軌道整列の観測手法
     
           
     軌道整列を直接観測する手法として、共鳴X線散乱と偏極中性子回折による測定があります。偏極中性子回折で磁気形状因子の異方性から軌道状態を議論する方法は、1976年にAkimitsuItohによってK2CuF4に初めて応用されました。我々は、偏極中性子回折法を採用し、様々な磁性体で軌道秩序の観測を試みており、K2CuF4以外にもYTiO3で軌道秩序の観測に成功しています。

2.1 中性子回折法

中性子は、電荷0、核スピンをもった粒子であり、2つのスピン角運動量を持ちます。また、核散乱と磁気散乱と呼ばれる2種類の散乱を生じます。核散乱は中性子と原子核との相互作用によるものなので、すべての原子に対して起きます。磁気散乱は中性子と電子の持つスピンとの相互作用であるので原子の磁気モーメントをもつ磁性原子がある場合のみに起こる散乱です。結果として中性子回折からは、原子核の位置や運動状態についての情報と、磁気構造をはじめとした磁性原子についての情報が得られるということになります。そこで軌道整列を観測するためには、この磁気散乱を精密に測定しなければなりません。そこで、我々は偏極中性子回折法を用いて軌道整列の観測を試みています。

  

2.2 偏極中性子回折法

  偏極中性子回折法では中性子は原子炉から核分裂したことによって発生したもの使います。中性子のスピンの向きによって得られる散乱強度は違うものになります。この性質を利用して、中性子のスピンが上向きと下向きの時に分けて観測します。原子炉から出てきた中性子をこのまま試料に当てても中性子のスピンの向きは非偏極であるため、測定することができません。そこでポーラライザー(Polarizer)を使ってスピンを偏極させ同じ向きにそろえます。次に偏極した中性子の偏極方向を反転させることができるスピンフリッパー(Spin flipper)という装置を使い、中性子の向きが上向きのときと下向きのときの散乱強度を比較します。

                     但し、とする

入射中性子のスピンが上向きの時の散乱強度I+と、入射中性子のスピンが下向きの時の散乱強度I-の比で求めた結果となる偏極率 Rを求めると、核構造因子FNは結晶構造を調べれば計算により求めることができるので、磁気構造因子FMを求めることができます。散乱断面積は、装置の分解能や試料結晶の形状などによる補正を受けますが、偏極率Rではそのような補正係数が分子分母で打ち消しあうため測定精度はほとんど統計誤差のみとなり磁気構造因子FMを非常に精度よく求めることが可能です。