国立大学法人 岡山大学

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メスは強いオスよりも求愛上手のオスが好き

2014年06月18日

 岡山大学大学院環境生命科学研究科(農学系)進化生態学分野の岡田賢祐助教らの研究グループは、オオツノコクヌストモドキのメスが戦いに強い大きな大顎を持つオスではなく、脚を使ってメスの体をたたく求愛技術が高いオスを好むことを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、2014年5月7日に英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B」電子版に掲載されました。
 従来、メスは強いオスを好むことが繁殖行動の定説ですが、本研究は従来の定説を覆す発見です。この矛盾は、繁殖時に起こるオスとメスの対立関係に由来します。
 本研究は、生物の繁殖に関する新たな理論を提示するものであり、多くの繁殖・進化に関する研究に役立つことが期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院環境生命科学研究科進化生態学分野の岡田賢祐助教、筑波大学生命環境科学系共存生物学研究室の香月雅子博士(日本学術振興会特別研究員)、英国エクセター大学生態学・保全学センターのデビッド・ホスケン教授ら計5名で構成される国際共同研究グループは、1,000を越える個体を使用した大規模な遺伝解析を行い、昆虫であるオオツノコクヌストモドキのメスが、オスの大顎ではなく求愛の技術の高さを基準に配偶相手を選ぶことを世界で初めて明らかにしました。

 従来の考え方では、メスは強いオスを好むことが分かっていますが、これには大きく分けて2つの理由があります。
1) 強いオスが外敵から身を守ってくれる・強いオスが所有する良質な餌場や縄張りを独占できる。(直接的利益)2) 強いオスを配偶者にした場合、戦いに強く繁殖に有利な息子を産むことができ、メスは孫の世代以降に自身の遺伝子を残す可能性が増える。(間接的、または遺伝的利益)
 しかし、今回の研究結果では、本種のメスは強いオスを配偶相手にしても、直接的利益はありませんでした。また、強いオスの息子は繁殖に有利ですが、娘は繁殖に不利であることがわかっています(図1A)。これは、オスの大顎の大きさに関係する遺伝子がメスの産卵数の減少にも関与しているからです。オスにとって有利に働く遺伝子がメスにとって不利に働く現象のように、繁殖時に生じるオスとメスの対立関係を、性的対立と呼びます。この対立の結果、メスは間接的利益を得ることができません(図1B左)。
 一方で、求愛上手なオスを配偶者として選ぶ場合、繁殖に有利な求愛上手な息子を産むことができるので、間接的利益を得ることが可能です(図1B右)。また、求愛上手なオスとメスの間に対立関係もありませんでした。そのため、メスは強いオスではなく、求愛上手なオスを配偶者として選ぶのかもしれません。

図1
A:繁殖時に生じるオスとメスの対立関係(イラスト提供:香月雅子博士)
B:強いオスと求愛上手なオスを配偶者に選んだ時に生じるメスの利益(イラスト提供:香月雅子博士)


<見込まれる成果>
本研究結果は、従来の繁殖行動の定説と合致せず、この矛盾は繁殖時に起こるオスとメスの対立関係(性的対立)に由来すると結論付けました。これまで考えられていたよりも繁殖時のオスとメスの関係はかなり複雑で、時に協調関係にあり、そして場合によっては対立関係にもなりうることがわかりました。従って、我々の発見から有性生殖を行う生物の繁殖様式に関する概念を考え直す必要性が示されました。
さらに、本研究は生物の繁殖に関する新たな理論を提示するものであり、人間を含めた生物全体の進化の理解に貢献します。
今後、本研究で示された新たな概念と実験手法が、多くの繁殖・進化に関する研究に役立つことが期待されます。

<補 足>
オオツノコクヌストモドキは、日本の本州と九州に分布します。オスが大きな大顎を持ち、メスをめぐる戦いをします。一方、メスには大顎はありません(写真)。


写真:オオツノコクヌストモドキのオスとメス、ならびにオス同士の戦い(写真提供:岡田賢祐助教)


発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Okada K, Katsuki M, Sharma MD, House CM, Hosken DJ. Sexual conflict over mating in Gnatocerus cornutus? Females prefer lovers not fighters. Proc. R. Soc. Lond. B, 2014, 281, 20140281; (doi: 10.1098/rspb.2014.0281)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院環境生命科学研究科 進化生態学分野
助教 岡田 賢祐
(電話番号)086-251-8324
(FAX番号)086-251-8324
(URL)http://soran.cc.okayama-u.ac.jp/view?l=ja&u=5ad9720ef1a76ecb74506e4da22f6611

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