第1回 生殖生命科学セミナー
出生直後の雌ラットやマウスにエストロゲンやアンドロゲンを投与すると、視床下部の恒久的な変化が誘起され、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンの周期的な分泌がなくなり、無排卵を伴う不妊となる。この研究は、出生直後の雌ラットに同腹の雄の精巣を移植すると、無排卵性卵巣となることから、精巣からの分泌物が、脳の性分化に重要であることを示したPfeiffer(1936)の研究に端を発している。また、出生直後のエストロゲン処理は無排卵を引き起こすだけでなく、膣上皮のホルモン非依存性の増殖を誘起し、加齢により膣癌へと移行する現象は、元岡山大学教授の高杉先生により発見された(Takasugi et al., 1962)。このようなエストロゲンによる組織不可逆化には、臨界期があり、発生の特定時期にエストロゲンの曝露を受けたときのみに起こる。卵巣の多卵卵胞、肝臓の代謝酵素、精子形成異常、免疫機能低下など知られている(Iguchi et al., 1992)。しかし、エストロゲンによる膣上皮不可逆的増殖のメカニズムに関しては、完全に理解できているわけではない。最近の研究から、エストロゲンは臨界期に作用すると、エストロゲン受容体のAF1領域のエストロゲン非依存のリン酸化を引き起こし、上皮成長因子ファミリーの恒久的な発現、上皮成長因子受容体、erbB2の恒久的リン酸化を引き起こし、これらの細胞内シグナルはエストロゲン受容体の恒久的リン酸化を引き起こすという、活性化ループが形成されていることを明らかにした(Miyagawa et al., 2004)。また、エストロゲン受容体ノックアウトマウスを利用することにより、臨界期でのアンドロゲン投与による膣上皮不可逆化はエストロゲン受容体aを介していることも明らかにした。性ホルモンによる組織不可逆化の研究の歴史的背景、現時点で明らかになっているメカニズムの一端、野生生物での性ホルモン類似物質による組織不可逆化にいて、我々の研究を紹介する。 世話人:高橋純夫 |