研究室紹介

 哺乳動物の生殖 (繁殖) は、非常に巧妙で複雑なメカニズムの上に成り立っています。私達の研究室では、哺乳動物の繁殖に関与する生理活性物質 (ホルモンなど) の役割と分泌のメカニズム、さらには作用機構の解明を目指し研究に取り組んでいます。私達の研究は、産業動物の生産やヒトを含む哺乳動物全般の不妊治療の現場に重要な情報を提供しています。


1. 研究の目的と意義

① 哺乳動物の生殖をコントロールし家畜の生産効率を上げる

 人口増加に伴う食糧問題に対応するため、効率的な家畜生産技術の開発が求められています。家畜生産の現場において、受精胚の作出技術が飛躍的に進んでいる一方で、その出産率が低いことが問題になっています。この問題を解決するためには、受精胚を育てる母体のメカニズムを解明することが大きな意義を持ちます。

② 不妊症の予防、診断や治療法開発を最終目的とする生殖機能発現調節機の解明

 子供のできない患者には、ホルモン分泌に異常があるケースが少なくありません。ホルモン異常から引き起こされる、卵胞が育たない、排卵がおこらない、黄体が機能しないなどの症状が不妊の原因であることがあります。最近では、地球温暖化が進み、夏季の暑熱による着床障害 (不妊の原因のひとつ) の増加も問題化されつつあります。こうした不妊の原因や発症のメカニズムがわかれば、その治療法だけでなく予防法を開発することができます。そのため、哺乳動物の生殖ホルモンに関するという基礎研究は極めて重要な研究分野なのです。

 

2. 内分泌学基礎知識

◎ ホルモンって何だ?

 ホルモンとは、動物の特定器官または細胞で産生される生理活性物質で、内分泌腺や特定の神経細胞から分泌されます。一般的には「血液中に分泌されて体内のほかの場所に運ばれ、特定の期間に微量で一定の作用をもたらすもの」とされてきましたが、血流を介することなく局所的な作用を持つホルモンの存在が明らかになり、現在ではホルモンはその分泌の様式から、内分泌、傍分泌、自己分泌に分類されています。

 哺乳動物の生殖周期は、脳の「視床下部-下垂体」そして「性腺」の命令系統「視床下部-下垂体-性腺軸」によって支配されていることが知られています。しかし、それだけではなく卵巣において産生されるステロイドホルモン、子宮において産生されるプロスタグランディン類など、生殖器官で合成される様々なホルモンによって局所的に調節されることが解ってきました。私達はこれらの傍分泌、自己分泌で作用するホルモンの生理作用や、産生調節機構の解明を試みています。

◎ 生殖ホルモンの研究・・・何をするのか?

 排卵周期の調節に重要なホルモンを産生する器官の代表として、視床下部、脳下垂体に加え、卵巣と子宮が挙げられます。私達は単胎動物のウシに焦点を合わせ、卵巣および子宮から細胞を単離し、これらの培養細胞を用いて様々なホルモンの卵巣あるいは子宮への生理作用ならびにそれらの機能調節機構に関する研究をおこなっています。

 私達の研究チームは、大きく分けて卵巣機能調節機構探索グループと、子宮グループの2つによって構成されています。卵巣グループならびに子宮グループの主な研究目的は次のとおりです。

黄体グループ:黄体内局所調節因子による黄体退行機構の解明
子宮グループ:子宮内膜のプロスタグランディン合成調節機構の解明

近年では上記の2グループに卵管グループが加わり、卵管から単離した培養細胞を用いた研究を行っています。

 

3. 実験系一覧

 私達の研究室では、次のような実験系を用いて研究をおこなっています。

○   動物組織からの細胞の単離と培養
○   組織培養
○   EIA エンザイムイムノアッセイ)
○   DNA assay (DNA量の測定)
○   mRNA発現(定量的 RT-PCR・DNAシークエンス)
○   Protein assay (BCA法、Lowry法)
○   Ca2+測定
○   タンパク発現 (免疫組織化学、Western blotting)
○   アポトーシスの解析 (WST-1 assay、TUNEL assay)

〇    細胞への遺伝子導入 (リポフェクション・エレクトロポレーション)