(b)児島湖におけるフィールド実習
児島湖における実習の主なる内容は,定期的な児島湖流域の気象観測,定点の水循環計測と水質調査,植物群落の生育調査や光合成・蒸散能力の測定, 蒸発散量・潜熱・酸性雨の測定,土壌・微生物・植物の浄化機能の測定,生物多様性調査,並びにそれらのデータ解析・環境評価・環境予測である。これらの結果はキャンパス内の結果やタイ国の結果と比較検討される。そして,得られた結果はデータベース化することにより,今後の環境改善活動に活用できるシステムを組ませると共に環境改善手法と費用対効果も言及する。担当者として学内スタッフと協力機関の学外スタッフがあたる。学内スタッフは環境理工学部や農学部のみならず,関連の深い理学部,工学部,教育学部も参画する。児島湖流域および自然環境が良好な渚型護岸や人工干潟を調査場所として予定しており,気象観測装置やデータ解析システムの設置を計画している。一方,産学官民の環境保全組織である児島湖流域エコウェブや行政機関のイベント企画に参画させ,岡山県環境保全事業団や同自然保護センターから講師を招き,学校ビオトープのインストラクターとしての教育も積極的に行い,地域連携の経験を本カリキュラム内で培う。本実習より児島湖の有する多機能性を理解させ,地域住民との共同意識を芽生えさせる。
(c)環境NPO組織とESD-Jとの連携強化
低学年次に本取組を導入することは,自分と社会について考える機会を早期に得ることとなり,大学生活へのモチベーションが高まり,その後,学部で学ぶ専門科目の位置づけが認識される。また,学外の協力機関は環境関連企業,政府機関の行政,研究所および地方自治体の行政組織が主であるが,環境NPO組織や環境ボランティア組織(児島湖流域エコウェブ,岡山環境ネットワーク,岡山県児島湖流域クリーン作戦,岡山県青少年課エコボランティア等)も協力機関として位置づけ,学生達に積極的に参画させる。ESD-Jとの連携は両学部の大学院にて既に成果をあげている。また,環境NPO組織・ボランティア組織の活動情報や要員募集等のプラットホーム的な役割を果たす機構を付加する。
(d)独創性と新規性
@キャンパス内の水循環施設
本取組で使用する水循環施設は,企業や学外研究機関との共同研究の場としても活用し,実社会で課題となる内容を取り扱う(資料1参照)。また,施設の骨格をなすハードな部分のみ造成するので, 自然環境を復元させる段階とその後の維持管理の段階との2段階における教育を行うことが可能である。これは,自然環境が整った既存の施設やビオトープの利用による教育と異なり,実社会で即戦力となる基礎と応用力を身につけることを意味し,児島湖等へのフィードバックがしやすい。また,原水としては地下水を利用するが,水質が悪いので土壌・植物・微生物等の浄化機能を実体験できる。さらに,酸性雨の影響緩和機能を目した植生,植生による気温緩和効果や蒸発散,CO2や窒素・リンの収支など生態系の仕組みが学生自らの観測で把握できるシステムで,身近な科学を体験しながら,「水資源の確保」,「自然との共生」,「自然環境の復元」への新技術を生み出す能力が鍛錬される。さらに,自然環境が醸し出す自然復元力や生命への愛おしさにリラクゼーションが期待される。本取組は将来的には,全学的な教育に拡大する予定であるが,活動内容を高大連携にも活用し高校生に教授する。
A充実した学内スタッフと協力機関スタッフ
本学部では地圏,水圏,大気圏,生物圏,水文学,環境浄化,環境予測,環境評価,エネルギー,再資源化に関しての専門家が在籍しており,本プログラムを推進するには十分な体制が整っている。さらに,農学部では環境生態学,生産システム工学,食料・資源情報システム学の専門家が揃っており,関連の深い他学部のスタッフとも有機的な連携をとる。施設稼働に関する基礎的知識は,各々関連科目の講義と室内実験で修得させ,並行して関連教員が分担してフィールド実習に携わる。
一方,学内スタッフの産学官連携の共同研究等を介して中国四国農政局,近畿中国農業研究センター,国土交通省中国地方整備局,岡山県,岡山市などの公的機関,並びに環境関連企業,環境NPO組織等の協力機関との連携は深く,それらの協力機関で現場作業に携わるスタッフの講師陣としての受入は十分可能であり,学内スタッフとは異色の内容の実習形態が期待される。
(3)評価体制等
本プログラムの達成度の評価は,学部教務FD委員会委員,学部教育検討WG委員,学部将来構想検討会委員,学外協力機関担当者および環境NPO組織担当者等で構成される評価委員会を設置して年に2回実施する。その評価結果のウイークポイントは次年度のシラバスに反映させて修正する。さらに, 実践型環境教育運営協議会は学部教務FD委員会や学部教育検討WG,学部将来構想検討会と定期的に学習成果の検討を行い,学生の提出レポートや要望も考慮してプログラムを改善をする。また,取組期間終了時には, 学生・TA・教員間で作成するレポート集を県等の行政機関や環境NPO組織に提出して評価を受けることとし,この体制は存続させる。なお, 環境理工学部の3学科はJABEE認定校,他の1学科も受審準備中である。従って,技術者養成プログラムの国際的な外部評価は定期的に受けている。
(4)教育改革への有効性
(a)教育方法・実施体制の創意工夫
@低学年に本取組を導入することにより早くから社会性を有し,かつコミュニケーション能力に優れた人材を社会に送り出す。
Aビオトープ形成に伴う生物との触れ合い,継続的な自然環境の観測を通して自然環境の機能を会得するので,人間形成における精神的な波及効果が大きい。
B国内外で,そこに生じる問題点を解決するための英知や技術を実地体験することにより,グローバルな環境問題の仕組みも理解しやすくなり,課題解決型の人材が育成される
。そして,自然環境の機能を会得した地域社会をリードする,水環境スペシャリストが輩出され,今後の温帯地域の温暖化に対する環境予測と対応策が水循環を基盤としたグローバルな視野から展開できる。
C全学的にカリキュラムを開放することも視野に入れており,多様な分野からの水環境スペシャリストの育成が期待される。
(b)期待できる成果等の教育改革への有効性
@地域社会と教育の連携により環境学分野の地域活性化手法が提示される。
Aキャンパス内の水循環施設は地元市民の心の癒しの場ともなり,「開かれた大学」としてのイメージアップが強まると共に地域の小・中・高校の環境教育に効果が高い。
B岡山県が策定する児島湖の長期ビジョンの達成に向けて,理論的および活動的な関わりを認識させることにより,国内外の次世代の水環境保全活動に拍車をかける。
(参考)
(1)取組に関連する今日までの教育実績
@新入生の学外研修
本学部では設立直後から「ガイダンス科目」(必修科目)にて毎年入学2ヶ月後に,環境関連企業または公共事業の視察や説明会への参画などの学外研修を実施している。現地における講師は,行政機関や企業に在籍する岡山大学卒業者が多く,同窓会の支援を受ける体制になっている。さらに,この研修は学生自ら計画書や報告書を作成し,現地担当者と質疑応答を行うなど実践型環境教育の一部を継続している(資料2参照)。
A環境生物学実験における野外実習や環境フォーラムへの参加
「環境生物学実験」,「水利実験」,「土壌物理実験」など本プログラムに関連する基礎実験は,必修科目として3年次のカリキュラムに組み込まれている。特に「環境生物学実験」においては,児島湖に造成された人工干潟を活用し,渚護岸を形成するためのヨシやヒメガマの現地植栽実験や身近な水環境の全国一斉調査に参加,さらに清掃活動を環境NPO組織と協働作業で実施する課外活動や環境フォーラムに参加して環境学の幅広い知見を得る機会を提供することをメニューに取り入れている(資料3参照)。
(2)実施体制等の今日までの経緯
@学部のカリキュラム編成作業
平成20年度からの全学的な教養教育の改変予定に伴い,本学部では環境系基礎専門科目の充実とカリキュラム再編成を学部将来構想委員会および学部教育検討WGにて取り組んでいる。現在,「実験・実習科目」の低学年における位置づけを検討しており,本プログラムの低学年におけるカリキュラムへの参入が容易にできる土壌が既に整っている。
A地域社会との連携
本学部教員は地域社会との共同研究等で深く連携を継続しており,かつ同窓会組織も有しており本プログラムについての協力並びに準備性は高い。また,本学部教員や高学年学部生が主体となって,「児島湖流域エコウェブ」「岡山県青少年課エコボランティア」など地域を含めたNPO活動も積極的に行っている(資料3参照)。
B国際交流
平成18年4月にタイ国カセサート大学カンペンセン校農学部との学部間国際交流協定が締結し,同農学部長を本学部主催の環境セミナーの講師として招聘,教職員の交流と学生交流を既に実施した。特に,職員が相手校の事務職員と国際交流の実施に伴う諸問題について会議を持ち,今後の学生交流への準備を行っている。また,タイ国における現地調査と児島湖の視察を双方5人の学生が実施している。
2 取組の実施計画等について
取組の全体スケジュール及び各年次の実施計画を表1に示す。
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