「局所麻酔薬アレルギー検査」当院歯科麻酔科では、局所麻酔薬に対して即時型アレルギー(Ⅰ型アレルギー、アナフィラキシー反応またはアナフィラキシー様反応)の有無を検査(以下局所麻酔薬アレルギー検査とよびます)しています。本検査は一般の薬物アレルギー検査に準じておりますが、局所麻酔薬アレルギーは他の薬物アレルギーとは異なった特徴を有しているため、一部、特別な方法が適用されています。また、本検査は患者様の訴えに対して行いますが、必ず医療機関からの紹介状をご持参下さい(局所麻酔薬アレルギーは非常に稀な反応です)。 適応1.過去に局所麻酔薬時にショックなどの不快症状が出現し、局所麻酔薬アレルギーが疑われる人。 方法 以下の「局所麻酔薬アレルギーテストマニュアル(岡山大学病院歯科麻酔科)」に従って、局所麻酔薬アレルギー検査を行っています。 |
「局所麻酔薬アレルギーテストマニュアル(岡山大学病院歯科麻酔科)」 局所麻酔薬アレルギーテスト マニュアル (2011.6.1 作成) (2011.7.15 改訂) ①問 診 「局所麻酔薬アレルギー検査前 質問表」を記入する。局所麻酔時の症状(既往),他のアレルギーの有無等を確認する。 ② 局所麻酔薬アレルギー検査について説明をし、同意を得る。 「局所麻酔薬アレルギー検査に関する説明同意書」を用いて説明し、署名をする。複写をとり、原本を患者に手渡す。 Ⅰ.検査の目的 Ⅱ.予定している検査の名称と内容 Ⅲ.検査によって期待される効果と限界 Ⅳ.局所麻酔薬アレルギー検査以外の選択可能な治療法と、いずれも実施しない場合に予測される病状の推移 Ⅴ.予測される合併症と危険性 Ⅵ.その他の偶発症の可能性とそれに対する対応 Ⅶ.その他(入院下での検査など) ② 検査方法 検査方法は、「Consultation and referral guidelines citing the evidence: how the allergist-immunologist can help. (American Academy of Allergy, Asthma & Immunology. 2006 Feb;117 (2 suppl consultation): S495-523.)」でエビデンスとして引用されている文献1〜3)、およびガイドラインとして公表されている文献4)を参照した。また、日本化学療法学会の「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン」文献5)を引用している。さらに「World allergy organization guidelines for the assessment and management of anaphylaxis」文献6)とそのguidelineの中で使用されている文献7)を引用した。 <プリックテスト> 薬剤:生食(negative control) リドカイン塩酸塩(キシロカインâポリアンプ2%) 希釈率:原液1,2) 注射部位:前腕屈側 穿刺方法:前腕屈側に上記薬剤を0.2ml滴下する。次に30G針4)を皮膚に対して水平方向に持ち、滴下部分を出血しない程度に穿刺し、軽く皮膚を持ち上げた後針を抜き、1−2分経過後、滴下液をガーゼで軽く押さえて吸い取る5)。 観察時間:投与前、5、10、155)、20分後1-4)(原則この時間であるが、必要に応じて延長する。) 判定基準5):膨疹径が4mm以上あるいはcontrolの2倍以上 →陽性 または発赤径が15mm以上 膨疹、発赤があってもcontrolと差異のないもの →陰性 <皮内反応試験> 薬剤:生食(negative control) リドカイン塩酸塩(キシロカインâポリアンプ2%) メピバカイン塩酸塩(スキャンドネストâ) 希釈率:100倍希釈1,2)、10倍希釈3) 注射部位:前腕屈側に0.02ml1,5)皮内注射 観察時間:投与前、5、10、155)、20分後1-5)(原則この時間であるが、必要に応じて延長する。) 備考欄に血圧、脈拍、経皮的動脈血酸素飽和度、全身状態の評価、症状について記載する。 判定基準:基準①4) 3cm以上の紅斑を伴う腫脹 →+++ 2-3cmの腫脹もしくは紅斑 →++ 1-2cmの腫脹もしくは紅斑 →+ 変化なし → − 基準②5) 膨疹16mm以上もしくは発赤40mm以上 →強陽性++ 膨疹9-15mmもしくは発赤20-39mm →陽性+ 膨疹6-8mmもしくは発赤10-19mm →疑陽性± 膨疹0-5mmもしくは発赤0-9mm →陰性 − *膨疹9mm以上、発赤20mm以上のいずれか一方を満足すれば陽性 *膨疹9mm近くでも発赤を伴わない場合は陰性 [参考] ・ positive controlとしてヒスタミンを用いている報告2,3)もあるが,ヒスタミンは医薬品ではなく,倫理的に容易に使用できず,かつ根拠となるエビデンスもないため,当科では採用していない。 <チャレンジテスト> 薬剤:生食(negative control) リドカイン/酒石酸水素エピネフリン注射液(オーラ注â) リドカイン塩酸塩(キシロカインâポリアンプ2%) メピバカイン塩酸塩(スキャンドネストâ) 投与量:原液0.1ml→0.5ml→1.0mlと段階的に増量しながら投与1,3) 注射部位:口腔粘膜下 観察時間:投与前、5、10、15、201)、25、30分後1,3)(原則この時間であるが、必要に応じて延長する。) 備考欄に血圧、脈拍、経皮的動脈血酸素飽和度、全身状態の評価、症状について記載する。 判定基準6,7):以下の3基準のうち1つが満たされれば陽性 基準① 皮膚,粘膜,または両者の症状・所見(例:全身的な蕁麻疹, 掻痒または紅潮,口唇・舌・口蓋垂の浮腫)を伴う急性(数分から数時間)に発症する病態があり,かつ同時に下記の症状のうち少なくとも1つ発症している: a. 呼吸器系症状・所見(例:呼吸困難,ラ音—気管支痙攣,喘鳴,最大呼気流速度の減少,低酸素血症) b. 血圧低下,それに伴う終末臓器機能不全に伴う症状(例:筋トーヌス低下(虚脱),失神,尿失禁) 基準② アレルギーの既往がある患者で,アレルゲンの可能性のある物 質に曝露された後,急激(数分から数時間)に下記の症状のうち2つ以上発症している: a. 皮膚—粘膜の所見(例:全身的な蕁麻疹,掻痒を伴う紅潮,口唇・舌・口蓋垂の浮腫) b. 呼吸器系症状・所見(例:呼吸困難,ラ音—気管支痙攣,喘鳴,最大呼気流速度の減少,低酸素血症) c. 血圧低下,またはそれに伴う症状(例:筋トーヌス低下(虚脱),失神,尿失禁) d. 持続的な消化器症状(痙攣様腹痛,嘔吐) 基準③ アレルゲン曝露後の急激な血圧低下: a. 乳児と小児:収縮期血圧(年齢相当の)の低下,または収縮期血圧の30%以上の低下(70mmHg+{2×年齢})以下を,11歳から17歳では収縮期血圧90mmHg以下を血圧の低下と定義する。) b. 成人:収縮期血圧の90mmHg以下への低下,または個々の患者での通常血圧の30%以上の低下
<既往歴や症状に合わせて以下の手順を選択する。> 1)プリックテスト→皮内反応試験→チャレンジテスト2,3) 2)皮内反応試験→チャレンジテスト1) (注)1)においてプリックテストおよび皮内反応試験で陰性、または2)において皮内反応試験で陰性であれば,既往歴や症状に応じて同日2,3)もしくは24時間以上経過して1)問題がなければチャレンジテストを行う。 <薬剤の選択> 1)薬剤の選択は必要に応じて変更する。 2)防腐剤および血管収縮薬の含まれていない局所麻酔薬を使用する2,4)。 ③ 検査の際の注意事項 ・投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。 特に投与開始直後は注意深く観察すること。 ・アレルギー疾患(気管支喘息など)や薬剤に対するアレルギー歴がある患者の場合には、慎重な投与を行う。 ・検査時には必ずショック等に対する緊急処置のとれる準備をしておくこと。 ・必要に応じて、入院下での検査やアナフィラキシーショック発症時等には入院の上、経過観察を行う。
<緊急時の対応>5) 成人 1)自覚および他覚症状の異常がみられたら、速やかに当該薬の注射を中止する。 2)バイタルサインのチェック、症状と程度をチェックする。 3)Ⅰ.軽症の場合(血圧低下を認めない、意識清明、症状は軽度): ①輸液投与:乳酸リンゲル液など20ml/kg/h程度で開始。心不全患者や高齢者の場合には適宜減量する。 ②酸素投与:十分な酸素投与を行う。 ③対症療法:必要に応じて行う。 ④アドレナリンの投与:症状の改善がみられない場合に投与する。 アドレナリン0.1%液(ボスミン注Ò)0.2〜0.5mgを皮下注あるいは筋注する。静注を要する場合は、アドレナリン(ボスミン注Ò)0.25mgの10倍希釈をゆっくり静注し,効果不十分な場合、5〜15分おきに追加する。 Ⅱ.中等症から重症の場合(血圧低下、意識低下、気道閉塞症状がみられる): ①アドレナリンの投与:アナフィラキシーショックの治療としてはアドレナリンがfirst choiceである。アドレナリン0.1%液(ボスミン注Ò)0.2〜1.0mgを皮下注あるいは筋注する。静注を要する場合は、アドレナリン(ボスミン注Ò)0.25mgの10倍希釈をゆっくり静注し,効果不十分な場合、5〜15分おきに追加する。 ②輸液投与:乳酸リンゲル液など20ml/kg/h程度で開始。心不全患者や高齢者の場合には適宜減量する。 ③酸素投与および気道確保: a) 高濃度(60%以上)の酸素投与を行う。 b) 効果不十分な場合、気管内挿管を行い、100%酸素での人工呼吸に切り替える。喉頭浮腫が強く気管内挿管が不可能な場合は輪状甲状切開を行う。 c) 気道狭窄に関してはアミノフィリン250mgを5%ブドウ糖20mlで希釈し、10〜20分かけて静注。 ④循環管理:必要に応じて昇圧剤投与を行う。 血圧低下が遷延する際は、ドパミン5〜15mg/kg/minを併用する。 ⑤ステロイド投与:コハク酸ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフÒ)500〜1000mg点滴静注。 ⑥抗ヒスタミン薬:マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミンÒ)5mg静注。
小児 1)自覚および他覚症状の異常がみられたら、速やかに当該薬の注射を中止する。 2)バイタルサインのチェック、症状と程度をチェックする。 3)Ⅰ.軽症の場合(血圧低下を認めない、意識清明、症状は軽度) ① 輸液投与:乳酸リンゲル液など20ml/kg/h程度で開始。心不全患者などの場合には適宜減量する。 ②酸素投与:十分な酸素投与を行う。 ③対症療法:必要に応じて行う。 ④アドレナリンの投与:症状の改善がみられない場合に投与する。アドレナリン0.1%液(ボスミン注Ò)0.01mg/kgをただちに皮下注射する。10〜20分間隔で投与してよい。静注を要する場合は、アドレナリン(ボスミン注Ò)0.01mg/kgを10倍希釈してゆっくり静注し,効果不十分な場合、2〜3分おきに追加投与する。 Ⅱ.中等症から重症の場合:(血圧低下、意識低下、気道閉塞症状がみられる) ①アドレナリンの投与:アドレナリン0.1%液(ボスミン注Ò)0.01mg/kgをただちに皮下注射する。10〜20分間隔で投与してよい。静注を要する場合は、アドレナリン(ボスミン注Ò)0.01mg/kgを10倍希釈してゆっくり静注し、効果不十分な場合、2〜3分おきに追加する。 ② 輸液投与:乳酸リンゲル液など20ml/kg/h程度で開始。心不全患者などの場合には適宜減量する。 ③酸素投与および気道確保: a)高濃度(60%以上)の酸素投与を行う。 b)効果不十分な場合、気管内挿管を行い、100%酸素での人工呼吸に切り替える。喉頭浮腫が強く気管内挿管が不可能な場合は輪状甲状切開を行う。 c)気道の攣縮がある場合にはアミノフィリン5mg/kgを静注する。 ④循環管理:必要に応じて昇圧剤投与を行う。 血圧低下が遷延する際は、ドパミン5〜20mg/kg/minを併用する。 ⑤ステロイド投与:コハク酸ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフÒ)100〜200mg、4〜6時間毎に静注。 ⑥抗ヒスタミン薬:マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミンÒ)2.5〜5mg静注。
[参考文献] 1) Schatz M. Skin testing and incremental challenge in the evaluation of adverse reactions to local anesthetics, J Allergy Clin Immunol 1984; 74: 606-616 (Evidence grade: Ⅱ) 2) Macy E, Schatz M, Zeiger RS. Immediate hypersensitivity to methylparaben causing false-positive results of local anesthetic skin testing or provocative dose testing, The Permanente Journal 2002; 6: 17-21 (Evidence grade: Ⅲ ) 3) Gall H, Kaufmann R, Kalveram CM. Adverse reactions to local anesthetics: Analysis of 197 cases,, J Allergy Clin Immunol 1996; 97: 933-937 (Evidence grade: Ⅲ ) 4) Canfield DW, Gage TW. A guideline to local anesthetic allergy testing, Anesth Prog 1987; 34: 157-163 5) 斎藤厚 他,社団法人日本化学療法学会臨床試験委員会皮内反応検討特別部会,抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版) Evidence grade (Consultation and referral guideline citing the evidence: How the allergist-immunologist can help, American Academy of Allergy, Asthma & Immunology. 2006 Feb;117 (2 suppl consultation): S495-523. ) Ⅰa.
Meta-analysis of randomized controlled trials Ⅰb. Rnadomized controlled trial Ⅱ. Nonrandomized,controlled intervention study Ⅲ.
Observational cohort or case-control study Ⅳ.
Review article,expert opinion 6) Simons FER et al. World allergy organization guidelines for the assessment and management of anaphylaxis, J Allergy Clin Immunol 2011; 104: 405-412 7) Sampson HA et al. Second symposium on the definition and management of anaphylaxis: Summary report-second national institute of allergy and infectious disease/food allergy and anaphylaxis network symposium, J allergy clin immunol 2006; 117: 391-397
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