銅酸化物超伝導体
     
           
   

  1986年のJ. BednorzK. Müllerによる『Possible High Tc Superconductivity in the Ba-La-Cu-O System』の報告(Fig.1)から始まった銅酸化物超伝導体は、現在も当研究室のみならず多くの研究グループによって研究されつづけています。現在では100 K級の超伝導体も数多く発見されています。
 『銅酸化物』という名前の由来ですが、これはこの系が結晶構造中に必ず銅と酸素からなる
CuO2面を持っていることからきています。Fig.2に最初の銅酸化物超伝導体La2-xBaxCuO4の結晶構造が示してあります。この結晶構造はK2NiF4型と呼ばれるもので、 Ba1-xKxBiO3と同じペロブスカイト型構造と岩塩型構造が交互に積み重なった構造をしています。図中で矢印で示したところがCuO2面です。銅酸化物超伝導体では、このCuO2面が超伝導の舞台となる重要な役目を担っています。

 

超伝導発現のキーファクター CuO2面の電子状態とキャリアドープ!!
 高いTcを持つ銅酸化物超伝導体ですが、その発現機構などは発見から20年近くたった現在でもはっきりと分っていません。共通点はいくつかあり、必ず母物質CuO2面を持つ反強磁性絶縁体であり、キャリアドープにより超伝導発現に至るなどです。ここでは、銅酸化物における最初の超伝導体La2-xSrxCuO4の母物質La2CuO4を例にとって、現在最も有力なものを紹介します。

 

 

CuO2面の電子状態@ 〜Mott insulatorと反強磁性秩序相関〜

 銅酸化物超伝導体は、結晶構造中に必ず銅と酸素からなる2次元平面: CuO2(CuO2 plane)を持っていることから、このCuO2面が超伝導発現に大きく関与していると考えられてきました。母物質の組成をみてみると、(La3+)2(Cu2+)(O2-)4と各イオンごとに分けることができます。結晶構造全体をみると、CuO2面とLa3+O2-からなる(LaO)2層が交互に積層した構造をとっています。CuO2面は全体で-2価、(LaO)2層は全体で+2価でイオン的となり、系全体を中性に保っています。

 
CuO2面をみてみると、Cu2+(3d)9O2-(2p)6の電子状態をとっているため、Cu3dx2-y2の軌道は電子が1つ足りない状態となっています。ここで『3dx2-y2の軌道は電子』と書きましたが、これはLa2CuO4におけるCu2+のエネルギー準位をみてみるとFig.3のようになっているためです。Cu2+3d軌道は5重に縮退した状態で、5個の軌道はそれぞれ軌道方向で3dxy(x-y平面), 3dyz(y-z平面), 3dzx(z-x平面), 3dx2-y2(x軸とy軸方向), 3dz2-r2(z軸方向)と呼ばれています。普段なら同じエネルギー準位にいるはずの5つの軌道なのですが、まず、Cuを囲んで8面体配位している酸素の影響を受け、酸素方向の軌道を持つ3dx2-y2, 3dz2-r2がエネルギー的に高くなります。そのため、5重に縮退していた3d軌道はt2g(3dx2-y2, 3dz2-r2)eg(3dxy, 3dyz, 3dzx)2つの準位に分裂します。このような結晶構造中の原子配位による影響を、結晶場といます。さらに、La2CuO4の場合、CuO6八面体はz軸方向に伸びているため(エネルギー的にこのような構造になったほうが安定なため) 3dx2-y2の方が3dz2-r2よりも大きな影響を受けます。このため、 3dx2-y2のエネルギー準位が最も高くなります(このようなエネルギー準位を分裂させる影響をヤーン・テラー効果と呼びます)。この結果、 Cu2+の場合3dx2-y2軌道に電子が1つだけ入った状態となります。CuO2面の軌道の様子を描いてみると、Fig.4のように、Cu3dx2-y2軌道とO2p軌道からなる混成軌道を形成しています。
 
CuO2面の電子状態は、 Cu2+(3d)93dx2-y2のバンドが半分だけ埋まった状態(Fig.5(a))ですから、金属的な性質が見られるはずでが、実際には伝導性がなく、母物質は絶縁体として振舞います。これは、電子間に強い相関が働いているためです(このような系のことを強相関電子系と呼びます)
 伝導が起こるためには、
3dx2-y2の電子がCuサイト間を飛び移らなければいけません。しかし、 3d軌道を有する銅酸化物のような系では、2電子が同一サイトにいると電子間に強いクーロン相互作用: Uが働きます。つまり、1つのCuサイトに2電子が占有するとエネルギーUの分だけ余計にエネルギーが必要となります。このため、伝導が起こるための電子の飛び移りは抑制され、電子は各Cuサイトに局在する状態となります。このときのCuO2面のバンドの様子はFig.5(b)のようになります。大きな電子相関の効果によってCu3dバンドが電子で満たされた下部ハバードバンドと空の上部ハバードバンドの2つに分裂し、その間にギャップ(Mott-Hubbard gap)が形成されてしまうのです。よって、本来電気伝導があるはずの銅酸化物超伝導体の母物質は絶縁体の状態になっていると考えられています(強い電子相関によって軌道が分裂した結果絶縁体となったものをモット絶縁体(Mott insulator)と呼んでいます)。この結果、Cuサイトには1つの正孔(Hole)とスピン1/2を持った局在電子が存在し、Cuイオンを磁性イオンにしています。母物質で反強磁性の秩序が見られるのもこのためです。
 母物質では、
Cuサイト上のs=1/2のスピンが反強磁性的に整列して見えますが、これは、Cuサイトにスピンがあることももちろんなのですが、Oサイトの2つの電子の影響も加わって起きていることです。Fig.4CuO上の矢印は、それぞれのサイトの電子によるスピンを表しています。Oサイトは、全て電子が詰まっているので見かけ上2つのスピンがいます。銅酸化物における反強磁性秩序の相関は、隣同士のCuサイトのスピンがこのOサイトのスピンを介して相互作用し成立しています。このような相互作用を超交換相互作用といいます。

 

CuO2面の電子状態A 〜キャリアドープと超伝導の発現〜

 銅酸化物超伝導体の大きな特徴が、キャリア濃度に依存して系の性質が反強磁性→超伝導→金属と変化することです。ここで、キャリアはCuO2面内に導入されるホールやエレクトロンのことをいいます(Ln-214系のおける置換量: xのことです)Fig.7は銅酸化物超伝導体のキャリア濃度に対する相図です。横軸の右の方向がキャリアがホール(La2-xSrxCuO4, YBa2Cu3O6+δ, Bi2Sr2CaCu2O8+δ etc…)のとき、左の方向がエレクトロン(Nd2-xCexCuO4 etc…)のときです。ホール濃度が小さい領域では、母物質の性質が強く反強磁性を示す絶縁体ですが、ホール濃度が増加するにしたがって超伝導が発現します。超伝導相は、はじめキャリアドープが増すにしたがってTcが増加する領域(underdoping region)があり、あるドープ量で最高Tcを向かえる(optimal dope) と、今度は逆にTcが減少する領域(overdoping region)になります。最適ドープ量は0.150.20程度です。ドープ量がさらに増加すると、今度は超伝導は示さなくなり、金属的な性質が強い領域となります(エレクロトンドープの場合は、ホールドープの場合よりも緩やかに反強磁性が減少し、反強磁性がなくなると同時に超伝導相が現れます)。また、銅酸化物超伝導体では、超伝導状態ではない領域で擬ギャップとよばれる超伝導ギャップ構造のようなものがTc以上でも見える領域があります。
 次に、超伝導が発現する際のバンド状態を見てみます。ここで使うモデルは、銅酸化物の電子状態を表現するときによく支持されているモデルです
(今のところ有力というだけで、銅酸化物超伝導体において決定的なものは提唱されていません)
 超伝導が出現するということは、本来モット絶縁体である母物質のバンド状態が金属的なバンド状態に変化したということになります。先に述べたように、母物質における
CuO2面にバンドはFig.8(a)のようになっています。
 まず、ホールドープによる超伝導体
La2-xBaxCuO4を考えてみます。 La2-xBaxCuO4 では、La3+Ba2+で置換することにより(LaO)2層の電荷が+2価から減ってしまいますので、系全体の電荷を中性に保つ為には、-2価に保っていたCuO2面の電荷も-2から-1価の方向に変化しなければなりません。つまり、CuO2面内から電子を取り去ら(CuO2面内にホールを入れる)なければならないということです。この結果、本来絶縁体的バンド状態(Fig.8(a))であったCuO2面のバンド構造が、電子が抜ける(ホールが注入される)ことでFig.8(b)のような金属的なバンド状態に変化すると考えられています。
 一方、エレクトロンドープによる超伝導体
Nd2-xCexCuO4では、Nd3+Ce4+に置換されることにより(NdO)2層の電荷が+2価から増加します。そのため、CuO2面の電荷は-2価から-3価の方向に変化、つまりCuO2面内にさらに電子を入れることになります。この結果、バンド構造はCu3dの上部ハバードバンドに電子が入ったFig.8(c)のようになると考えられています。
 銅酸化物超伝導体で考えられているこのようなバンドモデルは、半導体の説明によく見られることから、半導体に模してホールドープによる超伝導体をp型超伝導体、エレクトロンドープによる超伝導体をn型超伝導体と呼びます。
 このように、pn型の両超伝導体とも説明できることから、このモデルが有力であると考えられますが、エレクトロンドープに比べて単結晶が容易に得られるホールドープ型では、
Fig.8(b)とは少し異なるFig.8(d)が有力であるともいわれています。このモデルは、ホールドープにO2pバンドの少し上に新しい状態(半導体でいうところの不純物準位)が形成され、それにより金属化したというものです。このほかにも、n型とp型が本当に(Tcに差があるのに)同じモデルで説明できるかなどいろいろ議論の余地が残されているのが現状です。この機構解明のためにも、今後も新しい実験結果や新物質の発見が期待されています。

 

超伝導探索の指針!?  - 銅酸化物超伝導体の特徴 -
 数々の銅酸化物超伝導体が発見された現在では、超伝導機構の解明につがる情報もそろってきましたが、その一方で新しい超伝導探索の指針となるべき特徴もわかってきました。
 その一つが
Fig.9で示した『プロック層の概念』です。銅酸化物超伝導体の結晶構造はFig.9に示したように、CuO2面を他の原子層が挟み込みCuO2面が孤立した状態にあります。Fig.10La2-xSrxCuO4では、[(La,Sr)2O2]層がCuO2面を孤立させる役目を果たしています。このような原子層のことを『ブロック層』と呼んでいます。すなわち、銅酸化物はCuO2面とブロック層が交互に積み重なった構造を取っているのです。
  先に述べたように、
CuO2面が超伝導を担っているのに対し、ブロック層は超伝導発現の鍵となるキャリアを供給する役目を果たしています。銅酸化物の1つの特徴としては、CuO2面の秩序(バンド構造 etc)を乱すことなく、ブロック層の電荷バランスの調整によって超伝導発現させるためのキャリアを注入できることです。このとき、La2-xSrxCuO4においてCuO2面は [CuO2]-2、ブロック層を[(LaO)2]+2と表すと、Srをドープすることによりブロック層が[(La,Sr)2O2]+2-pCuO2面を[CuO2]-2+pと表すことができます。このpがキャリア濃度となります(p > 0でホールドープ, p < 0でエレクトロンドープに対応します)。また、ブロック層は単位格子で考えたとき、母物質においてブロック層の電荷は必ず平均+2価になっています(Y-123ではY3+, [CuO chain]1+ですが単位格子全体で考えたとき、ブロック層は平均+2となります)

 このように考えると、銅酸化物超伝導体はCuO2面とブロック層をパズルのように組み換えることで全て表現することができます。したがって、新しい銅酸化物超伝導体を開発するときは、主にブロック層の組成を工夫することで行うことができるのです。
 数多く発見された銅酸化物超伝導体から、いくつかのおもしろい経験則が提唱されています。一つは、
CuO2面の枚数とTcの関係です。単位格子内に1枚のCuO2面を持つLa2-xSrxCuO4ではTc = 40 K2枚持つYBa2Cu3O6+dではTc = 90 K3枚持つHgBa2Ca2Cu3O8+δではTc = 134 Kと、確かにCuO2面の枚数が多いほうがTcが高くなる傾向があります。では、無限にCuO2面が積み重なっている物質ではどうかというと、超伝導すら示しません。やはり、ブロック層などで隔てられた孤立したCuO2面が必要であることが言えそうです。Fig.11は単位格子内のCuO2面の枚数に対するTcの値を代表的な各物質ごとに示しています。これを見ると、CuO2面の枚数が3枚のときに最もTcが高くなる傾向があるということがわかります。孤立したCuO2面もありすぎては逆に高いTcを発現させるのには不利のようです。また、CuO2面の形状がTcに関係しているともいわれています。Fig.12は、各種銅酸化物超伝導体のCuO2面の形状を表しています。銅酸化物超伝導体の中でも高いTcをもつHg, Tl系のCuO2面が平らなのに比べ、La-214CuO2面は凸凹しています。これをみると、CuO2面が平らに近いほうが高いTcを期待できる傾向があるようです。
 銅酸化物超伝導体は、
La2-xBaxCuO4の発見以降に200種近く報告されています。しかし、この他にもいろいろな経験則が存在している現在では、ここで紹介したものも考慮することでまだまだ高いTcを持つ新超伝導体が見つかるかもしれません。

 

銅酸化物超伝導体のユニークな結晶構造!!
 銅酸化物超伝導体は、超伝導を示すどの組成もCuO2面を持っているという共通点がありますが、単位格子(unit cell)に含まれるCuO2面の枚数によってユニークな構造を取ります。ここでは、数十種ある結晶構造の主なものを紹介します。

 

Ln-214(CuO21枚層を有する)

  Fig.133種類の銅酸化物の結晶構造が示してあります。これらの物質の特徴は、単位格子内に1枚のCuO2面を持っているということです。通例これらは、(a)T, (b)T’, (c)T*型構造と呼ばれています。まず、(a)T型ですが、最初の銅酸化物超伝導体La2-xBaxCuO4などがこれに相当します。T型ではCuと周りの酸素が8面体(CuO6 8面体)を作り、CuO2面はこの8面体が横に連なった形をしています。次に、(b)T’型ですが、エレクトロンドープにより超伝導を示すNd2-xCexCuO4がこの構造をとります。T型との違いは、T型では8面体だったCuO6の頂点部分の酸素(頂点酸素)がないことです。このためT’CuO2面は、正方形になっています。最後に(c)T*型ですが、これはT型とT’型を合わせたような構造を取っています。そのため、CuO2面の片側にだけ頂点酸素が配位し、ピラミッド型のCuO2面を形成しています。(Nd,Ce)2-xSrxCuO4がこの構造で超伝導を示します。
 
この系の超伝導体における大きな特徴は、キャリアコントロールを元素を一部置換することで行っているという点です。ここで紹介した物質では、Ln3+Ba2+もしくはCe3+などで一部置換することで超伝導を発現します。

 

Y-Ba-Cu-O

  初めて液体窒素温度を越える90 K級のTcを記録したのがFig.14に示したYBa2Cu3O6+δ(Y-123)です。Y-123の発見は、La2-xBaxCuO4においてBaではなくSrによるキャリアドープを行った方が高いTcが出現したことや、圧力を印加したときにTcが上昇したことが発端になっています。つまり、イオン半径が小さいほうが高いTcがえられるのではないかという発想です。その結果、La2-xSrxCuO42倍以上のTcを実現するに至りました。
    この系では単位格子内に2枚のCuO2面を持っています。 La2-xBaxCuO48面体型のCuO2面を持っていたのに対し、Y-Ba-Cu-O系では8面体が上下に別れ、その間にYが入ることによって上下のCuO2面が頂点酸素を介して直接に連結するのを防いでいます。そのため2枚のCuO2面はピラミッド型を取っています。また、この系の結晶構造における大きな特徴がピラミッドの頂点をつないでいるCuO(チェーン)の存在です。このチェーンサイトはちょうどCuO2面の面方向の酸素が欠損することで形成された形をしています(この部分がCuO2面だと、3つのペロブスカイトが頂点酸素を介して連結してしまう)。この点で、Y-Ba-Cu-O系は、銅酸化物の中で最もユニークな結晶構造といえます。
 
CuOチェーンは、Y-Ba-Cu-O系の超伝導発現にも大きな影響を与えています。Ln-214系がLnサイトを他元素置換することで超伝導が発現したのに対し、この系では、チェーンサイトに酸素イオンが入ることで超伝導が発現します(Y-123系の母物質は、チェーンサイトの酸素が全部抜けた状態のYBa2Cu3O6となります)Y-Ba-Cu-O系の超伝導としては、Y-123のほかにチェーンサイトが2重になっているYBa2Cu4O8(Y-124)や、Y-123Y-124構造を1周期ごとに繰り返したY2Ba4Cu7O14(Y-247)などがあります。また、これらのYサイトをLnで置き換えた系でも同様に超伝導が確認されているものも存在します。

 

Bi, Tl, Pb, Hg

 これらの系ではTc = 100 K級の超伝導体が多く存在しています。大きな特徴は、CuO2面間にCaイオンが入ることによって単位格子内のCuO2面の数が増えて、それとともにTcも高くなっていくということです。またこの系でも、酸素が超伝導発現に必要なキャリアを供給しています。
 
Fig.15Bi系超伝導体の一例を示しています。順番に(a)Bi2Sr2CuO6(Bi-2201), (b)Bi2Sr2CaCu2O8(Bi-2212), (c)Bi2Sr2Ca2Cu3O10(Bi-2223)となっています。Fig.15をみると、Ca1つ増えると、CuO2面の枚数が1つ増えているのがわかります。
 ここに示した
Bi系超伝導体の最初の報告は、Bi-2201でした。後に30 K級の超伝導体であることが報告されましたが、発見当時のTc10 K程度であったため、あまり注目されないままでした。しかしBi-2201の発見から数ヵ月後、これにCaを加えたBi2Sr2CaCu2O8(Bi-2212)Bi2Sr2Ca2Cu3O10(Bi-2223)がそれぞれ、95 K, 110 Kの超伝導体であることが発見されました(Bi-2201を発見した研究室では、抵抗測定などでBi-2212Bi-2223の兆しが見えていただけに大変後悔しましたという逸話があります)Bi-2223は銅酸化物超伝導体において、はじめて100Kを超えるTcを記録した超伝導体です。
 ここで重要なことは、
CaSrが結晶構造中に別々のサイトを持っているということです。当時、新超伝導体の探索を行うとき、化学的な性質が似ている元素を置換しても大きな変化はないだろうというのが普通の考え方でした。SrCaは共にアルカリ土類金属に属している元素です。しかし、イオン半径はCa1.02Å, Sr1.18Åと違いがあります。この違いが同じ化学的性質を持っているにもかかわらず、同時に結晶構造中に存在できる結果となったのです。このBi系の発見以降、同様な観点からの探索により、Tl系などでも高いTcを有する超伝導体が発見されました。
 現在、最高のTcの記録を持っている
Hg系超伝導体も結晶構造が少々異なるものの、Caイオンが入ることによりCuO2面が増加するという同じような特徴を持っています。Fig.16は、Hg系超伝導体の結晶構造を示しており、順に(a)HgBa2CuO4+δ(Hg-1201), (b)HgBa2CaCu2O6+δ(Hg-1212), (c)HgBa2Ca2Cu3O8+δ(Hg-1223)となっています。Tcはそれぞれ、90 K, 120 K, 134 Kです。このHg系の中で、Hg-1223の高圧下におけるTc = 164 Kが現在の最高Tcです。Bi系のときと同様に、Fig.16で示した結晶構造を取る物質はTl, Pb系にも存在し、共に高いTcを示す超伝導体として報告されています。

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