理性と感性の二重奏 知の輝きを求めて
哲学? 芸術学? あまりなじみのない言葉かもしれません。そして、このコースの名称はその二つの言葉がただ並んでいるだけで、さらにわかりにくいかもしれません。
芸術学とは何か?これは画家や音楽家を養成する学問ではありません。芸術学は個々の芸術作品や芸術家について、また芸術とは何かについて考える学問領域です。美術や文芸、映像作品や演劇、そしてその作者が考察の対象になります。
哲学とは何か? 実はこの問い自体が哲学のテーマです。どの哲学者もそれぞれにその答えをもっています。ただ、哲学は「驚き」とともに始まるとも言われます。この驚きとは本当に何かを「知る」ときの魂が揺さぶられる体験のことです。その体験は、芸術作品がもたらす心の高揚と同じものであり、そこで哲学と芸術学は合流するのです。
哲学も芸術もあたりまえの日常に新鮮な驚きを感じ、それを何らかの方法で表現します。哲学者は驚きとともに得た知を理性の体系へと、芸術家は感性がとらえる何かを作品へと結実させます。理性を重んじる哲学と、感性の作品である芸術を考察する芸術学とでは、学問の方法は異なりますが、その始まりにある感動に違いはありません。むしろ異なる方法のせめぎ合いから新たな可能性が芽生えるのではないか。「哲学芸術学専修コース」という名称にはこの願いが込められています。
私たちはたくましい理性とつややかな感性のエネルギーを求めています。
Aさんは高校時代から「本当の現実を知るとはどのようなことか」、「自由とは何か」に関心があったので、この専修コースの中でも、哲学、倫理学、思想史を系統的に学ぶことにしました。Aさんは西洋哲学史の講義の中でカントの思想的位置を学んだ後、さらにくわしくカントの認識論を研究するために、哲学演習に参加し、実際のカントの言葉に触れました。同時に、近代のドイツ文化全般の理解を深めるために、ドイツ近現代美学論やドイツ・オペラなどの講義も受講しました。Aさんはこれまでの研究の成果として、卒業論文を「カントの自由論」という形にまとめました。
北岡教授の授業風景
Bさんは西洋美術に関心があり、フランス美術について卒論を書きたいと思っていました。まず芸術学と美術史に関する概説的な授業に出て、美術だけではなく、美学や舞台芸術など芸術全般に対する理解を深めました。その後さらに専門性の高い美術史の授業を中心に選択しました。また学芸員の資格を得るために、博物館学なども学習しました。研究の中心を19世紀に絞り、その時代のヨーロッパに対する視野を広げるため、哲学や文学、歴史学の授業などにも積極的に参加しました。そして卒論では「19世紀フランス美術におけるジャポニズム(日本趣味)」について考察しました。
ゴーガン展のポスター(パリ、リュクサンブール美術館)
ブリュッセルのラーケン公園内に建つ「日本の塔」
当初Cさんには、はっきりとした関心の方向がありませんでした。このコースに入ったのは、できるだけ幅広い知識を身につけて、視野を広げようと思ったからです。コースに入ってからは、哲学領域の授業も、芸術学領域の授業も受講しました。やがて倫理学の授業に参加しているうちに、次第に生命倫理学に興味が湧いてきました。また芸術学領域の授業を受けて「人工物としての芸術作品」という考え方に接することができました。卒業論文では、ずっと好きだったアニメを選ぶことにしました。卒論のタイトルは、「アニメのなかの人工生命体」に決めました。
卒業論文の発表会
これらはいくつかの例に過ぎません。30人の学生がいれば30通りのやり方で、各人がそれぞれに、自分にとってのテーマを探っていくことになります。大切なのはほんとうに関心のもてる対象を見つけ出すことです。それについて研究を深めていく皆さんを教員は精いっぱいサポートします。
入学後、1年次前期に履修する科目は「人文学の基礎」を始め教養教育科目が中心となります。専門教育科目の「人文学への招待」では、哲学芸術学専修コースの全体像を把握できるよう、この専修コースの教員全員がほぼ1回ずつ講義を担当します。1年次後期に履修する「人文学入門演習」では、哲学領域と芸術学領域とに分かれて、それぞれの学び方の基本を理解するための入門的な演習を行います。また、各学問分野の「概説」で履修できるものも用意されていますので、関心をより深めるように健やかな学問的スタートを切ってもらいたいと思います。
2年次からは、各分野の概説や、それぞれの分野の概要をより専門的な次元でとらえながら、特殊な個別のテーマに関する講義や演習を集中的に履修します。演習では、それぞれの分野に関する英語、ドイツ語、フランス語、日本語、古文・漢文などのテキストの精読や、与えられた課題についての調査研究発表、論文作成の指導などを行います。
講義や演習のテーマ(講義題目)は、教員の研究テーマなどにしたがって毎年変わりますから、学生は自分の関心によって選択できます。また、本専修コースの科目や文学部の共通科目以外にも、他の専修コースで開講されている科目や、他学部の専門教育科目も履修できます(ただし受講条件に制限が設けられている場合もあります)。
3年次の後期からは、卒業論文の作成指導のための課題演習が行われます。卒業論文は各自の関心に従って、哲学や芸術に関わる様々なテーマで作成することができますが、そのためには、そうした問題に関連する講義や演習を通じて準備をしてゆくことが必要です。
| 授業科目 | 講義題目 |
|---|---|
| 人文学入門演習 | 哲学的に読み・書き・思索し・話す / 芸術学入門演習 |
| 哲学講義 | ヘーゲルの法哲学 |
| 哲学講義 | 現実についての考察 |
| 美学講義 | 写真映像と現代 |
| 芸術表象論講義 | ワーグナーのオペラにおける愛と結婚 |
| 芸術表象論講義 | フロイトの演劇論 |
| 日本美術史講義 | 日本絵画の女性像 |
| 西洋美術史講義 | イコンとアイドル(聖像と秘仏) |
| 西洋美術史講義 | 近世・近代のヨーロッパ美術を支える制度と慣習 |
| 思想史講義 | 日本倫理思想史概説 |
| 哲学演習 | デカルトの『省察』 |
| 倫理学演習 | アウグスティヌスの自由意志論 |
| 芸術学演習 | 現代芸術をめぐる諸問題の考察 |
| 芸術表象論演習 | オペラ『エレクトラ』研究 |
| 西洋美術史演習 | 美術作品の記述と解釈 |
- カントの自由論
- 魂とは何か―『パイドン』における霊魂不滅に関して―
- キルケゴール『死にいたる病』の実存的考察
- レヴィナスの思想―ことばによって基礎付けられる正義―
- ベルクソンの認識論について ~『物質と記憶』より~
- パウル・ツェランの「死のフーガ」におけるホロコーストの形象とドイツ文化について
- デイヴィッド・リンチの映画について -リンチの映画は何を語るのか-
- 日本の球体関節人形と人形作家・土井典の現在
- マルク・シャガール研究 -シャガールの世界観-
- 筒井康隆におけるメタフィクションと虚構の力について
