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岡山大学大学院環境生命自然科学研究科

動物栄養学研究室


研究紹介(西野)

 

 産業動物(特に牛)の栄養・健康と環境衛生

獣医療、飼養管理、衛生管理の技術が発達した現在でも、乳房炎は解決困難な問題です。泌乳量が増加して1日に30〜40 kgの牛乳を搾りだすことが普通に求められる ようになり、搾乳に伴うダメージから回復するだけでも現代の乳牛は大変でしょう。乳頭口の閉鎖が不完全であれば、病原性微生物の侵入も避けられません。

乳房炎は微生物感染症ですから、その予防には病原因子(微生物)、環境因子(牛舎環境)および宿主因子(乳牛の栄養状態、免疫機能、乳頭形状等)の相互関係を理解 することが必要です。それまで続けていた飼料と腸内容物の細菌叢調査から対象を空気粉塵を含めた環境に広げ、乳房炎予防を目指したフィールド調査を行っています。

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乳房炎の原因菌は、伝染性と環境性に分けて理解されています。伝染性乳房炎は搾乳者の手指や搾乳機器を介して伝搬する乳房炎で、黄色ブドウ球菌、無乳性連鎖球菌等 が原因菌とされています。環境性乳房炎は糞便や牛床から病原菌が侵入する乳房炎で、大腸菌群、環境性連鎖球菌、環境性ブドウ球菌等が原因菌とされています。とはいえ、 乳房炎のおよそ1/4は原因菌が不明です。また、糞便や牛床から侵入するとされていますが、例えば大腸菌群は糞便でも牛床でも非常にマイナーな菌種です。高感度のMiSeq解析で これまで見えなかった感染経路が見えてくるのでは・・・乳牛の栄養状態、免疫機能評価と合わせて調査を続けています。

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 畜産食品の品質評価と機能解析−農場から食卓まで−

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牛乳タンパク質の約1/4はβ-カゼインですが、A1型のβ-カゼインが胃腸の炎症や過敏性に関与するといった報告を受けて、これを含まない A2牛乳が製造販売されるようになりました。健康影響については議論がありますが、世界のA2牛乳市場は今後さらに拡大すると予想されています。

A2牛乳は、β-カゼイン遺伝子CSN2がA2A2の牛を集め、その生乳を同一ロットで殺菌・充填する体制があれば作ることができます。ホルスタイン種はA1A1および A1A2が多くA2A2の牛を揃えるのは容易ではありませんが、岡山県蒜山地域が主要産地として知られるジャージー種はA2A2の割合が多い(7割以上)ことが特徴です。

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A1型のβ-カゼインが問題となるのは、消化酵素の作用で生じるBCM-7というペプチドが消化器系の不快感、腸管炎症等に関与するとされ るからです。一方、発酵乳製品のスターターとして用いられる乳酸菌の中にはBCM-7のようなプロリンリッチなペプチドを加水分解する酵素(DPP-4 family)を持つものがあります。 ヨーグルトやチーズではA1牛乳への不安が払しょくされるかもしれませんし、A2牛乳の優位性が失われる可能性もあります。

ジャージー種を対象とした調査研究は以前から行っていますが、現在力を入れているのはCSN2遺伝子の診断とマウスを用いたA1牛乳およびA2牛乳の機能性評価です。

 

 伴侶動物の栄養・健康と野生動物の衛生・管理

軟便症状を示す犬は子犬から成犬まで10%くらい存在します。大型犬のシベリアンハスキーはその傾向が強く、フードの選択を間違えると、下痢(軟便)、嘔吐等の症状が 速やかに見られます。正常時の糞便細菌叢を調べてみると、ハスキーは小型犬に比べLactobacillusの割合が多いことが分かりました。一般には整腸作用が期待される乳酸 菌ですが、軟便傾向にある大型犬では逆効果である可能性もあります。ハスキーには特徴的にLactobacillus coleohominisが検出されないことも示されました。小型犬の 糞便からL. coleohominisを生菌分離して、糞便性状や腸管炎症への影響を評価できないか奮闘中です。

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日本国内におけるニホンジカの生息頭数は約250万頭と推測されています。シカやイノシシによる農作物被害は深刻で、岡山県は2023年までに野生シカの生息頭数を半減する という目標を掲げています。私たちは、岡山県北部で捕獲された野生シカを対象として、栄養状態の季節変動およびミトコンドリアDNAに基づく系統関係の調査を行いました。血液 性状と糞便細菌叢は、捕獲季節および捕獲場所に関わらず安定していました。例外は冬期に低かった血漿Ca濃度で、野生シカが冬期に融雪剤(CaCl2)を舐める行動と関係すると考 えられました。定期、不定期のモニタリングを行い、適切な個体群管理および農林業被害の縮小につなげたいと考えています。

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