本菌は毒素を産生し食中毒を起こす(毒素は強力なため生物兵器としての悪用も懸念されているが、菌は感染を起こさないので、この点では安全である)。 毒素はA〜G型に分類されるが、いずれの毒素も1〜4個の無毒成分と結合して存在している。これら各成分の構造遺伝子をクローニングし全塩基配列を決定すると共に、一部の成分の3次構造と機能も明らかにした。 これらのことにより、中毒の発症機構の解明、新規のボツリヌス中毒診断法の開発、および、致死量以下の毒素による治療への応用を行っている。
 岡山大学医学部臨床系、岡山大学歯学部、東京農業大学、東京農工大学、関東化学株式会社などと共同研究が進行している。
Clostridium botulinumボツリヌス菌)に関する研究
細菌感染と特殊な疾患発症に関する研究
 ピロリ菌は胃に長期に生息する過程で、一部のヒトに胃炎・胃潰瘍・胃マルトリンパ腫(MALToma)、胃癌などを発症させる。ピロリ菌はその菌体表面に多くの熱ショック蛋白質(HSP)を発現しているが、このHSPと各種疾患発症との関係を、特に最近は、高脂血症をきたすノックアウトマウスを用い、HSP60を動脈硬化との関係を解析している。 ベーチェット病は難病の1つであるが、私達は患者さんは通常のサンギス(サングイニス)菌とは性質の異なる菌に感染されていることが多いことを認め、この菌と病気発症との関係を解析している。

Histotoxic Clostridia(ガス壊疽菌群)に関する研究
 コラーゲンは組織内で不溶性の膠原繊維として存在するため、通常のプロテアーゼでは水解されず、感染拡大のバリアーとなっている。ガス壊疸菌群はコラゲナーゼを産生して周囲の結合組織を破壊し、感染巣を急速に拡大する。本酵素群は、C末端にコラーゲン結合ドメイン(CBD)を持つ。生理活性物質をCBDと融合することにより、組織局所に長時間アンカーリングできた。このコラーゲン結合型成長因子を高密度コラーゲンに結合し、鼓膜穿孔部にパッチしたところ、鼓膜閉鎖や血管新生が認められた。また層構造を持つ人工組織を形成できた。この技術は再生医療を含む様々な臨床分野に応用できると考え、実用化を目指した前臨床研究を進めている。
 北里大学、香川大学、株式会社ニッピ、コラジェン・ファーマ株式会社などと共同研究が進行している。
Vibrios(ビブリオ菌)に関する研究
 人喰いバクテリアであるV. vulnificusや、魚介類の病原菌V. alginolyticusは、コラゲナーゼを産生して結合組織を破壊することにより感染巣を急速に拡大する。V. alginolyticusは、宿主への感染を検知してコラゲナーゼを産生する発現制御機構を持つ。この分子メカニズムを解明し、さらにこれを阻害することにより、ビブリオ感染症の新たな治療薬の開発を目指している。