社会文化科学研究科
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  大学院社会文化科学研究科長 荒木 勝 2009年4月8日

 社会文化科学研究科にご入学された皆様へ、またご関心をお持ちの方へ、研究科長として一言メッセージを送ります。

 まず、平成21年度の社会文化科学研究科にご入学された方に対して、ご入学を心より歓迎いたします。
また本年度に入学された方の中では、30名を超える方々が、中国、東欧、東南アジアに至る世界の多様な地域から社会文化科学に入学されています。
 日本のみならず遠く世界の各地から本研究科に学びに来られたことに対して、深い敬意を表したいと思います。また十数名にのぼる社会人の方も入学されています。年齢も多様になってきたことも喜ばしいことと思います。
 こうした多様化、国際化は、大学の本来の姿に近いと思われます。12・3世紀のヨーロッパで大学UNIVERSITASウニヴェルシータス(普遍という意味)が生まれたときから、いやその原型ともなった、古代ギリシャのアカデメイア、リュケイオンの学園の時代から、大学は本来国際的であり、構成員の年齢も多様であったからです。国際的に多様な人々の間で研究するというのが大学の本来の在り方であり、社会文化科学研究科は、今後もそうした国際化、さらに国際的な大学間コンソーシアムの構築にむけて努力していくつもりです。

研究科の紹介
 さて、第一に、申し上げなければならないことは、社会文化科学とはどのような大学院なのか、という点です。
 概要のパンフレッットをみれば、この研究科は非常に複雑な構成をとっていることがわかります。
従来どおりの学問分野であるところもありますが、構成自体がかなり入り組んでいることは一見しただけで明らかでしょう。
 ここに社会文化科学研究科の特徴があります。
つまり、一つはこれまでの従来型の大学の学問、研究と教育を体験できる、ということです。たとえば組織経営専攻では、経済、経営の専門知識を体系的に学ぶことができますし、他の専攻も講座まで降りれば、講座ごとに文学、法学、経済の高度な専門知識を修得することができます。従って、学位も法学、経済学、文学の修士、博士の学位が得られます。
 しかし、同時に、社会文化科学研究科は、今日では学際的という風に呼ばれる研究スタイルも学ぶことができますし、またそれに対応した学位として、文化科学、学術の修士、博士の学位も得ることができます。
 皆さんは、この2つのやり方を自由に選択して、また両立させながら学ぶことができます。
ここでは、従来どおりの方式で学ぶことの意義については説明を省略します。法学部、経済学部、文学部に学ばれた方はある程度理解することができるでしょうから。
社会文化科学研究科のもう一つの方式、学際的に学ぶ意義について、いま少し説明したいと思います。

現代社会と学問
 さて、リーマン・ブラザーズの破綻に象徴される、現在の世界を覆っている金融危機から明らかになったことは、世界の秀才が寄り集まって企業経営していたアメリカの頭脳集団が大きな誤りを犯したということ、金融派生商品の運動を高度な数学的手法で解明すると称して、現実にはその運動の実際の予測に失敗したこと、またそうした人々の道徳的態度のひどさでした。つまり狭い専門的知識だけでは、自分自身も社会をも見失うということが明らかになったといっていいでしょう。
 また環境問題が大きな課題として浮上してきたことももう一つの重要な事実です。
ところがこの環境問題こそ、従来の学問分野だけでは対応できなくなってきた最大の問題です。技術的にも、多面的アプローチが求められるだけでなく、一国の、また世界の政治・文化・道徳の総体が深刻に問われています。
 環境問題へのアプローチには、現代科学の最先端の研究が呼び集められねばならないことは言うまでもありませんが、同時に、古い知恵との対話、古い歴史、社会の遺産、アジア・アフリカに代表される多様な世界との対話が不可欠となっています。
 1つの例として、ケンブリッジ大学の実例をあげます。
この大学は一方では、最新のバイオテクノロジーの研究が集積している場でもありますが、他方で2000年前に書かれた文書を研究する古典学部を有する世界有数の大学です。またこの古典学部も共同で関与する社会科学部門、歴史部門が共同で主催する研究会から優れた研究者が輩出しています。
 いまや現代では何らかの学際的な共同研究は避けられない運命になった、ということです。

従来型研究分野の知識の修得も不可欠
 そうは申しましても、これまで、とくに近代、現代社会が蓄積してきた特定分野(ディシプリン)の専門的知識は膨大な量と高度な質を保っています。私たちの研究はこれを無視することができません。特定分野における真摯な研鑚がなければ、いかに新たしい問題提起があったとしても、誰も相手にしてはくれません。古文書の解読から始まって、数学的手法を駆使した厳密な統計処理や高度な法学的論理思考の訓練、外国語の習得が厳しくもとめられることも事実なのです。私はそうした専門的知識の修得に皆さんが励まれることを期待するものです。

学問の普遍的課題―人間とはなにか、自然とはなにか、−を問うこと
 しかし「何を、なぜ、どの程度まで」研究するのか、という根本問題は、厳密な、また科学的な学問的訓練の場だけでは解答が与えられるものではありません。そのような解答は、あるいはM.ウェーバーのように己自身のダイモーン【神霊】の声に耳を傾けることによって得られるかもしれません。が、同時に人類がこれまで蓄積してきた多くの知恵、経験に学ぶことも必要不可欠でしょう。また、現代に生起する事柄への深い驚き、善き美しき事柄への予感・予知に耳を傾けることも必要でしょう。ここに今日学際的研究の意義を見いだす一つの理由があるのではないか、と思われます。

 結局、人類は現在でも人間とはなにか、また人間が集団で形成している社会、家族、経済、法、国家とはなにか、を問い続けているのです。また近代社会が人間の幸福追求のために開発・操作の対象にしてきた自然そのものについても、根源的な問いかけが始まっています。
 そうした意味では、今日の学問は従来にない新しい発想を余儀なくされているのです。知のパラダイム転換が叫ばれているのもそうした背景があるからです。
 社会文化科学研究科では、こうした問題にアプローチするために学際的仕組みをとって、時代の要請に応えようとしています。まだ十分ではありませんが、国際的な学際的シンポジウムも企画しています。研究指導に複数の指導教員を配置したのもそうした観点に立っています。皆さんの研究も深く、そして広く、という極めて困難な道を歩んでいくほかないのです。
 皆さんのこれから始まる研究生活は、楽しい時もあれば苦しい時もあります。そうした生活を通じてご自分の研究の意味をつねに問い続けてほしい、と思っています。私たちの研究科がそうした皆さんの学びに役立つことがあれば、それにまさる喜びはありません。
 修士の2年間、または3年間、また博士後期課程の3年間、皆様が健康のうちに過ごされることを心よりお祈り申し上げます。

   孔子
   「学而時習之、不亦説乎。有朋自遠方来、不亦楽乎」 
   「学びて時に之を習う、亦説ばしからずや。朋有り、遠方より来る、亦楽しからずや」(『論語』学而編)
   アリストテレス
   「すべての人は、自然本性において、知ることを欲する。」(『形而上学』第1巻)
    Pantes anthropoi tou eidevai oregontai phusei
 

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