1 取組について

(1)取組の趣旨・目的

 (a)取組の背景

地球温暖化が人間活動によるものであるとの判断が下され,季節感の喪失,西南暖地に生息していた生物種の日本列島北上,瀬戸内海の海水位や水温の上昇,ゲリラ的な降雨等, 身近に我々の生活に忍び寄る自然環境の変化を肌で感じる昨今である。また,現在の自然環境の変化を概観すると,西南暖地における温暖化は,将来, この地域が温帯地域より外れ,亜熱帯地域の北限的な様相を示すのではないかと懸念される。熱帯・亜熱帯地域の東南アジアも日本と異なる温暖化の影響を受けている。このような地球レベルにおける環境問題は,地域性を無視して語る事は出来ないし,地域特性に基づいた自然環境要因の変化,特に水環境の変化を理解して温暖化に対処することが強く望まれる。
 晴れの国,岡山は降雨量が我が国で2番目に少ない県である。従って溜池や湖沼の閉鎖性水域の水質悪化は促進され,その改善の基準達成率は低い。特に,岡山県南部に位置する人工淡水湖の児島湖は昭和60年に指定湖沼に指定され,水質は全国ワースト10位以内にランク付けされている。いまだ,基準達成にはほど遠いが,関係機関や県民の努力で改善の方向には向かっており,岡山県の長期ビジョンには,豊かな水資源, 水産資源と共に水辺空間を県民の地域資源として活用する施策が織り込まれている。
 以上の地域特性を背景に,環境理工学部および農学部(環境生態学コース)の学生に,座学や断片的な知識詰め込み型の教育から離れ,刻々と変化する身近な環境に即応できる,現場を習熟した環境学士を育てる目的で,学部の環境教育の根幹に実践型教育手法を置き,特に温暖化を見据えて,人間活動に関与する水環境を管理できる社会に通用する人材を育成することに,学部の教育目標を掲げることとした。その能力を有する技術者の育成と共に,単なる技術者の輩出に拘泥せず,広い視野から体系的に水環境問題を捉えることができる総合能力を付加することで, 環境理工学部の特徴を醸し出す工夫が必要と考えた。

(b)取組の趣旨

 児島湖は約5,100haに及ぶ沿岸農用地の用水の確保のために,国営児島湾沿岸農業水利事業により昭和34年に完成した湖面積10.88km2の人造湖である。その後,閉鎖性水域であり,生活排水等の流入量が増大し,水質汚濁が顕在化した。外来生物の異常繁殖やアオコの発生等で生態系は乱れ,水産資源も減少の一途を辿った。 しかし,国営事業によるヘドロ浚渫や岡山県による水質保全条例による汚濁負荷量の抑制,さらに県民との協働による環境保全活動により,平成7年度以降,徐々に改善傾向に向かっており,平成37年頃までの長期ビジョンの達成目標が共有されようとしている。
 一度,瀕死の状況に陥った水資源の再生を考える場合,過去からの長年の観測値を分析し,今後の長期ビジョンの達成に向けて詳細な計画と実施を試みなければならない。 行政機関,研究機関および環境関連企業の主導で展開されるが,未来に引き継ぐためには,それらの主体の中に環境学の基礎と実学を修めた人材の存在が強く望まれる。さらに,自然環境の機能を理解した上で水循環や水資源を論じる人材が必要である。そこで本取組では,データの収集と解析力(Analysis of Data)体系的な思考力(Thought)問題解決のための計画性(Plan)行動力(Action)そしてコミュニケーション能力(Communication)を付加したADTPAC水環境スペシャリストを晴れの国の財産である児島湖の環境保全・地域資源再生活動のフィルターを通して国内外に輩出することを目論む。



図1 取組の概要



図2 どんな人材を育成するのか?

教育の場としては,児島湖の現地以外にキャンパス内の水循環施設を活用する。本施設は,児島湖で得られた複合的なデータの解析に役立つスケールダウンした自然環境の機能を把握し,環境改善への方向性を習得する目的で,現在造成中である。さらに,多様な主体の地域連携を経験させるために,環境NPO組織やESD-Jの環境教育の企画や実施に参画させると共に,関係者を講師として招聘する。一方,環境問題の先進国である日本は,東南アジアの水環境問題の解決等への協力が求められている。学部間国際交流の締結校であるタイ国カセサート大学カンペンセン校農学部では,共同研究の課題として水質浄化手法の検討を目論んでいる。晴れの国で会得した自然環境の機能を通した水循環が,熱帯・亜熱帯地域のタイ国で,どの程度普遍性があるのかを理解させるために,加えて環境問題を語るコミュニケーション能力を磨くために国際交流締結校の協力を得る(図1・図2参照)。

(2)取組の実施体制等(具体的な実施能力)

・取組への参加予定人数(教員 15人・職員1人・学生 50 (TAを含む) 人)

 (a)カリキュラムの位置づけ

ここで実施しようとする取組は2年次生の専門基礎科目として位置づけ,通年60コマで2単位とする。実験・実習は個人の実践が重要視されるので,多人数の教育は効率的ではない。従って,大学院生TA10人程度の配置の下に40人程度のクラスで実践型教育を実施する。また,これは従来の各学科単位の教育ではなく,「水辺空間」というフィールドを活用して水環境に関する総合的な基礎教育を実施するもので,従来の座学あるいは実験室内で行っていた狭い範囲の教育から,そのメカニズムを探求させる実践型の教育へと改善するものである。
児島湖における現場にて実習するプログラムと平行して,キャンパス内の施設で,地下水,土壌,微生物,生物を供試して,自然環境の浄化機能や気象条件を観測させることにより,自然環境の機能を活用した水循環システムを理解させ,さらにビオトープの創出など親水機能に関する知力も付与するユニークな教育システムを確立する。しかも,キャンパス内の水循環施設はハード面のみ提供し,教員と学生が一体となりエコアップ手法を生み出し,人為的に自然環境を復元するステップを習得することに教育目標を設定する。その後,復元した自然環境の維持管理や環境予測を目的に環境要因のデータ収集や解析を行い,それらを基に総体的な水環境問題の捉え方と解決法を模索する能力を習得し,児島湖の現場へフィードバックさせる。一方,環境学を修める者は,客観的にデータを読み取る能力が必要である。しかし,現地で収集するデータは,地域特性や環境要因の複雑さから方向性が見えない結果となることが少なからず生じる。そこで,環境要因を単純化したモデル実験シミュレーションするための設定値の算出,規模の違いによる結果の誤差等を推測するためにも本施設を活用する。
 一方,2年次の夏期休暇中(3週間)にタイ国カセサート大学カンペンセン校農学部にて特別コースを設置し単位を付与する。本コースにおいて,タイ国における自然環境の機能,水環境問題や環境保全活動の実践教育を受ける(図3参照)



図3 本取組のカリキュラム構成

(b)児島湖におけるフィールド実習

 児島湖における実習の主なる内容は,定期的な児島湖流域の気象観測,定点の水循環計測と水質調査,植物群落の生育調査や光合成・蒸散能力の測定, 蒸発散量・潜熱・酸性雨の測定,土壌・微生物・植物の浄化機能の測定,生物多様性調査,並びにそれらのデータ解析・環境評価・環境予測である。これらの結果はキャンパス内の結果やタイ国の結果と比較検討される。そして,得られた結果はデータベース化することにより,今後の環境改善活動に活用できるシステムを組ませると共に環境改善手法と費用対効果も言及する。担当者として学内スタッフと協力機関の学外スタッフがあたる。学内スタッフは環境理工学部や農学部のみならず,関連の深い理学部,工学部,教育学部も参画する。児島湖流域および自然環境が良好な渚型護岸や人工干潟を調査場所として予定しており,気象観測装置やデータ解析システムの設置を計画している。一方,産学官民の環境保全組織である児島湖流域エコウェブや行政機関のイベント企画に参画させ,岡山県環境保全事業団や同自然保護センターから講師を招き,学校ビオトープのインストラクターとしての教育も積極的に行い,地域連携の経験を本カリキュラム内で培う。本実習より児島湖の有する多機能性を理解させ,地域住民との共同意識を芽生えさせる。

 (c)環境NPO組織とESD-Jとの連携強化

 低学年次に本取組を導入することは,自分と社会について考える機会を早期に得ることとなり,大学生活へのモチベーションが高まり,その後,学部で学ぶ専門科目の位置づけが認識される。また,学外の協力機関は環境関連企業,政府機関の行政,研究所および地方自治体の行政組織が主であるが,環境NPO組織や環境ボランティア組織(児島湖流域エコウェブ,岡山環境ネットワーク,岡山県児島湖流域クリーン作戦,岡山県青少年課エコボランティア等)も協力機関として位置づけ,学生達に積極的に参画させる。ESD-Jとの連携は両学部の大学院にて既に成果をあげている。また,環境NPO組織・ボランティア組織の活動情報や要員募集等のプラットホーム的な役割を果たす機構を付加する。

 (d)独創性と新規性

@キャンパス内の水循環施設

 本取組で使用する水循環施設は,企業や学外研究機関との共同研究の場としても活用し,実社会で課題となる内容を取り扱う(資料1参照)。また,施設の骨格をなすハードな部分のみ造成するので, 自然環境を復元させる段階とその後の維持管理の段階との2段階における教育を行うことが可能である。これは,自然環境が整った既存の施設やビオトープの利用による教育と異なり,実社会で即戦力となる基礎と応用力を身につけることを意味し,児島湖等へのフィードバックがしやすい。また,原水としては地下水を利用するが,水質が悪いので土壌・植物・微生物等の浄化機能を実体験できる。さらに,酸性雨の影響緩和機能を目した植生,植生による気温緩和効果や蒸発散,CO2や窒素・リンの収支など生態系の仕組みが学生自らの観測で把握できるシステムで,身近な科学を体験しながら,「水資源の確保」,「自然との共生」,「自然環境の復元」への新技術を生み出す能力が鍛錬される。さらに,自然環境が醸し出す自然復元力や生命への愛おしさにリラクゼーションが期待される。本取組は将来的には,全学的な教育に拡大する予定であるが,活動内容を高大連携にも活用し高校生に教授する。

A充実した学内スタッフと協力機関スタッフ

 本学部では地圏,水圏,大気圏,生物圏,水文学,環境浄化,環境予測,環境評価,エネルギー,再資源化に関しての専門家が在籍しており,本プログラムを推進するには十分な体制が整っている。さらに,農学部では環境生態学,生産システム工学,食料・資源情報システム学の専門家が揃っており,関連の深い他学部のスタッフとも有機的な連携をとる。施設稼働に関する基礎的知識は,各々関連科目の講義と室内実験で修得させ,並行して関連教員が分担してフィールド実習に携わる。
 一方,学内スタッフの産学官連携の共同研究等を介して中国四国農政局,近畿中国農業研究センター,国土交通省中国地方整備局,岡山県,岡山市などの公的機関,並びに環境関連企業,環境NPO組織等の協力機関との連携は深く,それらの協力機関で現場作業に携わるスタッフの講師陣としての受入は十分可能であり,学内スタッフとは異色の内容の実習形態が期待される。

(3)評価体制等

 本プログラムの達成度の評価は,学部教務FD委員会委員,学部教育検討WG委員,学部将来構想検討会委員,学外協力機関担当者および環境NPO組織担当者等で構成される評価委員会を設置して年に2回実施する。その評価結果のウイークポイントは次年度のシラバスに反映させて修正する。さらに, 実践型環境教育運営協議会は学部教務FD委員会や学部教育検討WG,学部将来構想検討会と定期的に学習成果の検討を行い,学生の提出レポートや要望も考慮してプログラムを改善をする。また,取組期間終了時には, 学生・TA・教員間で作成するレポート集を県等の行政機関や環境NPO組織に提出して評価を受けることとし,この体制は存続させる。なお, 環境理工学部の3学科はJABEE認定校,他の1学科も受審準備中である。従って,技術者養成プログラムの国際的な外部評価は定期的に受けている。

(4)教育改革への有効性

 (a)教育方法・実施体制の創意工夫

@低学年に本取組を導入することにより早くから社会性を有し,かつコミュニケーション能力に優れた人材を社会に送り出す。

Aビオトープ形成に伴う生物との触れ合い,継続的な自然環境の観測を通して自然環境の機能を会得するので,人間形成における精神的な波及効果が大きい。

B国内外で,そこに生じる問題点を解決するための英知や技術を実地体験することにより,グローバルな環境問題の仕組みも理解しやすくなり,課題解決型の人材が育成される 。そして,自然環境の機能を会得した地域社会をリードする,水環境スペシャリストが輩出され,今後の温帯地域の温暖化に対する環境予測と対応策が水循環を基盤としたグローバルな視野から展開できる。

C全学的にカリキュラムを開放することも視野に入れており,多様な分野からの水環境スペシャリストの育成が期待される。

(b)期待できる成果等の教育改革への有効性

@地域社会と教育の連携により環境学分野の地域活性化手法が提示される。

Aキャンパス内の水循環施設は地元市民の心の癒しの場ともなり,「開かれた大学」としてのイメージアップが強まると共に地域の小・中・高校の環境教育に効果が高い。

B岡山県が策定する児島湖の長期ビジョンの達成に向けて,理論的および活動的な関わりを認識させることにより,国内外の次世代の水環境保全活動に拍車をかける。

参考)

(1)取組に関連する今日までの教育実績

@新入生の学外研修

本学部では設立直後から「ガイダンス科目」(必修科目)にて毎年入学2ヶ月後に,環境関連企業または公共事業の視察や説明会への参画などの学外研修を実施している。現地における講師は,行政機関や企業に在籍する岡山大学卒業者が多く,同窓会の支援を受ける体制になっている。さらに,この研修は学生自ら計画書や報告書を作成し,現地担当者と質疑応答を行うなど実践型環境教育の一部を継続している(資料2参照)

A環境生物学実験における野外実習や環境フォーラムへの参加

「環境生物学実験」,「水利実験」,「土壌物理実験」など本プログラムに関連する基礎実験は,必修科目として3年次のカリキュラムに組み込まれている。特に「環境生物学実験」においては,児島湖に造成された人工干潟を活用し,渚護岸を形成するためのヨシやヒメガマの現地植栽実験や身近な水環境の全国一斉調査に参加,さらに清掃活動を環境NPO組織と協働作業で実施する課外活動や環境フォーラムに参加して環境学の幅広い知見を得る機会を提供することをメニューに取り入れている(資料3参照)

(2)実施体制等の今日までの経緯

@学部のカリキュラム編成作業

平成20年度からの全学的な教養教育の改変予定に伴い,本学部では環境系基礎専門科目の充実とカリキュラム再編成を学部将来構想委員会および学部教育検討WGにて取り組んでいる。現在,「実験・実習科目」の低学年における位置づけを検討しており,本プログラムの低学年におけるカリキュラムへの参入が容易にできる土壌が既に整っている。

A地域社会との連携

 本学部教員は地域社会との共同研究等で深く連携を継続しており,かつ同窓会組織も有しており本プログラムについての協力並びに準備性は高い。また,本学部教員や高学年学部生が主体となって,「児島湖流域エコウェブ」「岡山県青少年課エコボランティア」など地域を含めたNPO活動も積極的に行っている(資料3参照)

 B国際交流

 平成184月にタイ国カセサート大学カンペンセン校農学部との学部間国際交流協定が締結し,同農学部長を本学部主催の環境セミナーの講師として招聘,教職員の交流と学生交流を既に実施した。特に,職員が相手校の事務職員と国際交流の実施に伴う諸問題について会議を持ち,今後の学生交流への準備を行っている。また,タイ国における現地調査と児島湖の視察を双方5人の学生が実施している。


2 取組の実施計画等について

 取組の全体スケジュール及び各年次の実施計画を表1に示す。


表1 プログラム取組の実施計画

平成19年度

平成20年度

平成21年度

1.実践型環境教育運営協議会設置

 

 

2.評価委員会の設置

 

 

3.共同研究または学外講師の募集

 

 

4.原水の水量・水質分析・水路設計

 

 

5.児島湖における実習現場の選定

 

 

6.気象観測装置やデ-タ収録装置の設計と設置 

 

 

7.水生植物・カバープラントの植栽

 

8.カセサート大学における特別コースの設置

 

 

9. 植生護岸と水路の整備・浄化装置の設置

 

10.水質・気象・植物群落成長・生物多様性調査

11.浄化システムの評価・バイオマスの後利用・エネルギー源の開発

 

12.環境変化の予測・環境評価の指導

 

13.活動の評価・レポート集発刊

 

14.入口と出口への広報・地元周辺への憩いの場の提供

 


平成19年度の主なる取組

@実践型環境教育運営協議会・評価委員会の設置(表112

本プログラムに関与する学内教員・学外教員・TA・高学年学部生・事業推進員を招集し実践型環境教育運営協議会を設置し,本プログラムの教育・研究内容の検討及び児島湖現場の測定機器・学内水循環施設の運営及びカリキュラムに導入する環境調査のメニューを策定し開示する。続けて評価委員会も設置する。

A共同研究または学外講師の募集(13)

次に,地元環境関連企業,環境NPO組織,学外研究期間を対象に,学内水循環施設を活用する共同研究の募集を行い,実用化に直結する最新技術のノウハウを共同研究者(学外講師)から学ぶ機会を設定する。さらに,行政機関も含めて児島湖実習におけるインストラクターの募集と依頼を行う。一方,次年度に向けて環境ボランティア活動に関するカリキュラム及びシラバスを検討する。

B児島湖における実習現場の選定(156)

潅漑期・非潅漑期を通じて気象観測ならびに水循環・水質等が観測できる調査地点を選定し,測定機器類およびデータ解析装置の設置を行う。また,自然環境の機能が継続的に測定できる定点を選定すると共に,実習のメニューと併せた現場利用の指針を決める。

Cカセサート大学における特別コースの新設準備(18)

カセサート大学の特別コースは,実習メニューの作成とそれに基づく相手校のスタッフ選出を依頼する。その調整に本学部より教職員を派遣させる。

D自然環境の復元に必要な事項のプランニングと実施(14,6,7,8,10)

基礎データ収集のために,地下水量の確保,地下水の水質調査,汚濁負荷量と水流を考慮した調整池や水質浄化水路の設計,濾材の選択,土壌・生物・化学的浄化手法の導入,ビオトープ創出のための植生護岸の手法の具体的な検討調査を後期カリキュラムに組み入れる。気象観測装置やデータ収録装置のシステム設計と設置を行う。また,植生護岸や水質浄化に活用する水生植物,調整池やビオトープ池の堤体に植栽するグランドカバープラントの選抜を行う。さらに,施設周辺の築山を利用して,酸性雨の影響緩和効果のある植生の環境調査法,植生の蒸発散量や潜熱測定法を教授する。以上の工程により, 二次的自然環境の復元教育と水循環の仕組みを教育する。

E実施体制等の具体的な展開

本プログラムは季節性も関与するので通年開講とし,課外授業も適宜加えて,単位認定を行う。単位認定は他の科目と同様に,シラバス上に評価基準を公開し, それに基づき担当教員が行う。指導教員は本学部の4学科と農学部の環境生態学コースから環境調査項目に応じて各専門分野より複数名を選出する。教育研究分野より選出された指導教員と環境学研究科学生(TA)が単独または共同で実習を担当する。学生はグループ単位で調査を行う体制を組む。特に環境学研究科の学生をTAとして活用することは,彼らへの教育効果を高めることになり,付加価値が生じる。児島湖への移動は大型バスを利用する。

平成20年度・21年度の主なる取組

@創成された二次的自然環境の維持管理手法の習得(17,9,10,12)

教育用施設の準備と充実を図り教育内容を検討し,下記の項目を実施する。

・記録した気象観測及び水路水の流速,水温,水質の計測データを解析する方法を習得。

・水収支や窒素・リン・炭素等の循環を算出。

・土壌,微生物,植物を活用した自然環境システムによる水質浄化機構の評価法を教育。

・ビオトープ池からの再生水について潅漑水への活用を試行。

・水生植物の群落成長調査,大気への水分放出量を測定すると共に熱フラックスを算出。

・酸性雨の影響軽減程度の高いグランドカバープラントの植栽と群落成長を調査。

・ビオトープ池の生物同定会(学外専門家)の開催。

・自然環境の変化予測を環境数理実験装置によりシミュレートする方法を習得。

A得られた結果はレポート集として一般公開または岡山県へ提出(表113

B「開かれた大学」に向けて(表114

学内施設の環境整備が整えば,周辺地域の小・中・高校の課外教育の場周辺住民の憩いの場として一般開放する。なお,本施設の恒常的な管理や学外への対応およびパンフレットやレポート集の作成には専門的知識のある事業推進員が対応する。

Cバイオマスの後利用・エネルギー源の開発(表111

浄化過程で得られる汚泥や植物バイオマスの後利用の検討,学内施設稼働のための環境に優しいエネルギー源の開発, 活動の総合評価を行い,実践型環境教育の再検討を行う。

取組期間終了後の展開予定

 部局長裁量経費や共同研究費を施設や機器類の維持管理費に充当させ,取組期間と同様の教育形態を保ちながら,教育手法や教育範囲を発展させる予定である。

3 「データ,資料等」

資料1  <キャンパス内の水循環施設の概要>



図4 造成中の水循環施設の概略図

 本施設は,流入池(長径10m,水深0.8m)水路(2m,長さ20m,水深0.5m)およびビオトープ池(長径18.7m, 深さ1.5m)から構成されており,地下水を汲み上げて流入池で調整し, 栄養塩類除去や有機物除去を施す水路を流下した後,ビオトープ池に流入する行程を有している施設である。ビオトープ池には曝気装置を具備し,一部は流入池に再循環させ,一部は環境理工学部棟の雑用水に利用される仕組みとなっている。池および水路はシート工法を使用しており,内側は緩傾斜,外側の堤体は11.6の傾斜となっている。ポンプ稼働は最小限にとどめ,オーバーフローによる自然流下を基本に環境に優しい構造となっている。 水路は可変式になっており,種々の濾材を入れて土壌, 植物,微生物の機能を有した水質浄化実験が行えるように仕組まれている。また,ビオトープ池や水路には水生植物の植栽実験,堤体の外側や築山には酸性雨の影響軽減効果のある環境適応力の高い植物群落の生長が調査できる施設となっている。ビオトープ池の処理水の利用については, 灌漑水を計画している。さらに,環境要因については雨量,風向,風速,温湿度,日射量が自動に測定できる気象観測装置を設置し, 水位や流速も自動計測し,さらにデータ収録装置を収納するデータ収集室(プレハブ実験室)を仮設する。

資料2 <新入生の学外研修旅行>

 本学部では第1期生を迎えた平成7年以来, 学外研修を実施している。本研修は1年次必修科目の「ガイダンス科目」という科目区分に組み込まれており,現地見学やそのレポート作成,事前・事後の討論会を通して,口頭発表力, コミュニケーション能力,論理的記述力の養成を図ることを教育目標としている。現地見学の場所は毎年, クラスアドバイザーが選定するが,本学部の同窓生,農林水産省,岡山県等の各界の専門家が研修の学外講師としてボランティア的に指導している。例えば,図5・6に示すように人間活動と自然環境が調和した地域環境・農村環境を創出し管理する事業の紹介等をすることにより, 学生達に,それに係わる技術・理論の修得を通して, 専門分野へのモチベーションを高めている。本プログラムは,この教育体制の拡充発展を意識している。



図5 岡山県農林水産部の講師(同窓生)による吉備高原北部の農道整備事業の研修

 


図6 児島湖資料室の視察

 

資料3 <児島湖流域エコウェブ活動>

 児島湖流域エコウェブは, 環境改善に取り組んでいる住民・企業・行政がパートナーシップを組み,児島湖周辺において環境保全活動の「実践」を通じて「連携」を図り,児島湖周辺における継続的な環境改善の推進に資するために設立した環境保全推進組織である。環境フォーラムの開催,観察会,調査実践活動を継続的に実施しているが, 会長および副会長が本学部の教員であるので,本学部学生のフォーラムや調査実践活動への参画を積極的に進めている。現在,児島湖の人工干潟造成に伴うビオトープの創出を活動の一部に取り入れている。また,現在のカリキュラムに組み入れられている「環境生物学実験」は自然環境の機能を認識することを目的に調査法や実験法を教授しているが,児島湖の植生護岸造成において,図7・8に示した通り,ヨシおよびヒメガマの植栽法の現地実習などもメニューに取り入れている。



図7 児島湖人工干潟におけるヨシ植栽の全景


図8 ヒメガマ植栽方法の実習

 
さらに,平成18年度は身近な水環境全国一斉調査をメニューに取り上げ,岡山県青少年課エコボランティアの高校生を指導しながら,児島湖流入河川13ヶ所の水質調査を実施した(図9)。また,()岡山県環境保全財団が「児島湖沿岸のヨシ原造成事業」(環境省請負事業)を実施しており,八浜高校の学生への環境教育の補助も行った。一方,岡山県主催の児島湖流域クリーン作戦にも参画し,環境美化にも協力している(図10)。



図9 児島湖流入河川の身近な水環境全国一斉調査で高校生へ水質調査の指導


図10 岡山県主催のクリーン作戦に参加して児島湖沿岸に流れ着いたゴミ