DEPARTMENT OF ORAL REHABILITATION AND REGENERATIVE MEDICINE  
 

Department of Oral Rehabilitation and Regenerative Medicine, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry, and Pharmaceutical Sciences

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教授あいさつ Greetings

教授就任18年目を振り返る
矢谷先生は私の偉大な師匠である
教授就任17年目を振り返る
教授就任16年目を振り返る
教授就任15年目を振り返る
小崎先生 天国でもお元気にされていますか
教授就任14年目を振り返る
教授就任13年目を振り返る
科研の季節がやってきました
2016年度 岡山大学歯学部の皆さんに向けて
教授就任12年目を振り返る
岡山大学歯学部同窓会員へのエール
なぜ、国際化が必要なのか、留学で何を勉強すべきか
教授就任11年目を振り返る
新任教授,10年目を振り返る
新任教授,9年目を振り返る
新任教授,8年目を振り返る
新任教授,7年目を振り返る
新任教授,6年目を振り返る
新任教授,5年目を振り返る
新任教授,4年目を振り返る
新任教授,3年目を振り返る
新任教授,2年目を振り返る
新任教授,1年目を振り返る


教授就任18年目を振り返る


教授就任18年目を振り返る
朋来会顧問 窪木拓男

 令和4年7月1日をもって,岡山大学学術研究院医歯薬学域 インプラント再生補綴学分野の准教授を長年勤められた前川賢治先生が,大阪歯科大学の欠損歯列補綴咬合学講座に主任教授として赴任された。大阪歯科大学は言うまでもなく西日本に冠たる名門私立歯科大学であり,全国に多数の優れた歯科医師を輩出されてきた。中でも,欠損歯列補綴咬合学講座は,我々の分野の初代主任教授である山下 敦名誉教授の出身講座でもある。山下 敦教授が設立された日本顎頭蓋機能学会(現在の日本口腔リハビリテーション学会)を,大阪歯科大学の川添堯彬現学長が立派に発展させて来られ,この発展プロセスの中で,前川賢治先生のみならず窪木自身も育てて頂いたことに心から感謝を申し上げたいと思う。このご縁がなければこの様なすばらしい機会が与えられたとは思えない。我々の分野としては,徳島大学へご栄転された松香芳三教授誕生以来の慶事であり,前川賢治先生の不断の努力と諦めない祈りがこの様な慶事を引き当てられたものと感謝をしているところである。朋来会関係各位が関西地区で多数ご活躍であり,関西地区における大阪歯科大学の前川教授との協力体制が築かれることのメリットは甚大である。ぜひ,この慶事をお伝えしたく,本ご挨拶が例年よりも遅れたことにお許しを頂けたらと思う。
 令和3年度の医局の最も大きな出来事の一つは,rhBMP-2の治験が無事開始されたことであろう。前回のご挨拶でも書かせて頂いたが,「令和3年度臨床研究・治験推進研究事業」に,我々の「大腸菌発現系由来rhBMP-2含有b-TCP製人工骨を用いた顎骨再生療法」が採択された。創薬開発案件であることからこの予算規模は非常に大きく,歯科においては大阪大学のrhFGF-2に続くもので,歯科界のみならず医療界に与えるインパクトは非常に大きい。本創薬開発を行うための医師主導臨床治験を開始し,岡山大学病院で初めて本薬の歯科First-in-Human(FIH)試験を行うことができたことは,長年バイオ研究に携わってきた身とすると感慨深いものがあった。また,本医師主導治験は,岡山大学のみならず,我々の医局の価値を大きく高めたと言えるだろう。現在,本第Ⅰ/Ⅱ相医師主導臨床治験は,慎重に,また順調に実施されているところであるが,3年間の計画が完了し,最終的に,なるべく早く先生方の手元に新しい治療法として提供できる日を待ち望んでいる。
 令和3年度は日本補綴歯科学会の馬場理事長の下,副理事長として経験を積ませて頂き,広告可能な機構認定補綴歯科専門医制度の構築に関われたことは大きな経験となった。令和4年4月1日より,新たな機構認定補綴歯科専門医制度の試行期間に入り,日本歯科専門医機構に向けて最終的な申請を行うタイミングとなっている。本専門医制度は,長年日本補綴歯科学会が悲願としてきたものであり,今年中には機構認定専門医として認められるのではないかと思う。朋来会関係各位におかれましては,ぜひ,研修登録医として医局に在籍して頂き,広告可能な補綴歯科専門医として大手を振って長年の研鑽の成果を広告して頂きたいと思う。
 また,令和4年中には,歯科の病院部分の移転が完了し,我々の医局の診療室も刷新されることになっている。ぜひ,同門の先生方には新装になった暁にはお越し頂き,新しいデジタル技工を推進するために補綴2部門(口腔インプラント科部門,補綴歯科部門)と技工室の間に設けられるDTコミュニケーションルームを見学頂きたい。デジタル技術とアナログ技術の融合の現状がそこには展開されているはずである。
 最後になったが,日本補綴歯科学会第131回学術大会の大会長に窪木が指名され,令和4年7月15日~17日にわたって,大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)で学術大会が開催されることになった<https://www.kwcs.jp/jps131/index.html>。本学会は,永らくコロナ禍により学術活動が制限されてきた中で,やっとハイブリッド形式で開催にこぎつけることができた苦労や工夫の詰まった大作である。また,日本臨床歯科学会(SJCD)との共催学術大会となり,これまでの補綴学会のあり方をより社会と結びつけることに注力した一大イベントとなる。多数の企業の方々に協力を頂き,ローストワックス法からデジタル技術に移行しつつあるこのすばらしいタイミングにおいて,多くの情報を与えて頂ける好機と考えている。最終的な事前参加登録締め切りが,令和4年7月8日(金)正午となっており,目前と迫っている。Web参加登録をして頂いた方も,現地参加に切り替えることが可能となっているため,ぜひ朋来会の皆さんには大阪府立国際会議場にいらして頂き,大阪歯科大に移動された前川教授に教授就任のお祝いを賜りたくお願い申し上げるところである。

2022年7月3日
岡山大学歯学部棟8階
インプラント再生補綴学分野 教授室にて


矢谷先生は私の偉大な師匠である


岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
インプラント再生補綴学分野
窪木拓男

 矢谷先生は私の偉大な師匠である.私が島根の三島先生や香川の永木先生,福山の作田先生とお酒を頂いて,現医局に挨拶に来るように言われたのが入局の直接的きっかけであったとすれば,私が補綴学に目覚めたのは,その当時の岡山大学歯学部歯科補綴学第一講座の主任教授であられた山下 敦教授,山見俊明助教授,そして,私が丁度入局する数年前に広島大学から移動して来られた矢谷博文先生がおられたからである.その頃は,歯科疾患の後始末を生業とする補綴学が歯科医学をだめにしたと揶揄されることも多々あったが,補綴診療に関わる幾多の問題を真剣に解決しようと志しておられたことに,私は強く引きつけられた.
 入局後は,矢谷先生が率いておられた機能系研究班に入り,矢谷先生の岡山大学の一番弟子として診療のアシストから矢谷先生の技術の隅々を盗み,矢谷先生の蔵書を読みあさり,矢谷先生のレコードを借りて聴いた.例を挙げるときりがないが,矢谷先生の支台歯形成は,今なお岡大病院の技工士さん達が語り継いでいるくらい上手かった.私は,矢谷先生がその当時精力的に取り組まれていた顎関節内障患者の咬合治療の試みを通して,歯科医としての基本的な技術の多くを学んだ.矢谷先生は非常に明快な文章を書かれる方で,矢谷先生に文章を提出すると,おまえの文章は小説風でいかんと言われたものである.いつも赤色のペンで複雑に修正頂いた文章を謎を解くような気持ちで真剣に学んだ.矢谷先生の蔵書も豊かで,先生の本を真っ赤にする程,線を引きながら読みふけったため,それは俺の本だぞと怒られた.矢谷先生も無類のジャズレコード好きで,大切なレコードを借りては返さず,最後には親しき仲にも礼儀ありと叱られた.田舎者で貧乏人の私は,矢谷先生の多彩な能力,趣味,魅力的な人柄にいつも引きつけられた.
 矢谷先生の学位論文は,その当時口腔生理学全盛期における咀嚼筋疲労の電気生理学的研究の王道を行くもので,咀嚼筋痛の病態に迫るものであった.矢谷先生は広島大学時代から噛みしめ実験の後に起こる咬合変化に注目されており,私はその変化の原因に関節軟骨や関節円板の粘弾性変形があるのではないかと推測し,その研究をさせて頂いた.サイエンスには医科も歯科もないこと,どの様な観点からも正しいと思える方向が正しいと教わった.矢谷先生のマンションと自分のアパートは同じ方向にあり,毎日いろんな談笑をしながら,夜遅く帰宅した.その折に生まれてくる幾多の奇想天外なアイデアが,毎日を楽しく,そして我々の人生を前向きにした.今でも,矢谷先生が特別講義に来られた際に,肩を並べてお話ししながら帰ったことを医局員に誇らしく語らせて頂いている.
 矢谷先生は,この様に才能豊かな方であるが,努力家でもある.夏休みにはカルテを山ほど積み上げて自分が治療された顎関節症患者の予後を明らかにする臨床研究をされていた.自分でカルテを借りて,コツコツとデーターシートに入力するなど,なかなかできる事ではない.Evidence-based Medicine (EBM)という言葉が一世を風靡する前から,臨床研究の大切さを心底理解されていたのである.そのためか,矢谷先生がされるシステマティックレビューは質が高いことが良く知られている.これまで,多数のレビュー論文を執筆されたが,その質においては間違いなく日本補綴歯科学会で右にでる者はいない.全部鋳造冠やCAD/CAM冠はどの程度長持ちするのか,接着性レジンセメントの効果はあるのか,失活歯と生活歯で予後は異なるのかなど,歯科の臨床の土台になる事実を導くのは決して簡単ではない.矢谷先生の事実の上に臨床技術を積み上げる姿勢は尊敬に値する.ぜひこれからも,多くの示唆に富む論文をご執筆頂きたい.
 我々の医局では,朝早くから旭川の河口にカヌーを出し医局員皆でハゼ釣りをして,午後矢谷先生が下ごしらえをされ,夕方からお宅で宴会をするという機会が年に一度あった.ハゼの天ぷらが本当に美味しく,我々が持参したり,矢谷先生が準備されたワインと絶妙にマッチして,本当に至福の時を過ごさせていただいた.奥さまにも大変御世話になり,医局の連中の家族が増える度にこの様な家族ぐるみの企画がなされ,かけがえのない医局の環境を創って頂いた.今の私は矢谷先生が蓄積された貴重な財産のもとに立たせて頂いているのである.
 矢谷先生,ご退職ご苦労様でした.お身体を大切に,先生の第二の人生がどの様なものになるのか興味津々です.岡山大学へ非常勤講師で来られる際にお話しできることを楽しみにしています.できれば,また,先生のお宅でハゼパーティをやりたいですねえ.


図 上海のAsian Academy of Prosthodontics (AAP)(2011年10月)
この時,古谷野先生が日本補綴歯科学会の理事長,矢谷先生が副理事長をされていた.日本補綴歯科学会の英文誌であるJPRのインパクトファクターは3.306にも達し,黄金時代の幕が開けた.


教授就任17年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男


教授就任17年目を振り返る
朋来会顧問 窪木拓男

 NHK Eテレ「こころの時代〜宗教・人生〜それでも生きる〜旧約聖書・コヘレトの言葉」の最終回「それでも種をまく」を幸い見ることができた。私はキリスト教徒ではないが,たまたま土曜日の深夜に最終回を再放送していたからである。先のアメリカ大統領選挙で勝利したジョー・バイデンが勝利宣言を行った講演で「旧約聖書」の一節を引用したことは有名である。この時引用されたのは「コヘレトの言葉」である。その番組の司会をされた東京工業大学の若松英輔教授と,この書を30年にわたって研究されてきた牧師・東京神学大学の小友 聡教授によると,バイデン大統領は,すべてには時があり,今のアメリカは,壊すのではなく,建てる時であり,収穫し,新たに種を植える時であり,そして癒やしの時でもあると述べられたという。これらの言葉は,原典では以下の様に記されているという。

天の下では,すべてに時機があり,すべての出来事に時がある。
生まれるに時があり,死ぬに時がある。
植えるに時があり,抜くに時がある。
殺すに時があり,癒すに時がある。
壊すに時があり,建てるに時がある。
(3章1-3節 聖書協会共同訳,https://www.titech.ac.jp/news/2020/048546.htmlより引用)

 人間にとって幸いであることだけでなく,危機にもまた「時」がある。人間を超えた大いなるものが司る摂理的な「時」がある,というのである。現代人は,この世の時間を自由にできると思いがちだ。しかし,歴史はそうした思い上がりに強い「否」を突きつけて来た。大規模災害やコロナ禍,ミャンマーのクーデターがそれの最たるものであろう。自分の歴史(人生)にこれを当てはめてみても非常に良くわかる。いろいろな「時」があったが,それには今から思えば大きな意味があったように感じる。その時には,その出来事の時機と価値は,当事者にはわかりにくいのである。これらの時機を当事者はコントロールできないと悲観的になったり,自暴自棄になったりすることもあるかもしれない。しかし,小友教授は,コヘレトの言葉(朝,種を蒔け,夜にも手を休めるな。実を結ぶのはあれかこれか,それとも両方なのか,分からないのだから)を引用して,「もう諦めるしかないという悲観的な結論に至る瀬戸際で,だからこそ最善を尽くし,徹底して生きよ」と述べられた。「空しく,先が見えないからこそ,今,最善を尽くす生き方をせよ」とコヘレトは述べていると言うのである。すなわち,人生には良い時も悪い時もあるが,全ての時機には深い意味がある。しかし,当事者である我々はその意味もタイミングも簡単にはわからない。したがって,その時機が来るのを小賢しく予測して待つのではなく,未来のために種を蒔き続けるべきだと説いている。何と前向きで勇気を与える言葉だろうか。我々に与えられた時間は限られている。精一杯,人生を楽しみ,また,どのような時にも努力を惜しまないでいよう。それにしても,東京工業大学は日本の理工学系の先頭を走る学府であるが,超文系的思考と思えるこの様なリベラルアーツ(教養教育)の科目を持つことにビックリし,また感動の念を覚えざるを得ない。さすがというしかないではないか。
 さて,私が岡山大学歯学部に入学した直後の2年間は津島地区に下宿をして,男性合唱部「コールロータス」に所属し,練習に明け暮れていた。3年生になり,津島から鹿田地区に移動し,目新しい校舎で専門科目の授業が始まった。校舎は,鹿田地区の正門左に位置した現在の歯学部棟であった。地下1階,地上11階の鉄筋コンクリート造のこの建物には,歯学部と歯学部附属病院,歯学研究科の教育・研究・臨床機能が上手に統合され配置されていた。当時はまだ学生の講義室や実習室,共同研究室がある4階と5階のみが完成しており,順次他の階も完成していったと覚えている。地下には学生技工室,1階から3階までは歯科入院・外来診療室,6階から9階は各分野の居室や研究室が入っていた。10階にはRI実験室や動物舎,P2レベルの実験室を含めた共同実験室があり,当時全国で最も新しい歯学部の建物として,とてもよく考えられた建物だった。文部省に概算要求し,許可を得て頂いた故西嶋克己初代歯学部長や関係各位のご功績は忘れるべきではないだろう。
 この歯学部棟の全面改修の「時」が,開学40年を経て始まったのである。病院部分は,中央診療棟に一時的に移転し,本年2月に再オープンした。同時に,歯科系診療科が4診療科(歯科,小児歯科,矯正歯科,口腔外科)へ再編され,総合歯科,むし歯科,クラウンブリッジ補綴科,咬合・義歯補綴科,歯科放射線科,歯科麻酔科,予防歯科が統合し,「歯科」の中の部門として再スタートした。また,口腔外科も両科が協力し合って「口腔外科」として機能するに至っている。この大改革にともない,クラウンブリッジ補綴科という我々の診療科の名称は消滅し,歯科の中に統合された一部門「歯科・口腔インプラント科部門Department of Oral Rehabilitation and Implantology」として再出発をすることになった。また,窪木がセンター長を拝命しているデンタルインプラントセンターは中央の診療科連携部門として存続する。
 一方,歯学部棟の4階から上は,東側と西側に分けて工事をすることになり,2021年3月現在,西側の改修が進んでいる。我々の研究室,インプラント再生補綴学分野は8階の第二期工事区域となっており,今のところ引っ越しはしていない。従って,日中は西側の第一期工事の騒音に耐えながら,暮らさないといけない。この騒音はかなり苦痛で,非常勤講師の先生方に来て頂いても,会話がしづらいレベルにある。これも,集中力を高めるトレーニングと観念しているが,難聴にならないかと心配する程のレベルである。
 さて,今年の大きな出来事と言えば,2020年7月から8月にかけての公益社団法人日本補綴歯科学会 次次期理事長候補者の選挙に立候補したことがあげられる。山下 敦名誉教授,矢谷博文名誉教授,近藤康弘同門会長をはじめ,全国の多くの先生方にご支援を頂き,無事当選することができた。この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。それにしても,選挙は何度経験してもつらい。代議員による直接投票を行う日本補綴歯科学会においては,代議員の先生方1人1人に私がどの様な補綴学会の未来を描いているか,お声がけをして理解を得なければならない。これが一次選挙,二次選挙と二度もあるため2カ月超も続き,全学の科学研究費支援業務をこなしながらの選挙活動は辛かった。理事長を経験されている恩師矢谷博文先生の教えを乞いながら,歯科診療や学術活動のメインプレイヤーとして補綴歯科学会が認知され,できればさらに,歯科を超えて医療分野で光輝く補綴歯科学会となれるよう魅力ある学会運営や専門医制度構築に尽力したい。一番感じているのは,ステイクホルダーである若手会員が学会に何を望んでいるのかを理解し,その願望をバランス良く満たしてあげることだと思う。入会したいという気持ちになって頂けなければ,会員数の減少に歯止めが効かないからである。2022年には日本補綴歯科学会総会・学術大会の大会長を仰せつかっており,その構想の一部を具体化したいと意気込んでいるところである。昔も今も医療の本質は何も変わっていないが,患者の利益を新しい技術や医科歯科連携活動で最大化できるようにしたい。これを今風に翻訳すれば,補綴歯科医学Prosthodontic Medicineが医療の変革の最前線に立てるよう,必要な変革を皆で成し遂げるべく,構成員ならびに自分自身を鼓舞したい。
 もう一つの大きな出来事と言えば,2021年3月8日に,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「令和3年度臨床研究・治験推進研究事業」に,我々の「大腸菌発現系由来rhBMP-2含有β-TCP製人工骨を用いた顎骨再生療法」が採択されたことである。同事業は,我が国の基礎研究の成果を治験などに適切に橋渡しするための非臨床試験や,科学性・倫理性が十分に担保された質の高い臨床研究などを国家予算で推進しようとするものである。今回は,昨年度橋渡し研究戦略的推進プログラム(シーズpreC)の採択により準備が万端に整っているrhBMP-2の医師主導臨床治験の案件を,「医薬品」に関する臨床研究・医師主導治験の推進の枠に申請し,全国3件という狭き門に採択された。本研究の内容をかみ砕いて述べると,我々の体が本来持っているBMP-2という遺伝子を使って,大腸菌に骨を作る力のある薬を代わりに作らせ,それを用いて失われたあごの骨を再生させることを目指す医師主導臨床治験を岡山大学病院で行うというものである。本予算の総額は,3年間で2億円弱と非常に大きなもので,大変光栄ではあるが,多くの予算は,大野 彩先生や黒﨑先生のおられる新医療研究開発センターや外部機関にお願いして本治験のマネージメントをして頂く委託費になる。前臨床研究や知財の取得を中心になってやってくれた大野充昭先生,精緻な臨床研究プロトコルを整えて頂いた大野 彩先生や黒﨑先生,中川先生に加えて,新医療研究開発センターの神川先生,櫻井先生,宇野先生には本当にお世話になった。臨床研究がRegulatory Scienceに大きく変革しつつある状況には驚くばかりであるし,この流れに歯科界が置いて行かれないように情報共有が欠かせないと感じる。
 一方,今回の採択は,補綴歯科治療の定義を拡張する時機にあたると思う。すなわち,補綴歯科治療は永らく,金属,レジン,化学薬品,合成されたもしくは異種動物由来のセラミックス性人工骨や結合組織移植材などを用いて行われて来た。一方,今回この採択を頂いて医師主導臨床治験を行うのは遺伝子組換えタンパク質である。簡単に述べると,バイオテクノロジーで,あごの骨を失い困っておられる方々に補綴専門医が貢献できる時が来たのである。これまで,科学研究費を頂いて,細胞レベル,動物実験レベルの生物学的な研究をかなりやって来たが,なかなか臨床を変革するまでに到達した成果は生まれなかった。やっと患者様に貢献できる研究が生物学的な研究からも生まれたと言えるのではないか。大腸菌発現系由来のリコンビナント蛋白であるため,その値段も十分臨床応用に見合うだろうから,ASEAN諸国からも強い興味を持ってその成り行きが見守られている。
 最後になったが,山下 敦名誉教授のご子息で,朋来会でご講演を頂いたこともある山下潤朗先生が,2021年3月22日,山下 敦先生のお宅のそばで岡山ヒルトップ歯科をご開業になられた。山下潤朗先生は,永らく米国留学の後,ミシガン大学歯学部助教授,福岡歯科大学歯学部教授の経験を経られてのご開業である。朋来会のご講演でも述べられたが,臨床面では口腔インプラント治療,歯周プラスティックサージェリーが,研究面では骨免疫学がご専門である。海外の専門医が行うレベルの歯科治療を国内でも実践できる数少ない歯科医院になるだろう。我々の医局では,コロナ禍でもあり,海外留学,海外赴任する予定であった三野先生,土佐先生,徳本先生などが否応なく足止めされている。コロナ禍が収束し,彼等が滞在する留学先,赴任先で力一杯活躍できる「時機」がなるべく早く訪れんことを心から願っている。その時機はもちろん我々にはわからないが,各自がそれを強く祈り,種を蒔いておけば,たぶん,それは,もう本当にすぐだろう。

2021年3月28日
岡山大学歯学部棟8階
インプラント再生補綴学分野 教授室にて


図1 修士課程の大学院生を1年間岡山大学に預かるシステムであるO-NECUSプログラムで中国から来られたルさんが帰国された時の医局会での写真(2020年9月8日)
 新型コロナウイルス感染症に対する厳戒体制をとっているため,皆が集まって医局として写真を撮ることがほとんどなくなったことが残念である。ルさんは,分子医化学分野の大橋教授,大野准教授にお世話になった。この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。医局には,ミャンマーからのアウンさん,ムンさん,中国からのジャンさん,ベトナムからのロックさん,インドからカヴィタさんがこのタイミングで滞在している。


図2 国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラムで,アインさんとハンさんが来日(2020年11月11日)
 コロナ禍の中,ハイフォン医科薬科大学から,アインさんとハンさんが来日された。国費外国人留学生であることもあり,日本国政府が特別にビザを発給し,10月入学のはずであったが,やや遅れて入国,その後,成田で抗原検査を受け陰性が証明された後も,成田近隣のホテルで2週間待機しないと公共交通機関を使用することが許されなかった。岡山へ移動後も4日後にPCR検査を受け陰性の結果が出ないと鹿田キャンパスに入構することさえできないため,津島キャンパスの宿舎で再び待機していただき入国してから20日目に晴れてお会いすることができた。ハイフォン医科薬科大学の希望で,大橋教授,大野准教授のラボにお世話になることとなった。左端のミさんもハイフォン医科薬科大学の出身であり,学位論文の内容で,IADR2020のPre-Prosthetic Regenerative Scientific Award1位を受賞された。本当にお目出度たい。


図3 歯学部棟改修に入る(撮影2021年3月23日)
 覆いが付けられている壁面の隣の窓が窪木の教授室である(上から三つ目)。このマスクされている部分を上階から順に,RI実験室やトイレを破砕し,全ての天井と壁面を除去している途中である。そのため,すぐそばの部屋にいる窪木は,騒音と戦うことになった。開学後40年の時を経たが,本全面改修により,美しい姿で,蘇ることを期待したい。


図4 歯科系診療科等改編について(2021年3月1日付け)
 長年,慣れ親しんだクラウンブリッジ補綴科という名称を変更する時が来た。ややさみしい気持ちもするが,コアカリキュラムの改訂に伴い,全国に口腔インプラント科ができている現状を考えると,これも仕方ないものと思われる。英語のタイトルが,Department of Oral Rehabilitation and Implantologyであるように,広義の口腔リハビリテーションを行う診療科にインプラント治療のエキスパートを加えるという医局概念と理解している。歯科の科長として任命されたが,この多数の分野を束ねるのは並大抵ではない。これまで診療科であった各部門の独自性を損なわないように,対応したい。


教授就任16年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



教授就任16年目を振り返る
朋来会顧問 窪木拓男

 先日,令和2年1月25日に,岡山県の委託事業である口腔栄養関連サービスに関するワークショップを開催するために新見に伺った.本事業の名称は,「死生学とアドバンスケアプランニングを取り入れた要介護高齢者の尊厳を最期まで守る多職種連携口腔栄養関連サービス推進事業」であり,日本歯科大学の菊谷教室の多大なるご支援を頂戴して開催しているものである.幸い,来年度も岡山県から継続支援を頂くことが決まっている.岡山には,津山・英田保健医療圏,真庭保健医療圏,高梁・新見保健医療圏,県南西部保健医療圏,県南東部保健医療圏の5つの医療圏があり,新見に伺うことができれば,全部の医療圏を踏破することになるためである.新見では,大変きれいな新見文化交流館を使わせて頂き感激したが,その前に,新見までの道すがら,備中高梁にありこれまで訪ねたことがなかった備中松山城に医局員や短期留学生らとともに伺うことができた.恥ずかしながら,私は岡山県井原市の出身でありながら,縁がなかったためこれまで一度も伺ったことがなかったのである.備中松山城は日本三大山城にも数えられ、特に秋には雲海に浮かぶ幻想的なその姿から「天空の城」と呼ばれ親しまれている.体重の増加に苦しんでいるためか,この天空に登る道すがら息が切れて大変であったが,無事天守閣にお邪魔し,多くの歴史的展示物に触れることができた.
 中でも,備中松山城を拠点に活躍した山田方谷の展示には引きつけられた.ご存じのとおり山田方谷(1805年〜1877年)は江戸時代末期から明治時代初期の儒学者,備中松山藩士である.彼は,学者として藩に仕えていたが,藩主板倉勝静のもとで藩政改革を断行し,借金300億円を抱え財政破綻寸前の備中松山藩を,わずか7年で300億円の蓄財に変えたと言われている(高梁市観光協会ホームページより).藩の財産は石高や領地ではなく,人材であるということにいち早く気が付き,封建社会の中にあって一介の儒学者から政治を司る立場にまで上り詰めた.その根底には,「至誠惻怛(しせいそくだつ)」の哲学が流れていたという.まごころ(至誠)といたみ悲しむ心(惻怛)があれば,やさしくなれる.そして,目上には誠を尽くし,目下には慈しみをもって接し,この様な心の持ち方をすれば物事をうまく運ぶことができると方谷は説いている.方谷にはまず「領民(国民)を富ませることが国を富ませ,活力を産む」という哲学があった.その哲学を支える理念としては「事の外に立ちて事の内に屈せず」と「義を明らかにして利を計らず」であった.「事の外に立つ」とは大局的な立場に立つことであり,「事の内に屈する」とはある事柄だけにとらわれてしまい視野が狭くなることを意味する.「義を明らかにして利を計らず」とは人として歩むべき正しい道(義)を明らかにすることが大切で,自分自身の利益(利)のみを求めるべきではないという意味である(野島ら.致知出版社,2017).誰もがこの言葉は聞いたことがあろうが,ひんやりとした空気に包まれたその場に立って,方谷の考え方に吸い寄せられるように共鳴できた.我々は,毎日の諸事に疲れ果て,志しを忘れがちである.今一度,世界に向けて打って立つという我々の分野の志しを思い起こしたい.今,歯科界は人口減少と少子高齢化社会に立ち向かうべく,大きな変革を余儀なくされている.この難局において,社会のためになる利益を生み出せる価値(能力)が我々自身にあるかどうかを自問したい.国,大学,学部,医局を富ませ,支えるだけの力がなければ,その存在そのものがお荷物でしかないと自覚せねばならない.そのためには,回り道でも「事の外に立ちて事の内に屈せず」,「義を明らかにして利を計らず」の精神で,地に足をつけて前進しなくてはならない.
 さて,今年はどんな一年だっただろうか.主なものだけ振り返ってみたい.今年は,文科省とAMEDに一度ずつヒアリングに伺った.文科省の方は令和元年10月30日にあり,2019年度国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラム「ASEAN有力医療系大学と連携する口腔器官再生・再建・統合生物学大学院特別コース」の採択に結びついた.本申請は3度目に当たり,苦労がやっと実ったのである.一度目は,ベトナム北部有力医療系大学を対象とした申請書を書いたが,対象国が狭すぎると不採択になった.そこで,次年度はASEAN有力医療系大学を対象に書いたが不採択,多様な人材確保について十分でないというご意見を頂いた.そこで,昨年度から大野充昭先生が中心になって設立した研究コア「口腔器官の再構築から器官の発生・再生の統一原理を解明する統合生物学研究拠点」を利用し,医歯薬学総合研究科として学際的な国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラムを創ると言う計画を申請,学内トップ推薦を頂き,無事文科省で採択された.今年から,4名ずつ3年間特別枠の大学院生を獲得できることになった.「石の上にも3年」という諺があるが,辛抱も成功への重要な要素であると悟ったところである.
 もう一つは,AMEDの橋渡し研究戦略的推進プログラム「大腸菌発現系由来rhBMP-2含有β-TCP製人口骨を用いた顎骨再生療法(シーズpreC)」のヒアリングである.その日は,奇しくも自分の誕生日である令和2年2月17日であった.ご存じの先生も多いと思うが,藤澤拓生先生が留学しておられたユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク(通称ヴュルツブルク大学)と我々岡山大学,さらにはオステオファーマ社の共同研究で出来上がって来た大腸菌発現系由来rhBMP-2を用いた骨再生誘導材料の開発に関するものである.これも,私が教授になってから苦節15年以上研究して来た案件であるが,城地社長率いるOsteopharma社がついに台湾のBioGend社に製造方法をライセンスアウトすることに成功,令和元年11月にGMP基準での治験薬の製造にこぎ着けたのである(図1).その機と相前後して,新医療研究開発センターの神川先生,櫻井先生,大野 彩先生の支援の基,中川助教がAMEDの革新的医療シーズ実用化研究事業「臨床研究中核病院の機能を活用した若手研究者によるプロトコール作成研究」に採択され,ついにこの度,本橋渡し研究戦略的推進プログラム(シーズpreC)に採択されたのである.歯科では,大阪大学の歯周組織再生誘導薬rhFGF-2が保険導入されたのに続く創薬開発案件である.まだまだ,医師主導治験を実施するための経費の獲得,企業導出など解決すべき課題は多々あるが,私自身がこれほどまでに骨が再生される薬剤に出会ったことがないことから,絶大なる信頼をこの薬剤に寄せており,ついにFirst In Human (FIH)試験を岡山大学で行うことができるタイミングが迫ったと喜んでいる.
 継続事業としては,岡山大学の国際異分野共同事業のプロジェクト発展支援経費で「英語版国際臨床研究デザインワークショップの共同運用を核としたミャンマー有名医療系大学との連携大学院構想」を採択頂き,令和2年2月25日,26日に国際臨床研究デザインワークショップを実施した.ミャンマーはAungさんの故郷でもあり,大変歓待して頂き有り難かった.第1回目がベトナムのハイフォン医科薬科大学,第2回目がベトナムのハノイ医科大学,第3回目がこのヤンゴン歯科大学での開催であった(図10).ASEAN諸国の研究プラットフォームは十分充実しておらず,新しい医療プロダクトを自分で産み出して,自分たちで臨床研究を行い,上市していくというレギュラトリーサイエンスのプロセスはまだまだ機能していない.ある意味,日本の臨床研究プラットフォームを国際標準にする良い機会なのである.一方,これらの国々は,ちょうど大学院博士課程の学位取得基準の策定に奔走しており,インパクトファクター付き英文国際誌での発表を学位取得要件にしようとしている.すなわち,このタイミングはASEAN諸国の歯学系研究組織の臨床研究力を高めるために臨床研究計画法を学習する好機であり,我々のワークショップは大学院教員に必要とされるその能力を具体的に提供するため非常に人気があった.
 人事面では,大野充昭先生が岡山大学大学院医歯薬学総合研究科分子医科学分野の准教授,内部健太先生が広島大学医系科学研究科顎顔面解剖学分野の准教授,大野(旧姓木村)彩先生が岡山大学病院新医療研究開発センターの講師に昇任された.これらの人事は,彼等の能力を買って頂いた大橋教授や寺山教授,四方教授の暖かいご支援の賜であることを強調しておきたいが,それにしても,医局の先生方が医局外でその力を認められたことは私の法外の歓びである.来年はより多くの先生方が昇任されることを心から願っている.そのために重要なポイントは,自分の興味がある誰にも負けない専門分野を各自が持つこと,その専門分野で後輩の教員や大学院生の力を借りてプログレスを続けることである.プログレスを継続的に実現できれば,その研究者に生み出す能力がある証左となるし,続けてきた研究内容にはやる価値があるということが間接的に示される.できれば,自分の興味ある分野が,歯科だけでなくサイエンスの地平線を押し上げる様な壮大な研究テーマを選んで欲しい.そうすれば,科学研究費補助金の合議審査がなされる様な種目,すなわち,基盤A,基盤S,挑戦的研究などに申請しても多方面の研究者に感銘を与えることができる.
 令和2年度は,日本人の大学院生が4名入局予定である.また,文科省の国費外国人留学生や私費外国人留学生が多数入局予定である.これらの人財をどのように活かして,わくわくさせることができるか,我々の分野が試される.デンタルインプラントセンターの活用も待ったなしである.皆でもう一度原点に戻ろう.世界一,日本一の成果を,教育,研究,臨床の各面で今一度,トライしよう.我々の医局に残ってくれた教員,医員,大学院生,留学生が適所で光輝く新たな5年間を皆で目標としませんか.

令和2年3月13日 インプラント再生補綴学分野 教授室にて


図1 Osteopharma社城地社長と我々の研究チーム(窪木,大野)で,大腸菌由来rhBMP-2のGMP基準での治験薬製造を委託したBioGend社との打ち合わせを台湾で行った(平成31年3月20日).皆,有能で若い.ボッとしていると,日本は負けてしまう.代表は,陳医師(左から2人目)である.このBioGendという会社は,軟骨障害の治療法の開発を行って来た企業でもあり,方向性にも力強さを感じる.薬学出身者やARO機能に長けた者が集まっており,組織が学際性に富んでいる.


図2 草津研究のお手伝いのために草津温泉に歯科検診に伺った(令和元年7月1日).矢谷先生が理事長をされておられた時から,草津にっこり検診受診者を対象として,東京都健康長寿医療センターと日本補綴歯科学会が共同で進めてきた全身の健康状態と口腔環境に関する研究結果が,Geriatrics & Gerontology International (GGI)にアクセプトされた(Maekawa et al. Number of functional teeth more strongly predicts all-cause mortality than number of present teeth in Japanese older adults. GGI in press).地域在住高齢者の生命予後において,現在歯数よりも機能歯数の方がより大きな影響があるという内容で,日々の補綴臨床が患者様の命に貢献しているのだと気付かされる貴重な成果である.論文がアクセプトされ,御世話になった皆さんに少しでも貢献できただろうか.歯科の研究グループはアクティブで楽しい.玉置副委員長には,本件で大変御世話になった.夜ご一緒した居酒屋は忘れられない.


図3 日本補綴歯科学会 中国四国支部総会・学術大会が福山であり,皆木大会長のご発案で鞆の浦で懇親会が開かれた(令和元年8月31日).屋外のテラスで,焼き肉を食べられたのが良かったが,贅沢を言うともう少し量を食べたかった(とてもおいしかったのである).そういえば,忙しさにかまけて医局旅行には久しく行けていない.また,我々の医局旅行ででも伺いたいすばらしい場所だった.


図4 日本歯科基礎医学会が東京歯科大学主幹で開催され,UCLAのWeintraub Centerの西村教授が来日された(令和元年10月14日).丁度,ODAPUS制度で岡山大学の学生がお世話になっていることもあり,西村先生を囲む会に同席させて頂き御礼を申し上げた.西村先生からUCLAのお話しを久しぶりにお聞きし,各分野の教授に学内ベンチャーを企業するように推奨されている点などやっぱりまだまだ前を走っている様に感じた.それにしても,西村先生のお話にはいつも物語と迫力がある.


図5 鹿児島大学歯学部の西村教授のご発案で未分化間葉系幹細胞に関するセミナーが開催され,大野先生,秋山先生,土佐先生と伺った(令和元年10月27日).発表内容についても,大変刺激を受けたが,その翌日の夜に伺った,バブル世代のディスコを再現した飲み屋(ソウルマスターズカフェ)には魅了された.中囿先生親子(親指でポーズをとっている方々),鹿児島大学歯学部 生化学分野 松口教授(右端)には本当に楽しい時間をご一緒させて頂き感謝している.


図6 The 8th Haiphong International Dental Conferenceに参加させて頂き,講演を行い,歯学部の教員と記念撮影した(令和元年11月8日).客員教授になってから,毎年伺っているが,経済発展が著しくどんどん町が開発され,活気に満ちている.大学病院の新営を行うとのことで,楽しみにしている.今回は,三野先生に手伝ってもらって,デジタルに関する演題(Digital transfer of subgingival contour and emergence profile of the provisional restoration to the final restoration)を講演した.


図7 ハイフォン医科薬科大学40周年,歯学部開講10周年記念祝賀会に参加の後,医歯薬学総合研究科学務委員長を務められている分子医科学分野大橋教授とともに,大学間交流協定の締結にハノイ医科大学に伺った(令和元年11月19日).ハノイ医科大学歯学部と岡山大学歯学部はすでに部局間交流協定を締結していたが,ハノイ医科大学サイドから岡山大学大学院医歯薬学総合研究科医学系に交流を拡大したいという意向表明がなされたためである.無事締結作業が終了した後,歯学部の先生達と,ニンビンの景勝地に伺った.船で通り抜けられる鍾乳洞で,大変風光明媚な場所だった.ヤギ肉が名物とのことで,昼食に美味しく頂いた.


図8 ハノイ医科大学歯学部は開学80周年ということで,International Odonto-stomatology Science and Training Conference 2019が開催され,客員教授にならせて頂いていることもあり講演を行った(令和元年12月5日).その後のレセプションパーティでは,岡山大学歯学部の浅海淳一学部長,新潟大学歯学部の前田健康学部長,愛知学院大学歯学部口腔病理学分野の前田初彦教授とご一緒した.この後,愛知学院の前田先生と浅海先生はコブラを食べに行かれたそうで,帰りのバスではその話で非常に盛り上がった.


図9 第4回岡山医療教育研究国際シンポジウムが開催され,多数の外国人関係者を招聘した(令和元年12月13日).この写真は,ベトナムからの来訪者が到着された直後にご一緒した国際ホテルでの昼食風景で,左から,ハノイ医科大学ソン歯学部長,ハイフォン医科薬科大学フン歯学部長,ハ先生,アイン先生,ハイ先生である.この他にも,オランダのACTAのAlbert Feilzer前歯学部長,米国UCLA歯学部のIgor Spigelman副学部長さん夫妻など,多数の来賓を迎え,盛大に実施された.第1回から第3回までを担当したものとしては,この流れが継承され大変光栄に感じた.


図10 ミャンマーのヤンゴン歯科大学において,国際臨床研究デザインワークショップが開催され,医局員やエミリオ先生とともにお邪魔した(令和2年2月26日).この国際臨床研究デザインワークショップは,我々が毎年岡山大学で実施している臨床研究デザインワークショップの英語版である.飛行機が出発した日本は真冬であるが,到着したヤンゴンは半袖で丁度良い感じである.第1回目がハイフォン医科薬科大学,第2回目がハノイ医科大学,第3回目がヤンゴン歯科大学と,ASEAN諸国を渡り歩いている.医局のみんなにもっと参加して欲しいのだが,なかなか都合がつかないのか,参加者が増えない.さて,来年は,どこに行くことになるだろうか.




教授就任15年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



教授就任15年目を振り返る
朋来会顧問 窪木拓男

教授に登庸して頂いてからもう15年が経過した。これまでに何ができただろうか。また,これから何ができるだろうか。自問自答の日々である。先日,ソウル大学副歯学部長のヤン先生が岡山に来られて旧交を温めた際に,岡山市内のある居酒屋にある張り紙を見つけ,調べてみた。武田信玄という戦国武将の言葉らしい。実際には,以下の正範語録という一節の中段の部分だけが,居酒屋の主人により張り出されていて,全ては物事に取り組む姿勢次第であるということを従業員に伝えるためのものと思われた。居酒屋が繁盛するのも,医局が繁栄するのも根本はこの辺にあり,各々の構成員がどれだけ真剣に,責任感を持って取り組むかにかかっている。まずは,自分自身がこのような姿勢で取り組んで来たかを自問しながら,本年を振り返ってみたい。

正範語録

実力の差は努力の差
実績の差は責任感の差
人格の差は苦労の差
判断力の差は情報の差

真剣だと知恵が出る
中途半端だと愚痴が出る
いい加減だと言い訳(ばかり)が出る

本気でする大抵のことはできる
本気でするから何でも面白い
本気でしているから誰かが助けてくれる

この数年科研申請WG座長として活動してきたが,岡山大学に研究推進委員会が設置され,正式に科学研究費補助事業部会として活動することとなった。この数年間低迷を続けていた岡山大学の科研採択件数が,有り難いことに全国13位タイとなり,ランクアップを達成できたことは嬉しい。一方で,科研採択総額においては,16位と未だに振るわない状況が続いており,今年度はこのランキングを何とか件数なみに上昇させることが目標である。各部局は人員削減に直面しており,並大抵の努力ではこれを達成することは難しいが,他大学も状況は同じであろうから頑張るしかない。少なくとも,文科省が発表する中区分別採択件数上位10機関のリストに,なるべくたくさんの岡山大学の部局をランクインさせることが目標になろう。ちなみに「口腔科学およびその関連分野」のランキングは,同数1位が東北大学と大阪大学,3位が東京医科歯科大学,4位が九州大学,5位が岡山大学となっており,激戦である。学外では,日本補綴歯科学会の研究企画推進委員長,日本口腔インプラント学会の研究企画委員長,さらに日本歯科医学会連合の大型研究推進委員会委員,日本歯科医学会の歯科診療ガイドラインライブラリー協議会ライブラリー収載部会委員,日本学術会議連携会員等に任命されており,それぞれが大きなエフォートを要する重要な仕事を頂いており,気が抜けない。

その様な中,国際交流は大学の評判reputationにも大きな影響があり,引き続き力を入れざるを得ない状況である。平成30年5月には,オランダのACTAにお邪魔して,歯学部生の国際相互交流(ODAPUS)事業の協定校になっていただく様お願いした。できれば,今年の岡山大学歯学部が主催する国際シンポジウムでMOUを締結できないかと考えている。フランスでは,西ブルターニュ大学に加えて,ストラスブール大学,ソルボンヌ大学等がODAPUSの派遣先に加わりつつある。引き続いて,UCLA,シンガポール大学,ソウル大学,ハノイ医科大学,ハイフォン医科薬科大学,フィニステラエ大学,香港大学,オタゴ大学等と歯学部生の国際相互交流を実施している。この事務作業のために前田助教には大変な負担がかかっているが,人と人を結ぶ仕事には代役を立てにくく申し訳なく思っている。また,大学院レベルでは,ハノイ医科大学から通称ハさんを,ハイフォン医科大学から通称ミさんを,ミャンマーのヤンゴン歯科医学大学から通称アウンさんを受け入れているが,ハさんは今年度無事学位取得の上で修了となった。できれば,優秀な海外の大学院生をさらに獲得したいところである。もちろん,教員やポスドクの国際交流も引き続き行っており,NIHに小盛先生をポスドクとして派遣したばかりである。また,今年の春の連休には秋山講師をフランス・ストラスブール大学に短期派遣することが決まっている。また,シンガポール・JGHデンタルクリニックには縄稚先生と笈田先生を,中国・上海グリーンクリニックには植田先生を派遣している。

平成30年7月には,アメリカからクラーク夫妻が来日され,岡山大学でご講演を頂くとともに,拙宅にお越しいただき医局のみんなと食事を共にした。ご夫妻共にお元気で,相変わらず暇さえあれば論文を書いているという状況だった。クラーク教授は人工知能を利用した口腔顔面痛の診断と治療戦略,マリガン教授は高齢者医療における多職種連携教育というアップデートな内容で,すばらしかった。もともと,九州歯科大学の鱒見教授が日本顎関節学会にクラーク教授をお呼びになったのがきっかけで岡山に下車していただき,この様な貴重な講演を頂けたわけだが,その後はご存じの様に豪雨が西日本を襲い,どうやって岡山から小倉まで移動していただくか,悩みに悩んだ。というのも,新幹線も在来線も完全にダウンしており,高速道路も寸断されてしまったからである。もしも,特別講演にクラーク先生が間に合わない様なことがあってはならないとの判断から,水口先生がレンターカーを準備してくれたため,4人で下道を行くことにした。道路が土砂で寸断されており,通行止めになっているため,何度も行き着けないと諦めかけたが,広島までの2号線を,迂回路を上下(上は広島空港,下は呉近くまで)しながら,14時間程かけて小倉についた。本豪雨の被害は,晴れの国岡山が決して災害と無関係ではないことを示しただけでなく,真備地区では多数の方が犠牲になられ,現時点でも仮設住宅でご不自由をされておられることを自分たちのこととして捉える機会にもなった。考えて見ると,今後30年以内の南海トラフ地震の発生確率は80%とも言われているのである。

平成30年8月5日には,認知症と口腔機能研究会の設立準備会を岡山大学東京オフィスで開催した。北海道医療大学名誉教授・客員教授の平井敏博先生と大阪大学招聘教授,ソウル大学招聘教授の姜 英男先生にお誘いを受けたためである。本会は基礎医学と臨床歯科医学の密接な融合により,口腔機能の障害や低下が認知症の危険因子となりうる神経・細胞基盤を明らかにするとともに,口腔機能の維持やその障害の回復が認知症の予防や改善につながる可能性を明らかにして,社会に貢献することを目的とする。設立準備会では,理化学研究所の西道隆臣チームリーダー,代表世話人の姜 英男教授,世話人の山本龍生教授にお話しを頂いた。第1回学術集会が平成31年年8月3日,4日に東京医科歯科大学歯学部4F特別講堂で開催されることが決まっている。縄稚助教のご尽力でホームページ(https://www.jrsdof.com)も開設されたので,ご興味のある方は会員登録をお願いしたい。平成31年3月21日にも,大手製薬企業「バイオジェン」と「エーザイ」が,開発中のアルツハイマー病治療薬「アジュカヌマブ」の臨床試験を中止すると発表し,アミロイド仮説が本当にアルツハイマー病の最上流の機序かどうかに疑念が持たれるようになりつつある。改めて,基礎研究と臨床研究の両面からその発症機序の探索に挑み,その対応方法を示すことにより,これからの歯科を支える領域の一つに発展させたい。

平成30年9月には,久しぶりにロサンゼルスに伺って,南カリフォルニア大学(USC)のCAD/CAMデンチャーの専門家であるキム先生やDENTCA社の前川社長にお会いした。また,現在NIHに留学しているHai先生に会うことできた上,元モリタロサンゼルス支社の宮田さんやイタリア人の友達と会い,旧交を温めることができた。高度に重合したレジンブロックをCAD/CAMシステムで削り出した総義歯の臨床評価を岡山大学病院で行わせて頂いた経緯から,我々の医局とDENTCA社,三井化学は協力関係にある。その経緯から,3Dプリンターを利用した総義歯作製システムをご紹介頂いたのである。本件の可能性をよく理解しておられる方であれば,山下先生が提唱されておられるあのマイオデンチャーの印象(三次元的なアンダーカットに富んだ形態)をCAD/CAMシステムでやってはと夢想されるだろう。できれば,この様な交流を深めるために,ロサンゼルスにも一人ぐらい留学生を送ることができればと思っている。

平成30年10月には,岡山大学病院にデンタルインプラントセンターが開設され,窪木が初代のセンター長となった。口腔インプラント治療目的で来院された全ての新患患者の受付を,我々の医局の外来であるクラウンブリッジ補綴科が担うことになり,ますます口腔インプラントの責任診療科としての役割が増している。そのためには,安全で高度な口腔インプラント治療を提供するための教育システムの構築が急務である。このため,荒川先生や園山先生,小田先生に大変な御世話を頂いている岡山大学病院口腔インプラント講習会の役割が重要になる。広告開示が間近になって来た口腔インプラント専門医の動向に注意を頂くとともに,同門の先生方の臨床活動に不利益が及ばない様,口腔インプラント学会へ入会頂いた後,医局の研修登録医になっていただき,ぜひこの勉強会(http://www.okayama-u.ac.jp/user/implant_institute/)にご出席頂きたい。特に,先日の国民生活センターの口腔インプラント治療に関する報道には心が痛んだ。口腔インプラント学会から「国民生活センター報道に関する声明」が出されているので(http://www.shika-implant.org/osirase/201903_hodo_01.html),ご一読いただきたい。また,この件に関しては,文春オンラインに記事が載っているので合わせてご高覧を頂きたい(https://bunshun.jp/articles/-/11136)。

平成30年11月には,神戸で,前田照田大会長のもと口腔リハビリテーション学会が開催され,山下 敦先生がご講演をされた。いつもながらにエネルギッシュなご講演で本当に圧倒されるばかりである。補綴に所属しているからこそ,補綴治療の永続性を担保するために,ホストパラサイト相互作用を研究テーマにすべきであるし,その成果を治療に応用すべしという先生の教えは,我々の分野の根本に根ざしている。もっともっと積極的に,口腔内細菌叢やホストの免疫力に関する研究を行う必要があると感じている。

平成30年12月には,昨年のハイフォン医科薬科大学に続いて,ハノイ医科大学に伺って,ベトナム第二回目となる国際臨床研究デザインワークショップを開催した。今回は,医学部の疫学研究分野から大変優秀な同時通訳(英語⇔ベトナム語)を得て,非常に内容の濃いワークショップになった様に思う。岡山大学から国際社会人Dr展開P支援経費(発展)の経費を頂き,窪木同様,ハノイ医科大学の名誉教授になられている生体材料学の松本卓也教授にご同行頂き,大変楽しい旅行となった。特に,ハノイ医科大学の現学長が,ノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学の本庶佑教授の一番弟子であられたのも幸いして,医学部のがん免疫の研究施設も見学させて頂き,大変勉強になった。本庶先生は大変厳しい先生として有名であるが,本庶先生の教授室のドアには,今機嫌が良いかどうかをご自身が3段階でお示しになっておられたという逸話もお教え頂いた。窪木の教授室のドアにもこの様な表示が必要かもしれない。

最近は,臨床家の先生方の中にも研究に興味を持って頂ける先生方が多数現れてきた様に思う。平成31年2月には,OJ(Osseointegration Study Group of Japan)という日本のスタディーグループを束ねた会で話をさせて頂く機会を得た。会長の石川知宏先生は,我々の勉強会の研修登録医になっていただいている有名な方で,荒川臨床准教授がサポートされる臨床研究や,人口の高齢化に伴い生じている口腔インプラントに関連したトラブルに関しても興味を持って頂いている。口腔インプラントを患者様の口腔内に施す歯科医師は,最期まで患者様の人生の中で口腔インプラントが害にならない様に力を注ぐ必要がある。この様な口腔インプラントの専門家でありながら前向きに在宅・介護医療を勉強しようとされる先生方に出会えたことは窪木にとっても幸せである。また,岡山県の委託事業である口腔栄養関連サービスに関わるワークショップも今年度2度開催させていただいた。この様な観点から,ぜひ,同門の先生方にこの口腔栄養関連サービスの勉強会にご出席いただければと考えている。確実に新しい世界がそこには広がっていると感じられると思う。

また,平成31年2月16日,17日(窪木の誕生日だった)には,5年間の事業支援期間を満了しつつある文部科学省の課題解決型高度医療人材養成プログラム「健康長寿社会を担う歯科医学教育改革」の連携総括シンポジウムを300名もの聴衆を得て盛会裡に開催することができた。本事業においては,全国11連携大学,4つの協力施設の先生方が5年間もの長きにわたってご協力頂いたという巨大プロジェクトであった。本事業は,これからも,連携シンポジウムの開催や共同授業の運用といった形で継続されることが事業推進委員会で決定されたところである。今後ますます,歯科の役割が増すと思われる高齢者医療において本当の意味で役に立てる歯科医師の養成を目標として活動したいと考えている。それにしても,超急性期医療における医療支援・周術期管理実習や在宅介護・訪問歯科診療参加型臨床実習が,ほぼ全ての連携大学歯学部で開講にこぎ着けたことは,教育と研究こそが大学の本分であると各大学が再認識していただいた結果である。この場を借りて,厚く御礼を申し上げたい。

この様な多忙な毎日であるが,大学院生達とともに火曜日,水曜日,木曜日,金曜日の午前中,患者様の診察をしている。臨床能力は,知識,技術,態度がある程度のレベルに達して初めて,応用力を身に付けられるのだろう。自分が山下先生や矢谷先生にどれだけたくさんのことをその当時教えて頂いたのかを毎日再認識し,今更ながらに強い感謝の念を覚えている。窪木の時間がもっとあれば,大学院生達にもっといろいろと教えてあげられるのにと弱音を吐くこともある.いかんせん限られた時間と限られた窪木の能力の中,修復治療,歯周治療や根管治療の基礎,口腔インプラント治療,ブリッジ,可撤性床義歯補綴治療,補綴治療が前提の歯列矯正治療,顎関節症・口腔顔面痛,睡眠時無呼吸症候群など,どれもこれも厖大な知識と技術を駆使する必要があり,その教育のハードルの高さに打ちひしがれそうになる。ただ,真に国民のためになる臨床家や研究者を根気強く育てることが窪木の最も重要なミッションであることは間違いなく,愚痴や言い訳を言わず,この責任を深く心に刻んで毎日を送りたい。そのために,真剣に「知恵」を出したいと思っている。

平成31年3月25日

PS.本原稿の脱稿までに時間がかかり,担当者にはご迷惑をおかけした。お許し頂きたい。


図1 ベトナムのミさんのご両親が岡山に来られたので,ベトナムで御世話になったことのある有志仲間でお寿司を食べに行った(平成30年4月13日)。


図2 恒例の滝川先生宅での連休パーティー(平成30年4月29日)。槇野学長,武田URA,古川研究交流課長,歯学部先端領域研究センター長の滝川先生,システム生理学の成瀬教授,口腔形態学の岡村教授,池亀准教授,岡山大学理学部附属牛窓臨界実験所の坂本教授らと。



図3 アムステルダムの有名歯科大学であるACTAに,Feilzer歯学部長とがんの緩和医療で有名なJudith先生を尋ねた(平成30年5月2日)。写真は歯学部附属病院のエントランスで,大変近代的な大学病院であった。


図4 アムステルダムは水の都である(平成30年5月3日)。
Judith先生と美しい路地を歩き, 欧州の美を堪能した。


図5 オランダには,岡山大学の欧州オフィスがある。ライデンにあるシーボルトハウスにそのオフィスはあり,担当者と写真を撮らせて頂いた(平成30年5月4日)。その当時から,日本文化がシーボルトにより渡来しており,ライデン大学には日本語学科が今でもあることに驚く。


図6 クラーク先生をお迎えしてウエルカムパーティを開いた(平成30年7月6日)。また,ロサンゼルスに行きたいねえ。


図7 岡山の豪雨は一生忘れられない思い出になった(平成30年7月7日)。
左上は,真備町付近の浸水状況,左下は尾道から広島空港に登るしかない状況になった時の逆走中の風景,右は,広島にたどり着くために,呉近くまで下った時の峠を越える状況。至る所で崖崩れが起こっていた。


図8 USC歯学部に久しぶりに伺った(平成30年8月30日)。
あいにく,クラーク先生達は,サバティカルで北欧に滞在中でお会いすることはできなかった。カリフォルニアの空はいつも裏切らない。


図9 ロサンゼルスのトーランスにあるDENTCA社に伺った(平成30年8月30日)。現在は,総義歯をブロックから削り出すタイプと3Dプリンターで打ち出すタイプがある。後者の方が値段は安く,コピーデンチャーがすぐにできるのはすばらしい。


図10 ベトナムのハ先生の論文がJBMRにアクセプトされた時のお祝い会(平成30年9月14日)。口腔インプラント学会の際に,タイミング良く良い知らせが舞い込んできた。ビルのペントハウスのベトナム料理のレンストランが良い感じだったねえ。


図11 口腔リハビリテーション学会での山下敦先生のご講演後の写真(平成30年11月11日)。この日は,なんと山下先生の誕生日だったのですよ。


小崎先生 天国でもお元気にされていますか
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



 小崎先生が歯科薬理学分野の主任教授としてお越しになられた時期は,私が歯学部長をさせて頂いていた時期でもある.教授選では大変優秀な方が多数応募され,その中でもがんのsiRNAの研究で非常に優れた研究成果を発表され,飛ぶ鳥を落とす勢いがあった小崎先生を我々は選ばせて頂いた.特に,癌特異的DNAメチル化異常により発現抑制される癌抑制遺伝子型miRNAの重要性を世界に先駆けて報告した論文(Kozaki K. et al., Cancer Research, 2008)の被引用回数は約8年間で300を越え,一連の研究成果による英文論文は計11編,Impact Factorは計67.689,被引用数は823に上る。さらに,本研究成果は,「癌の検出方法および癌抑制剤」として日本,米国,ヨーロッパで特許を取得し,癌抑制遺伝子型miRNAの合成二本鎖RNAによるmiRNA補充療法や癌EMT制御薬開発への有効性を報告する等,癌研究領域におけるmiRNA研究の発展に貢献されていた。これまでに11 種類の癌抑制遺伝子型miRNAと1種類のEMT (上皮間葉転換)抑制性miRNA,1種類のEMT誘導性miRNA,ならびに各miRNAの標的遺伝子として計25 遺伝子を新規に同定されたという生粋の科学者である.岡山大学病院は,臨床研究中核病院整備事業や革新的医療技術創出拠点整備事業の採択を得て,「バイオバンク構想」を温めていた.小崎先生は,医科歯科大学時代にバイオバンク事業を立ち上げられた経験をお持ちで,我々歯学系としても,医歯薬学総合研究科の向かう方向性に合致したすばらしい人材を得たと自負していたのである.
 小崎先生は,この様にすばらしい科学者であられたのだが,本当に自分に厳しく,周囲には心底やさしい方であった.あるとき,病室に伺った時,私どものホームページをお読み頂き,「志し(こころざし)」という文章に感銘を受けたとお話し頂いた.その時にお話しした内容は,上には上があるのが世間の常であるが,努力しても上があると気がついて初めて偽りのない謙虚さを身につけることができるというものであった.毎日,100%の力を出し切っているものは,いつか120%の力を身につけることができる.しかし,自分は100%以上の力があるのだけれども,今はいろいろな制約でできないでいるのだと思ってしまう人は,今の自分の100%の力よりも優れた力が発揮できるようにはならないと述べられ,精一杯努力をし続けることの大切さを強調された.小崎先生の,目標高く,精一杯努力を積み重ねるという志しは今後の歯科薬理学分野だけでなく,岡山大学歯学部にも引き継がれるものと思う.幸い,小崎先生のご子息は私の愚息と同級生であり,今後両名が刺激しあって小崎先生の教えを継承してくれればと思っている.ただ一つ心残りであるのは,私も小崎先生もお酒が好きで,飲み道楽である.小崎先生と一緒にサイエンスを肴に,いろいろなことを話し合えたら良かったなあと思っている.小崎先生.天国でもお酒を飲まれていますか,天国からみんなを見守ってやって下さい.


教授就任14年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男


教授就任14年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野 窪木拓男

本年度から槇野博史病院長が岡山大学学長となられた.大学執行部も大幅な刷新が行われ,窪木も執行部の一員としての任が解かれることになった.ややさみしい気持ちもあるが,まだまだ,医局員とともに一診療科の教授として教育・研究・臨床に取り組みたいという気持ちもあり,再度現場の最前線で岡山大学を支えるための切り込み隊長としてがんばるつもりである.本部との縁が全く切れるかとも思ったが,夏前から再び科研WGの座長をせよとの命を竹内研究担当理事から仰せつかり,科研の申請に向けて,各部局の担当者らにヒアリングを行った.各部局において科研採択に向けての意気込みが異なることが難しいが,少しでも各部局の動議付けに成功し,岡山大学のランクアップのお役に立てればと思っている.

さて,永らく学部や本部の仕事に集中して来たためか,医局機能の低下にあまり目が向いて来なかったことに私自身が反省しなければならない.また,教授になって14年目にもなり,日本一,世界一を目指すという自分自身や医局員の「志し」にもほころびが出て来たかもしれない.今一度,世界レベルの知を創生するという大学本来の目的を医局の中で共有し,みんなでサイエンスをすることの楽しさを満喫したい.その状況下で,今年度はイヌの自家永久歯胚より採取した上皮と間葉細胞を用いた永久歯の再構築論文がScientific Reports誌に発表され,世界中から注目されたのは本当にうれしかった.本同門会誌の業績欄にもマスコミで多数報道されたことが記されているが,我々自身もその反響の大きさにビックリした.テレビ,ラジオ,新聞,インタ−ネット,歯科関連雑誌,小学生向けの科学記事,世界中からのメールなど大変な反響である.それだけ,臓器としての歯が再生するということの生物学的インパクトが国民目線から見ても大きいことを実感できる出来事であった.本研究は,もともと厚生労働省の再生医療実用化を目指した大規模予算(主任研究員:東京歯科大学 山口 朗教授)により支援された研究であり,我々の分野の大野先生,大島先生を初めとした医局員諸君,また,理化学研究所の辻先生とその共同研究者各位のご尽力によるところが大きい.ただ,思い出しても試行錯誤の繰り返しであり,大変苦労した.研究とはこれほどうまく行かないものだと実感した矢先に成功し,研究の醍醐味を味わったのもこの研究であった.ただ,ここまで発表がずれ込んだ言い訳をしておくと,歯胚を発生させることに成功しても,その歯胚が成長して永久歯の形態を示し,萌出するにはイヌ時間でもそれなりの時間が必要であったのである.歯が生えてくるのを気長に待って頂いた共同研究者の方々には改めて厚く御礼を申し上げたい.中でも,辻研究室で広報力を鍛えられた大島先生には,広報の何たるかを教えられた.プレスリリースを出すタイミングと科学雑誌がe-publishするタイミングをマッチングすることの重要性を私自身が学ぶことになった.また,そのためにエンバーゴ(特定の日時まで報道しないように報道機関に対して出される要請のこと)を依頼することが必須であることも勉強させられた.

3月末には,文部科学省の課題解決型高度医療人材養成プログラムの中間評価が発表になり,総合判定Aというすばらしい評価を頂いたことは本当にうれしかった.これまた,本事業に関わって来た全ての方々に感謝を申し上げたい.来年度は本事業の最終年度にあたることから,岡山で総括シンポジウムを開催する予定である.岡山から,医療界に一石を投じるようなシンポジウムが開催されることを心から願って止まない.また,岡山県から頂いている口腔栄養関連サービスに関する委託事業が,自分の故郷である井原市で開催できたことはうれしく,また光栄でもあった.これらの事業を通して,我々の医局にも,超高齢社会に生きる歯科医としての意識が定着して来たように感じている.また,歯科診療が栄養というアウトカムを得たことにより,我々の仕事はかくも崇高なものになり,命に直結する重要なものになった.この様な知識や技を同門の先生がたにもぜひ伝えて行きたいと考えている.

6月には,ハノイの国際シンポジウムで知り合い,岡山での日本口腔インプラント学会の特別講演にお呼びしたポーランドのDr. Zietekの誘いで,ポーランド口腔インプラント学会とICOIヨーロッパ部会が共催した全部欠損患者の口腔インプラント治療に関するコンセンサスミーティングのScience Adviserとして伺うことができた.ポーランドは親日の国として知られており,地震がないため古城が多数残っている雰囲気の良い国で,クラシックな建物に現代の新しい美的感覚がミックスされた芸術的調和感がすばらしい.また,町の随所にこれから訪れるであろう高度経済成長期を彷彿とさせる若者の熱気が感じられることも,我々にとってはどこか懐かしく,また羨ましくも感じた.車はジャガー,美人の奥さまと新築の開業オフィスという絵に描いた様な有名開業歯科医であるDr. Zietekの生活も垣間見ることができたが,今度日本に招待した際には,どの様にして接待をしたらよいのかちょっと心配になる.その際には,同門の先生がたのお力をお借りするしかないのではと愚考している.

今年の7月の日本補綴歯科学会では,JPRのOriginal Article部門で,野田欣志君の論文がBest Paper Award を頂いた.実は,本論文を最後までめんどうをみてくれたのは徳島大学の松香教授である.松香先生が,難攻不落のGEEという統計方法に最後まで付き合ってくれたお陰でこの初代の栄誉を勝ち取ることができた.本当に感謝してもしきれない.また,山下 敦名誉教授が,補綴のレジェンドに聞くという企画で特別講演をされ,その発表に皆が感嘆した.窪木自身も,狭義の補綴学に止まらない歯科全体を俯瞰した学際的な考えをお聞きして,自分がこの分野に残ったきっかけを再度思い起こすことになった.山下先生のお話は,決して臨床を裏付けるための研究を志向したものではなく,目の前の患者をどの様な手を使っても助けたいという具体的で直接的なものであり,細菌学やメカノバイオロジーを最大限駆使したものである.私が先生の様な年齢に到達しても,この様な前向きな気持ちで頑張れるかちょっと不安ではあるが,この「意気込み」こそが我々の医局の源流に流れている遺伝子であると思うと,うれしくなった.

10月には,ソウル国立大学(SNU)に伺い,ナソロジーの学会とSNUの大学院で特別講演をした.ODAPUS制度で学生を4名派遣しており,いつミサイルが飛んでくるかわからないとの観測から,誰か責任者が学生の生活状況を把握すべきという責任感からの出張であったが,新しいSNUの学部長と病院長がいつも日本補綴歯科学会で国際交流の際に仲良くさせて頂いているProf. HanとProf. Heoであったことも幸いし,大変楽しく韓国の風情を楽しんだ.11月に入って,ベトナムのハイフォン医科薬科大学で国際臨床研究デザインワークショップを開催した.2日間にも渡るワークショップを英語で実施する準備は並大抵ではなかったが,この活動が及ぼす影響の大きさを思うとやって良かったと思う.できれば,来年度はハノイで実施したいと考えている.この様な活動が実ったせいか,ODAPUS事業で海外に出向く学生のお世話を積極的にせざるを得なくなった.来年は,シンガポール,インド,アメリカ,チリ,ベトナム,オランダと12人もお世話することになりそうである.また,例年の恒例行事となって来たが,1月には海外から30名超の学生や教員が訪れるようになり,3週間にも渡る英語授業シリーズのお世話を,前田先生にお手伝いを頂きながら継続している.この様な地道な活動が,ShanghaiRanking’s Global Ranking of Academic Subjects 2017(脚注参照)のDentistry & Oral Sciencesで,岡山大学歯学部の世界ランキングを36位(国内3位)に押し上げたと思いたいところである.

医局の人事にも若干の変更があった.シンガポールのJGHデンタルクリニックに平成30年1月より笈田育尚助教が出発し,交代でJGHデンタルクリニックから小野 剛歯科医長が帰国した.小野君は倉敷市立児島市民病院(倉敷市立市民病院に名称変更)に歯科医長として平成30年4月より赴任する予定である.笈田助教の後任には,歯学教育・国際交流推進センター 前田あずさ助教がスライドして着任する予定である.

また,常日頃,自分の体の事には無頓着で,暴飲暴食の限りを尽くして来た私であるが,5月には大腸ポリープの疑いで内視鏡検査の後,ポリープの摘出手術を受けるはめになった.私の叔母が大腸がんで若くして命を断ったこともあり,検査結果を大変心配したが,無事良性ポリープということで安堵した.また,一方で,医学部の初診から検査,検査結果の説明,手術,手術結果の説明というよどみのない流れを経験し,我々の口腔インプラント治療における患者対応が,患者の立場に立ってちゃんと十分な情報提供がなされているか今一度考えるよい機会になった.この年の5月25日に我が愛犬ジャックが天寿を全うしたが,自分の代わりに命を失ったのではと思う程,自分のポリープ切除手術と時期が一致していた.ペットロスで苦しんでいる妻を勇気づけるためにペットショップに行き,現在の愛犬てんてんとその時に出会ったが,てんてん君が我が家にやってきたのは,ジャックと同じ日である.これを運命と呼べば良いのか,偶然と解すればよいのか,本当に驚いている.

本当に1年があっという間に過ぎた.もっともっと,基礎的な勉強がしたいと言う強い欲求があるが,毎日の診療,教育,研究に押し流されて,無理矢理回ってくる査読や鑑定をこなすのが精一杯である.また,これまでやっていたゴルフコンペやしろぶたスキーツアーにも行きたいと思っているがどうにも時間がとれない.医局旅行に淳二君がいる間に上海に行こうと話していたのはいつだったか.絶対にやろうと思えばできるはず,今いる医局の連中を焚きつけて何とか実現にこぎ着けたい.家のオーディオ装置のアンプをフルデジタルアンプに買い換えたのがせめてものレジスタンスである.

脚注:
ShanghaiRanking’s Global Ranking of Academic Subjects 2017
http://www.shanghairanking.com/Shanghairanking-Subject-Rankings/dentistry-oral-sciences.html



図 萩市での若手研究者の会参加,松下村塾見学 (3月11日)
大学院生にとっては大変有意義な発表の機会であった.吉田松陰がなしたように,未来を支える後輩を育てることが我々の最も重要な仕事である.いつも,ちゃんと育てることができているか,心に問いかけねばと思う.



図 滝川先生宅での懇親会 (5月6日)
恒例行事となっている,牛窓の滝川先生宅での春の連休の懇親会に出席.佐々木朗教授,那須保友研究科長,成瀬恵治教授,滝川正春教授とノミニケーションを楽しんだ.



図 原先生の新居のお披露目会(5月7日)
エミリオ・原先生が新居に移られたとのことで,皆でお祝いに駆けつけた.夕日が目の高さに見える程の高層マンションの一室であった.大野先生の息子さんも一緒に.



図 アルコールデヒドロゲナーゼのSNIP解析(5月24日)
4年生の講義に生物学的検査の演習を導入した.希望する学生の今日粘膜から細胞を採集し,Alcohol DehydrogenaseのSNIP解析を行い,個人情報に配慮しながら各自にその情報を伝達した.この情報は,生涯個々にとって重要な情報となると信じている.



図 ポーランドのDr. Zietekとの会食(クラクフにて,6月7日)
クラクフの旧市街は大変きれいに整備されており,観光地となっている.左下に写っているのが,Dr. Zietek.



図 日本補綴歯科学会 山下 敦名誉教授 レジェンドとして大いに語る(7月1日)
 山下 敦名誉教授と田中久敏教授が登壇され,大いに会員に向けて刺激を与えて頂いた.このソファーに着座するというスタイルは大久保大会長のすばらしいアイデアであった.



図 真庭市での口腔関連栄養サービスのワークショップ開催(9月3日)
オオサンショウウオの生息地として有名な真庭郡で行った.このイベントに合わせて,鏡野町国民健康保険上斎原歯科診療所長の澤田弘一先生が,第4回「やぶ医者賞」を受賞されたため,みんなでお祝いをした.



図 ベトナム・ハイフォン医科薬科大学での国際臨床研究デザインワークショップに参加 ハイ君宅へお邪魔しました(11月3日)
米国NIHから,ハイ君が一時帰国され,我々のワークショップの講師になってくれた.



図 課題解決型高度医療人材養成プログラムチーム 平成29年度医歯薬学総合研究科 教育功労賞受賞
 文部科学省 課題解決型高度医療人材養成プログラム「健康長寿社会を担う歯科医学教育改革―死生学や地域包括ケアモデルを導入した医科歯科連携教育体制の構築―」が中間評価総合Aを頂いたこともあり,那須研究科長から教育功労賞を頂きました.関係各位に厚く御礼申し上げます.



図 ハイフォン医科薬科大学学長が槇野学長を表敬訪問,薬学系の相互交流が盛んになる.
 Prof. Pham Van Thuc学長が訪問,今後教員の学位取得に向けたプログラムをどのように発展させるかについて議論した.



図 岡山大学歯学部同窓会 岡山県支部で講演,久々にバンド出演(1月21日)
 特別講演の後の懇親会に出席し,久々に鹿田軽音学部の後輩バンドメンバーとぶっつけ本番で共演した.



図 ベトナム,韓国からの留学生の送別会(2月2日)
 ベトナム,チリ,韓国,ブラジルからの留学生を交えて,本当に楽しい送別会になった.また,大学院生として来て欲しいねえ.




教授就任13年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



先日,岡山大学の源流というシンポジウムに参加した.そこで,岡山大学が旧制の「中国総合大学(第8番目の帝国大学)」を目指していたことを知った.特に,医学系はその歴史からも明らかに中四国で抜きんでた存在であったのである.また,岡山大学の前身である第六高等学校に,昭和19年4月,京都大学から黒正 巌校長が赴任され,「高校生の本分は,『真理探究,道理徹底』,更に『哲学の精神』にある」と喝破(かっぱ)され,「諸君はすべからくrefined barbarian(洗練された野蛮人)であれ.それらが自らの真理であり,哲学であるならば他人の目や常識など気にせずに,自分の責任において何でもやってみる『蛮勇の徒』であってほしい.」と叱咤激励されたと聞いた(金政泰弘:THE回想記,岡山大学Alumni会報vol.3: 10-11).奇しくも,Apple社の創業者でありCEOであったSteve Jobs氏が2005年のスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの一節「Stay hungry, Stay foolish.(貪欲であれ.利口になるな.)」と非常によく似た「志し」を伝えている.先輩達にはすごい人がいたのだと改めて感心するとともに,この様な言葉(感動)を,今の私が,学生,大学院生,教員の先生方に発せられているのかと自問することとなった.大学に所属している我々は,医療を変革することができる立場にある.医療現場においてどのような問題点があり,如何に解決することができるかという気持ちでいつも自分の仕事を俯瞰し,強い改革意識を持って生涯を走り抜けなければ,1年などあっという間に過ぎ去ってしまう.これから1年1年は,新たな決意の年にしなければと自分に言い聞かせた所である.

さて,歯学部長の任期を全うし,肩の荷がおりた窪木を森田学長がめざとく見付けられ,副学長(研究力分析担当)の任に着かせて頂いた.科学研究費の採択ランキングを向上せよとの至上命令であるが,ここ数年岡山大学がうまく解決できないでいる難題中の難題である.森田学長や槇野病院長が病院の診療科の管理で用いられてきたドラッカーのMBO-S方式を採用し,部局長向けに説明会を開催すると共に,各部局に科研の責任者を配置した.この責任者に今年度の部局の申請計画を準備頂き,これに対してヒアリングを部局毎に行った.幸い,申請件数が8%程上昇し,現在採択率がどのようになるか,息を潜めて結果を待っているところである.ただ,各部局には各部局の言い分があり,すばらしい業績を上げておられる研究者もあることも知った.岡山大学には,科学研究費の中でも特別推進研究と呼ばれる最強種目(応募総額5億円程度)を採択されている方が2名もおられるのである.光合成のメカニズムの研究で有名な沈 建仁教授と作物のミネラル輸送システムの研究で有名な馬 建鋒教授である.我々は,基盤研究AやBで一喜一憂しているレベルであるが,特推となるとケタが一桁違う.今年度から,一生に一度しか当てないことになった代物である.研究者としての取組も最初から「発見」を目指しており,NatureやScienceに多数掲載され,ノーベル賞受賞候補者としてもノミネートされている.ぜひ,この様な機会を通して,これらのトップサイエンティストの活動にも貢献したいと考えている.

歯学部においては,文部科学省 課題解決型高度医療人材養成プログラムの実施責任者を継続し務めさせて頂いている.今年度は,5年間の事業期間のうち,3年目にあたり,文部科学省の中間評価を受けた.新たに設けた高齢者医療対応の新規教育である,4つのマトリックス:①電子授業,②高齢者施設を利用したPBL演習&シミュレーション教育,③大学病院の医科病棟を利用した周術期管理実習,④岡山県歯科医師会の先生に臨床講師になっていただいた在宅介護実習を,完全必須化して実施している.何しろ,11大学を束ねた壮大なプロジェクトであるため,文部科学省から頂いている補助金が削減されると現在の事業を維持することができない.したがって,病院レベルで進行している,中国四国地区を代表する臨床研究中核病院への申請,橋渡し研究戦略的推進プログラムへの申請などと足並みをそろえて,絶対に高評価を頂かなくてはならないものである.東京医科歯科大学のプロジェクトと並んで,歯科においては2件のみが採択されており,岡山大学歯学部が全国区として活躍している証左にもなる事業であり,絶対に成功させねばらない.

口腔栄養関連サービスに関する岡山県委託事業も継続している.本事業では,介護保険施設,在宅における医科,歯科と栄養関連職種の連携を行う上で必要な知識や技術,態度を教育するもので,岡山大学病院と地域医療圏の歯科医師会,栄養士会等が中心になって実施している.具体的には,H27年度より改定された介護報酬における「口から食べる楽しみの支援の充実をはかる口腔・栄養関連サービス」の実働職種(医師,歯科医師,管理栄養士,看護師,歯科衛生士,薬剤師,作業療法士,言語聴覚士,ケアマネージャー,介護福祉士等)に向けた講演会,ならびに,多職種連携(ミールラウンド)を模したワークショップを岡山県内各地で開催するもので,今後の歯科医師のあるべき役割を再認識するものとなっている.平成27年10月の第1回岡山県南東部(岡山会場)を初めとして,第2回は岡山県津山,英田,真庭地区(津山会場),第3回は岡山県南西部(倉敷会場),第4回は岡山県東部(長船会場),第5回は岡山県南東部(岡山会場)と岡山県の医療圏を巡っている.多職種の方と触れあいながら,医療と福祉,介護の連携を経験することができ,大変好評である.本内容は徐々に当分野の学部教育に応用されるようになっている.来年度も継続して実施する予定であるので,ぜひ同門会の先生方も参加頂きたい.

医局の人事にも変化があった.東京理科大から帰ってきてくれた大島正充助教が徳島大学の松香芳三教授の下で准教授の大役を努めることになった.理化学研究所の辻先生との共同研究が最近イヌの歯の再構築論文として実ったばかりと,大島先生の活躍は目覚ましい.一方で,松香先生の分野では基礎研究ができるリーダーを欲しておられるとのことで,断腸の思いではあるが大島先生を送り出すことにした.大島先生におかれては,松香先生とともに分野を盛り上げて,徳島大学の中でも最強の臨床系分野を確立して欲しい.あの板東先生が率いておられた名門分野を名実ともに松香先生の基礎研究もできる近代的な臨床変革能力で再興する後ろ盾になってほしい.大島先生の後任には,完山先生のもと倉敷成人病センターで働いてくれている笈田先生に帰ってきて貰おうと思う.大学病院としての臨床能力の補強,BMPの前臨床試験が目前に迫っており,適任と考えている.

窪木が教授になって13年が経過した.時は今この瞬間にも無情に移ろっており,残りはあと10年である.冒頭で述べたとおり,refined barbarian,蛮勇の徒の気持ちを忘れないで,再度挑戦者としてスタートしたい.我々は国家の血税を頂いて,国立大学としての活動を許された身である.それにより優秀な学生を得られるという利点もあれば,逆に自ずとその重責もついて回る.今一度,胸に手を当てて考えてほしい.歯学部生に10年後の歯科医療を支えられる色あせない歯学教育が提供できているか,医療や医学界に新風を吹き込む破壊的イノベーションdisruptive innovationに繋がる研究ができているか,患者様に本当の意味で貢献できる歯科医師の養成ができているか,教育や研究,臨床でアジアのリーダーとして強く国際貢献ができているか,そして患者様に真なる意味での医療メリットを提供できているかを真摯に見つめ直したい.手始めは,学生教育と思っている.学生がわくわくする教育ができているか,指導教員が教育内容に感動しながら対峙できているか,これらは大学教育の根幹に関わる重大事である.今年から,実習はデジタルワックスアップに移行する.大学院生との朝の個別プログレスを開始した.アルコールデヒドロゲナーゼの遺伝子多型の解析実習を授業に組み込むことにした.ハノイ医科大学に生体材料や再生の研究所を創る手伝いを開始した.医局を挙げて未来の医療,教育,研究に関するブレインストーミングを行う予定である.これらが全部成功するとは限らないが,少なくとも正しいと思えるのは一つの場所に留まってはいけないということである.留まることは,他の先行を許すことを意味するだけではなく,その停滞ムードが皆の開拓精神を蝕んでしまうからである.

最後になったが,今年1年の医局の先生がたの努力に心から感謝を申し上げたい.窪木だけの力では山下名誉教授,矢谷教授と受け継がれた由緒あるインプラント再生補綴学分野(未だに,第1補綴と言った方がしっくり来る)を十二分に支えることはできない.ただ,我々の分野のメンバー1人1人が,何か新しい目標を立ててやり遂げるという強い志しを持たなかったら,本分野の未来は暗いものになろう.来る年度は,医局から新しい息吹がわき起こる年にしたいものである.


図 口腔栄養関連サービスに関する岡山県委託事業(第3回)
 毎回,日本歯科大学から講師として高橋君,ファッシリテーターとして戸原君に来て貰っている.両名共に,我々の分野の大学院生だったのだが,着実に摂食嚥下リハビリテーションの指導医としての実力を蓄えて来たと感じる.第3回は,平成28年3月13日,倉敷歯科医師会 近藤康弘会長のご尽力で「くらしき健康福祉プラザ」で開催した.


図 歯学部長として最後の岡山大学学位記等授与式にて(平成28年3月25日)
 ジップアリーナで,岡山大学の他部局の学部長や研究科長と写真撮影を行った.この服はやはり経済学部長の松本教授(左から2番目)が一番よく似合う.


図 オハイオ州立大学歯学部との学部間協定の締結(平成28年3月29日)
矯正歯科におられた出口 徹先生がアメリカコロンバスのオハイオ州立大学歯学部に臨床教授として在籍されており,岡山大学歯学部との国際交流協定を締結するため伺った.


図 オハイオ州立大学歯学部との学部間協定の締結(平成28年3月)
同大学歯学部の学部長は,補綴学会の特別講演でお呼びしたLloid教授で,交流協定締結作業は大変うまく行った.副産物として,英語で講演を2つ頼まれが,いつもアメリカでの講演は緊張する.一つは岡山大学歯学部の国際交流,もう一つは歯科再生医療についてである.


図 オハイオ州立大学のキャンパス(平成28年3月)
コロンバスに飛行機で降り立つ際にもびっくりしたが,地平線まで山一つない平原が続いている.オハイオ州立大学の広大なキャンパスには驚いた.


図 田口事務部長がご退職,鹿田地区執行部でお礼の会を開催した(平成28年4月)
歯学部からは,浅海歯学部長,飯田歯科系代表副病院長,宮脇副病院長,そして窪木である.何事も,仲良く,腹を割って喋ることが必要と感じる.責任感を持って組織を守る姿勢が,本当の意味で信用を得る源と思っている.


図 歯学部先端領域研究センター 滝川教授のお宅でのバーベキュー
我々の分野出身の江口君が,ハーバード大学から岡山大学の歯科薬理学に帰ってきた.何か良い仕事が一緒にできればと思っている.


図 ハノイ歯科口腔外科国際シンポジウムでの講演
 ベトナムとの交流は,年を追う毎に盛んになっている.ハノイ医科大学とハイフォン医科大学との交流は楽しい.ハノイは首都に所在する最も有名な歯学部で,ハイフォン医科薬科大学は,その近隣にある港町に所在する医科大学である.


図 フェリペ先生が岡山大学国際同窓会チリ支部設立のため,来日
 山下先生が教授をされておられた時代に,1年半ほど留学していたヒメネス・ルイス・フェリペ先生が来岡され,チリに短期留学した学生達と楽しく宴会を行った.


図 臨床応用解剖 口腔インプラント実習を今年も開催
ご退職され,東京に帰られた山合先生に未だに御世話になっているが,どうにもあれだけの知識と技をお持ちの交代要員が見つからない.


図 サクラサイエンスプランとJASSOの短期留学生との交流会
ベトナムから来られた教員はサクラサイエンスプランでの招聘,短期留学生はJASSOの交流協定に基づく受け入れである.前田あずさ先生の御苦労でこんなにたくさんの方々が来られ,みんなで食事を楽しんだ.


図 ベルギーのファンミアビーク教授が久々に日本に来られ,教授室を訪れられた.
新医療研究開発センターの吉原先生が継続して共同研究をされている様子.また,ベルキーにも行きたいねえ.



科研の季節がやってきました
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



科研の季節がやってきました

副学長(研究力分析担当)
窪木拓男

 科研の季節がやってきた。「科研をどうしても当てて欲しい」という風に御願いすると、やや面倒なことを無理強いされたというイメージを抱かれるかもしれない。しかし、科研の申請書を書くという行為は、研究戦略立案の機会を我々に与えてくれる。日常、教育や臨床、社会貢献で忙殺されている教員には、世界に打って出る研究戦略を立案する機会が持ちにくいから、少しは落ち着いて申請書を書いて自分の目指す世界戦略を立てて欲しい。もちろん、研究戦略を練るためには、予備的な検討や文献検索が必要になる。この予備的な検討結果を既知の事実と結びつけながら、世界的な発見に結びつける過程は刺激的で楽しい。申請書を書くという行為にはこのように自分の教育研究プラットフォームを成長させる力がある。

 一方、かなりの時間を割いて申請書を書くのだから、書くだけではなく採択されて、自分の属している分野の教育や研究に一石を投じるのだという強い「志し(こころざし)」が必要だ。科研の審査員をされた経験のある方には自明と思うが、科研の申請書には5〜1の点数が付けられる。5は全体の申請の10%、4は20%、3は40%、2は20%、1は10%という具合である。申請種目にもよるが、概ね採択率は30%弱である。したがって、その申請書が直感的にトップ30%、すなわち4点以上がつくように仕上げる必要がある。つまり、目指すべきは一目見て「現在、皆が面白いアイデアだと思い、皆がやってみる価値があると思う研究計画で、かつ、国際舞台をちゃんと向いているもの」である。

科研の申請書の第1段審査の採点は、(1)研究課題の学術的重要性・妥当性、(2)研究計画・方法の妥当性、(3)研究課題の独創性及び革新性、(4)研究課題の波及効果及び普遍性、(5)研究遂行能力及び研究環境の適切性の5要素で行われる。各評点要素に、絶対評価4段階(「優れている」、「良好である」、「やや不十分である」「不十分である」)で評価がなされるので、どの要素も落とせない。それでも、どこのパートが一番重要かと聞かれたら、躊躇なく研究組織の後に続く最初の2ページ、すなわち、(1)の研究課題の学術的重要性・妥当性(研究目的)の項目と答える。この2ページがだめな時には、それ以上真剣に読み進める価値がないと判断されるからである。この研究概要や目的を記述する際には、気をつけることがある。それは、この申請研究で解決すべき問題点と解決策を明確に書くことである。そのためには、この部分の「起承転結」をハッキリとさせる必要がある。「起」では、解決すべき社会的な問題や臨床上の問題を明確に書く。「承」では、その問題がこれまで○○と関係するという成果が多方面から提供されている。ただ、現状○○が解決されていないために、この目の前に解決できそうな所まで来ている社会問題や臨床上の問題が無残にも解決できないでいる。一方で、最も大切な「転」として、申請者らはこの障壁を解決する方法をついに思いもかけず見つけて、この程度まで予備的検討を進めてきた。その予備的データーを見ると実現可能性は大変高そうであるし、何よりその予備的検討結果のすばらしさに興奮して毎日夜も眠れないでいる。そこで、本研究申請では、このような世界で初めての解決方策を国家予算でトライさせて欲しいとトドメ「結」を刺す。直感的にトップ30%以内であると思わせるためには、象徴的な予備的検討データーなどの図を利用するのも効果的である。もちろん、研究計画においては、問題が複数設定される場合もあり、それに対応する解決策も複数用意される場合もある。

 一方、残念な申請書では、自分にはこんなすばらしい業績が上がっているという部分を強調する余り、解決する問題はほとんど解決されており、研究費をこれ以上必要としないのではないかと思わせてしまう。それでは、お金が欲しいだけのお飾りの申請書に見え逆効果である。世界中が注目する有望な成果が上がりつつあるが、ある問題がその成果を導く前に大きく立ちはだかっている。この部分をある世界的なアイデアで解決するのが今回の申請であると書かなければ、採点者は、この必要経費が解決する問題に見合うかどうか、具体的に評価ができない。この誰でも知っている「起承転結」が、最も申請書をしたためる上で重要なのである。

 今年度は、部局(各学系別)にMBO形式で科研費申請と採択の目標設定を御願いした。これは、各分野にそれぞれ科研費獲得の達人がおり、その方や部局長を中心に管理を御願いした方が、効率がよく、責任体制も明らかになるとの思いからである。どこの会社でも、分社化した上、経営努力の見える化をする必要に迫られている。いまのところ、専門分野別に世界(時には、文科省)と対峙し、不断の努力を継続するしか、我々自身が生き残る道は残されていないのだから。

追伸1
 先日の講演会「科研費の最近の動向」で情報を頂いたが、挑戦的萌芽研究の見直しが現在公募されている平成2829年度科研費から始まる。挑戦的萌芽研究は、挑戦的研究(開拓)と挑戦的研究(萌芽)に分けて募集される。開拓の助成額は500万円〜2000万円(研究期間:3〜6年)、萌芽の助成額は500万円以下(研究期間:2〜3年)である。開拓は、基盤S、Aの申請者・採択者が重複申請できる。一方、萌芽は、基盤S、A、B、若手Aの申請者・採択者が重複申請できるという。開拓の採択件数は数百件とのこと、この予算を確保するため、これまでの挑戦的萌芽研究に比べ、萌芽の採択数が減少すると考えられる。従って、基盤SとAの申請者・採択者はどちらに出すか悩ましい。

追伸2
 8月26日のストライプインターナショナルの石川康晴社長の講演はすばらしかった。阿部理事・副学長、許理事・副学長、吉野副学長には感謝を申し上げたい。学部の集合体の集まりが岡山大学であるが、石川社長からみると、社会に「今」必要とされている人財を生み出すアジアに冠たる岡山大学石川塾(MBA?)がとにかく必要とのこと。大学から見ると大学の縦割りの組織はそれなりに意味があるが、アントレプレナー(起業家)の観点からは、知識が必要な場合には、それがある場所(部局)にとりに行けばよい。それを持ち寄って、みんなで経済の裏打ちがある活きた活動に繋げるアイデアを生み出す競争をせよとのこと。よく考えてみると、医学部、歯学部、薬学部も開業をする際には起業家精神が必要であるが大学では誰も教えてくれない。最近では、基盤研究を進める上でも、それが知財としての価値があるかどうかを最初から考えなさいという時代になった。従って、教養のフレッシュな時期にアントレプレナー精神を良い具合に叩き込むのはすばらしいアイデアと感じた。このような観点から考えると、お金がないからできないという議論に終始しがちな地方の国立大学の状況を打破するのは、何とか自分の夢を実現したい、何とか自分の研究成果を社会に還元したいという起業家精神かもしれない。また、文学、美術、音楽、経済、教育、サイエンス、医療、工業、農業などの分野がボーダーを排して、できないと愚痴るのではなく、できることはないかと知恵を絞り、それに投資して頂くという産学連携お見合い会議の機会が本当に欲しいと思う。それにしても、デジタルホール、経済学部が羨ましい。


2016年度 岡山大学歯学部の皆さんに向けて
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



岡山大学歯学部を支えている皆さんへ

窪木拓男

岡山大学歯学部を支えて頂いている皆さんに今年もご挨拶を差し上げる機会を頂き,光栄である.私ごとではあるが,4年間にわたり歯学部長を務めさせて頂き,平成28年4月に浅海淳一教授と交代をさせて頂いた.本年からは,諸兄のご高配により,副学長(研究力分析担当)の任に就かせて頂き,主に科学研究費補助金の採択率向上に向けた全学的な活動をさせて頂いている.今後とも岡山大学,ひいては岡山大学歯学部の発展のために全力を尽くす覚悟であるので,引き続きご支援を賜りたい.

さて,このような貴重な機会を得たので,岡山大学歯学部の現状を直視し,どのように生き残りをかけるべきかを考えてみたいと思う.現在,歯科医師養成校は全国に29校ある。その中で国立大学は11校である.日本歯科医師会は,新規参入歯科医師を年間1500人に制限すれば本邦の歯科医療ニーズにマッチするとの意見書を出している。現在の国家試験合格者が年間2000人程度であるので,現状の3/4程度の定員削減を要求していると言える。人口が減少局面に突入したので,昨年度から厚生労働省も歯科医師の需給問題に関する検討を再び開始した。象徴的なデータは,18歳人口に関するものである。18歳人口はピークである平成4年を100とした場合に平成26年は約58%(205万人→118万人)に減少したという。しかし,歯学部の入学定員は平成4年を100とした場合に約90%(2722人→2460人)にしか減少していないという。これには地域差,すなわち,人口当たりの歯学部入学定員数も加味されなくてはならない。計算方法は,各ブロックにおける人口を各ブロックの歯学部入学定員数で除すというものである。人口当たりの歯学部入学定員数が最も少ないのは近畿ブロックであるので,これを1とした場合の数値が計算されている。入学定員が少ない順に羅列してみると,①近畿地区(1.0),②中国四国地区(1.6),③中部・東海地区(1.7),④東北地区(2.7),⑤九州地区(2.9),⑤北海道地区(2.9)となる。これをみると,岡山大学は中国四国地区の中でも近畿地区に隣接しており,歯科医師養成ニーズが比較的高い地域に立地していると言える。歯科医師の年齢も加味する必要がある。年齢階層別の男性歯科医師数のピークは経年的に高齢化しており,平成24年調査では50〜59歳が最頻値となっている。私の年齢同様,十年経つとこのピークは60〜69歳に確実に移動する。一方,女性歯科医師数は年齢層に限らず全体的に増加している。全国の歯科診療所の施設数は52216施設(平成2年)から68384施設(平成22年)と20年間で増加したが,平成23年度医療施設調査では廃止・休止の歯科診療所が開設・再開を上回り228施設減少,その後ほぼ横ばいに推移しており,平成26年は68592施設(対前年:109施設減)となっている。男性歯科医の大多数が50歳代を中心にしたピークに含まれており,これから歯科医の高齢化に伴って歯科診療所を閉院せざるを得ない所が増える可能性がある。すなわち,歯科医院の総数が減少局面に移行する可能性が出て来たといえる。一方で,保険診療のビッグデーターを解析した結果,総義歯が減少するなど旧来の歯科医療ニーズが減少したとされる一方,超急性期病院における医科・歯科連携や在宅介護医療における歯科のニーズが増し,リライニングや義歯修理など人生のライフステージに関連してよりきめ細やかな対応が必要とされている。これらの要因を統合して考えると,超高齢社会に対応した歯科医療ニーズが激増しており,旧来の歯科医療ニーズの減少を補填して余りある状況になってはいるが,今後の急激な人口減少局面を想定すると,歯学部の統合や定員削減が行われなければ,このまま出口での流入制限を継続する必要があるのではないかとの議論に至っている.つまり,高齢者医療のニーズが現在の歯学部定員の必要性を正当化している間は問題なさそうだが,急激な人口減少,最終的にはフラットな人口構成に近づく段階では,歯学部の定員削減,閉鎖,統合などが議論されることは間違いないものと思われる。もちろん,これは歯学部に限ったことではなく,むしろ全県に1つある医学部においては大変な問題である。すでに医師の需給問題に関する検討会が同様に開かれており,地域枠を撤廃するかどうかが議論されていることはご存じのとおりである。

岡山大学歯学部は,従来から,大阪大学,広島大学,徳島大学のトライアングルの中央に位置することから,西日本における国立大学歯学部密集を解消すべきという政治的オピニオンが幾度となく流されて来た。しかし,上述のように関西圏の歯科医師養成ニーズを考えると中国四国地区随一の岡山大学医学部に併設した形で歯学部が設置され,関西圏にも歯科医師を供給する方針は非常にリーズナブルと言わざるをえない。ただ,これまでの雑音が,岡山大学歯学部が「国立大学歯学部」として存在意義があるかどうかということを指摘していることも忘れてはならない。つまり,教育・診療機関としてだけの歯学部ではなく,研究機関としての役割も十二分に意識する必要があるのである。ここからは,具体的に教育・診療機能がどのような物差しで測られているか,研究力がどのように測られているかを示す。自分が関わっておられる指標については全国ランキングを常に意識して欲しい。入試・教育機能については,志願者倍率,入試倍率,偏差値,短期受入留学生数,短期派遣留学生数,国家試験合格率,6年間での国家試験合格率,臨床実習自験数,臨床実習配当患者数,留年率,退学率,研修医マッチング率,大学院定員充足率,国費外国人留学生数などがある。臨床機能については,外来患者数,入院患者数,診療費用請求額,病床稼働率,医療比率,紹介率などがある。研究力の指標としては,科学研究費補助金採択数,科学研究費補助金採択総額,ISI掲載論文数,論文被引用度数(トップ1%,トップ10%高被引用論文数),論文インパクトファクター数などがある。岡山大学歯学部は,入試,歯学教育や診療機能,国際交流では概ねよい評価を頂いているが,岡山大学歯学部の科学研究費補助金採択率や英語論文数が最近低下傾向にあることは心配の種である。第2期中期目標中期計画期間の現況調査表の作成がやっと終了したが,結局,S,SS研究プロジェクトと学術的に認定されるためには,第三者がその研究に学術的価値を見いだす必要があり,その客観的な指標が求められている。現状では,Sは基盤研究(B)以上の科学研究費補助金の採択,専門分野トップジャーナル(歯科では,JDRなど)での論文掲載,SSはそれに加えてインパクトファクター8程度以上の国際誌への掲載,トップ1%〜トップ10%の高引用度数が条件になっている。つまり,Sは歯科界でトップクラスの業績,SSは歯科界を越えて他分野に大きなインパクトがある研究プロジェクトと捉えることもできる。今期は,歯学系では,Sが19件,SSが6件提出されたが,実際SSの選定には本部の厳しい意向もあり苦労した。我々は,このようなことで弱音を吐いてはならない。上述のように,国民は岡山大学歯学部に研究力も求めているからである。発信される新しい医学概念や医療イノベーションにより,岡山大学歯学部は歯科大学のリーダーとならなければならない。そこで,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯学系ならびに岡山大学病院歯科系では,新任の教員の方々の5年間のテニュアトラック期間におけるテニュア採用業績基準を今年度より厳格化した。岡山大学歯学部が優れた国立大学として認知され,未来に渡って岡山大学歯学部が歴史を刻んで行けるようにとの思いからである。

歯学部が現在どのような環境におかれているかは概ねお解り頂けたと思う。不躾ではあるが,歯学部を支えている皆さんに今一度御願いをしておきたい。全国を見回して,自分の業績が自分の専門分野でどのレベルにあるかを意識して欲しい。他大学の自分と同じ立場や年齢の教員と自分を比較して欲しい。自分のためにも,また,歯学部のためにも,少しずつ努力を積み重ねて自分が自分の専門とする分野でトップになって欲しい。そのためには,国内の有力な研究施設と共同研究をしたいと考えるかもしれないし,海外の有力研究者と共同研究をすることもあろう。また,ポスドクとして留学したいと思うこともあるだろうし,有力な研究者を招いて共同研究の打ち合わせも必要になろう。本来,研究室レベルの国際交流とはこのような素朴なニーズから自然発生的に生まれるものであり,国際交流自体が目標になっている現状はやや残念と言わざるを得ない。その結果,その研究者が世界に冠たる業績を上げたならば,何も宣伝しなくても,たくさんの外国人留学生が訪れる研究室になるはずである。また,皆さんの不断の努力によって学術分野における知名度が上昇すれば,科学研究費の採択も自然と確度が増す。すなわち,成功への全ての道は,今日のほんの少しの勇気,努力,無理から始まり,不断の向上心がこれを確たるものとする。このような活動が全ての分野でなされ,日本一を目指して努力を積み重ねれば,必然的に岡山大学歯学部は日本一になるのである。

指導的な立場にすでに就かれている教員の方々にも改めて御願いをしておきたい。産学連携が推進されている現状においては,学会発表や論文発表よりも,特許や共同研究契約,委託研究契約,守秘義務の締結の方が重要視されている。また,大きな論文をインパクトファクターの高い雑誌に投稿することが望まれる昨今,論文数を増やすことは難しい。しかし,大学に土曜日,日曜日に出てきて建物を歩いてみると,歯学部棟で仕事をしている教員数が激減しているように思う。これでは,岡山大学歯学部の業績が上昇するわけがないし,近隣の歯学部と戦えるはずがない。文部科学省のお役人と話すと,国立大学歯学部は大丈夫か,専門学校になるのか,国立と私立の差を見せて欲しい,他分野が影響を受けるような突出したイノベーションはないのか,現在の問題を政策に落とし込む力がないのではないかなどと心配される。若手の教員と膝をつき合わせて議論すると,自分も留学したいがポスドクとしての留学先がないので留学は難しいという。なぜなら,大学病院の診療報酬請求額を維持するために,昔のような「研修(有給)」で海外出張することができなくなり,職を辞して留学することが医療系学部レベルで申し合わされているからである。指導的な立場に就かれている教員におかれては,将来の岡山大学歯学部を背負うはずの若手の研究者が,留学に行きたいと思ったときに希望した場所に留学できるよう,準備を怠らないで欲しい。できれば,留学先からポスドクの給与が頂けるように,後輩の能力を高めて送って欲しい。ある意味,労働の適切な対価が支払われるレベルに研究室の研究レベルを高めることは,先達としての責任であると思うからである。一番注意しなくてはならないのは,先輩達が命がけで守ってきた研究室であっても,立派な後継者が育たなければ,その存続が危うくなるという事実である。

全県に1つはある国立大学自体が,前述の18歳人口の減少を見据えれば,統廃合の波に呑まれるかもしれない。道州制の導入は,この県に一つという箍(たが)を外して競争の荒波に国立大学を導くものである。すでに,我々は国家公務員としての立場を上手に剥奪され,年俸制の道を歩んでいる。企業同様の競争の道を歩むべきとの中央省庁の考えの基,このような政策が進められている。もはや,公務員であるから生涯この職場が守られていると誤解してはならない。我々はこの道で競争して勝ち残るしかないのである。目の前の状況から言うと,とにかく,岡山大学病院が臨床研究中核病院に採択されることが必須であろう。また,革新的医療技術創出拠点の第2期募集で再度採択されることも必須と思える。我々歯学系ならびに歯科系構成員もこの点で貢献できるようぜひ尽力してほしい。公的な外部資金は,文部科学省の科学研究費補助金とAMEDの補助金に2分された。良く情報を仕入れて両方の補助金をとりにいきたい。科学研究費補助金の大規模制度改革が目前に迫ってきた。大きな研究費はどんどん医療系としてまとめて審査される方針である。ますます,サイエンスとしての質とともに,他分野にも影響力のある研究計画立案能力が求められる。課題解決型高度医療人材養成プログラムの採択は,歯学部に岡山大学ありと中央省庁に気づかせた。しかし,本プログラムが十分な成果を上げなければ,注目されているだけにその傷は大きい。皆の力を総合して,歯学教育改革の成果を上げたいものだ。

今一度皆さんに確認したい。各研究室が分野ごとの全国ランキングを意識して,トップを目指して欲しい。自分の研究室はある理由があって難しいと言いたい時もあるかもしれないが,その手加減を自分から求めるべきではない。皆が,岡山大学の明日は自分が支えるのだという意識を持ってできる限りの努力を尽くしていれば,自ずと道は開ける。要は,皆が上を向いて歩くことである。

平成28年5月18日
インプラント再生補綴学分野教授室にて


教授就任12年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



 歯学部長になってから,はや4年が経過した。岡山大学の部局長は,2期4年間以上は継続できない規定になっており,この平成28年3月をもって,次期歯学部長になられる浅海淳一教授にバトンタッチすることになった。少しずつ,重圧から解き放たれているようにも感じるが,入試業務が多忙で最後の最後まで気が抜けない毎日である。この4年間,岡山大学歯学部の未来のために貢献できたであろうか。自問自答の毎日である。今年も時系列に沿って振り返ってみたい。
 歯学部長の2期目の任期で何が一番大変であったかといえば,平成27年3月に歯学教育・国際交流推進センターを歯学部に開設したことであろう。学部長裁量助教の再評価・再配置の時期が来ていたが,これまでのように各分野に配分して,パーフォーマンスが良い分野を少し手厚く支援するという従来の配置方法では,歯学教育改革や国際交流の役割が増した歯学部の運営に戦略性を持たせられない。また,歯学部長になった分野がある程度歯学部運営に尽力するのは当たり前だが,歯学部の中央組織が存在しないのでは,部局としての活動が十二分にできるわけもないし,歯学部長になりたい人も出てこない。まずは,歯学教育・国際交流推進センターの設置と学部長裁量助教を3名配置することを教授会でご了承頂き,3年任期,再任可で臨床系分野に学内公募した。臨床系分野に公募したのは,本来この学部長裁量助教が臨床系に配分された助教であるからである。結果,医療支援歯科治療部と国家試験対策をメインでサポートする助教,歯科麻酔とInstitutional Record (IR)をメインで支援する助教,国際交流をメインで支援する助教の3名を任用することができた。我々の分野から米国NIHに留学していた前田あずさ先生が,この3名のうちの1人(国際交流担当)に任用されたのは大変光栄であった。これに加え,課題解決型高度医療人材養成プログラムの特任助教が2名おり,毎週「月曜会:CDI&GP Meeting」と称する会議を開催し,ここ1年で50回超の開催を重ねている。この5名が歯学部の将来構想の策定や直近の学部活動を効率良く分担してこなしてくれており,学部運営には今までにない大きな進展がもたらされている。
 4月には,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科が「革新的医療技術創出拠点」に採択され,創薬や医療機器開発の中四国地域の中核となるべく,バイオバンク,臨床研究倫理審査委員会等が新医療研究開発センターに急ピッチで整備されている。これに関連して,日本医療研究開発機構(AMED)が戦略推進部を設け7つのプロジェクトを展開している。すなわち,医薬品研究課,再生医療研究課,がん研究課,脳と心の研究課,難病研究課,感染症研究課,研究企画課がその内訳である。医療として括られているため,歯科は医科と直接比較されて評価されることになり,やや不利に感じてはいるが,この7分類を今後は十分意識して医療機器や薬剤の研究開発に戦略的に取り組む必要があると思う。
 国際交流関連では,今年はさくらサイエンスプランが2件(ベトナム北部[ハノイ医科大学,ハイフォン医科薬科大学],インドネシア[ハサヌディン大学]),日本学生支援機構(JASSO)の海外留学支援制度(協定派遣)(ODAPUS事業)が1件採択され,外部資金を得て,積極的に推進されている。また,平成28年度は、JASSOの海外留学支援制度(協定受入,ならびに協定派遣タイプ)が両方採択されるなど,状況はすこぶる良い。平成27年度の学部生の海外短期派遣は15名,海外の大学からの受け入れは21名と順調に経過している。また,来年からは,植田淳二先生がJGH上海に歯科医師として滞在することになった。これにより,シンガポールに引き続いて,上海に我々の医局の海外拠点が確立されることになる。植田先生には,上海での生活を楽しんで頂くとともに,後輩にうまく引き継げるように,命がけでこの新規開業されたすばらしい歯科クリニックを発展をさせて欲しい。
 編入学制度改革の実現も大きな出来事であった。平成28年度から編入学のタイミングが3年次から2年次になり,授業は全学的に90分から60分になる。このために,森田 学教務委員長率いるカリキュラム検討部会を中心に大幅なカリキュラムの編成改革が行われた。収容定員増のこともあり,編入学を文部科学省にお許し頂いたのは,財務省への概算要求のタイミング,すなわち9月のことであった。この間,4度も文科省に出向き,資料の作成,学生へのアンケートなど説明を繰り返して来た。許可を頂いた後で2年次編入学試験を行ったため,学生が応募してくれるかどうか本当に心配だったが,無事立派な学生に応募して頂くことができた。
 9月の日本口腔インプラント学会の主管は大変だった。岡山市長の大森雅夫氏のご尽力を頂き,岡山の街をあげて学会を歓迎して頂いた。秋山先生には最初から最後までお世話になった。初日は,グランビアで理事会を開催したのち,シンフォニーホールに移動し,窪木が専門医教育講座を行った。その後,ルネスホールで理事等懇親会を開催し,ソプラノ独唱を虫明教授にお願いし,大変好評だった。翌日は,岡山駅を中心にしたホテルグランビア岡山,岡山シティミュージアム,岡山コンベンションセンターをつないだコンプレックスを会場に学術大会が開催された。総計3700名ほどの聴衆が訪れ,岡山で開催された学会としてはたぶん最大クラスであったと思う。ホテルはほとんど満室で,岡山ではこれ以上大きな学会を開催することは難しい。何より,医局員の先生方には感謝しても感謝しすぎることがない程お世話になった。若干の赤字を計上せざるをえなかったのは私の判断ミスであったが,その赤字を口腔インプラント学会が無理なく補填して頂けたのは有り難かった。学術委員会が企画されたプログラムが秀逸であったこともあり,参加した皆さんに会期の最後まで会場に留まって頂いたことも自慢できる点であった。
 このように我々の医局の一年はいつもの忙しさに満ちていたが,皆さんに改めてお願いしておきたい。産学連携が推進されている現状においては,学会発表や論文発表よりも,特許や共同研究契約,委託研究契約,守秘義務の締結の方が重要視されている。また,大きな論文をインパクトファクターの高い雑誌に投稿することが望まれる昨今,論文数を増やすことは難しい。しかし,大学に土曜日,日曜日に出てきて建物を歩いてみると,歯学部棟で仕事をしている教員数が激減しているように思う。学生定員53名の時代が続き比較的安定した時期を我々は過ごしてきたが,人口の減少局面に至り,いよいよ国立大学歯学部としての存続が試される状況になった。我々が置かれた危機感を共有しておかないと,一気に大変なことになる可能性がある。すなわち,岡山大学歯学部が国立大学として存続する意味を教員各位が十分意識し,世界と戦える歯学部,歯学系となれるようイノベーションを生み出すための努力をしたい。そのためには,現在,さらには,きたる未来の医療における問題点をシャープに掴み,それを解決するための方法を生み出さなくてはならない。生み出す力は疑問に思う力に併行して発達する。なぜと疑問に思う力は研究の原動力になり,その疑問を解決したいという動機が研究成果を生む。その研究成果を教育の高度化に反映させるという当初の国立大学としてのミッションを忘れてはいけない。その意味で,オリジナリティが高く,インパクトの強い論文を生産し続ける必要がある。そのためには,土曜日に大学に来て,静まり返った大学の姿に危機感を持ってほしい。明日はないものと思って,1日1日精一杯過ごしたいものだ。
 また,近年の内向き志向から,留学に尻込みをする若手教員や大学院生をよく目にする。我々の分野において,先方からポスドクとしての対価を頂いて留学する機会を得られるようになったのはつい最近のことである。このような状況を作り出すために,先輩達は命がけで留学生活を送り,その分野からポスドクを送ってもらうことにメリットがあることを身を呈して証明し続けて来た。後輩は,先輩が身を削って得たポスドクとしての留学チャンスに感謝し,それを引き継いでくれるさらなる後輩にバトンを繋ぐために精一杯頑張っている。この何が何でもやり遂げるという強い意志の連鎖にこそ我々の分野の価値があり,「後輩のために」,「分野のために」という利他の気持ちの積み重ねが我々の分野の強い絆を生み出してきた。その意味で,分野の構成員はみな,自分が後輩に,また,自分がこの分野にどのように貢献できているか。自分の存在が成しているものが他の構成員によりリプレイスできない特別なものかを問い続ける必要がある。自分の存在が自分のためにしかなっていない場合,また,自分がいなくてもこの分野が動くのであれば,その立場は危うい。自分のために分野があるのではなく,分野のために自分があるのだから。
 また,新しい一年が始まろうとしている。自分の時間には限りがあることを自覚して,身を引き締めてこの一年を過ごしたい。「人生結構短いぞ!」は,慶応大学の竹中平蔵氏の言葉である。「光陰矢の如し」は故事のことわざである。やはり,ここでも故郷の平櫛田中氏の言葉「いまやらねばいつできる わしがやらねばたれがやる」の心意気は生きる。


図1 留学生のウエルカムパーティー(フェリペの次女がチリから来日)


図2 クラーク先生が久しぶりに来岡(J Hallにて,右からニュージーランドからの短期留学生:ナナちゃん,窪木,クラーク先生,前川准教授)


図3 ハンガリーのセゲドでの欧州歯科医学教育学会に参加


図4 ブタペストの温泉に入りました


図5 植田淳二先生の面接のために上海に行きました(森ビルのトップレストランにて,窓の外には,かすかに図6の景色が)


図6 図5の窓から見たら,図6の景色が!


図7 岡山で口腔インプラント学会開催(桃太郎大通りに案内が)


図8 懇親会では,森田学長,大森市長が来賓としてご来駕頂いた


岡山大学歯学部同窓会員へのエール
歯学部長 窪木拓男



平成27年度は,国立大学法人にとって,第二期中期目標・中期計画期間の最終年で,評価に明け暮れた年であった.また,私にとっても,二期4年間続けた歯学部運営の最終年であり,口腔インプラント学会学術大会の岡山での開催等,思い出深い年となった.幸い,歯学部ならびに研究科歯学系,さらには岡山大学病院は,岡山大学本部からA評価(最高評価)を頂き,岡山大学に力強く貢献できたことは本当に嬉しかった.

昨年度の課題解決型高度医療人材養成プログラム拠点校採択の快挙に続き,岡山大学/岡山大学病院が,革新的医療技術創出拠点として認められたのも,今年の大きなニュースであった.革新的医療技術創出拠点とは,厚生労働省管轄であった臨床研究中核病院事業と文部科学省管轄であった橋渡し研究加速ネットワークプログラムが統合され,日本医療研究開発機構(AMED)という組織に移管された巨大事業である.これが採択されているのは,北海道臨床開発機構(北海道大学他),東北大学,東京大学,慶應義塾大学,国立がん研究センター,千葉大学医学部附属病院,国立成育医療センター,名古屋大学,京都大学,大阪大学,国立病院機構名古屋医療センター,国立循環器病研究センター,岡山大学,九州大学だけとなっており,中四国では岡山大学だけである.これにより,企業治験なみに「医師主導臨床治験」を岡山大学で行うことができるようインフラ整備をし,学部教育や大学院教育にもレギュラトリーサイエンスの導入を図ることが求められている.今後,岡山大学医療系学部からいろいろな基盤研究成果が臨床応用され,大学をコアにした産業化が広がる良いきっかけになればと思っている.

さて,現在,大きな騒音を立てながら,歯学部棟の隣の建物「旧混合病棟」が解体作業中である.あの鮨屋も,クリーニング店も,薬局も,レストランも,喫茶「はらだ」もきれいになくなってしまった.個人的には,新しい建物も良いが,歴史を刻んだレトロな建物もよいと思っている.病に苦しむ患者様や病を克服した患者様,患者様を助けるため日夜努力した白衣姿の医師,看護師があの石段をどのような気持ちで登り降りしたであろう.時には,患者が急変し,不安を抱えながら急いで駆け上がったかもしれないし,時には,最善を尽くしたにもかかわらずお亡くなりになった患者様に向けて無念の涙をこらえながら奥歯を噛みしめつつ階段を降りた時もあっただろう.また,寸暇を惜しんで医学の歴史を塗り替える研究をした教員や大学院生たちは,あの石段を時には歓喜の面持ちで,数段飛ばしで駆け上がったかもしれない.また,時には絶望にうちひしがれながら,足を上げる力もなく,階段に躓くこともあったかもしれない.その摩耗した階段と堂々と美しい踊り場が,長い歴史とそこで暮らした多くの者の魂を宿らせている様に感じる.

歯学部が岡山大学に設置されたのは,昭和54年(1979年)10月,第一期生を歯学部が迎え入れたのが昭和55年(1980年)4月のことである.現在,歯学部は創立36周年となったが,その間ずっと旧混合病棟は歯学部を隣から見守ってくれた.個人的には,昼も夜も,土曜日も日曜日もなく研究をしていた大学院生や若手教員の時代によく御世話になった鮨屋や喫茶「はらだ」がなくなり,保存科補綴科診療室の窓からよく見えた台風の日に大きく揺れるモミの木が切り倒され,旧式のエアコンの室外機やアンテナを外壁や屋上に不安定に備えていた旧混合病棟のレトロな景色が消滅してしまうため,やや寂しさを感じている.そのような感慨をある飲み屋で喋っていると,私の空想にアマチュアのカメラマンの方が興味を示し,写真を撮ってくださるという.壊される前にということで,急遽,槇野病院長に御願いし写真撮影の許可を頂いた.アナログ写真であるためか暖かみのあるとても良い写真となった(図1,図2).個人的にも,この建物が好きで時々写真をとりに訪れていた(図3,図4,図5).これらの写真は,行ったことのある同窓生にはたぶん鮮烈に懐かしい記憶を呼び覚ますことだろう.

歯学部の校舎もすでに建設されて34年が経とうとしている.他の国立大学歯学部に訪れて見るとわかるのだが,鉄筋コンクリート製の岡山大学歯学部棟は外観がやや古ぼけては来たが,構造が強固で,歩いてもしっかり感がある.当時,建設に関わった方々は,たぶん将来を見越して頑強なのっぽビルを建ててやろうと奮闘されたのだろう.その建物からは,日本でも有数の歯学部を建ててやろうという気概が伝ってくる.たぶん,少しお化粧直しをすれば,立派な建物に生まれ変わると思う.もちろん,できれば今の歯学部が目指している新しい方向性,例えば,臨床実習や臨床研修の充実,医科歯科連携の推進,臨床研究や国際交流機能の向上,歯学教育・国際交流推進センターや先端領域研究センターの充実などを可能とする改修を行えば,数十年の使用は可能と思える.現在,歯学部棟の改修計画WGを歯学部内に組織して鋭意議論を進めているところである.

最後に少し述べておきたい.岡山大学歯学部の評価は,輩出された同窓生各々の力に強く依存している.すなわち,各々の同窓生や教員が岡山大学歯学部に係わって来たということを自負したいのであれば,各々が岡山大学歯学部関係者として胸を張れる成果をあげ,日々努力をしている先輩諸君の背中を後輩達に見せつける必要がある.本文章では,たまたま古い建物に対する私の愛着をお話ししたが,組織の発展と存続は,決して建物という器(うつわ)によってなされるのではない.組織に属している先輩と後輩の綿々と続く努力の連鎖の中にしか,組織の発展はないのである.そのように考えると,歴史的建造物としての文化的な価値はさておき,この旧混合病棟の建物自体に大きな価値があるのではなく,摩耗した石段や手すりを生み出した歴史とそこに関わった構成員の絶え間ない血と汗と涙の連続性にこそ,我々が最も尊重すべきものが実在していると考えるべきであろう.私も1人の同窓生として,岡山大学歯学部を世界有数の有名校にすべく,できる限りの努力を払い続ける覚悟である.また,新しい歯学部長もたぶん同様の気持ちで学部運営をされるだろう.その意味で,同窓生諸君も,母校に何をしてもらおうと考えるだけでなく,母校のために何ができるかを考える時期に,そろそろ来たと考えるのは私ばかりではあるまい.

(2015年12月11日,インプラント再生補綴学分野教授室にて)


図1 旧混合病棟の1階から階段の踊り場を見たところ.石の階段も手すりに近い右側が摩耗しており,鉄製の滑り止めで補修がなされている.この視線の先に歯学部棟がある.(石原モトフミ氏撮影)


図2 歯学部東出入り口付近から旧混合病棟を俯瞰したところ.正面1階手前は洗濯場.歯学部棟はこの右にある.右の奥に見えているのが,岡山大学病院外来棟.(石原モトフミ氏撮影)


図3 2階から踊り場を見たもの.石でできている手すりが絶妙な湾曲を呈して摩耗している.階段も摩耗が進んでいる.手すりの下には黒く塗装された鋳鉄製のすかしがある.(窪木拓男 撮影)


図4 踊り場の休憩所.背面は,茶色の皮で覆われており,美しい光沢がある.坐部は木製で深い色合いを呈する.随所に石が張り巡らせてある.サッシは,鉄製で塗装がはげかかっているが,頑丈な風合いがすばらしい.(窪木拓男 撮影)


図5 4階の廊下を東に向かって撮影.この階には小児神経外科や産婦人科の手術室や医局があった.パイプが廊下にむき出しに走っている.やや暗い廊下は東からのほのかな光を受けて,昭和の時間の流れを感じさせる.(窪木拓男 撮影)


図6 歯学部の正面には松尾歯学部長時代に設置されたモニュメントがある.(Zoom Up136岡山大学歯学部用の撮影資料から)


図7 歯学部棟の玄関回りは,森田病院長時代に大幅に改修がなされ,身障者向けの駐車場が整備されている.(Zoom Up136岡山大学歯学部用の撮影


なぜ、国際化が必要なのか、留学で何を勉強すべきか
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



 先日の国際担当副学長 山本洋子教授の役員室だよりに感銘を受けた。本来このコラムは、部局の現状をお伝えするものと解しているが、学生諸君に十分な危機意識が伝わっていない現状を直視するに当たり、私の経験をお伝えし、なぜ国際化が必要なのか、なぜ留学が必要なのかを具体的に考えて見たい。
 私は、岡山大学歯学部が開設された際に入学した1期生である。不躾な表現をお許し頂ければ、私の同級生の歴史は歯学部の歴史そのものとも言えなくもない。大学を卒業した後、歯科医院開業の道もあったが、先輩の誘いもあり現在の医局に大学院生として入局した。専門は補綴(ほてつ)歯科学である。教授の指示の元、大学院時代は、関節軟骨とバイオメカニクスの研究を行い、めでたく歯学博士の学位を頂き、多数の国際学会でも発表も行った。同級生が海外留学に出向く中、その当時の優れた制度であった「在外研究員制度」で、世界的に有名な研究者に師事するため、米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)に32歳の時留学した。大学院時代を含めて8年を費やしてある疾患の治療法に関する書籍(512頁)を医局の教授とともに執筆し、留学先の指導教授に持参した。私は、この書籍の執筆により日本国内においてそれなりの評価を得て、自信に溢れていたのである。留学先の指導教授は、その書籍をぱらぱらと一目見るなり、この本は残念ながら今後の医療に役立たないので、押し入れにしまいなさい。厚みがあって重たいし、枕にするにも硬すぎるという。その意味は、その後の留学生活で嫌と言う程思い知らされることになった。端的に言うと、臨床上の決断は臨床研究からしか得られないこと、また、そうだからこそEvidence-based Medicine(EBM)の確立のため臨床研究の手法に関しては厳密さが求められるというものである。それ以来、私は患者のための歯科医療を確立するため、日本の先駆者と連携して臨床研究デザインの仕事に没頭するようになった。最近では、この流れはRegulatory Scienceに集約されようとしている。詳細はまた別の機会にとっておくとして、とにかく、それまで10年弱も自分の全ての時間を捧げて没頭して来た仕事が、一夜にして海外の新しい潮流によって否定されるようなことが起こりうるのである。もしも、私がこのタイミングで留学していなかったら、世界の臨床研究のレベルには永らく達することはなかった。この米国の師匠には、今でも頭が上がらないし、留学という機会を与えて頂いた日本政府や諸先輩方に感謝の念を覚えずにはいられない。
 一方、留学期間中に米国の師匠に大きな転機が訪れた。米国では、研究計画を国立衛生研究所(NIH)に申請し、採択されれば、自分の給与同様、研究場所の確保やポスドクと呼ばれる研究員を雇うことができる。私にEBMを教えてくれた彼は大変な実力者であったが、私の滞在後期に、トップフロアの広大な研究所から4階の2部屋の狭いスペースに引っ越した。私も、奥歯を噛みしめながら引っ越しを手伝った。さらに、追い打ちをかけるように、その1年後に4階から地下の部屋に引っ越した。彼は、米国の医学研究政策のパラダイムシフトに乗り遅れたのである。当時、米国は、日本の経済発展のあおりを食い、景気後退に見舞われており、科学研究費の削減を進めていた。ただ、さすがにその当時でも、10年後、20年後の国力を支える基盤研究への投資を怠ることなく、分子生物学を基盤としたがん研究、ニューロサイエンス研究、再生医療研究に大きく舵を切り、研究費の選択と集中を進めていた。私も彼と共に夜を徹して予備実験とグラント申請を行い、何とか彼の窮地を救えないかと努力した。しかし、時代の流れは余りに速く、当面の研究費を失った彼が、基盤研究で盛り返す機会は訪れなかった。現在は、ITを駆使した医療教育ソフトウエアの開発に全力を投じている。米国では、このようなことは日常茶飯事であるが、私のように目の前で経験したものはそれほど多くない。私は、サイエンスのパラダイムをほんの少し読み違えただけで、取り返しのつかない後退を余儀なくされるこの世界の厳しさを学んだ。帰国後、口腔生化学の滝川教授の研究室の門をたたき生物学を一から叩き込んで頂き、再び米国に渡る覚悟を決めた。今度はサンディエゴの再生関連の研究所とワシントンDCのNIHに留学し、現在の専門である再生医療や幹細胞生物学を学んだ。我々の分野からは、その後、多数の有給のポスドクが、UCLA、NIH、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、南カリフォルニア大学(USC)に滞在し、私の想像をはるかに超える業績を上げてくれた。また、クオーター制を利用した歯学部独自の短期留学制度ODAPUSにより、毎年15名〜20名がアメリカ、カナダ、オーストラリア、中国、韓国、ベトナム、インドネシア、ブラジル、チリ、シンガポールに、臨床専門医コースの大学院生が、スエーデン、スイス、アメリカ等の有名施設に出向き、短期研修を受けている。このように、志をもつ後輩が世界のトップ校にできるだけ早く留学できるよう環境を整えることが大学(各分野)の本来の役割であると確信している。また、最近では森田学長のご支援を頂き、シンガポールや上海、ハイフォンに歯科医師を派遣、アジアの歯科医療支援拠点として岡山大学が名乗りをあげた。人口減少局面の本邦において、国内で働く医療人を育成するだけでなく、海外で働く日本人の医療支援や海外の大学の教育研究支援を我々のスコープに含めることは必然であると思うからである。後に、UCLAからUSCに移動した米国の師匠は、私の教授就任祝賀会に訪れて、真のリーダー(教授)とは、自分が生み出したビジョンに固執せず、変わり続けることを良しとすること、この新しいビジョンの元に集まり、さらに新しいビジョンを創るためにほんの少しずつの努力を惜しまない部下を得ること、そして、いざと言う局面では、自分のエゴを振りかざすことなく組織全体のために適切なビジョンを共有することができることと言われていたのを思い出す。彼の苦い経験をしたからこその言葉はその後の私の良き指針となった。
 少し長くなったが、私のエールは学生諸君に伝わっただろうか。学生諸君が世界に物怖じすることなく出向き、変化を恐れず、新しいビジョンを創ることが求められている。時代は随分変わって、これまでのアメリカと日本の関係のように、日本はASEAN諸国からポスドクの頭脳を得て、新しいビジョンを形成し世界を牽引する期待を背負っている。できれば、私の様に失われた10年間を経験することなく、日本の10年後、20年後の将来を支えることができるビジョン形成に力を注いで欲しい。井の中の蛙になるのではなく、サイエンスのカッティングエッジに直接赴いて、あの居ても立ってもいられない「わくわくする感覚」を直接味わって欲しい。国際交流や留学は、これまで出会ったことのない異質なものが友情の基に融合し、新しいものが生み出される際に発するあの刺激的で甘美な感覚で君達の頭脳を満たすために必要なのである。
 最後に今一度諸君にエールを送りたい。どうか若いうちに自分の目で世界を見て来て欲しい。諸君が成長し教員になった時に、岡山大学の全ての分野が新しいビジョンを生みだす能力に溢れており、留学先として国際的に注目され続けているならば、岡山大学の未来は安泰であると思うからである。


教授就任11年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



本記事に新任教授というタイトルを冠して10年が経った。そろそろ,別のタイトルにしようと思うが,なかなか良いタイトルが思い付かない。いつまでも新任教授では自覚が足らないと言われかねないので,教授就任11年目とでもしよう。歯学部長としての3年間が終わろうとしているが,まだまだやり残したことがある。この任期最後の1年間を精一杯走り抜けようと思う。この間の苦労がたたってか,薄毛,腹囲の膨張が続き,典型的な中年体型となってしまった。患者様に運動しなさいと言いながら,自分はできないというジレンマに陥っている。今年も一年を振り返ってみたい。
 平成26年度はめまぐるしい1年であった。ミッションの再定義が終了し,通称日本地図が公表された。その中で,岡山大学歯学部のミッションは,「国際社会や超高齢社会で活躍する研究マインドを持つ人材養成,医用材料開発や分子イメージング等の教育研究拠点,医科歯科連携診療」と記述されている。歯学領域において,重要な3つの観点,すなわち,健康長寿社会実現への貢献,医療イノベーションの創出,国際的な医療課題の解決が書き込まれており,まずまずのできと思っている。
 私が歯学部長になってから,文部科学省の調査や全国歯学部長・附属病院長会議で必要性を訴え続けて来た甲斐あって,平成26年度に文部科学省から課題解決型高度医療人材養成プログラムが募集された。なんと,大学毎に申請するのではなく,大学間の連携をとった上で申請をし,全国で2グループしか採択されないという。岡山大学は平成26年当初から,申請担当大学として手を挙げることを決め,執行部各位や医療支援歯科治療部の曽我准教授とともに精力的に準備をしてきた。ミッションの再定義にあるように,現在の岡山大学歯学部の強みの一つが,周術期管理やNSTのような多職種連携診療を歯学教育に応用し,これを在宅介護現場に広めていくことにあるからである。幸い,全国の歯学部長と連絡を取り合って,だんだんとその枠組みがはっきりとしてきた。何しろ,2グループしか採択されないというのであるから,水面下での攻防もあり,大変苦しい思いも味わった。一方で,北海道大学,大阪大学,九州大学,長崎大学,鹿児島大学,金沢大学,昭和大学,日本大学,岩手医科大学,兵庫医科大学の連携大学を得たことは望外の歓びであった。結果的には,私立大学を含めて全ての連携大学が医学部を持つ大学であり,医科歯科連携を強く推進する場を得ることになった。さらには,この歯学教育改革コンソーシアムを最新の老年学のエッセンスで特徴付けるために,東京大学高齢社会総合研究機構,東京大学死生学・応用倫理センター,東京都健康長寿医療研究センター,国立長寿医療研究センターに加わって頂き,その機能やカリキュラムに光を与えた。このプロセスでは,以前文部科学省から大学院GP事業を頂いた経験が大いに役立った。
 4月には,岡山大学が在宅・訪問歯科診療参加型臨床実習を開始したことを記念して,この歯学教育改革コンソーシアムのメンバーに急遽御願いをし,全国の歯学部から参加者を集めてキックオフシンポジウムを開催した。岡山大学からは,宮脇卓也副病院長,前田 茂准教授と私が登壇し,岡山大学の学外臨床講師制度を利用した在宅・訪問歯科診療参加型臨床実習の概要を説明した。また,日本歯科大学から高橋賢晃先生に記念講演を御願いした。さらに,現場からということで,近藤修六臨床講師,吉富達志臨床講師,木村年秀臨床教授に御願いして,本制度の可能性について,素晴らしいご講演を頂いた。今から思えば,忙しいなか,このキックオフシンポジムを強行したことが採択に向けた大きな一歩だったと思える。
 6月には,第123回日本補綴歯科学会が仙台で開催され,東京大学高齢社会総合研究機構の辻教授と飯島准教授にお話しを頂いた。辻教授は本当にエネルギッシュな方で自分の力で何とかこの超高齢社会を乗り切るのだという意気込みが伝わる素晴らしいご発表を頂いた。また,厚生労働事務次官にまでなられた辻先生の立ち位置は,いわゆる「文理融合」そのものであり,住宅政策,医療政策,環境政策,交通インフラ整備等全てが繋がっている包括的なものであることに驚かされた。国を動かすということはこのようなことなのだなあと理解し,歯科がもっと国民の立場に立って国を動かす必要を痛感した。もちろん,この出会いが東京大学と岡山大学歯学部を結びつける大きな原動力になったことは言うまでもない。
 6月末には,ハイフォン医科薬科大学において,国際歯科センターの開設式典に出席した。本プロジェクトは,岡山大学歯学部とハイフォン医科薬科大学の共同プロジェクトである。日本から派遣された中島君は本当によくやっており,地域に溶け込んで,邦人支援に一役買っているばかりか,ハイフォン医科薬科大学歯学部の教育改革に尽力し,今ではなくてはならない人材である。岡山大学歯学部にとっては,シンガポールJGHに続いての歯科医師派遣であるが,ハイフォンの方は全くの初めてという状況の中,Lieu学部長との強い信頼関係もあり,素晴らしい活動に育ってきた。
 7月には,がん化学療法・周術期等の高度医療を支える口腔内管理を具体的に考えるシンポジウムが医療支援歯科治療部の主催,歯学部の共催で開催された。本シンポジウムも3回目となり周術期管理への参画は,我々岡山大学歯学部のトレードマークになった。このシンポジウムで,MASCC/ISOO前理事であり,ISOOの元会長でもあるJudith E。 Raber-Durlacher教授に岡山大学歯学部にお起こし頂き,ご講演を頂いたことは,後にオランダのACTAとの連携に繋がった。また,シンポジウムで医師,看護士,栄養士各位にご講演頂いたことは,医科歯科連携の実質化に強く貢献したといえる。特に,白血病の移植前治療として行われる大量抗がん剤や放射線を減量(骨髄非破壊的前治療)することによって,従来は不可能であった高齢者への骨髄移植が可能となったことを勉強できたことは有り難かった。課題解決型高度医療人材養成プログラムの最終的な申請は6月4日,結果は7月28日に開示になり,岡山大学が申請担当校となった事業は無事採択された。ふたを開けてみると,東京医科歯科大学と岡山大学を中心とした2つのグループが採択され,東西に分かれた形になった。岡山大学歯学部にとって,この採択は大変重要な意味を持っている。5年間にわたって,全国国立大学歯学部の半数以上を含む連携校と一緒に,歯学教育全体を超高齢社会に適応させるプログラムの開発を命ぜられ,歯学教育の先頭に立つミッションを与えられたのである。
 8月には,恒例となっている臨床研究デザインワークショップを開催した。今回からは,岡山大学病院と岡山大学大学院医歯薬学総合研究科が主催となり,歯学部(歯学系)のイベントから大きくグレードアップした。特に,岡山大学病院の新医療研究開発センターの那須教授や樋之津教授にマネージメントに加わっていただいたことは,本プロジェクトの厚みを増し,昨今注目を浴びているレギュラトリーサイエンスと臨床研究方法論を併せて学ぶことができる機会を全国に向けて提供することになった。
 9月には,課題解決型の予算が使用できるようになり,歯学教育改革コンソーシアム設立記念講演会・シンポジウムが開催された。特に,東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢准教授にいらして頂き,老年学を中心にした地域包括ケアの展開を熱くお話し頂いた。飯島先生は,前述のように第123回日本補綴歯科学会で辻教授とともにお話し頂いたのが縁である。エビデンスに基づく虚弱予防のお話しは本当にインパクトがあった。すなわち,メタボ対策の時期を乗り越えた後期高齢者においては,厳密な高脂血症の治療に力を入れるよりも,むしろ良質の栄養摂取や運動を中心とした虚弱予防が重要であることを教えて頂いた。そのためにも,高齢者においては,咀嚼機能の維持が大変重要であることを強調頂き,歯科が立ち向かうべき大きなターゲットを得た気持ちになった。今後も柏プロジェクトとのコラボなど多くの期待されるプロジェクトでご一緒できそうである。また,昭和大学から片岡教授や弘中教授,大阪大学から池邉講師にいらして頂き,コンソーシアムの結束を固めるに大変有意義な会となった。
 9月8日には,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科が申請した橋渡し研究加速ネットワークプログラム「健康寿命の延伸を目指した革新的医療研究開発拠点」が採択された。本事業は,すでに岡山大学病院が採択されている臨床研究中核病院整備事業に加えての快挙であり,旧帝大に加えて岡山大学と慶應義塾大学が採択されたという点からも大変嬉しい成果である。この申請のヒアリングにも歯学系代表として参加し,健康寿命の延伸を目指した医療機器開発という面で,課題解決型高度医療人材養成プログラム採択によりお墨付きを頂いた歯学教育改革コンソーシアムが役立ったことは言うまでもない。
 10月には,ソウル国立大学での再生関連のシンポジウムに招かれ発表した。ソウル国立大学の歯学部長のProf。 Leeは,第2回岡山医療教育国際シンポジウムからの友人であり,学生交流や研究者交流を再開することで合意した。韓国トップ校であり,立派な歯学部附属病院の建て替え作業を行っており,羨ましい限りである。11月には,ハノイ医科大学で創立100周年記念式典に出席し,日本(岡山大学)の歯学部のカリキュラムや分野構成をベトナムの全歯学部長の前で発表した。ベトナムの歯学教育は今まさに劇的に発展しようとしており,日本をよいお手本としようとしている。また,ハイフォン医科薬科大学では,創立35周年記念式典に出席し,周術期管理に関する講演を行った。6月同様,日本に対する強い期待をひしひしと感じる機会となった。また,11月末には,プロソ14を日本補綴歯科学会主催で開催した。近年の審美歯科領域の歯科臨床の進歩を学べる機会となり,若手にとっては大変魅力的な臨床研鑽会となったと思う。今後は,より具体的な技術を教えるテーブルデモンストレーションや実技セミナーを開催し,補綴学会がガイドライン等で推奨する治療法を全員の専門医が実施できるようにする必要があろう。
 12月には,フン講師とハ講師がハイフォン医科大学から来日し,2カ月の研修を行った。1月には,昨年から開始した短期留学生(特別聴講学生)向けの英語授業シリーズを開校した。本年度は,ブラジルから6名,台湾から4名,ベトナムから2名が来学し,学生主催のウエルカムパーティと英語授業,臨床見学実習,研究室見学に参加した。英語授業シリーズは,教養科目として正式に登録され,毎年開講されることになった。
 2月には,課題解決型高度医療人材養成プログラムのキックオフシンポジウムを開催した。文部科学省から島居剛志医学教育課長補佐にお越し頂き,本プログラムの目的や採択状況についてお話を頂いた。また,東京大学死生学・応用倫理センターから会田薫子准教授に「長寿時代のエンドオブライフケア」についてお話しを頂いた。いつもながら,歯科のふがいなさを考えさせられる素晴らしいご講演であった。また,医学部歯科口腔外科の研修医教育の状況について,現在全国医学部附属病院歯科口腔外科科長会議会長の野口先生,事務局の丹沢先生に来て頂き,現状についてお話し頂いた。また,連携大学からは各校特徴ある教育活動についてご発表頂き,長崎大学や鹿児島大学の離島実習など興味深く拝聴した。何よりも,各連携大学や協力施設の先生方のお人柄が素晴らしく,夕方の懇親会では本当に意気投合した。
 最期に,文部科学省 科学技術試験研究委託事業である分子イメージング研究戦略推進プログラムが最終年度となり,International Symposium on Bio-Imaging and Gene Targeting Sciences in Okayamaを開催した。理化学研究所からは西道先生にいらして頂きアルツハイマー病の最新知見をご発表頂いた。また,岡山大学の松浦教授にはOMICで推進されている分子イメージング研究の現状と将来展望についてお話し頂いた。本シンポジウムでは,久保田教授,松本教授,大橋教授,上岡教授にコーディネーターとなっていただき,国内外の有名研究者を招聘し,先端研究を垣間見ることができた。関係諸氏に厚く御礼申しあげたい。
 このように改めて並べてみると,本当に忙しい一年であった。しかし,課題解決型高度医療人材養成プログラムの採択が,橋渡し研究加速ネットワークプログラムの採択に結びつくように,良い風を吹かせ続けることができれば,岡山大学はますます発展すると確信している。昔,留学先のクラーク教授が,リーダーになるべき人物の必要条件として,進むべき道についての正しいビジョンとそれを実現する実行力,忍耐力を持つこと,自分のために少しずつ犠牲を払って働いてくれるよい部下をもつこと,そして,いざと言う場面では,組織全体の前進のために自分のエゴを振りかざすことなく適切に道を譲ることができることと言われていたことを思い出す。私に優れたビジョンがあるかどうかはわからないが,少なくとも,私にはほんの少しの無理を押してでも助けてくれる部下がいる。このことの有り難さを心から感謝して,長文となった今年のご挨拶の筆を置きたい。

タイ・マヒドン大学と交流協定を締結


ベトナム・ハイフォン医科薬科大学に国際歯科センターを設立


韓国・ソウル国立大学で講演


ハノイ医科大学歯学部長Prof。 Dungと


ハイフォン医科薬科大学よりHuong講師とHa講師が来学


課題解決型高度医療人材養成プログラム採択




新任教授,10年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



同門会の皆さん,お元気でしょうか.窪木の方は,皆さんのご支援を頂き,もう一期歯学部長を務めさせて頂くことになりました.矢谷理事長の下,日本補綴歯科学会の学術委員長を仰せつかっていることもあり,医局員の先生方には大変なご苦労をおかけすることになりそうですが,全力で岡山大学歯学部,ひいては国民に貢献したいと考えています.どうかご理解を頂き,さらなるご支援を頂けましたら幸いです.さて,歯学部の近況をご紹介したいと思います.まだ未完でありますミッションの再定義と第3回岡山医療教育・研究国際シンポジウムが,今年度の岡山大学歯学部の将来を占う重要イベントでした.
 ミッションの再定義から説明致します.国家財政が逼迫している中,文部科学省や財務省から,なぜ岡山大学歯学部は国立大学である必要があるのか,なぜ国立大学である岡山大学歯学部が岡山に存在する必要があるのかと問われたのがミッションの再定義と呼ばれる組織目標再設定です.これを一言で表現ができればよいのですが,歯科医師養成というコアカリキュラムを広く達成する必要に迫られるなか,なかなかそのプラスアルファの部分の個性を一言で言い表すのは簡単ではありません.全国の国立大学がこのような問を浴びせられ,これにエビデンスを持って応えるように指示を受けたのが本事業です.岡山大学歯学部でも,有望な若手の教員を中心とした将来構想検討WGを組織し,あらゆる面から歯学部を評価するエビデンスを諒承しました.岡山大学歯学部には,口腔保健学科がありません.すなわち,歯科医師養成に特化した国立大学です.一方,岡山大学の臨床医学分野の研究業績は第2層に位置し,トムソンロイターの歯学系論文カテゴリーにおける総被引用数は全国の国立大学で2位,論文あたりの相対被引用数はこの10年間全国1位となっています.長崎大学歯学部と同じく,最も若い歯学部であり研究力も高いのが特徴です.文部科学省の科学研究費補助金の採択率も岡山大学の他の部局と比較してもダントツです.歯科系大学病院の診療報酬請求額も,①東京医科歯科大学歯学部,②大阪大学歯学部,③岡山大学歯学部,④北海道大学歯学部,⑤九州大学歯学部,⑥東北大学歯学部と優れています.また,診療参加型臨床実習の充実に欠かせない外来歯科患者数も,東京医科歯科大学に引き続いて,大阪大学,北海道大学とともに第2位グループを形成しています.同窓会員の現住所をまとめて見ると,①大阪府,②岡山県,③兵庫県,④広島県,⑤京都府となっており,関西圏から中国地方にかけて優秀な歯科医師を供給している中国地方随一の歯学部と言っても良いかもしれません.最近では,医療支援歯科治療部(周術期管理センター)やスペシャルニーズ歯科センターを核とした医科・歯科連携が岡山大学歯学部の売りであります.また,在宅介護医療における歯科の役割を教育するシステム作りでも1日の長があります.この医科・歯科連携が効を奏したのか,文部科学省 研究大学強化促進事業,ガンプロ養成基盤プログラム拠点校,厚生労働省 臨床研究中核病院支援事業のような巨大グラントが立て続けに採択されており,岡山大学医療系学部が関西圏〜中国四国地区の中核医療教育研究機関であることは間違いないでしょう.この結果を見て,岡山大学歯学部が国立大学として継続支援されるべきと判断されることを心から願うばかりです.
 一方,本邦の経済の停滞や留学生の減少をバックグランドに,歯学部における国際交流が新たな重要競争テーマとして浮上しています.人口が減少局面に至ったこともあり,本邦が国際社会においてガラパゴス化されたままではどうにも勝ち残れないことが明白になったのです.官邸や文部科学省は,世界大学ランキングの100位以内に10校の国内大学を送り込もうとしており,そのための支援を政策的に推し進め始めました.例えば,平成26年度に募集されるスーパーグローバル支援事業がそれです.シンガポールのように,優秀な研究者を年俸制で日本に招聘すること,世界的なラボをラボごと日本に招くことなどもそのビジョンに示されております.少なくとも,国際社会で生き抜くためのスキルを身につけるため,学部レベル,大学院レベルでの国際交流を積極的に推進するように国家的なドライブが掛かっているのです.幸いにも,永井名誉教授が創設されたODAPUSに代表されるように,岡山大学歯学部はこれまで盛んに国際交流を進めて来ています.平成25年に至っては,歯学部生53名のうち14名が海外の大学(大連医科大学,カリフォルニア大学,サスカチュワン大学,ハサヌディン大学,ハイフォン医科大学,ブリティッシュコロンビア大学,台北医学大学,サンパウロ大学)で数ヶ月学んできています.なんと,平成13年から平成25年までに,80名の学生が海外で短期留学を経験してきたことになります.昨年度から,皆木教授に御世話をいただき,インドネシアのハサヌディン大学から2名の非常に優秀な学生をODAPUSと同時期に受け入れました.今年は,これをハイフォン医科大学,台北医学大学,サンパウロ大学などに拡大しています.このために,留学生向けの歯学部英語講義シリーズを開講し,大変好評を博しています(図1).来年度は,岡山大学として,何が何でもスーパーグローバル支援事業を獲得することが期待されています.
 そのためというわけではないですが,岡山大学歯学部は今年,第3回岡山医療教育・研究国際シンポジウムを開催しました(図2〜5).カナダのトロント大学歯学部,台湾の台北医学大学歯学部,ブラジルのサンパウロ大学歯学部,タイのチュラロンコン大学,マヒドン大学歯学部,マレーシアのマレーシア大学歯学部,モンゴルのモンゴル大学歯学部,バングラデシュのサフェナ女子歯科大学,中国の中国医科大学,大連医科大学,香港大学,インドネシアのハサヌディン大学,韓国のソウル大学,シンガポールのシンガポール大学,ベトナムのハノイ大学歯学部,ハイフォン医科大学,アメリカのルイジアナ州立大学歯学部などから歯学部長クラスの要人を多数迎え,岡山大学歯学部との連携を確認し合いました.山下 敦先生にもご来駕頂き,心から感謝を申しあげております(図6).特に,今回アジアからお呼びした学部長により,アジア学部長会議を創設し,アジアの歯科医学教育・研究の連携強化と個人的な親睦を図ることができたことは,アジアの各国の主要歯学部に「研究力があり医科・歯科連携が盛んな岡山大学歯学部あり」という記憶を永く残したことと思います.このような経験を通じて,アジアの国と国が本当にボーダーレスの世界に突入していることを強く感じるとともに,うかうかしているとアジアの有名校から大きく引き離されてしまうという危機感も同時に感じます.このような中で,シンガポールのJGHに小野先生と縄稚こずえ先生を派遣したことに引き続き,ベトナムのハイフォン医科大学に中島君を派遣して,International Dental Centerを開設することになったことは大変喜ばしいことです.中島君には,アジアの歯科大学や歯科医療現場に関連企業とともに懐深く潜入して,日本の実力を見せつけて欲しいと思います.
 医局の内側に目を向けて見たいと思います.東京理科大学の辻ラボから,大島君が器官原基法による歯胚,唾液腺,毛根の再生の業績を引下げて医局に華々しく帰還されました.辻先生が来年度より理化学研究所発生・再生科学総合研究センターに移られるとのことですので,今後のさらなる展開が楽しみです.また,大野 彩先生が,新医療研究開発センターに移動されました.このポストは,臨床研究中核病院整備事業に伴うものですが,本当の意味で臨床疫学やレギュラトリーサイエンスに貢献できる人材をと募集がかかった際に歯科系から選ばれたものです.選ばれたこと自体が大変光栄ですが,樋津先生と日本の最高峰の臨床疫学ユニットを形成し,京都大学と並ぶ臨床疫学のメッカを形成して欲しいと思います.水口真実先生には再度助教になって頂きました.医科歯科連携が岡大の売りであることは述べたとおりですが,それを実践し,学生教育に結びつけていくことが歯学部の目下の大きな目標です.水口真実先生にはこれまでも学生教育に大変ご尽力頂いておりますが,周術期や在宅介護の教育にもご参画を頂き,厚生労働科研や文部科学省 課題解決型人材養成事業の申請にもご尽力頂ければと思っております.松香先生が徳島大学にご栄転されたあと,前川准教授,水口講師,園山講師の執行体制がしかれて来ました.今年度をもって園山講師が退局されることになったのは,仕方がないとはいえ,大変残念です.園山先生は,米国NIH,USCと留学されたこともあり,秋山君や大野君の留学のきっかけを作られ,医局の中でバイオ系という研究グループを率いて来られました.また,永らく外来医長の要職に就かれており,医局の人員配置のやりくりに苦心されて来ました.これまでも,完山先生や荒川先生というビッグボスの喪失ショックを乗り越えてきた医局ですが,患者診療や臨床教育という面での弱体化は否めず,今回ばかりはリーマンショックならぬ園山ショックに襲われるのではないかと心配しています.
 今年は,本当に息をするのを忘れるような忙しい時を過ごしました.来年度は,平成19年度から採択されている岡山分子イメージング高度専門人材育成事業や平成25年度から採択された分子イメージング概算要求プロジェクト研究により国際シンポジウムを開催予定です.また,日本補綴歯科学会中国四国支部と関西支部の共催学術集会が近藤大会長の下,倉敷芸文館で開催されます.さらに,平成27年度には,日本で最も大規模な学術大会となる日本口腔インプラント学会をこの地岡山で開催することになっております.このような多忙な毎日ではありますが,多忙にかまけて自分自身の本分を忘れることなく日々邁進したいと思います.いつも医局で話しますが,故郷の平櫛田中翁の「今やらねばいつできる.わしがやらねば,たれがやる.」という言葉を思い浮かべながら,毎日少しずつの努力をしております.同門会の先生方の益々のご尽力を頂戴し,今一年精一杯努めさせて頂けたらと思っております.

図1



図2~5






図6





新任教授,9年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



この3月末で歯学部長としての任期1年目を終えようとしています。十分な成果が上がったかどうかは確信が持てませんが,岡山大学歯学部,ひいては地方の国立大学歯学部がおかれている状況が全体感を持って理解できた年でした。教授会の議長は,思ったよりも大変でした。なれない司会はもちろんですが,国立大学歯学部として,診療参加型臨床実習の充実を果たしながら,研究大学に残れるかどうかの大競争時代に生きており,全国の歯学部の動向を注視しながら,学部内の改革を進める必要がありました。教授会のあるべき方向とは,岡山大学歯学部がより競争力のある組織となるために限りある資源をどのように活用すべきかを議論し実行することです。しかし,時によっては,総論賛成,各論反対となりがちです。なぜなら,教授各位は各分野の利害を背負って教授会に出ておられるため,どうしても学部の未来と自分の分野の利害が一致しない場合があるからです。こんな時は,窪木の教授就任祝賀会でUCLAのクラーク教授が祝辞として述べられた言葉を思い出しては,毎回謙虚な姿勢で教授会に臨むようにしています。すなわち,よい教授の資質とは,来るべき近未来に向けての適切なビジョンを持つこと,そのビジョンを実現するための確実な実行力を持つこと,そして最後に,必要があれば,組織全体のために自分の利害を超越した謙虚な行動をとれることです。これは決して簡単ではなく,私自身,学部長として,毎日自問自答を繰り返しています。

 さて,今年度もたくさんのことがありました。時系列に添って述べてみたいと思います。4月からは,ベトナムからハイ君が大学院生として来学しました。ベトナムとの交流は随分進展し,本年度も秋に矯正歯科にアンさんとフイさんが訪れ,教員レベルの有意義な交流が行われています。今年は,いよいよ学部レベルの交流が開始されます。皆さんご存じのODAPUS制度でベトナムに学生を派遣するのです。日本の企業が大挙して投資を開始しているベトナムに学生諸君が興味をもって訪れ,ぜひよい経験を積んで帰って欲しいものです。また,ハイフォン医科大学の未来を託すため,満を持して日本に投入されたハイ君の検討を祈るばかりです。

 6月3日には,松香先生が徳島大学の板東教室の主任教授として選出され,同門会主催の祝賀会を開催しました。自分の分野の准教授が国立大学の主任教授として栄転するという栄誉に浴したことは,本当に喜ばしく,松香先生には心から感謝を申しあげます。この結果は,先生のたゆまない努力と決してあきらめない精神力の成果と考えます。ましてや,転出先は私が若かりし頃,山下教授とは違うアプローチではありましたが,日本を代表する咬合学者として大変ご活躍であった板東教授や中野教授の御教室とあっては,快挙以外の何ものでもありません。松香教授におかれましては,板東教室の優れた人財をモチベートされ,ぜひ板東先生同様歴史に残る大教授として語り継がれるような仕事を成し遂げていただければと思います。とはいっても,これからバイオの実験室を立ち上げ,あの痛みの実験を進められるのでしょうから,上手く成果が出るまでには時間もかかるでしょう。我々でできることは何でもお手伝いしたいと思っております。先日,初めて非常勤講師にお呼び頂いた際には,医局を上げて大変ご歓待を頂きました。その時,私はあまりに気持ちよく若手の先生方とお酒を頂いたため,久しぶりに前後不覚となってしまいご迷惑をお掛けしました。今度,伺うときにはもう少し上品に,岡山をアピールしたいと思っております。

 7月に骨代謝学会で招待講演をされるマリアン・ヤン先生を牛窓にお呼びしたOkayama Univ - NIHジョイントセミナー(図)も大変楽しいイベントでした。園山先生,大野先生,前田先生,笈田先生,正木先生,吉岡先生が御世話になっているマリアン先生は大変気さくな良い先生で,懇親会も大変盛り上がりました。また,7月19〜21日には,日本歯科医学教育学会を岡山大学歯学部(松尾龍二大会長)が主催しました.初日の文科省の特別講演を含め,多職種連携,TBLなど最近の教育関連のトピックスをふんだんに取り入れたプログラムを盛会裡に終了することができました.その翌日の22日に周術期口腔機能管理料新設記念「周術期における口腔機能管理を具体的に考える実務者会議」を開催するとアナウンスしたところ,全国の大学病院などから300人の定員があっという間に埋まる聴衆を得て,近年まれなる盛会の勉強会となりました.岡山大学病院がこの方面で伸びようとしているという意思表示をしたこの会議の成功を受けて医療支援歯科の准教授ポストが槇野病院長から頂けることになり,曽我准教授が誕生する運びとなりました.

 例年どおり,森田 学教授と共同でさせて頂いた研究デザインワークショップに加え,宮脇卓也教授主催のOSCEワークショップ2,山城 隆教授とご一緒したハイフォン医科大学への出張(図),榎本秀一教授を中心とした理化学研究所との分子イメージング講義シリーズが入り,夏も大変忙しい時を過ごしました。秋には,補綴学会の京都国際ワークショップ(図)が開催され,アメリカ,スイス,インド,韓国などから著明なお客様が来られ,補綴専門医の制度設計に関する危機感を共有しました。補綴の治療オプションとしてインプラントを公式に認めた上で,患者の立場に立って他の治療法と比較して選択できるのは唯一補綴専門医であること,今後の人口構成の超高齢化に伴って全身疾患をもつ患者の補綴歯科治療のニーズが増えることなどが確認されました。本内容は,補綴歯科学の専門性に関する京都ステートメントとしてまとめられる予定です。その中で特に強調されたのは,臨床現場にイノベーションを生み出す力がなければ,一般開業医との大きな差は認められないことから,やはり格段の研究力が大学組織には求められているということです。日本の古都,京都でワークショップが開催されたこともあり,素晴らしい国際交流事業となりました。懇親会は,八坂神社のそばの素晴らしいレストランで,国籍を超えたみんなで京都の夜を満喫しました。このお陰で,スイスのベルン大学のRegina Mericske教授と窪木が知り合いになり,古味先生がスイスに短期留学することができました。

 研究面でも大きな進歩がありました。秋山先生がSongtao Shi先生のところから,Cell Stem Cell(impact factor: 25.421, 2011)掲載というすごい業績をひっさげて帰国されました。炎症,免疫,再生という連関はまだまだ新しい研究成果が期待されるところですので,今後益々の活躍を願っております。また,私が永らく関わって来た分子イメージングの概算要求(特別経費)が採択されたことは大変な喜びとなりました(3年間,初年度は約4000万円)。まずは,3年間も医歯薬学総合研究科の優先順位1位にしていただいた研究科長に御礼を申しあげる必要がありますし,薬学の榎本教授や忠田総務課長と文科省に3年も通い詰めた努力が実った成果でもあります。本当であれば,もっと早く採択されるはずであったのですが,震災の影響もあり,なかなか上手く行きませんでした。今年は,新しい自民党政府の成長政策に合致する形に衣替えを行い,成功しました。幸い,同時に小動物用のMRIが採択されたため,岡山大学のイメージング環境は,PET/CT,SPECT/CT,CT,MRIと近隣にない程マルティモダリティな環境となりました。本当に有り難いことです。この経費を用いて,理化学研究所と岡山大学医歯薬学総合研究科の分子イメージング研究が益々進展することを願ってやみません。ぜひ,我々の分野としてもこのような研究に取り組みたいと考えています。

 補綴学会のことを少し書いておきたいと思います。現在,私は中四国支部の支部長とJPR編集委員長を仰せつかっております。現時点では,Journal of Citation Reports (JCR)にJPRが掲載され,インパクトファクターが付くかどうかは不明ですが,この2年間前川幹事と大変な努力を払って,JPRのプロモーションや論文執筆に勤しみました。やっと,お役ご免かと思っていたところ,矢谷先生が来年度から補綴学会の理事長となられることもあり,学術委員長を拝命することになりました。今年以上に忙しくなり,医局の先生方には大変ご迷惑をお掛けすることになりそうです。矢谷理事長をお支えするのは,同門会として大変重要な責務です。これまで頂いたご恩をお返しするつもりで,補綴の未来をまず夢想して,取りかかろうと思っております。その下準備というわけではありませんが,2013年の3月末に,若手の研究者を集めて,下津井のホテルで未来の補綴学を夢想する勉強会を開きます。矢谷理事長誕生に向けた助走がすでに始まっていると言えます。

 最後になりましたが,松香准教授ご栄転に関連して,前川准教授(副診療科長),水口講師(医局長),園山講師(外来医長)の新執行部体制が誕生しました。この体制で,さらに新しい歯科のビジョンを掲げ,「志と覚悟」をもって医局運営に当たりたいと思います。もちろん,私の力だけではどうにもならない時代に突入したのもひしひしと感じていますが,失敗を厭わないチャレンジ精神を若手の先生方と共有しながら,「一旗揚げる」をもう一度目指す,夢を忘れない医局運営を行いたいと思います。もう一年になりましたが,必死で歯学部長の任期を疾走します。ぜひ,同門会の先生方におかれましてもご協力を宜しく御願い申し上げます。
2013年3月20日




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新任教授,8年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



昨年度は激動の一年でした。同門会誌の編集時期が変更になり,さらに長い一年だったように感じます。
 平成23年2月には,副研究科長として分子イメージングのキックオフシンポジウムを開催し,医療系分野の新しい研究の潮流を直接感じとることができました。この機会に,岡山大学医歯薬学総合研究科と理化学研究所との連携はますます強化され,10月には理化学研究所の神戸分子イメージング科学研究センターのチームリーダー各位を迎え,講義シリーズを2週間にわたり開催しました。さらに,平成24年になり,「先端医学研究のトレンド2012」として,理化学研究所のバイオリソースセンター長小幡裕一先生,生命システム研究センターチームリーダー岡田康志先生,さらには京都大学再生医科学研究所の中辻憲夫教授を迎えての講演会を開催しました。本当の意味での異分野融合を実感させるこの3つの試みは痛いほどの刺激を我々にもたらしました。
医局においては,アジアを中心にした臨床・教育・研究連携も軌道に乗ってきました。シンガポールには我々の分野の出張先として,JGHデンタルクリニックがあり,現在,小野先生と縄稚梢先生が頑張ってくれています。国内だけに目を向けていると歯科医師過剰が目につきますが,アジアの諸外国は現在歯学部を設置しつつあり,歯科医師は不足しています。さらには,最近の円高を受けて,多数の有力企業が社員をアジア諸外国に派遣しており,アジアで働く日本人の歯科治療を受け持つ医療機関が必要とされています。このような国際医療貢献も我々医局の大きな役割の一つであると認識しています。何よりも,シンガポールという場所が,異文化融合のアジアの中心地として魅力にあふれています。今後,いろいろな先生がこの魅力的な地で働くことを経験してくれればと期待しています。
ベトナムのハイフォン医科大学からも11月,12月,1月の3カ月,ハイ君とクイン君という2名の留学生を受け入れました。彼らは,ハイフォン医科大学ではエリートで,ある意味,インプラントや口腔外科手術等の臨床面では彼らの知識は我々よりも優れたものがありましたが,ベトナムの歯学部組織を成熟させていく原動力になる彼らにとって,岡山大学での教育や研究の経験は貴重であったものと思います。この平成24年4月から,ハイ君が外国人留学生として大学院博士課程に入学してくれることになったのも,諸先輩方の指導のお陰と思っています。海外からの留学生も,エミリオ君,タレック君,ハニー君に加えて,ハイ君,そしてもう一人,この4月からファラハト君がやってきます。エジプトからの留学生が3名になりますが,エジプトはかなり優れたサイエンスをやる土壌が歴史的にあると思っています。指導を頂いている先生方にとっては,文化や言葉の問題など大変な負担もありますが,これが花開いた時にはびっくりする程の業績が生まれるものと期待しています。何よりも,英会話をする機会が増えるのが最もよい影響かもしれません。
一方,医局から留学している先生方の研究面での活躍はすばらしいものがあります。大島君は歯胚の再構成で有名な東京理科大の辻ラボに特任助教として留学中ですし,前田さんは大野君の研究を引継ぎ米国国立衛生研究所(NIH)に留学中で,さらに2年間の学術振興会のグラントを獲得したとのことです。この2月から内部君がフィラデルフィア小児病院にポスドクとして留学しました。このように継続して有給の研究員として海外のラボで受け入れていただけるのは,これまでの先輩達の血のにじむような努力が認められているからです。特に昨年のビックニュースは,秋山先生,下野先生,大島先生が海外の超有名学術誌(例えば,Nature MedicineやPLoS ONE)に論文を執筆されたことでした。海外留学生活で日々研究だけをやっていてもなかなかこれらの雑誌に原著論文を掲載することが難しいのはご存じのとおりです。医局においてはもちろん,日本補綴歯科学会でも本当に珍しいことです。このようなすばらしい人材が,国内で業績が低迷するようなことがないよう,医局の環境整備に務めなくてはなりません。

話は変わりますが,平成24年度の診療報酬改定では,昨年度お話しした「周術期管理歯科」関連の診療費用請求が可能となりました。一人あたり1000点を超えるもので,医療連携に対する厚生労働省の意気込みを感じます。また,「口腔機能維持加算」が,従来の口腔機能維持加算(体制加算)30点に加え,重度者への月4回以上の直接介入により110点が請求可能となります。これは,急性期病院から在宅介護現場に至る医療連携の価値を国民や行政が感じ始めたことを意味します。地域の中核病院に配置されている歯科のあり方を根底から考え直す必要を感じざるを得ません。また,インプラント義歯も外傷による骨欠損や腫瘍の切除後に限定されるとは思いますが,保健導入が決定されました。これも,ある意味エポックメイキングなものです。先進医療に認可されていたものが保健に導入されるという道筋が機能し始めたことを示すからです。今後も,我々医局から先進医療へ認可されるような新技術を投入することができれば,保健導入が可能となるでしょう。

最後になりましたが,平成24年の年が明け,歯学部長選挙があり,窪木が岡山大学歯学部長に選ばれました。ある意味,窪木自身がつねづね主張している「志と覚悟」をこの2年間試されることとなりました。志が夢に終わらないよう,改革が成し遂げられるよう覚悟を新たにしています。これまで諸先輩方が築かれてきた岡山大学歯学部のよき伝統を守りながら,新しい歯科医療ニーズを支えるため歯学教育改革を着実に進める所存です。また,アジアを中心にした国際化,中四国の中核歯学部として病診連携を強力に推進したいと考えています。医局にとっては,人事が大きく動いているこの時期に,窪木が歯学部長となることは困難も多いと予想されますが,山下教授や矢谷教授が培われた医局内外の先生方の愛医局心を結集して,この難局を乗り切りたいと考えております。ご協力の程,心より御願い申し上げます。
2012年 吉日


図 岡山分子イメージングキックオフシンポジウム開催(2011年2月)


図 AAP上海で,古谷野理事長,矢谷副理事長と(2011年10月)

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新任教授,7年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



もうそろそろ,新任教授と自称するのも憚られるようになりましたが,10年目まではこのままのタイトルで行こうと思います.さて,あっという間に7年が過ぎてしまいました.私が思ったよりも教授職の仕事の内容は管理運営面が重たくなり,この流れは(私が歳をとったからでしょう),今年度から加速度的にその傾向を増しています.

今年は,副研究科長という重責を担わせていただき2年目になります.この間に2つほど大きな仕事をさせていただきました.一つは,文科省の分子イメージング研究戦略推進プログラムで,「岡山分子イメージング高度専門人材育成事業」を採択に導いたことです.独立行政法人理化学研究所との連携大学院事業を核に文部科学省概算要求事項として本プログラムをまとめ,その内容で文部科学省に槇野研究科長の代理としてプレゼンに伺い,無事採択されました.これも,3年前に取組実施責任者として大学院GP事業の申請,採択というプロセスを経験していたお陰で,文部科学省でのヒアリング等大舞台にひるむことなく対応できた結果と思っております.岡山大学大学院医歯薬学総合研究科としても大きなヒットがなかった中での全国レベルの採択で大変光栄なことでした.平成23年2月2日のキックオフシンポジウムも多数の演者をお招きし、大いに好評を得ました。

もう一つは,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯学系と岡大病院歯科系の総合的将来構想の策定と実施です.長年,山下名誉教授や村山名誉教授が苦慮された,特殊歯科総合治療部の改組と人員配置がこれにあたります.特殊歯科総合治療部には,第一総診,第二総診,第三総診がありました.第一総診は,江草准教授をチーフとして障害者歯科,摂食嚥下リハビリテーション外来を担当しています.岡山市のER構想との関係から,障害者歯科は岡山大学病院と旭川荘に重点的に担当させることになり,第一総診は,特殊歯科総合治療部から外れて,「スペシャルニーズ歯科センター」として拡大改組されることになりました.第二総診の方は,永らく,易感染宿主と重症感染症患者の両方を受け入れるクリーンルームとして機能してきましたが,医科の白血病や抗がん剤治療に伴う易感染宿主への口腔感染制御,医科や歯科の外科手術に関連した周術期管理を主要なターゲットして,特殊歯科総合治療部が名称変更して「医療支援歯科治療部」として再出発します.第三総診は,歯科恐怖や有病者歯科が担当でしたが,その本質は歯科麻酔科の外来機能であるため,歯科麻酔の有病者歯科外来として稼働させることになりました.将来,予算が確保できた場合には,重症感染症外来を別に作ることでも合意しています.

このようにしっかりした枠組みができましたので,次に取り組んだのは人の配置です.これまで,歯学部の教授会は人事の件ではなかなかまとまらず,総論賛成,各論反対で,多くの良い案が生まれては消えてきました.今回も一度は廃案になりかかるという紆余曲折がありましたが,最終的には,「スペシャルニーズ歯科センター」に病院助教を1名増員,「医療支援歯科治療部」に歯周科の曽我君を移動して,予防歯科の助教を1名増員し,本治療部へこの1名(予防歯科併任)を移動し,本治療部の専任教員は2名としました.また,歯科放射線の病院内での役割を総合診断室に拡充するため,総合診断室に専任教員(歯科放射線科併任)を1名付けることとしました.このように,医療支援歯科治療部を中心に非常にアグレッシブな人員配置が可能になったのは,研究科と病院の人事を同時に動かすことを可能にした歯学部将来構想検討部会が確立されたためと考えます.今後も,このような将来構想のあり方が継続できれば,歯学系のよい意味でのスクラップアンドビルドが可能になると考えます.

話しは変わりますが,平成22年5月22日の山陰中央新報に,島根経済同友会代表幹事の宮脇和秀氏の「日本の政治に望む 国家や国民,国益守って」という論説が掲載されています.その中に,次のような一節があります.「力強く高度を安定飛行し続けてきた日本がこの十数年,ダッチロールを繰り返し,徐々に高度を下げ危険空域に入ろうとしている.(中略) 将来,この国が何で飯を食うのかという明確な国家ビジョンと,それを実行する具体的な施策,財政的裏付けが見えない」,私は政治活動を許された身ではありませんが,全く同感です.なぜこのような状況になったのでしょう.なぜ,米国からは,iPhoneやiPadが生まれ,日本からはそれの良くできたコピー製品しか生まれないのでしょう.日本で創られたこれらの類似品は世界のスタンダードに合わせて創られることはあっても,世界のスタンダードを率いるようなイノベーションの力がないように思います.その結果,国内のマーケットのみを対象にした類似品が多数生産され,縮小しつつある国内のマーケットをみんなで取り合う状況となるのです.これでは,各人がいくらがんばって働いても仲間内の利益を取り合う閉鎖空間のエゴイスト集団になってしまいます.

同窓会誌にも書かせていただいたのですが,全ての面においてグローバル化が進んでいる昨今,日本に求められているのは,国際社会の中でリーダーとして生き抜くという「志(こころざし)」です.世界第2位の経済大国であったはずの日本は,世界に出て競い合い,もまれて,世界の中の賢人国家として,環境対策とイノベーションを両立する国際先進国家になるしかないのに,ハングリー精神を忘れた新たな世代は,現在の豊かな時代を享受することには長けていますが,海外留学や海外派遣を通して新しいアイデアを育み,世界を牽引するビジョンを形成することには苦手意識があるようです.近年の卒業生を見ていると,人生にリスクとスリルを持ち込むことに拒否反応を示し,安定志向に安住するようになってしまったのではないかと心配になります.

これに同調するように,民主党政権になってから,世間には自由競争を嫌う風潮が生まれているように思います.この国際社会において,どこの分野に首を突っ込んだら競争をしないで済まされるのか,競い合うことなく護送船団方式で表面的な友人面をしていれば,国家や病院は守られるのでしょうか.そんなことをしていたら,黒船が来襲して,あっという間にスタンダードが塗り替えられてしまうかもしれない.肉体労働をして仕事をやった気になるのではなく,世界をリードする新しいアイデアを持ち寄り,アドレナリンを出し合って,その活力のなかから明日の日本の力を育てる必要があるはずです.日本には,資源もなく,土地もないわけですから,新しいものを作り出す頭脳とハングリー精神こそが生命線ではないでしょうか.

今年,学部の命を受けてベトナムに出張しました.大学院GP事業で知り合ったハイフォン医科大学の学長を訪れるためです.ベトナムの歯学部の環境は決して豊かではありませんが,新しいものを学ぼうという意気込みは並大抵ではありません.そのなみなみならぬ熱意に昔我々が発していたはずの活力を思い出しました.

 円高もあり,日本の企業は生産拠点をより人件費の安いアジア地区に移しています.また,中国やインドのような巨大マーケットを取り込もうと多数の日本人が海外進出を進めています.最近の例では,ユニクロの柳井社長が多くの社員に海外勤務を義務づけているという話しです.アジア各国のネットワークの核に日本が座すことができるかどうかは今後の日本の歩みに多大な影響があるでしょう.アジア各国にメリットのある外交ができるかどうか日本の手腕が試されています.我々,岡山大学歯学部もアジアの歯学教育・研究の充実に一役買えるように国際交流を進めて行きたいものです.

 

世間では,道州制への移行の必要性が叫ばれています.道州制の時代には,その中心に位置することができるかどうかで,富と情報,人の流れが集約されます.中国地方には,広島大学歯学部と岡山大学歯学部があります.広島大学の方が歴史も長く,実績もありますが,岡山大学も全国一若いアクティブな歯学部と地域医療に貢献してきた歴史のある医学部を擁するという武器があります.ついに,学長も鹿田地区から生まれたわけですから,各分野,構成員各々が中国地方一になるよう努力すれば,自ずと道は開けると思います.今年は国家試験の合格率で全国一を達成した岡山大学歯学部です.外来患者数は全国国立大学4位,研究論文の総引用回数全国2位と快挙が続いています.競争的環境の中できらりと光る大学でありたいものです.そのためには,各構成員の一致団結と,学外に向けたビジョンの発信力が問われています.岡山大学歯学部は何で「飯」を食うのかという明確なビジョンと,それを実行する具体的な施策,財政的裏付けが求められているのです.

2011年 吉日

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新任教授,6年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



 皆様、お元気にされておられるでしょうか.とうとう,私が教授に就任してから6年間が終ろうとしております.時が経過するのは瞬く間で驚くばかりです.

 今年は,この第一期5年間の総決算をすることになりましたが,本当に忙しい一年でした.幸い,多くの特別講演やシンポジウムに呼んでいただき,現時点での自分の資産をたいだい出し切ったように思います.特に,大学院GP事業で行った第二回医療教育国際シンポジウムは本当に大変でした.自分の講演の準備も大変でしたが,海外14カ国から集まっていただいたすばらしい演者の方々の接待は困難を極めました.なぜなら,全く異なる習慣や宗教上の信条を持つ先生が一同に会することは,思いもよらない食事や宗教上の問題を露呈することになったからです.もちろん,このような苦労を押して実現したアジア教育連携シンポジウムは,岡山大学がこれまで培ってきたアジアのコネクションを余すことなく全国の歯学系の教育者に示し得たという点で快挙でした.一方,再生医学の進歩と歯科医学と題された歯学トランスレーショナル研究シンポジウムは,当代の歯の再生研究の両巨塔(Dr.ShiとDr.Tsuji)を招いたすばらしいものでした.また,ポストゲノムの時代に歯科基礎医学を活性化するための方向性と題された基礎歯科医学サミットは,慶應大学の塩見先生をはじめとした現在最も輝いている基礎研究者を招いて現在のサイエンスのカッティングエッジを垣間見ると言う刺激的なものでした.また,NIHよりNIDCRのディレクターであるDr.Tabakをお呼びして歯科医学の進むべき明日のビジョンを共有できました.一方,日本歯科医学会会長であられる江藤一洋先生を座長にお願いした緊急歯学教育シンポジウムは歯学部定員削減問題の最中の緊張感を臨場感高く感じさせるものでした.もちろん,最後の峯先生らの熱いプレゼンテーションは岡山大学出身の若手の研究者が世界に通用することを全国に強く認識させるものでした.この第二回医療教育国際シンポジウムの成功は,多くの先生方に「岡山大学歯学部ここにあり」という認識を強く植え付けるものとなったと自負しているところです.

 このように,今年は大きな成果を上げ得た年でしたが,さらなる5年の扉を開けた年でもあります.
日本全国,みんなある程度努力をしているわけですから,そのなかで一歩ぬきんでようとする時それは大変な苦痛や苦労を伴うはずです.しかし,その努力が患者の苦痛を減らし,医局のブランド力を高め,自分自身をよりよき高みに導くという美的自己実現を可能にするものであれば,それは苦痛ではなく,大きな達成感となるはずです.この際,乗り越えねばならない困難が大きければ大きいほど,その達成感はかけがえのないものになり,その個人からは何とも言えない存在感が放たれます.もちろん,苦痛だけがあればよいという訳ではありません.苦労を厭わず頑張った結果,得られた賞賛(快楽)は,我々に代え難い自信と満足感,モチベーションを与えます.過去にキルケゴールは,自己の実存を3段階(美的実存,論理的実存,宗教的実存)に分け,自己の段階的向上を説きました.宗教的な実存に達したら,もはや努力自体が快楽であると述べていますが,我々凡人にはそれは酷でしょう.我々が努力を厭わずがんばれるのは,我々が患者の苦痛を理解し,その苦痛から解放され,その喜びを患者と分かち合えること,また,時々神から与えたもうサイエンスのパズルを運良く解くことができる幸運に浴することがあるからです.さあ,新たに踏み込んだ二期目の5年間に対して,まずはこのような努力を継続する覚悟を自己の中に再確認すると共に,あらためて実り多い5年間になるように祈りましょう.先輩方には,自己研鑽はもちろんですが,後輩や学生にもこの喜びを味わせてやってください.その喜びを共有できることが,教育者としての本当のご褒美かもしれせん.

 さて,今年度から槇野研究科長に命ぜられ,副研究科長を拝命しています.役柄,歯学部執行部はもとより,研究科長や副研究科長,医学部長,薬学部長,学務委員長,研究開発委員長などとお話しする機会が増えました.どなたも,魅力的な方々で,スピーディーな実行力,シャープな思考力を感じます.時折,豪腕を感じることもありますが,正論と戦略をうまく使い分けられている点には脱帽です.この機を逃さず,いろいろと勉強させて頂こうと思います.研究科の今年度の特筆すべき活動は,分子イメージング技術を振興するための地域産学官共同研究拠点整備事業が採択されたことです.トータルで11億8000万円という額のお金が費やされようとしています.今後の研究科の活動は分子イメージングを抜きには語れないでしょう.我々の研究に是非うまく組み込んで実効を上げていきたいと思います.そのためのシステム作りを精一杯やっておきます.

 最後になりましたが,これまで支えて頂きました皆様に心より感謝を申し上げます.「一補綴」から「インプラント再生補綴学」に名前は変わりましたが,山下 敦名誉教授,矢谷博文教授の熱いスピリットは綿々と受け継がれております.諸先輩方が築かれたこの医局のブランドをこれからも維持,できれば高めて行きたいと考えております.今後益々のご指導ご鞭撻をお願い申し上げます.

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新任教授,5年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



ついに五年間が過ぎてしまいました.副病院長や大学院GPの仕事に加えて,学会関連の仕事など,日々の臨床・研究・教育で息つく暇がない状態になっています.ますます,時間がなくなり,腰を落ち着けて論文を読む時間もなくなってしまいました.最近では無性にサイエンスに触れたくなる瞬間がありますがなかなかそれを満たしてもらえる環境に身を置くことはできません.残念な様でもありますが,まあ年をとったのだから仕方がないと観念もしています.
 さて,大学に残ったばかりの若人であった私はサイエンスに触れる喜びにふるえることがたびたびありました.あの頃,当時の矢谷博文先生と水道局の交差点に向けてがん源研究棟の北側を銀杏の葉を踏みしめながら,歩いて帰っていました.フロイラインというパン屋さんを通り過ぎたところに私のアパートがありましたので,それまでの間ではありましたが,帰り道を歩く道すがらよく今日思いついたこと,今日の研究成果や臨床アイデアなど矢谷先生とお話ししながら,世界に夢を馳せていたころを思い出します.その当時の私は若干お金には困っていましたが,大変幸せな大学院生活を送らせていただきました.なぜなら,私の恩師たちは何一つ制限することなく,私を自由に野放しにして研究をさせて下さったからです.これはなかなかできることではありません.ついつい,わずかな失敗で叱責してしまいがちになります.私の恩師たちは根気強くお調子者の窪木をますますお調子者にさせるべく激励していただきました.そのお陰で,大学院時代の研究成果はそれほどたいしたことはありませんでしたが,夢を語ることのできる研究者になれました.その後,留学してクラーク先生やその分野で一流の研究者にお会いして自分の無能さ加減を思い知らされることになりましたが,やはり夢を語れるという風に育てていただいたことはどこに行っても役に立ちました.その当時から,夢想癖は私の最も得意とする所となりました.ある意味,研究者は自発的に研究テーマを生み出す力がなければなりません.生み出せない研究者は,自分の限界に苦しめられるオペラ歌手やピアニストの様に,自分自身に苦しめられることになります.その意味で,そのようなエネルギーを与えていただいた山下先生や矢谷先生の寛大な教育方針に感謝を差し上げている次第です.
 では,私はそのような教育ができているか,大変心配になります.大学院生諸君が新しい研究テーマを夢想(着想)することを助け,それをうまくディスカッションできているでしょうか.大学院生の諸君が研究テーマを自分で決めて自分で予備実験をして,その結果に一喜一憂するような状況を作れているでしょうか.是非,指導教員の皆さんにも御願いしたいと思います.後輩の生み出す力を引き出す努力をしましょう.新しいアイデアを尊びましょう.着想・トライアンドエラーのわくわくするような循環を後輩と共有しましょう.このわくわくするような心のドライブが研究の原点なのですから.
 さて,紙面も限られていますので,今年を振り返ってみたいと思います.今年は,第一回岡山医療教育国際シンポジウムからスタートしました.京都大学の福原俊一教授,大阪府立母子保健総合医療センターの森 臨太郎先生,USCのクラーク先生夫妻をお呼びして大変有意義な会になりました.そして,夏には福原教授をお呼びして臨床研究デザインワークショップを開催しました.「研究のための研究」から,「診療を変える研究」へという,福原教授のテーマは非常に刺激的でした.8月後半には,ドイツの藤澤先生とベルギーの峯先生の所に伺って,久しぶりにうらやましい研究の臭いをかぎました.藤澤先生はこの冬に帰国されることになりました.現在,海外に留学されている先生は,USCの秋山先生,NIHの大野先生,ベルギーの峯先生,トーマスジェファーソン大学の下野先生となっております.さらに,大学院GP事業で,USCに川上先生,NIHに笈田先生が1か月滞在して帰国されました.来年の1月には山崎先生がスエーデンに行かれます.このように,医局から多数の先生方が海外に留学されている状況は大変喜ばしいことと感じています.最後に,ご紹介したいのが岡山大学病院で最近取り組まれ始めた「周術期管理センター(歯科部門)」の内容です.これは,大学病院が超急性期病院であるため必要に迫られて進められています.すなわち,医科で手術を行う予定がある患者様において,術前の外来通院を行っている時期に,手術後を想定して呼吸や嚥下の訓練や筋力トレーニング,血糖値の調整や抗凝固剤などの薬剤の調整を行い,術後の回復を早めようという活動です.歯科もこれに参画し,気管内挿管時の歯のプロテクターの作成や口腔内の感染源の除去,術直前のプラークフリーなどを行っています.歯科部門長は,歯周科の曽我先生ですが,我々の診療科を含めて全ての診療科に応援を御願いして活動しています.このような活動を通して,歯科医が医療に貢献できる場所がまだまだあることに気がつきます.皆さんも最近では在宅介護などの活動を進めておられる方もおられると思いますが,超急性期病院である大学病院ならではの有意義な活動と感じています.奇しくも名前がPERIOとついていますが,歯周病のペリオではなく,周術期(perioperative)の最初の5文字をとったものです.
 来年は,第二回の岡山医療教育国際シンポジウムを控えています.補綴学会は矢谷教授の大会長の下,京都の国際会議場で開催されます.また,支部会の方は,大阪大学の前田教授と私が担当で淡路島で関西支部・中国四国支部の共催学術集会が開催されます.5年の総まとめをするにはふさわしい年と感じています.そうはいっても,まだまだまとめる時期には来ていません.これからも爆発する大きな夢を持ち続けられるように夢想癖を鍛え直す必要があるかもしれません.皆様の益々の発展を祈りつつ,ここに筆を置きたいと思います.


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新任教授,4年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



ご無沙汰しております.今年も大変な年でした.なんとか,大過なく年末・年始を迎えることができることに安堵の感を覚えるとともに,教室を支えていただいた皆様に深く感謝いたします.
 さて,我々の顎口腔機能制御学分野はまずまずのよい年を終え,また新しい希望に満ちた年を迎えようとしているのではないでしょうか.その中でも比較的「大事」であったのは,今年の四月から,佐々木副病院の命を受けて,窪木が岡大病院の教育・研究担当の副病院長になり,医科の執行部の先生方や歯科の各診療科の先生方と交渉する機会が増え,多難な雑用の嵐にもまれていることでしょう.毎日,時間を区切った連続的な会議に負われ,医局の先生方と落ち着いてお話しができるのは深夜になります.そのような日常の中から最近気がついたことがあります.それは,だめだとおもったことに対しては信念をもって「No」というべきだということです.岡山県人は,だめだと思っていても,少し控え目にいいですよとか,まあしようがないでしょうなどと発言をすることが多いのですが,組織を支える立場になると,そのようないい加減な発言が許されなくなります.信念を持ってだめと言えば,その時は相手が敵対心を持つのではないかと考えるものですが,その内容が当を得ていればいるほど,むしろそのように発言することが相手の信頼を勝ち取ることもあります.このような勉強をさせていただいているのも,このような立場に置いていただいた方々のお陰と感謝申し上げる次第です.
 これとは若干意味合いが違いますが,医療人として大切な心構えがあります.それは,目の前の患者さんに,自信がない治療を無理強いしないで,経験が少ないことを伝え(ある意味「No」ということに繋がります),ちゃんとそれができる医療機関や先輩医師に紹介することです.特に,インプラント等は患者に与える侵襲度が高く,十分なトレーニングを積んでこれを行う必要があります.歯科医師として,経験が少ないということを患者さんや周りの先生に伝えることは勇気のいることですが,近年の歯科治療の高度化を考えると,当然あり得る話であろうと思います.医療は患者様のためにありますので,患者様に危害を与えないように細心の注意を払わなくてはなりません.自分はこの点が弱いという懺悔ができる人は,かならず,謙虚に新しい技術に対しても知識や技術を磨くでしょう.また,周りの経験豊富な人に謙虚にその内容について聞くことができるし,先輩は気持ちよく教えてあげることができるでしょう.しかし,自分にだめ出しができない人は,そばにすばらしい知識や経験の宝庫があったとしても,その恩恵に浴することができないばかりか,患者に害を与えてしまうこともあります.そのような意味で,医療に携わるものの最も重要な能力の一つは自分に厳しいこと,患者に対する真なる誠実さを備えていることと言えるかもしれません.最初から重たい話しになりましたが,これができない人が最近どんどん増えているように感じます.特に,医療事故はこの気持ちを少しずつ忘れたころに起こります.医療の重さを十分認識して細心の注意と謙虚さを持って患者に接しましょう.
 さて.講釈はこれくらいにして,今年の医局行事を振り返ってみたいと思います.まずは,夏のEBMワークショップです.日時は,8月4日(土),5日(日)の2日間です.本会では,土曜日に京都大学の中山建夫教授と倉敷中央病院の福岡敏雄先生にお話をいただき,日曜日にEBMワークショップを行いました.中山教授は診療ガイドラインの第一人者であり,日本の医療界を挙げて取り組んでいる話題だけに密度の高い最新情報を得ることができました.また,福岡先生のお話とワークショップは,チュートリアルのFDとしては本当にすばらしいもので大変感銘を受けました.近くにこのような優秀な先生が来られて,大変運が良いなあと感じています.また,全国からEBMセミナーを支えている方々にご参集いただき,ワークショップのチューターをしていただいたことは大変光栄でもありました.本会のお世話を頂いた松香準教授には感謝申し上げます.
 次は,岡山歯学会についてです.開催日時は,8月18日,19日(お盆明けの土日,暑い日でした),場所は,岡山大学50周年記念館でした.今年度は,新しい試みとして,岡山歯学会を同窓会総会と同日に行い,スケールメリットを生かした県下の歯科医療組織の粋を集めた年次集会をめざそうということになりました.そのために,岡山県歯科医師会,岡山県衛生士会,岡山県技工士会の各会のご協力を仰ぎ,岡山歯学会の新しい姿を模索しました.例えば,初日には,一般会員の口演に加えて,岡山歯学会優秀論文賞受賞講演(久保田聡先生,西谷佳浩先生,菅原康代先生),技工士セッション(上田明広先生,岡山県技工士会後援),衛生士セッション(梶谷伸顕先生,岡山県衛生士会後援),山城 隆教授の新任教授特別講演といった,いままでの岡山歯学会の枠組みにとらわれない新しいプログラムを準備しました.1日目のプログラムが終わったあとには,リーセントカルチャーホテルに移動して岡山歯学会設立以来,初めての懇親会を開催しました.岡山大学歯学部同窓会会員,岡山県歯科医師会会員,岡山大学歯学部職員,コデンタルスタッフ,大学院生,研修医等の150名を超す参加者を得て大変よい懇親会ができました.また,翌日は,朝から,山下 敦名誉教授の座長のもと,生田図南先生による内科的歯周治療についての特別講演,後期高齢者医療に関するシンポジウム(菊谷武先生,木村年秀先生),黒田重利精神神経病態学教授による認知症に関するランチョンセミナー,インプラント治療に関する市民公開講座(清水裕雄先生,波多野尚樹先生,岡山県歯科医師会後援)といった本当に息もつかせぬプログラムが展開されました.それぞれのプログラムがすばらしかったのはともかくとして,このような会を開催することによって,岡山歯学会というある意味閉ざされた組織が,地域の歯科医療ネットワークの協力を得て開かれた組織に昇華する現場を目の当たりにできました.また,本イベントの意義は,地域歯科医療のなかでの岡山大学のあるべき姿を示したと言う点において,歯学部開設以来の大きな変革といっても過言ではないように思います.完山準備委員長をはじめ,医局員各位には心より感謝申し上げます.
 一方,本年度は,私自身,久しぶりに自慢ができることがありました.これは,大学院GPという研究拠点形成費等補助金(若手研究者養成費「大学院教育改革支援プログラム」)の交付を頂いたことです.本予算は,全国の大学組織が競争的に応募して獲得を試みる補助金(3年間で1億5千万円)で,歯科領域では,東京医科歯科大学と岡山大学が選ばれました.このうち東京医科歯科大学のプランは医学基礎領域,工学領域と共同して採択されたものですが,岡山大学のものは,その名もずばり臨床専門医コースといい,歯科と医科の臨床診療科に関するもので,プログラム名は,「医療系大学院高度臨床専門医養成コース」といいます.これまでの大学院は,基礎研究をするところというイメージが強かったのですが,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科では,歯学系が主導して平成19年度から臨床専門医コースを開設しました.このコースは,大学院では基礎研究だけやるというのではなく,臨床能力そのものを開発し,臨床からわき上がってきた疑問点を臨床疫学的手法や基礎分野の力を頂いて解決することを目的にしたコースです.各学会の専門医を取得するための準備期間としても機能します.例えば,我々の分野では,口腔インプラントの専門医を目指すコース,顎関節症・口腔顔面痛み治療の専門医を目指すコース,高度補綴治療の専門医を目指すコース,高齢者の口腔機能リハビリテーション専門医を目指すコースなどがあります.これらはそれぞれ学会の認定研修施設となっている医局が開設します.他にも,歯学系には,多数専門医コースがあります.卒後再度専門医を目指して勉強したい先生は,カリキュラムも学外の先生にもとりやすいように変更されていますので,本臨床専門医コース(http://www.hsc.okayama-u.ac.jp/mdps/menu03/d-course.HTM)の門をたたいていただければと思います.
 来年度は,後期高齢者医療制度が開眼する年です.また,健康保険制度の改変がある年です.歯科界に少しでも,よい風がふくように祈るばかりです.また,我が医局から新しい医療技術が産声を上げることができるよう,全身全霊を捧げて臨床・研究・教育にうち込んでいきたいと思います.努力してもしなくても時間はあっという間に過ぎていきます.一度しかない人生を有意義なものにするべく,志しを高くもって,毎日の少しずつの努力と無理を積み重ねましょう.努力はその人を決して裏切らないはずですから.



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新任教授,3年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



ご無沙汰しています.教授職を拝命してから、もう3年間が経過しました.毎日、何らかの締め切りに追われ、追われることに慣れてしまっています。したがって、追われるドライブ(これは、ふつう「負」のドライブです)の圧力に窮してしまい、攻めのドライブが効きにくくなっているように感じます。これは、医局全体にもいえるかもしれません。たとえば、新しいビジョンを創出するには、大変なエネルギーが必要です。そのためには、時に自分を取り戻す時間が必要です。日本国内にいる限り(メールがつながっているかぎり)、そのような時間はとりにくく、毎日悪戦苦闘しています。とはいっても、人は苦しんでいる時に成長しているとのことですので、愚痴を言わず前向きにがんばることにしましょう。以下のように、今年の年初にやろうとしたことが、完璧ではありませんが、少しずつ実を結びつつあるのですから。
今年の最も大きなイベントは、第20回日本顎頭蓋機能学会記念学術大会を岡山にて開催させていただいたことです。準備委員長の松香先生や医局の先生方はもとより、朋来会の先生方、岡山大学同窓会の先生方には、大変なご尽力を賜りまことにありがとうございました。本記念学術大会のテーマは、今後の人口の高齢化を視野に入れて、「高齢化と口腔リハビリテーション―口腔ケア、摂食・嚥下リハビリテーション、咬合リハビリテーション―」としました。この領域は、現在の歯科医療を根底から覆す力を持っています。なぜなら、これまでの一口腔一単位という考え方から、真の意味での全人的な医療に歯科医療が昇華するためのプロセスと考えられるからです。そのためには、老化、全身疾患や精神疾患の知識が不可欠であり、これらが歯科医療とどのように関係しているかを知る必要があります。全身疾患の知識といっても、脳梗塞やアルツハイマー病の病状、誤嚥性肺炎の感染状態、悪性腫瘍の患者の栄養管理など、より具体的な知識が必要となります。新しい分野に切り込むわけですから、これらの疾患の知識が医療関係者と同等もしくはそれ以上でなければ、他分野の方々と同じ土俵で同じ言語で話ができないことになります。この状況は、顎関節症という疾患カテゴリーが、医師からみて違和感なく受け入れられるためには、我々が頭痛や神経痛、口腔運動器疾患を十分理解した上で、医師と同じ言語で議論できるレベルに達する必要があったこととよく似ています。その意味で、歯科医療は地味ではあるが、よい方向に進んでいるといえるのではないでしょうか。来年度は、本学会で特別公演をしていただき大変すばらしい反響をいただいた菊谷センター長に医局セミナーをお願いしております。また、口腔ケアや摂食・嚥下リハビリテーションの勉強会にどんどん医局からも出席し、本領域を我々の基礎的体力の一部として着実に伸ばして行きたいと考えております。同門の先生方も、顎関節症同様、一緒に真剣に取り組みませんか。
一方、これまでの医局の研究面での努力も実りつつあります。たとえば、アメリカから園山先生が大きく育って帰国され、その代わりに秋山先生がUSCのCCMBに旅立たれました。峯先生が念願かなって、ベルギーのルーベンカソリック大学に留学されました。また、来年春には、藤沢先生がドイツのビュルツブルグ大学に、大野先生はアメリカのNIHに留学されます。すばらしいのは、これらの先生方が、どなたも何らかの経済的なサポートを財団、相手方もしくは企業から得て留学される点で、我々の医局の力が多方面で認められた結果と思います。また、短期ではありますが、荒川先生がニューヨーク大学に臨床面で勉強に行かれたというのも心強い出来事でした。これらは、我々の医局の研究や臨床、教育が世界レベルに近づきつつあるということを示しており、後輩の先生方が後に続けるように各先生方に奮闘を期待したいと思います。
臨床面では、1、2年目の大学院生の諸君にお世話いただきながら、大変な数の患者をこなしています。大学院生諸君には毎晩診療前のラウンドに付き合っていただき、大変感謝します。この術前のラウンドでは、なるべくいろいろな臨床の話を伝えることができればと奮起していますが、私の生来の夜更かし癖が騒ぐためか、開始時刻が夜遅くなるのが玉に瑕です。窪木の臨床のほとんどがインプラント治療がらみとなりましたが、まだまだ、歯冠補綴治療や可撤性義歯もあります。インプラント治療は術式が比較的規格化されており、簡単なのに比べ、一本の審美歯冠補綴がむしろ難しいのも実感します。また、インプラントの埋入や印象よりも、一次手術や二次手術の際のティッシュマネージメントがインプラントの出来を大きく左右します。インプラントを一生懸命するようになって、歯周の考え方やポンティックの考え方が大きく変わり、より患者のQOLを高めるための歯科治療を進めることができるようになったように感じます。これは、補綴治療がこれらの処置の後に続く最終処置であるからで、歯周処置や根管処置、矯正処置ができて初めて納得のいく治療ができるようになります。この点の教育が十分できているかどうかが心配ですが、このような最終処置を精一杯させていただける立場に私が今おれるのは、山下先生や矢谷先生をはじめとした諸先輩方にあこがれて入局した結果ですので、諸先輩方にいまさらながらに感謝申し上げている次第です。
このように、外から見れば順調な顎口腔機能制御学分野ですが、最近、臨床研修医制度が始まってから、苦労を買ってでもしようという医局員候補が少なくなったことが心配の種です。もちろん、無理に入局していただく必要はないものの、一生懸命学生たちの将来を思ってお勧めしている気持ちが、何か否定されたような気持ちになることもあります。少なくとも、入局していただいた先生方には、私のできることについて精一杯、伝えて行きたいと考えています。もちろん、現在行っている学生教育に問題点はないか、その世代では自分がどのような気持ちでライターの先生と接していたかなど今一度学生時代に思いをはせてみる必要も感じます。我々はいつのまにか大して有効でもない治療法を有効と思い違いをする人種ですから、改めて「実るほど垂れる稲穂かな」の気持ちで、何事にも謙虚に取り組みたいと思います。
大学では、今年から大学院に「臨床専門医養成コース(大学院のホームページの新着情報をご覧ください)」が開設されました。その結果、基礎科目が圧縮され、学位論文もシステマティックレビューやメタアナリシスでもよくなったなど、同門の開業されておられる先生方にも大学院が身近になったのではないでしょうか。また、これまで同様、研修登録医という身分もございますので、患者様をお連れになって、一緒にインプラントなどをさせていただくのもよいのではと思います。
岡山大学歯学部にとって、今年はよい年でした。国家試験の合格率が全国歯学部1位、科学研究費補助金の合計採択金額が全国歯学部2位、過去5年間の論文数総計が全国歯学部3位、被引用回数の総計が全国歯学部1位というすばらしい結果です。また、わが医局の診療報酬総額は、外来診療部門で1位となっています。これらの輝かしい結果を生み出すことができたのも、医局員の先生方の努力の賜物と、こころから感謝しています。
最後になりましたが、本年度中に朋来会会員各位にいただきました多大なるご協力に感謝申し上げますとともに、来年度が先生方や朋来会にとってますますよい年になりますよう心からお祈り申し上げます。

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
顎口腔機能制御学分野
教授 窪木拓男


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新任教授,2年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



ご無沙汰しております.一年が経ち,また朋来会誌の準備をする季節がやってきました.今年も振り返ると盛りだくさんの年となりました.昨年同様,論文という形になかなか結実しなかったものの,将来に向けてのよい種をたくさん蒔くことができたように思います.とはいっても,現日本補綴歯科学会会長から頂いた「10年」のうち,すでに2年間(1/5)が過ぎてしまったことになります.
 今年のトピックスといえば,やはり大型の科学研究費補助金をいただいたこと,学会を2つやり遂げたことなどがあげられます.まず,科学研究費補助金に関しては,このタイミングで書くには少し時期尚早かとも思いましたが,土本君が信州で寒い思いをして準備をしてくれたデータを基に何とか魅力ある申請書を書きたいと思い苦心しました.そのお陰もあって,歯胚の再生に関する基盤研究Aを採択していただきました.この方面の研究はまだまだ緒についたばかりですので,今後の発展が切望されているわけですし,永久歯を失った後に新しい歯を生やすということは,補綴学の究極の目的といっても過言ではありませんから,できる限りの努力を傾けたいと思います.
 夏に行った第6回口腔顔面痛懇談会,第10回JAOP共催学術集会と秋に行った第25回日本口腔インプラント学会中国・四国支部学術大会では,医局員に大変な労をかけました.この両学会のお陰で,医局の研究活動は一時的に休止せざるを得なかったわけですが,この両学会の企画は多方面から大変よい評価を得たお陰で,我々の医局のポテンシャルに対する評価を高めたといえます.また,今年も多方面の学会賞を引き続き頂いており,医局のみんなの自信に繋がっています.僕自身といえば,補綴学会の医療問題検討委員会副委員長に任命され,補綴治療の難易度という不可解なテーマと格闘しています.補綴学会が専門医制度を発足させるのに際して,補綴学会専門医が担当すべき難易度の高い補綴治療が本当に存在するのかどうかが論点です.このように難しく述べるとわかりにくいですが,患者の立場に立つと,(本当の意味での)義歯の専門医が標榜されれば,歯科医院を選ぶ上で大変参考になることは間違いありません.この(本当の意味での)というところが非常に難しいのですが,まずは朋来会の先生方,日本補綴歯科学会の専門医にトライしてください.
 ところで,先日,柏田先生が歯学部で特別講演をされ,歯科医師過剰にともなって,二極化が生じていると述べられました.すなわち,患者様が引きも切らずに訪れる歯科医院と患者の数が減少して閉院に追い込まれる歯科医院があるということです.歯科医が比較的少ない時代には,患者様が歯科医院を選ぶわけにはいかなかったわけですから,その先生が勉強していようがいまいが全く関係なく,歯科医院には患者が集まりました.このような状態では,開業されておられる歯科医の方々にもっと勉強しなさいと申し上げても,焼け石に水で理解してもらうことは難しかったのです.しかし,最近のように歯科医院が乱立すると,患者が歯科医院を選べるようになり,競争の原理が働くようになりました.柏田先生は講義のなかで,成功するためには,あまり勉強していない歯科医院乱立地帯で開業しなさいとおっしゃっておられました.つまり,競争を避けるのではなく,あえて競争を利用する積極性が必要だということです.これと同じことが大学病院にも言えると思います.特に,同じ名前の診療科が2つある口腔外科,補綴科は否応なしに競争しなくてはならないわけです.我々の診療科が後塵を拝することがないよう日々患者の立場に立って診療室を見直す姿勢が必要ですし,絶え間ない努力により,診療の質を向上させる必要があろうと思います.
 最近,目標(志し)ということをよく考えます.山下先生は,6年間の大学生活の間に歯科医師として一人前になることを目標にされたといいます.最近の学生にこのような目標意識を持たせることができないでいる我々教員は情けないように思います.今の学生たちは,研修医制度のお陰かどうか,6年完成教育の道をあきらめようとしています.これでは,本末転倒です.研修医制度ができたのは,専門分化が進みすぎて,現在の大学教育では不十分な一般歯科の部分を補強するためであって,7年で歯科医になるためではありません.医局に残って頂いた先生方には,少なくとも臨床医として勝ち残れるようになってほしいと思います.そのために,毎日夜遅く,教授診のラウンド(事前の打ち合わせ)を1年目の先生とともに行うようになりました.毎日の患者を例にいろんなことを事前に議論することは大変有意義で,僕自身も診療中にストレスがたまることが少なくなりました.もちろん,臨床ができる人はだいたい研究もできる人が多いのです.ぜひ,世界に冠たる研究者や臨床家になると大志をいだいてほしいものです.なんとしてでも実現したいという強い意志があれば,だいたいのことは実現できるものです.上には上があるのが世間の常ですが,努力しても上があると気がついて初めて偽りのない謙虚さを身につけることができます.毎日,100%の力を出し切っているものは,いつか120%の力を身につけることができます.しかし,自分は100%以上の力があるのだけれども,今はいろいろな制約でできないでいるのだと思ってしまう人は,今の自分の100%の力よりも優れた力が発揮できるようにはなりません.つまり,伸びることができないのです.目標高く,精一杯努力を積み重ねましょう.神様は努力家を決して見放しません.もう一つ,いつも心に刻んでいる信念が私にはあります.それは,真実を敬う気持ちを忘れないことです.研究者は,つい自分のこれまで思っていた理論にぴったり合ったデータがよいデータと考えがちですが,それは常に真実であるとは限りません.だいたい,自分が考えたストーリーは,神様からリジェクトされてしまい,いつも初心に戻らざるを得ないのが現実です.しかし,少しでも神様が引かれた設計図にふれることができればその喜びは法外です.ましてや,その事実が誰も知らない新規の知見であるとするとその喜びはかけがえがないものとなります.
 そのような意味で,まだまだ若造の私は,大それた夢を持って前進したいと思います.そのためにも,問題の本質を見失わないで,優れたものに食指食指をのばしていきたいと思います.医局の先生方には,まず,窪木を追い越すことを目標に,日々努力を惜しまないで下さい.まだまだ,負けませんよ.「今やらねばいつできる.わしがやらねば誰がやる」で行きますから.
平成17年12月 10日
顎口腔機能制御学分野 教授室にて


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新任教授,1年目を振り返る
インプラント再生補綴学分野教授 窪木拓男



岡山大学歯学部歯科補綴学第1講座同門会が,新しく朋来会と名前を変えようとしている本年10月1日,諸先生のご支援を賜り岡山大学大学院医歯学総合研究科 顎口腔機能制御学分野 教授を拝命いたしました.顎口腔機能制御学分野助教授在職中は公私にわたるご厚情を賜り厚く御礼申し上げます.なにぶんにも若輩かつ,浅学非才の身でありますが,歯科補綴学における教育・診療・研究に懸命に努力し,職責を果たしていく所存でございます.今後ともより一層のご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます.
 翻ると,岡山大学歯学部においてこれまで歯科補綴学第1講座がなしたものは大変な偉業であったといわざるを得ません.山下 敦名誉教授,矢谷博文前教授の陣頭指揮のもと,同門の先生方が一丸となりなされた数々の輝かしい業績に歯科界は常に注目してきたのです.そこには,常に目の前の患者を何とか救おうとする臨床講座としての軸足を弱めることなく,大所高所から歯科界の行く末を鋭く読みとり,導かれた山下先生や矢谷先生のお力があったことは間違いがありません.今一度,先生方のご恩に厚く御礼申し上げる次第です.私が,このような遺産を引き継がせていただけること自体,身に余る光栄でありますし,これからの医局運営を任された責任の重さに身が引き締まる思いであります.
 さて,皆様もご存じのとおり,本年10月より医学部と歯学部の大学病院が統合し,医学部・歯学部附属病院(通称,岡山大学病院)となりました.この統合のプロセスは,決して平坦なものではありません.歯学部のアイデンティティを保ちながら,実利のある統合を目指す必要があります.しかし,現実は人員削減が一つの目標であることに間違いありません.このような中で,顎口腔機能制御学分野が競り合って勝ち残るための方策を考えねばなりません.教育・臨床・研究の各分野で個々の構成員が評価される時代になろうとしているからです.医局員の先生方には,この厳しい時代をともに勝ち残るため,辛苦(もちろん,喜びも)をともにして頂くよう伏してお願い申し上げます.このような時代に必要であるのは,自立的に講座や診療科の未来に対してビジョンをもてることであろうと思います.他の大学と同じレベルの発想の研究をしていたのでは,いくら努力しても認められません.臨床講座として医療に,また,医学にいかに貢献するのか,中・長期的な研究の方向付けを各自が行う必要があります.また,診療室が地域の歯科医院と同じものでは誰も見学に来ません.同門の先生方のお知恵を拝借しながら地域の中核たる専門外来として名をはせうるよう私を含めて教官の先生方の底力を期待したいところであります.また,同門の先生におかれましても,これまでにも増して積極的な病診連携が必要とされる時代とお察しします.患者様に,プライマリケアから専門歯科医療までのあらゆる面で歯科医療レベルを保証する必要が強調されるなか,良質な中核医療機関との連携自体が先生方の診療所の価値を高めるものになると確信しております.また,歯科医師過剰時代の中で,プライマリケア歯科医としてのみでなく,プライマリケア医としての任務が増すものと考えられ,病院統合を通して,医学部領域の疾患に関しても先生方のお力になれるものと思います.また,出張先として医局員の指導を頂いている先生方にはこころから御礼申し上げます.講座自身の人材育成ならびに派遣能力の向上を目指して日々努力させて頂きます.
 臨床面では,矢谷先生に引き続いて顎関節症・口腔顔面痛み外来の責任者になりました.本分野は,病診連携が最も実現しやすい領域であろうかと思います.一般の顎関節症の患者様はもちろんのこと,口腔顔面慢性疼痛,口腔ディストーニアなどの運動器疾患,口腔・咬合感覚異常症,慢性関節リウマチ,変形性関節症,更年期障害,甲状腺機能低下症,線維筋痛症などの患者様をご紹介ください.最近,岡山駅で新幹線が止まりそこねた事件以来,睡眠時無呼吸症候群に対する注目が増しています.強度のいびき,睡眠時の無呼吸,昼間の傾眠,起床時の頭痛等で困られておられる患者様はご紹介ください.検査は,精神科神経科で1泊2日のコースで行いますが,保険診療でカバーされます.マウスピースが適応の場合には我々の講座が担当します.
 口腔インプラント外来への関与も積極的に行っています.いまや,一歯欠損の治療にも治療オプションとして単独植立のインプラントは欠かざるものとなりました.本技術は,周りの歯を削ってほしくないという患者の願望とうまくマッチしており,接着ブリッジとともにマーケットの拡大が望めます.簡単なインプラント処置は埋入から我々の講座で行えるよう,歯周病室の使用を含めて検討しています.もちろん,骨移植を必要とするような症例は口腔外科の先生方と連携をとって専門外来で進めます.これも,山下先生がインプラントプロジェクトを立ち上げられたおかげでもあります.また,ヘリカルCTを利用したシンプラントという画像解析ソフトが始動しており,精密な歯槽骨量の計測が必要なケースではご紹介頂けます.研究面でもこの分野では,大変な進歩がありますが,また,別の機会にでもご紹介したいと思います.
 接着の分野は,今でも顎口腔機能制御学分野(第一補綴科)のアイデンティティを語る上では欠かざるものです.第1回の朋来会の特別講演に山下名誉教授の長年のよき理解者であられる東京医科歯科大学の柏田臨床教授をお迎えし,この分野の最も新しいところをお話しいただけるのは,朋来会一同の喜びであります.ところで,我々の診療科では,プロセラというオールセラミッククラウンが話題です.金属アレルギーが注目される中,ノンメタルレストレーションが注目されるのはもちろんですが,強度の面でも,審美性の面でも大変優れています.ジルコニアというオールセラミックのブリッジのコア材料も認可待ちの状態で,大変楽しみにしています.もしも,金属アレルギーの可能性のある患者様をお持ちでしたら,ぜひお送りください.パッチテストと検査だけでも結構です.漂白も審美歯科外来として大々的にスタートしましたが,これも近藤先生,今井先生のラミネート等の接着技術の実績があればこそ参画させて頂けたものと感謝しております.また,これからも山下先生のお力を頂いて,ピンブリッジ,ファイバーコアシステム,支台歯のコーティングのシステム作りを進める予定です.
 先日,助講室から教授室に引っ越しをする際に,日本補綴歯科学会雑誌の第1巻1号(昭和32年10月)が出てきました.なんと,本雑誌の論文に,嵌植義歯としてインプラント義歯がすでに紹介されていたのにも驚きましたが,この随想欄にその当時の山口秀雄会長が,「この義歯で三度三度の食事に不自由なく,御陰でからだも丈夫ですということは,何と有り難いことでしょうがな」と記されていたのにも驚きました.歯科医療が如何に国民の生活の質を向上させうるか,さらには健康寿命の延長に寄与していけるのか今後の歯科医療の行方を占う意味でも重要な概念がすでにここに記されていることに驚いたのです.折しも,日本補綴歯科学会中四国支部学会が鳥取の伊藤楯樹大会長の指揮のもと我々の講座の主幹で開催され,歯科医療と全身健康の関わりが論じられたのは記憶に新しいところです.その際,歯周病と生活習慣病(肥満,糖尿病,高血圧,動脈硬化),有病者や老齢者における口腔ケアと誤嚥性肺炎,咀嚼機能回復とぼけ防止や健康寿命の延長などが具体的に議論されました.我々顎口腔機能制御学分野がこれまで培ってきた,臨床疫学的手法や生物学的な研究遂行能力を試す良い場が提供されつつあるように思います.歯を残せば残すほど,歯を最終的に残すべきか,残さざるべきかを決定し,口腔機能を改善し,口腔ケアを実行する必要が生まれます.先日,厚生労働省医政局歯科保険課長であられる瀧口 徹先生が岡山大学で「歯科保険医療の新しい潮流」という題で講演され,同様に健康寿命を延長するための戦略として口腔ケアと口腔機能回復の重要性を強調されました.ここでも,健康保険制度を抜本的に改革する原動力は,臨床疫学研究であることを実感しました.行政も動こうとしています.我々,顎口腔機能制御学分野も安穏とはしていられません.
 日本補綴歯科学会は,法人化を控えています.これの大きな目的は,現在の認定医制度に加えて補綴専門医制度を始動し,プライマリケア歯科医との差別化をうまく図ろうというものです.将来は,医療分野で進んでいるように,このシステムと健康保険制度が同調し,経験豊富な医師を診療コスト面で優遇しようという制度改革につながるものと思われます.同門会の先生方におかれましても,今一度生涯研修の場としての医局の価値を再認識して頂き,同門から多くの認定医,指導医,専門医が生まれますよう希望してやみません.
 最後になりましたが,朋来会主催で盛大な教授就任祝賀会をお開き頂き,身に余る光栄に存じます.先生方のご支援なくしては我々の講座は成り行きません.先生方のご健勝とご多幸をこころよりお祈りして私の教授就任の御挨拶とさせて頂きます.
平成15年11月24日
顎口腔機能制御学分野教授室にて

 

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