようだ。セロトニンの他、カテコールアミン、ヒスタミンといった主要な生理活性モノアミンが、乳腺の発達や機能制御に関わっている証拠が得られつつある。本セミナーでは、巨大なモノアミン産生器官としての姿を現しつつある乳腺と、ミルクスタシス制御に関する最近の知見の紹介を行なう。 |