・聴性脳幹反応( Auditory Brain-stem Response ; ABR )

(1) 定義
 聴覚神経系を興奮させることによって得られる脳幹部での電位を頭皮上より記録したもの。蝸牛神経と脳幹部聴覚路由来の反応で音刺激から10msecの間に発生する6-7個の電位により構成される。この反応は、意識や睡眠状態の影響を受けにくく、極めて再現性のよい安定した波形が得られる。

(2) 検査の意義
 ABRは、各波形の起源も明らかにされており、診断的価値が極めて高く、難聴や脳幹障害の診断に幅広い臨床応用が期待できる。乳幼児の聴覚障害のスクリーニングにも使われる。
ex) 聴神経腫瘍、意識障害、多発性硬化症、脳死の判定、等。

(3) 検査

1. 被検者
 電極を装着した被検者をシールドルーム内のベッドへ仰向けに寝かせ、ヘッドホンを装着し、安静閉眼状態で記録する。覚醒、睡眠時どちらでも良い。ただし、新生児及び、乳幼児の場合は(体動によるアーチファクト防止のため)睡眠時に記録する。
2. 音刺激
 種類はクリック音が最も多く用いられる。強度の表示は物理的な強さである音圧レベル(Sound Pressure Level ; SPL)で表わす。または、正常聴力者の聴覚レベルを基準とした(normal Hearing Level ; nHL)、さらには被検者自身の聴覚レベルを基準とした感覚レベル(Sensation Level ; SL)で表わす。持続時間は、0.1〜0.2msec程度のクリックや矩形波が主。刺激頻度は原則として10〜30回/秒。
3. 記録電極
 記録電極は、脳波用電極か針電極を用いるが皿電極の場合、接触抵抗5kohm以下になるようにする。電極の位置は、Cz、A1あるいはLM(左乳様突起)、A2あるいはRM(右乳様突起)、Fpz。
 モンタージュは(1)A2かRM-Cz (2)A1かLM-Cz、接地電極はFpz。
4. 記録条件と記録波形
 加算回数は、500〜2000回。記録用フィルタ帯域は、80〜1500Hz。成分の名称は、ローマ数字でI、II、III、IV、V、VI、VIIとする。振幅は、1uV以下。潜時は、10msec以内。検査音の強度に応じた正常聴力者の各成分潜時を各施設の記録系で独自に測定し、正常なデータを持っている必要がある。また、若年正常者に比較し、加齢者ならびに乳幼児では各成分潜時が延長する傾向にある。また、男性は女性に比し0.1msec程度潜時が長い。記録波形を検討するために重要な指標となるのは、各反応成分の再現性、潜時、振幅である。

(日本脳波筋電図学会による"誘発電位測定指針"より)

各ピークの起源

I 蝸牛神経
II 橋延髄接合部
III 橋尾側(上オリーブ核)
IV 橋吻側
V 中脳(中脳下丘)
VI 内側膝状体
VII 聴皮質
 



5. 岡山大学医学部附属病院中央検査部での記録および結果表示
・ 記録条件
記録フィルタ帯域 80〜1500Hz
加算回数 1050回
解析時間 10msec
刺激音圧 115dBspl
・ モンタージュ
(1) RM-Cz
(2) LM-Cz 接地電極はFpz。
・ 記録波形

・ 中央検査部脳波室におけるABRのMASCUT結果(潜時)表示
原則として2回測定し、再現性があることを確認しています。後は、以下の条件に基づいて潜時の測定をしています。(I〜VI波について)
1. アーチファクトの混入の少ないきれいな波形を選ぶ。
2. 各2回の測定波形がきれいであれば、V波の潜時の早い方の波形を選ぶ。
3. 不明瞭な波形については判定保留(?)としています。 

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