国立大学法人 岡山大学

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水はタンパク質の立体構造を不安定化する ~長年信じられてきたタンパク質変性メカニズムの見直しへ~

2021年09月03日

◆発表のポイント

  • これまでタンパク質の変性について「タンパク質は、それを構成する疎水基が水との接触を避ける様に立体構造を安定化する」と説明されてきました。
  • 長年信じられてきたこの「疎水性相互作用仮説」を、独自に開発した理論計算により検証しました。
  • その結果、疎水基の水との接触はむしろタンパク質を不安定化(変性)させており、天然構造の安定性はタンパク質分子内に働く“直接相互作用”によることが明らかとなりました。

 岡山大学異分野基礎科学研究所の墨智成准教授と立命館大学生命科学部応用化学科の今村比呂志助教は、独自に開発した理論計算を駆使して、これまで広く信じられてきたタンパク質の変性のメカニズム「疎水性相互作用仮説」の問題点を明らかにすると共に、その代替となる安定化メカニズムを提案しました。
 タンパク質は体内で働く不可欠な分子であるという他に、近年は酵素やバイオ医薬品(例えば抗がん剤や新型コロナウイルスの治療薬など)として応用されています。タンパク質が働くためには規則正しい立体構造(天然構造(注1))が保たれている必要がありますが、この天然構造はそれほど安定ではなく、しばしば崩れ機能が失われます。これを変性といいます。タンパク質がどのようなメカニズムで変性するのか?これはタンパク質分子を応用する上でも重要な課題となってきました。現在の教科書には「タンパク質の天然構造は、それを構成する疎水基が水との接触を避ける様に、いわゆる“疎水効果”によって安定化する」と説明があります。
 本研究ではこの仮説を理論的に検証すべく、液体の密度汎関数理論(注2)を適用して、水を介した間接的相互作用の寄与を計算しました。その結果、水は疎水基を露出させるように、すなわち天然構造をむしろ不安定化していることがわかりました。さらに、天然構造の安定性はタンパク質分子内に働く直接相互作用に起因することを明らかにしました。本研究成果は8月12日、タンパク質科学会誌「Protein Science」に掲載されました。

◆研究者からのひとこと

教科書を書き換える程の成果であり、結果には当初大変驚きました。この新しい学説が広まるまで少し時間がかかるかもしれませんが、基礎科学として重要な一歩です。抗体タンパク質をはじめとするバイオ医薬品は立体構造が不安定であると効果の低下や保存が難しくなるため、タンパク質を安定化させることは応用面でも非常に重要です。従来はタンパク質を安定化すると思われていた水の効果を見直すことは、タンパク質の改良技術の向上につながると考えています。
  墨 准教授      今村 助教

■論文情報
論 文 名:Water-Mediated Interactions Destabilize Proteins
掲 載 紙:Protein Science
著  者:Tomonari Sumi, Hiroshi Imamura
D O I:10.1002/pro.4168
U R L: https://doi.org/10.1002/pro.4168


<詳しい研究内容について>
水はタンパク質の立体構造を不安定化する ~長年信じられてきたタンパク質変性メカニズムの見直しへ~


<お問い合わせ>
 岡山大学異分野基礎科学研究所
 准教授 墨 智成(すみ ともなり)
 (電話番号) 086-251-7837

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