Dr.Fraser は、哺乳動物の受精現象、特に受精前に起こる精子の受精能獲得(capacitation)に関する研究で世界的に有名な研究者です。今回は、「内因性分子による哺乳類精子の受精能獲得制御機構」について以下の要旨にある最先端の研究成果をお話いただきます。
哺乳類精子の体外における受精能獲得は、受精促進ペプチド(FPP)、adenosineおよびcalcitoninのような精漿に存在する幾つかの一次メッセンジャーによる生物学的に重要な反応において制御されている。反応には個々の特異的なレセプターとシグナル伝達経路が関与するが、全ての一次メッセンジャーは膜結合のadenylyl
cyclase isoformsとcAMP生産を調節する。最初にcAMP生産が刺激され受精能獲得が促進されるが、受精能獲得精子ではcAMP生産と自発性の先体反応が抑制される。その結果、精子の受精能力が維持される。これらの反応には、膜の同じ領域にレセプターとして存在する関連(relevant)Gタンパクとphosphodiesterase
isoformsも関与しているらしい。受精能獲得の促進反応から先体反応の抑制反応への変換は、受精能獲得抑制因子(decapacitation
factor: DF)が膜外表面の特異的なレセプター(DF-R)から失われることによって誘起される。最近、マウスとトの精子に存在するDF-Rは、ホスファチジルエタノールアミン結合タンパク
1(phosphatidylethanolamine-binding protein 1: PEBP1)であると同定された。DF-RへのDF結合の有無は、精子細胞膜が変化し、種々のレセプターを含む幾つかの膜結合タンパクの機能性が変化する原因となるようである。精子は射精時にこれらの一次メッセンジャーに接触するので、体外で観察された一次メッセンジャーの機能は当然体内においても発揮されるものと考えられ、これらの分子が受精成立の機会を高める重要な役割りを果たしていることが推察される。 |