| DEPARTMENT OF ORAL REHABILITATION AND REGENERATIVE MEDICINE | |
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| | 岡山大学歯学部の皆さんに向けて. | 岡山大学歯学部を支えている皆さんへ
窪木拓男
岡山大学歯学部を支えて頂いている皆さんに今年もご挨拶を差し上げる機会を頂き,光栄である.私ごとではあるが,4年間にわたり歯学部長を務めさせて頂き,平成28年4月に浅海淳一教授と交代をさせて頂いた.本年からは,諸兄のご高配により,副学長(研究力分析担当)の任に就かせて頂き,主に科学研究費補助金の採択率向上に向けた全学的な活動をさせて頂いている.今後とも岡山大学,ひいては岡山大学歯学部の発展のために全力を尽くす覚悟であるので,引き続きご支援を賜りたい.
さて,このような貴重な機会を得たので,岡山大学歯学部の現状を直視し,どのように生き残りをかけるべきかを考えてみたいと思う.現在,歯科医師養成校は全国に29校ある。その中で国立大学は11校である.日本歯科医師会は,新規参入歯科医師を年間1500人に制限すれば本邦の歯科医療ニーズにマッチするとの意見書を出している。現在の国家試験合格者が年間2000人程度であるので,現状の3/4程度の定員削減を要求していると言える。人口が減少局面に突入したので,昨年度から厚生労働省も歯科医師の需給問題に関する検討を再び開始した。象徴的なデータは,18歳人口に関するものである。18歳人口はピークである平成4年を100とした場合に平成26年は約58%(205万人→118万人)に減少したという。しかし,歯学部の入学定員は平成4年を100とした場合に約90%(2722人→2460人)にしか減少していないという。これには地域差,すなわち,人口当たりの歯学部入学定員数も加味されなくてはならない。計算方法は,各ブロックにおける人口を各ブロックの歯学部入学定員数で除すというものである。人口当たりの歯学部入学定員数が最も少ないのは近畿ブロックであるので,これを1とした場合の数値が計算されている。入学定員が少ない順に羅列してみると,①近畿地区(1.0),②中国四国地区(1.6),③中部・東海地区(1.7),④東北地区(2.7),⑤九州地区(2.9),⑤北海道地区(2.9)となる。これをみると,岡山大学は中国四国地区の中でも近畿地区に隣接しており,歯科医師養成ニーズが比較的高い地域に立地していると言える。歯科医師の年齢も加味する必要がある。年齢階層別の男性歯科医師数のピークは経年的に高齢化しており,平成24年調査では50〜59歳が最頻値となっている。私の年齢同様,十年経つとこのピークは60〜69歳に確実に移動する。一方,女性歯科医師数は年齢層に限らず全体的に増加している。全国の歯科診療所の施設数は52216施設(平成2年)から68384施設(平成22年)と20年間で増加したが,平成23年度医療施設調査では廃止・休止の歯科診療所が開設・再開を上回り228施設減少,その後ほぼ横ばいに推移しており,平成26年は68592施設(対前年:109施設減)となっている。男性歯科医の大多数が50歳代を中心にしたピークに含まれており,これから歯科医の高齢化に伴って歯科診療所を閉院せざるを得ない所が増える可能性がある。すなわち,歯科医院の総数が減少局面に移行する可能性が出て来たといえる。一方で,保険診療のビッグデーターを解析した結果,総義歯が減少するなど旧来の歯科医療ニーズが減少したとされる一方,超急性期病院における医科・歯科連携や在宅介護医療における歯科のニーズが増し,リライニングや義歯修理など人生のライフステージに関連してよりきめ細やかな対応が必要とされている。これらの要因を統合して考えると,超高齢社会に対応した歯科医療ニーズが激増しており,旧来の歯科医療ニーズの減少を補填して余りある状況になってはいるが,今後の急激な人口減少局面を想定すると,歯学部の統合や定員削減が行われなければ,このまま出口での流入制限を継続する必要があるのではないかとの議論に至っている.つまり,高齢者医療のニーズが現在の歯学部定員の必要性を正当化している間は問題なさそうだが,急激な人口減少,最終的にはフラットな人口構成に近づく段階では,歯学部の定員削減,閉鎖,統合などが議論されることは間違いないものと思われる。もちろん,これは歯学部に限ったことではなく,むしろ全県に1つある医学部においては大変な問題である。すでに医師の需給問題に関する検討会が同様に開かれており,地域枠を撤廃するかどうかが議論されていることはご存じのとおりである。
岡山大学歯学部は,従来から,大阪大学,広島大学,徳島大学のトライアングルの中央に位置することから,西日本における国立大学歯学部密集を解消すべきという政治的オピニオンが幾度となく流されて来た。しかし,上述のように関西圏の歯科医師養成ニーズを考えると中国四国地区随一の岡山大学医学部に併設した形で歯学部が設置され,関西圏にも歯科医師を供給する方針は非常にリーズナブルと言わざるをえない。ただ,これまでの雑音が,岡山大学歯学部が「国立大学歯学部」として存在意義があるかどうかということを指摘していることも忘れてはならない。つまり,教育・診療機関としてだけの歯学部ではなく,研究機関としての役割も十二分に意識する必要があるのである。ここからは,具体的に教育・診療機能がどのような物差しで測られているか,研究力がどのように測られているかを示す。自分が関わっておられる指標については全国ランキングを常に意識して欲しい。入試・教育機能については,志願者倍率,入試倍率,偏差値,短期受入留学生数,短期派遣留学生数,国家試験合格率,6年間での国家試験合格率,臨床実習自験数,臨床実習配当患者数,留年率,退学率,研修医マッチング率,大学院定員充足率,国費外国人留学生数などがある。臨床機能については,外来患者数,入院患者数,診療費用請求額,病床稼働率,医療比率,紹介率などがある。研究力の指標としては,科学研究費補助金採択数,科学研究費補助金採択総額,ISI掲載論文数,論文被引用度数(トップ1%,トップ10%高被引用論文数),論文インパクトファクター数などがある。岡山大学歯学部は,入試,歯学教育や診療機能,国際交流では概ねよい評価を頂いているが,岡山大学歯学部の科学研究費補助金採択率や英語論文数が最近低下傾向にあることは心配の種である。第2期中期目標中期計画期間の現況調査表の作成がやっと終了したが,結局,S,SS研究プロジェクトと学術的に認定されるためには,第三者がその研究に学術的価値を見いだす必要があり,その客観的な指標が求められている。現状では,Sは基盤研究(B)以上の科学研究費補助金の採択,専門分野トップジャーナル(歯科では,JDRなど)での論文掲載,SSはそれに加えてインパクトファクター8程度以上の国際誌への掲載,トップ1%〜トップ10%の高引用度数が条件になっている。つまり,Sは歯科界でトップクラスの業績,SSは歯科界を越えて他分野に大きなインパクトがある研究プロジェクトと捉えることもできる。今期は,歯学系では,Sが19件,SSが6件提出されたが,実際SSの選定には本部の厳しい意向もあり苦労した。我々は,このようなことで弱音を吐いてはならない。上述のように,国民は岡山大学歯学部に研究力も求めているからである。発信される新しい医学概念や医療イノベーションにより,岡山大学歯学部は歯科大学のリーダーとならなければならない。そこで,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯学系ならびに岡山大学病院歯科系では,新任の教員の方々の5年間のテニュアトラック期間におけるテニュア採用業績基準を今年度より厳格化した。岡山大学歯学部が優れた国立大学として認知され,未来に渡って岡山大学歯学部が歴史を刻んで行けるようにとの思いからである。
歯学部が現在どのような環境におかれているかは概ねお解り頂けたと思う。不躾ではあるが,歯学部を支えている皆さんに今一度御願いをしておきたい。全国を見回して,自分の業績が自分の専門分野でどのレベルにあるかを意識して欲しい。他大学の自分と同じ立場や年齢の教員と自分を比較して欲しい。自分のためにも,また,歯学部のためにも,少しずつ努力を積み重ねて自分が自分の専門とする分野でトップになって欲しい。そのためには,国内の有力な研究施設と共同研究をしたいと考えるかもしれないし,海外の有力研究者と共同研究をすることもあろう。また,ポスドクとして留学したいと思うこともあるだろうし,有力な研究者を招いて共同研究の打ち合わせも必要になろう。本来,研究室レベルの国際交流とはこのような素朴なニーズから自然発生的に生まれるものであり,国際交流自体が目標になっている現状はやや残念と言わざるを得ない。その結果,その研究者が世界に冠たる業績を上げたならば,何も宣伝しなくても,たくさんの外国人留学生が訪れる研究室になるはずである。また,皆さんの不断の努力によって学術分野における知名度が上昇すれば,科学研究費の採択も自然と確度が増す。すなわち,成功への全ての道は,今日のほんの少しの勇気,努力,無理から始まり,不断の向上心がこれを確たるものとする。このような活動が全ての分野でなされ,日本一を目指して努力を積み重ねれば,必然的に岡山大学歯学部は日本一になるのである。
指導的な立場にすでに就かれている教員の方々にも改めて御願いをしておきたい。産学連携が推進されている現状においては,学会発表や論文発表よりも,特許や共同研究契約,委託研究契約,守秘義務の締結の方が重要視されている。また,大きな論文をインパクトファクターの高い雑誌に投稿することが望まれる昨今,論文数を増やすことは難しい。しかし,大学に土曜日,日曜日に出てきて建物を歩いてみると,歯学部棟で仕事をしている教員数が激減しているように思う。これでは,岡山大学歯学部の業績が上昇するわけがないし,近隣の歯学部と戦えるはずがない。文部科学省のお役人と話すと,国立大学歯学部は大丈夫か,専門学校になるのか,国立と私立の差を見せて欲しい,他分野が影響を受けるような突出したイノベーションはないのか,現在の問題を政策に落とし込む力がないのではないかなどと心配される。若手の教員と膝をつき合わせて議論すると,自分も留学したいがポスドクとしての留学先がないので留学は難しいという。なぜなら,大学病院の診療報酬請求額を維持するために,昔のような「研修(有給)」で海外出張することができなくなり,職を辞して留学することが医療系学部レベルで申し合わされているからである。指導的な立場に就かれている教員におかれては,将来の岡山大学歯学部を背負うはずの若手の研究者が,留学に行きたいと思ったときに希望した場所に留学できるよう,準備を怠らないで欲しい。できれば,留学先からポスドクの給与が頂けるように,後輩の能力を高めて送って欲しい。ある意味,労働の適切な対価が支払われるレベルに研究室の研究レベルを高めることは,先達としての責任であると思うからである。一番注意しなくてはならないのは,先輩達が命がけで守ってきた研究室であっても,立派な後継者が育たなければ,その存続が危うくなるという事実である。
全県に1つはある国立大学自体が,前述の18歳人口の減少を見据えれば,統廃合の波に呑まれるかもしれない。道州制の導入は,この県に一つという箍(たが)を外して競争の荒波に国立大学を導くものである。すでに,我々は国家公務員としての立場を上手に剥奪され,年俸制の道を歩んでいる。企業同様の競争の道を歩むべきとの中央省庁の考えの基,このような政策が進められている。もはや,公務員であるから生涯この職場が守られていると誤解してはならない。我々はこの道で競争して勝ち残るしかないのである。目の前の状況から言うと,とにかく,岡山大学病院が臨床研究中核病院に採択されることが必須であろう。また,革新的医療技術創出拠点の第2期募集で再度採択されることも必須と思える。我々歯学系ならびに歯科系構成員もこの点で貢献できるようぜひ尽力してほしい。公的な外部資金は,文部科学省の科学研究費補助金とAMEDの補助金に2分された。良く情報を仕入れて両方の補助金をとりにいきたい。科学研究費補助金の大規模制度改革が目前に迫ってきた。大きな研究費はどんどん医療系としてまとめて審査される方針である。ますます,サイエンスとしての質とともに,他分野にも影響力のある研究計画立案能力が求められる。課題解決型高度医療人材養成プログラムの採択は,歯学部に岡山大学ありと中央省庁に気づかせた。しかし,本プログラムが十分な成果を上げなければ,注目されているだけにその傷は大きい。皆の力を総合して,歯学教育改革の成果を上げたいものだ。
今一度皆さんに確認したい。各研究室が分野ごとの全国ランキングを意識して,トップを目指して欲しい。自分の研究室はある理由があって難しいと言いたい時もあるかもしれないが,その手加減を自分から求めるべきではない。皆が,岡山大学の明日は自分が支えるのだという意識を持ってできる限りの努力を尽くしていれば,自ずと道は開ける。要は,皆が上を向いて歩くことである。
平成28年5月18日 インプラント再生補綴学分野教授室にて | 
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