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 HOME > 研究開発 : 革新的治療薬ナノバイオ標的医療創成Ad-SGE-REIC





      Innovation      
岡山大学ICONTにおける「ナノバイオ標的医療イノベーション」

   岡山大学 ナノバイオ標的医療イノベーションセンター(ICONT)は、文部科学省・平成18年度科学技術振興
  調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラムに、岡山大学が提案した「ナノバイオ標的
  医療の融合的創出拠点の形成」事業が採択されたことを受けて産学連携
  学内特区として設立されました。これまで種々の標的医療に関するトラン
  スレーショナルリサーチを実施してきましたが、現在は、がん治療遺伝子
  REIC(Redued Expression in Immortalized Cells)に関する基盤研究と
  固形がんに対する遺伝子治療薬の創製に特化して研究開発を進めて
  います。
   近年がん治療法は大きく進歩しましたが、難治固形がん、特に進行
  がん、多発転移がんに対し、既存の治療で対処することは依然として
  困難な状況であります。これらの治療には、がん細胞の選択的細胞死と
  抗がん免疫の活性化が「治療の鍵」とされており、これら二つの機能を
  併せ持つREIC遺伝子製剤は、夢のがん治療薬として期待されています。




  がん治療遺伝子REIC

   近年、がん抑制遺伝子を標的とする新たな治療法が構築されてきました。この中で、REIC遺伝子は、①多くの
  がん種において、がん抑制遺伝子として機能すること、②がん細胞での強制発現が`がん選択的アポトーシスを
  誘導し、それが、がん細胞固有のストレス応答機構と密接に結びついていること、③広範な生命現象やがんの
  発症に関与するWntシグナル伝達経路を負に制御するDkkファミリーの一員であることが明らかになり、実際に、
  担がんモデル動物を用いて、広範かつ強力な抗がん作用が実証されています。
   平成23年1月から、最初の開発製剤であるAd-CAG-REICのヒトへの初めての投与試験(FIM: First-in-Man)が
  岡山大学病院で実施されました。この臨床試験では、その安全性とともに、持続的完全寛解例を含め、臨床有
  用性が実証され、創薬POC(Proof of Concept)が確立されています。また、これらの成果は学術論文として公表
  されています。
 
Ad-CAG-REIC製剤による持続的寛解例
     【発表論文】
    Kumon H, Sasaki K, Ariyoshi Y, Sadahira T, Araki M, Ebara S, Yanai H, Watanabe M, Nasu Y.
    Feasibility of Neoadjuvant Ad-REIC Gene Therapy in Patients with High-Risk Localized Prostate Cancer
    Undergoing Radical Prostatectomy. Clin Transl Sci. 2015;8:837-840. doi: 10.1111/cts.12362.

    Kumon H, Sasaki K, Ariyoshi Y, Sadahira T, Ebara S, Hiraki T, Kanazawa S, Yanai H,
    Watanabe M,Nasu Y.
    Ad-REIC Gene Therapy: Promising Results in a Patient with Metastatic CRPC Following Chemotherapy.
    Clin Med Insights Oncol. 2015; 9:31-38. doi: 10.4137/CMO.S23252.




 がん免疫サイクルの観点からみたAd-REICと分泌REICタンパク質の分子
 機構の解明と新規創薬

                     文部科学省・平成22年度~令和2年度 特別電源所在県科学技術振興事業

    ICONTでは、平成22年度から平成27年度にわたり、REICによるがんの遺伝子治療を発展・深化させるため
  の基盤研究として、特別電源所在県科学技術振興事業「がん治療遺伝子REICによるナノバイオ標的医療の創
  制」を進めてきました。この間に得られた研究成果を基盤に、平成28年度、29年度は「REICタンパク質の機能
  解析による新たな創薬基盤プラットフォームの構築」をテーマとし、平成31年度からは、未だ解明されていな
  い生体恒常性維持機構に関わるREICタンパク質の本能を明らかにするとともに、これを新規創薬の開発に繋げ
  ることを目指しています。




 Ad-SGE-REICの開発と悪性胸膜中皮腫を対象とした臨床試験
          科学技術振興機構(JST) 平成26年度産学共同実用化開発事業(NexTEP)
                科学技術振興機構(JST) 平成23年度研究成果最適展開支援事業(A-STEP)
                               本格研究開発ステージ実用化挑戦タイプ

   岡山大学は、遺伝子発現を飛躍的に向上させるSuper Gene Expression(SGE)システムを開発し、REICタン
  パク質の高発現に成功しました。このシステムを用いた第二世代製剤Ad-SGE-REICが、杏林製薬株式会社を
  開発主体とするJST産学共同実用化開発事業(NexTEP)に採択され、平成27年9月から、岡山大学、兵庫医科
  大学、国立がんセンターの3施設で悪性胸膜中皮腫に対する臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験が開始されました。この臨床
  試験では、JST・平成23年度研究成果最適展開支援臨床事業(A-STEP)の支援を受け、岡山大学発のバイオ
  ベンチャー桃太郎源株式会社と協働で製造したAd-SGE-REICのGMP製剤が使用されています。
   この悪性胸膜中皮腫を対象とした臨床第Ⅰ相試験においては安全性・有効性で有望な結果が得られ、第Ⅱ相
  試験へと進みましたが、オプジーボ®(免疫チェックポイント阻害剤)の発売時期と重なったため、対象患者のほと
  んどがオプジーボ無効例となり、想定していた効果が得られませんでした。
   現在、桃太郎源株式会社が、米国のベイラー医科大学において、Ad-SGE-REICと免疫チェックポイント阻害
  剤の併用による臨床第Ⅱ相試験を実施しており、その結果が待たれます。
 
                    
     なお、米国では、Ad-SGE-REIC製剤を用いた限局性前立腺がんに対する第Ⅰ相試験も実施されており、
   予定した12名について、MRI画像診断や組織生検でのがんの消滅やPSA(前立腺がん腫瘍マーカー)の低下
   など有効な治療成績が得られています。




 岡山大学病院における医師主導臨床試験
   日本医療開発機構(AMED)平成29年度橋渡し研究戦略的推進プログラム シーズC課題

    わが国では、平成29年8月から岡山大学病消化器内科において肝がんを対象と
   した臨床第Ⅰ/Ⅰb相試験が、ICONTの協働企業である岡山大学発のバイオベン
   チャー桃太郎源株式会社の支援を受けて実施されています。

    また、再発悪性神経膠腫を対象とした臨床第Ⅰ/Ⅱa相試験が、平成29年度・日本
   医療開発機構(AMED)の橋渡し研究戦略的推進プログラム・シーズC課題として
   採択され、平成31年10月から、岡山大学病院脳神経外科において、再発悪性
   神経膠腫患者への投与が開始されています。