軌道整列を引き起こす相互作用
     
           
   

4.1 超交換相互作用と軌道整列

 軌道整列を引き起こす相互作用として超交換相互作用が挙げられます。ここでは、§2で説明した軌道自由度と超交換相互作用がどの様に関わってくるかを説明します。例として結晶内の各磁性元素が1つのスピンを持つとし、以下の2つの状況を考えてみます。

・軌道の自由度と電子数が同じ(half-filled)状態
・軌道の自由度に対して電子数が半分(Quarter-filled)状態

Halffilled状態のとき、軌道は強磁性的・スピンは反強磁性秩序になります[Fig.4.1 (a)]。一方、Quarterfilled状態のとき、軌道は反強磁性的・スピンは強磁性秩序になります[Fig.4.1 (b)]。つまり、軌道の自由度によってスピン秩序が決定されています。§4.2以降に、half-filled状態及びquarter-filled状態でスピン秩序が反強磁性や強磁性になる理由について説明します。

 

 

4.2 超交換相互作用

まず、超交換相互作用を説明するのに必要な摂動論について説明します。摂動を考えた際に、ハミルトニアンH

(H0:無摂動部のハミルトニアン,V:摂動による補正)

と書くことができます。ここで、無摂動部でのシュレディンガー方程式は

と表すことができ、摂動を含めたすべてのエネルギーをEnと波動関数は次のように表すことができます。

また、二次摂動によるエネルギーをあらわすと、

                  

となります。また、Vによってlからkに移る確率振幅のことです。
 この電子の飛び移りの確率振幅をtとして考える。nを基底状態として考えると中間状態であるmのときは電子が同じ軌道に2つあるためにクーロン反発力Uが発生します。よってEm > Enとなり分母は必ず負となります(fig.4.2)。これよりに二次摂動によって基底状態のエネルギーを必ず下げるといえます。
 
次にhalf-filled(軌道の自由度と電子数が同じ)状態を考えると、各原子に電子が一つずつ局在している状態がもっとも安定しています。基底状態として、原子に2個電子がいる状態はクーロン相互作用のためにエネルギーが増加してしまうため実現しません。しかし電子が飛び移ることで中間状態はfig.4.3 (a)のように得られます。half-filled状態ではスピンが平行な場合はfig.4.3 (b)のようになって実現しません。この場合の二次摂動によるエネルギーは

 

となり、この式はエネルギーが下がることを意味しています。つまりこの相互作用は反強磁性的に働く相互作用です。また、この相互作用は電子の運動を通じて生じたものです。このように同じ軌道間(軌道が平行の状態または強的な軌道状態という)の相互作用でスピンが反平行になるときに反強磁性を示すことを超交換相互作用と呼びます。

 

 

4.3 強磁性超交換相互作用

超交換相互作用は電子の飛び移り積分の二次摂動を考えることで得られます。この相互作用は飛び移り積分が軌道に依存していることが重要です。Quarter-filled状態(軌道の自由度に対して電子数が半分)を考えると利用する軌道によっていくつかの過程が考えられます(fig.4.4)
  (a)では軌道縮退の効果は入っていないため超交換相互作用は反強磁性的になります。
  (b)では中間状態で縮退した軌道が使われているので、そのエネルギーはU’+Jとなります。またこのときは(a)と同様に反強磁性的な相互作用が得られます。
  (c)では中間状態でフント結合が大きく働くために強磁性的な相互作用が得られます。
  (a)(c)を比較した際に(c)の相互作用が最も基底状態のエネルギーが低くエネルギー的にも得します。このように軌道縮退した状態が存在した場合、スピンは平行であるが、違う軌道間(軌道が反平行の状態または反強的な軌道状態という)の相互作用を強磁性超交換相互作用と呼びます。