国立大学法人 岡山大学

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No.10 アオコ問題解決の鍵を握るバイオ燃料電池

forcus on - tamura kanao

No.10 アオコ問題解決の鍵を握る
バイオ燃料電池

大学院環境生命科学研究科 微生物遺伝子化学 田村 隆 教授
微生物機能学 金尾忠芳 准教授

 岡山県は旭川、吉井川、高梁川という3本の一級河川に恵まれ、その豊かな水資源はたくさんのダムによって支えられています。しかし夏から秋にかけて、ダムや貯水池にはアオコが大量発生し、悪臭を発生させるなど、私たちの生活に悪影響をもたらしていました。大学院環境生命科学研究科の田村教授と金尾准教授は自らの専門分野を生かしながら、異分野融合でこの問題解決に挑んでいます。

―アオコの大量発生の原因を教えて下さい。

田村 ダムや湖の水面が太陽の光で温められると、温かい水は湖面、冷たい水は底にたまる性質があるので、対流が起きなくなってしまいます。そうすると、湖の底には酸素が行き届かなくなり嫌気的環境(酸素のない状態)が生まれます。嫌気性の微生物は自らの呼吸で水素(H2)や硫化水素(H2S)を利用したり、排出したりするのですが、これが還元電位(還元させる力)を生み出し、その還元力によって汚泥中のカルシウムなどと結合しているリンが水中に溶け出します。本来リンは生物にとって必要とされる養分ですが、結合した状態だと生物は利用できません。還元力によりリンが溶け出し富栄養化が起こると、リンを得た水圏生物の中で、最も生育が早いラン藻類が大量発生します。これがアオコの正体です。

―アオコが大量発生するとどういった問題が出てくるのでしょうか。

田村 水面が覆い尽くされるため景観が悪化するほか、魚のエラにアオコが付くことで、呼吸が出来ず大量斃死し、それにより悪臭が発生します。さらに、湖底の無酸素層では、嫌気性微生物の呼吸により硫化水素が発生するため、腐卵臭も発生してしまいます。また、アオコで発生する藻類の中にはマイクロシスチンと呼ばれる毒素を生産するものもあり、外国では健康被害も報告されるなど、さまざまな問題があります。

―今まで対策はされてこなかったのでしょうか。

田村 もちろん、対策は練られてきました。ところが、水質浄化に良いとされるホテイアオイという水生植物を入れたところ、夏に繁茂したものが冬に一斉に枯死して結果的に大量の有機物が出てきてしまったり、プランクトンを食べる魚を放流したところ、水草も食い荒らされた上、糞によってさらに富栄養化が進んでしまいました。また、対流を起こすためにポンプで空気を吹き込む方法もありますが、規模の大きなダムでは莫大なコストがかかってしまいます。

―こういったことはダムだけで起こるのでしょうか。

田村 ダムだけではありません。富栄養化は生活排水が原因とよく言われていますが、現在は下水処理が発達しているので、そういったことはあまりありません。それどころか、生活排水が上がってこない山奥の深い湖などでも、日光による温度差が作り出す酸化的、還元的な環境によって、富栄養化が起こっています。身近なところで、岡山城の西堀でもこういった現象が起きていて、夏には水位を下げて電位差を作り出さないなどの対策が練られているんですよ。岡山県は「晴れの国」と呼ばれるほど日照量が多いですから、湖水の温度差から湖面と湖底の電位差を生み、富栄養化をもたらす要因は大きいと言えます。

―それは意外でした。では、先生方の研究について教えてください。

田村 アオコ繁殖はこれまで生物の問題とされ、対策が考えられてきました。しかし現在は、湖底の還元電位によりリンが溶出する富栄養化メカニズムによる物理化学の問題とされています。私たちは、この還元電位を取り除くため、微生物の酵素を用いたバイオ燃料電池の開発に取り組んでいます。

―バイオ燃料電池とは、どういったものなのでしょうか。

図

田村 バイオ燃料電池とは、微生物が持つさまざまな酵素の働きが生み出すエネルギーを電気エネルギーに変換し、発電する電池のことです。アオコ発生の正体は湖底にたまった還元力なので、この還元力を電気として回収できれば電位差も解消され、リンの溶出がなくなります。還元力は電子を与えようとする力なので、まず湖底にバイオ電極を沈め、そこから電子を汲み取ります(負極)。一方で湖面には酸素が豊富にあり酸化的な環境にあるので、別のバイオ電極を湖面に設置し、湖底から汲み取った電子を酸素に与えます(正極)。私たちは環境理工学部の有機機能材料学研究室との共同研究で、微生物が持つ酵素を使って、この電気を抜き取ることができる電極の開発を進めています。

―詳しい仕組みを教えてください。

実験
嫌気性微生物を扱うため、アルゴンガスを充満させた嫌気チャンバー内で実験を行う

田村 私が研究しているのは負極のうち、水素(H2)から電子を汲み取るバイオ電極です。微生物が持つ酵素の一種、ヒドロゲナーゼは、電子を抜き取る反応(H2→2H+2e-)を進めることが知られています。ですので、微生物をたくさん培養し、集めた細胞の中からヒドロゲナーゼだけを取ってくる必要があるのですが、細胞1個の中にはおよそ1000種類もの酵素が存在しています。私は現在、遺伝子改変によって、ヒドロゲナーゼだけを釣り上げることができるような技術を開発しているところです。
金尾 私は硫化水素(H2S)から電子を汲み取るバイオ電極の研究を進めています。ヒトをはじめ、多くの生物はSQOR(Sulfide:Quinone Oxidoreductase;硫化水素:キノン酸化還元酵素)という酵素を持っているのですが、その中には硫化水素を生成する逆の反応を進めてしまうものもあります。湖底に沈めて使う電極なので耐久性の高さが求められますし、安定性の高いシンプルな構造であることも必要です。また、大量発現が可能であることも重要です。この研究の目的に合うSQORをどのような生物から取ってくるのが良いのか調べたところ、鉄硫黄酸化細菌(Acidithiobacillus ferrooxidans)という微生物が持つSQORが最適だと判明しました。この菌は硫黄化合物を食べて(酸化して)電子を奪い、これで二酸化炭素を還元して自身の有機物を作ります。さらに土や水など比較的どこにでも生息しています。私はこの酵素を遺伝子組換え発現によって十分量獲得することで、本研究の目的に適うような酵素電極の開発を進めています。

―物理や化学のような話も出てくるんですね。

田村 そうですね。根本的なメカニズムは物理化学で、それを解決するためのアイデアは化学。そしてそれを実現する手段は微生物です。

―まさに異分野融合といった感じですね。

田村 はい。このアオコ問題は生物の問題と捉えられてきて、生物の専門家ばかりが問題を解決しようとしてきました。しかし、実際は複合的な問題で、専門家一人ではなかなか解決に結びつきません。私たちも化学を専門とする有機材料系の先生たちと共同で開発を進めています。さまざまな分野の教員の手も借りて新しいアイデアを見つけ出し、課題に取り組むことが必要です。

―最後に、学生へメッセージをお願いします。

田村教授と金尾准教授
田村教授(左)と金尾准教授

田村 関係ないと思っていた分野が融合することで、誰にもできなかったことが実現できるようになります。私たちも微生物学だけでは、今回の研究にはつながっていなかったと思います。自分に関係ないと思っていても実は役に立つことはたくさんあるので、関係ないと決めつけず、勉強してみて下さい。
金尾 当たり前だと思っていたことに疑問を持つことで、問題の解決につながることがあります。生活排水による富栄養化でアオコが発生するのが当たり前と思われていますが、千屋ダムのような人里離れたところでなぜ富栄養化が進むんだろうと、疑問に思うことがこの研究のきっかけになったと思います。「なんで?」ということに気付くために、色々なことに興味を持って下さい。

略歴
田村 隆(たむら・たかし)
1965年生まれ。京都大学大学院修士課程、同大学大学院博士課程修了。農学博士。岡山大学に助手として赴任。米国NIHに留学、帰国後は岡山大学にて大学院助手、助教授、准教授を経て現職に至る。この期間、理化学研究所播磨SPring-8連携研究員、JSTさきがけ研究者等を兼任し、現在は東京大学・革新的シミュレーション研究センター研究員を兼務して、計算科学を取り入れた実験化学に取り組んでいる。専門分野は微生物遺伝子化学、特に微生物のユニークな酵素をエネルギー問題、環境問題に利用する研究に取り組んでいる。

金尾 忠芳(かなお ただよし)
1969年生まれ。岡山大学大学院修士課程、京都大学大学院博士課程修了。工学博士。岡山大学農学部に助手として赴任。岡山大学自然生命科学研究支援センターにて助手、助教を兼任し、現職に至る。専門分野は生物工学・応用微生物学。鉄や硫黄を食べる特殊な微生物の代謝とそれに関係する酵素を研究し、そのような微生物を金属回収や環境浄化へ利用することを目指している。

(18.6.22)