新着論文

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Significant increase in graupel and lightning occurrence in a warmer climate simulated by prognostic graupel parameterization

大気中に存在するあられ粒子を陽に予報し、あられに付随して生じる発雷の頻度も推定する新しいパラメタリゼーションを降水予報型スキームCHIMERRAに実装しました。 この先端的な微物理スキームを用いて温暖化実験を行った結果、特に極域であられ粒子の発生が促進されることにより発雷頻度が顕著に増加することが明らかになりました。 極域での発雷の増加は森林火災を誘発する直接的なリスクとなるため、結果として二酸化炭素や永久凍土からのメタン排出を増加させることで、温暖化をさらに加速させる正のフィードバックとしてはたらく可能性があります。

CERESMIP: A climate modeling protocol to investigate recent trends in the Earth's Energy Imbalance

全球エネルギー収支のインバランスの原因を数値モデルと衛星観測から調査するCERESMIPのプロトコルを記述した論文です。 近年の温暖化に伴い、地球に入射する太陽放射(短波)と宇宙へ射出される地球放射(長波)に不均衡があることが観測的に明らかになっていますが、短波と長波の内訳が観測とモデルで一致していない原因を特定することが大きな目標の一つです。
道端はMIROCを用いた数値シミュレーションを担当しました。

Too frequent and too light Arctic snowfall with incorrect precipitation phase partitioning in the MIROC6 GCM

全球気候モデルMIROCに新たに搭載した降水予報型スキームが、極域の降雪過程のシミュレーションにどのような影響を及ぼすかについて、人工衛星データ・衛星シミュレータを用いて統合的に解析しました。 降水予報型スキームの導入により、年平均の雲量・降雪量の再現性が大幅に向上した一方、瞬間値で見ると降雪頻度を過大評価し降雪強度を過小評価する系統誤差が明らかになりました。 この誤差補償は降雨・降雪のフェーズ分割のバイアスにも波及しており、結果として雲フィードバック・気候感度にも影響する可能性が高いことが示唆されました。

Impacts of precipitation modeling on cloud feedback in MIROC6

全球気候モデルにおける降水のモデリング手法と、気候感度・雲フィードバックの関係について定量的に調査しました。 上層雲量を観測よりも過小評価する傾向がある従来の降水診断型のパラメタリゼーションでは、将来の温暖化時に上層雲が高高度化することによる温室効果の増幅も過小に表現する傾向があることがわかりました。 上層雲量の過小評価は国内外の多くの気候モデルでも確認されている共通の問題であることを考えると、このバイアスは正の雲フィードバックおよびを気候感度を過小評価している可能性が高いことを意味する結果です。
道端は、降水スキームの高度化を担当しました。

Snow-induced buffering in aerosol–cloud interactions


数値気候モデルが表現するエアロゾル・雲相互作用による冷却の大きさ(有効放射強制力;ERFaci)は、観測と比較して冷却効果が強すぎることが指摘されていました。開発した降水予報型スキームを用いると、エアロゾルによる雲水の増大分が降雪によるrimingによって打ち消されることで、ERFaciが顕著に弱まり観測に近づくことが明らかになりました。これは、気候モデルと衛星観測の間の長年にわたるエアロゾル・雲相互作用の矛盾を紐解くカギとなるメカニズムの一つであり、従来型の気候モデルでは本質的な物理過程を見逃している可能性が非常に高いことを示唆する結果です。

Reconciling compensating errors between precipitation constraints and the energy budget in a climate model

国内外多くの気候モデルにおいて、降水の頻度・強度を観測から制約すると非現実的なエネルギー収支をもたらしてしまう、いわゆる誤差補償問題が共通バイアスとして知られています。本研究では、降水を陽に予報する先端的な2 momentスキームを用いることで、降水素過程とエネルギー収支の間の誤差補償が大きく緩和され、その物理的メカニズムがaccretionの増大に伴うwet scavengingとcoalescence scavengingを介した負のフィードバックであることを見出しました。これらの結果は、信頼性の高い気候予測における降水予報型パラメタリゼーションの重要性を強調する成果です。

Incorporation of inline warm rain diagnostics into the COSP2 satellite simulator for process-oriented model evaluation

衛星シミュレータCOSPは、数値モデルがシミュレートする仮想地球上に人工衛星と同じアルゴリズムをかけることで、モデルと観測のより厳密な比較を可能にするソフトウェアです。気候モデルにおける最大の不確実要素である雲の詳細な診断には、複数の衛星を組み合わせた解析が有効である一方、出力容量が膨大になるため解析の妨げとなっていました。本論文では、ターゲットとなる素過程をオンラインで診断するツールをCOSPに組み込み、モデルの不確実性の評価を効率的に行うことが可能になりました。ソースコード・観測統計ともに公開しており、世界中のモデリングセンターで活用されることを期待しています。

Prognostic precipitation in the MIROC6-SPRINTARS GCM: Description and evaluation against satellite observations

現状の国内外ほとんどの気候モデルにおいて、降水は診断変数として取り扱われるケースがほとんどです。しかしながら、診断型降水スキームでは降水特性の再現性に直接的なバイアスを生じるほか、エアロゾル・雲相互作用の強さの再現性にも不確実性が波及します。本研究では、降雨・降雪の質量および数濃度を予報しそれらの放射効果も陽に計算する、先端的な2 moment予報型降水スキームを開発し、MIROC6-SPRINTARSに実装しました。これらの素過程レベルでのモデル開発と衛星観測データとの比較を通して、より現実に近いエアロゾル・雲相互作用の表現と、降水・放射特性のバイアスの改良に貢献しました。

Strengthened Indian summer monsoon precipitation susceptibility linked to dust-induced ice cloud modification

インド夏季モンスーンに伴う土壌性ダストの輸送イベントについて10年分の衛星解析を実施し、ダストがもたらす雲氷の微物理特性の調整および降水量変化のリンクを調査しました。 ダストの輸送が顕著なケースでは、対流性の雲に対して氷晶核の形成を促進することで、結果的に降水を増加させるレジーム依存なエアロゾル・雲相互作用を拘束することに成功しました。
道端は、解析手法の提案を行ったほか論文執筆を担当しました。

The key role of warm rain parameterization in determining the aerosol indirect effect in a global climate model

衛星観測から拘束した降水特性を気候モデルMIROCで再現するために降水の時間スケールを長くすると、20世紀の温暖化トレンドを再現するために必要な放射収支を満たすことができなくなり、エアロゾル・雲相互作用のモデリングに系統的な誤差補償が存在することを明らかにしました。 これは、モデル内での雲・降水過程における自由度が少なすぎることに起因することが示唆されます。
道端は、降水スキームの実装を担当しました。

Aerosol effects on cloud water amounts were successfully simulated by a global cloud-system resolving model

気候モデルでは捕えることが困難であった「バッファ機構」を、雲解像モデルであるNICAMでは観測と整合的に捕えることができることを明らかにしました。 雲解像モデルでは微物理と力学の相互作用を陽に考慮できるため、気候モデルでは再現が難しかったentrainment-evaporationフィードバックによるバッファ機構が、うまく再現できていることを示唆する結果です。
道端は、MIROCを用いた感度実験および衛星観測データの解析を担当しました。

The source of discrepancies in aerosol–cloud–precipitation interactions between GCM and A-Train retrievals

エアロゾルの増加に対する雲の応答に、気候モデルと衛星観測間で系統的なバイアスがあることを示した論文です。近年のLES・理論研究によると、エアロゾルの増加に対して雲寿命効果を相殺するメカニズムが存在する可能性が示唆されていましたが、本研究はそのような「バッファ機構」の存在を世界で初めて衛星観測の観点から拘束することに成功しました。レジーム依存のエアロゾル・雲相互作用の再現性向上に重要なプロセスを全球規模の衛星観測データを用いて拘束したことで、ほとんど全ての気候モデルが抱える「エアロゾル・雲相互作用の過大評価問題」の本質的な原因解明に貢献することが期待されます。

Evaluation of autoconversion schemes in a single model framework with satellite observations

数値気候モデルにおいて、雲水から雨水に変換するautoconversionプロセスは、エアロゾルとの強い非線形依存性に起因して大きな不確実性を抱えています。本論文では、様々な気候モデルで採用されている主要な5種類のautoconversionスキームを用いた感度実験を行い、シミュレーションのパフォーマンスに対する潜在的なバイアスを評価しました。その結果、autoconversionスキームの変更のみでは、降水頻度・強度の改善と同時に放射特性も改善に向かわせることは不可能であり、気候モデルの誤差補償に関る本質的な素過程の改善を実施することの重要性を示唆しています。

The effects of aerosols on water cloud microphysics and macrophysics based on satellite-retrieved data over East Asia and the North Pacific

エアロゾルが雲の微視的な特性(microphysics)および巨視的な構造(macrophysics)に及ぼす影響について、CloudSat・MODIS衛星観測データを用いて検証した論文です。人為起源エアロゾルの排出が世界的にも多い東アジア域と、対照的に清澄な環境である北太平洋上の雲特性を比較し、また中緯度帯に特有の季節間の差違にも着目して解析しています。また、雲微物理の鉛直構造の評価手法として、CFODDを領域解析に適用し、従来指摘されていた力学場の重要性に加え、エアロゾル量の鉛直勾配も雲・降水場の変調に重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。