低コスト施設内CO2環境改善に関するマニュアルとソフトウェア

施設内CO2環境の成り立ち

施設で様々な作物を栽培する際に,気温,湿度,CO2濃度などは一日の間で大きく変化します.そのうちCO2濃度は低温期に強制的に換気を行わない施設ではしばしば大きく低下することが知られています.特にイチゴの高設栽培やトマトの水耕栽培などのように,施設に有機物(堆肥)を投入しない施設では著しくCO2濃度が低下し,近年はしばしばCO2施用が実施されています.ただ,土作りを十分に実施している施設ではCO2濃度が日中高く推移し, CO2施用を実施する必要がない施設もあります.近年,CO2のモニタリングが一般的になり始めましたが,どのように,CO2環境を改善すればよいかを,農林水産省の食料生産地域再生のための先端技術展開事業を利用して取りまとめました.

施設内CO2環境を改善するには

(1) 概略

低温期の施設内のCO2環境は ,夜間,昼間(換気なし),昼間(換気あり)の3つの状態を把握しておくことが重要ではないかと思われます.夜間は,土壌や植物体の呼吸により施設内にCO2が供給され,外気よりCO2濃度が高くなると隙間換気によりCO2が屋外に流出します.夜間は施設内でCO2が吸収されないため, 基本的にはCO2濃度は上昇する傾向にあります.昼間(換気なし)時には,植物が光合成によりCO2を吸収するため,土壌等からのCO2の供給と隙間換気による外気からのCO2の流入もしくは流出のバランスにより,CO2濃度が変化します. 昼間(換気あり)時には,外気との間でCO2の流入もしくは流出が起こるため,施設内のCO2濃度は外気に近くなる傾向にあります.それぞれのシチュエーションごとに施設内のCO2濃度を高く維持するためのポイントをまとめます.


図1 施設内のCO2の出入り

表1 換気の状態,昼夜による施設内CO2濃度変化のまとめ
昼・夜  換気の有無  CO2濃度
 夜 なし   上昇傾向
 昼 なし
 隙間換気の状態,日射量,土壌からのCO2の発生などに
よって変化する
あり 
 外気付近

(2) 夜間

夜間はCO2が上昇しやすい時間帯になります.CO2の発生源が土壌と植物の呼吸になるので,土耕栽培では堆肥を投入しますので有機物が定期的に補充されCO2の発生源となります.そのため,CO2の発生量が多くなります. しかし,水耕栽培やイチゴの高設栽培などではCO2の発生が少なくなる傾向があります.また,隙間換気が小さいとCO2濃度が上昇したときに屋外に散逸するCO2が少なくなります. 夜間蓄積されたCO2は日の出後の日中の光合成にも利用され,また,早朝のCO2濃度にも影響します.

また,夜間のCO2濃度の蓄積は,隙間換気による換気回数と施設内でのCO2発生量が一定であると仮定すると,以下の式で計算できます.

kt = ka + (k - (k - n * V * (k0 - ka)) * e-nt) / n / V

kt: t時間経過後の施設内CO2濃度 (ppm)
ka: 屋外のCO2濃度 (ppm)
k0: 測定開始時の施設内CO2濃度 (ppm)
k: 施設内でのCO2発生速度 (mL / hour)
n: 換気回数(回 / hour)
V: 施設の体積 (m3)
t: 測定開始からの経過時間 (h)

今,ハウスの体積が2695 m3のハウスがあり,午後の6時の施設内のCO2濃度が413(umol/mol) 屋外のCO2濃度が505であったとします,また,ハウスの隙間換気による換気回数が0.156(回/hour),施設内でのCO2発生量が303000(mL/hour)であったとすると,CO2濃度は 下記の図2のように変化します.


図2  夜間のCO2濃度の変化

このハウスの隙間換気による換気回数を30%改善(少なく)すると下の左図のようにCO2濃度が変化します.また,CO2発生量を30%増やすと右の図のように変化します.



図3 図2の換気回数を30%低下させたとき(左図)とCO2発生量を30%増やしたとき(右図)のCO2濃度変化

CO2発生量,換気回数とも改善するとしたのグラフのように変化します.


図4 図2の換気回数を30%低下させ,かつ,CO2発生量を30%増やしたときのCO2濃度の変化

このように,CO2発生量,隙間換気による換気回数を改善すると夜間のCO2濃度を高めることが可能です.また,作物によっては夜間CO2濃度の蓄積と日中のCO2発生により,CO2施用なしでも施設内のCO2濃度を高く維持できる場合があリ,CO2環境を詳細に把握することは施設栽培にとって有用であると考えられます.

なお,UECS(ユビキタス環境制御システム)導入温室で,夜間のCO2濃度を収集し,施設の換気回数を測定するソフトウェアを開発しており,以下のサイトからダウンロードできます.CO2濃度を測定するノードは市販品((株)富士通製ほか)を購入してください.

換気回数自動計算ソフトウェア



図5 CO2濃度変化を利用した換気回数自動計算ソフトウェアのウィンドウ


(3) 昼間(換気なし)

昼間にハウスを締め切った状態で植物を栽培すると,光合成の作用でCO2濃度が低下します(図6).CO2濃度が低下すると植物の生育が悪くなり,様々な作物で減収する要因となります.そのため,CO2環境改善の目的でCO2施用を実施いたします. 水耕栽培やイチゴの高設栽培など,有機物の投入が少ないハウスでは特にCO2施用が生産性を高めるために有用な方法であると考えられます.革新的技術緊急展開事業で開発した環境制御コントローラYoshiMaxなどを利用すると簡単にCO2施用が実現できます.


図6 トマト栽培施設のCO2濃度の変化

しかし,特に東北地方など冷涼な気候の地域で冬期の栽培期間が短い作型ではCO2施用を実施する期間が短くなり,CO2施用装置を導入することが難しい場合があると思われます.UECS導入温室でCO2濃度が大きく低下した場合には,通常の換気温度より気温が低くても換気を開始する,CO2濃度コントロール機能を搭載した 換気用ソフトウェアを開発しました.なお,このソフトウェアは革新的技術緊急展開事業の研究成果を利用し,食料生産地域再生のための先端技術展開事業によって改良を加えたものです.

CO2換気制御ソフトウェア

ソフトウェアを動作させると,図8のようにCO2濃度が極端に低いときには,ある一定以上の気温があるときに換気扇によって換気を実施するアルゴリズムで動作します. 環境制御用のノードは購入していただく必要があります((株)富士通ほか).


図7 CO2換気制御ソフトウェアの動作アルゴリズム

日中,換気を行わず,CO2施用を実施しなくても施設内のCO2濃度が高く維持される施設が土耕栽培ではしばしば見受けられます.このような施設では,施設内でのCO2発生量が多く,隙間換気回数が小さい施設となる.CO2のモニタリングを十分に実施せずに,安易にCO2施用機を導入することは無駄ともなるため注意が必要だと思われます.

(5) 昼間(換気有り)

日中,ある程度高温になると換気を行うのが一般的です.換気を行うとCO2濃度は外気と同程度のレベルとなる場合が多い.CO2を施用しても屋外に散逸する量が多くなり,無駄が多いため施用するとしても外気と同程度にするべきだと思われます.

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