研究紹介
研究紹介1:感染性下痢症に関する研究
インド国では、コレラ菌、赤痢菌、病原性大腸菌、カンピロバクター属菌等の細菌、ロタウイルスやノロウイルス等のウイルスなど、さまざまな病原体による下痢症が広く蔓延しています。生活インフラが整備された日本では、「感染性下痢症」という言葉自体の馴染みが薄いかもしれません。しかし、これらの病原体は旅行者下痢症の原因微生物としての観点、また輸入食品の汚染という食品衛生管理の観点からも研究の必要性がますます高まっています。私たちのユニットでは、下痢症の疫学調査、病原体のゲノムおよびメタゲノム解析、文献情報を用いた病原体や下痢症のメタ解析など、多角的な手法を駆使してインド国をはじめとする途上国における感染性下痢症の実態解明に取り組んでいます。特に、コレラ菌等の無症候性キャリア(病原体の感染が起こっていながら、症状があらわれていない者)に関する研究を精力的に進めており、興味深い新たな知見が蓄積されつつあります。
研究紹介2:コレラ菌の変異・薬剤耐性に関する研究
ユニットが研究を行っているコルカタ市は、今日まで続く世界規模でのコレラ流行の一つの中心地です。このコレラ菌が即時に入手可能な地域の特性を活かし、入院患者から数多くのコレラ菌を系統的に収集して研究に使用しています。現在の研究としては、コレラ菌の抗菌薬耐性とその遺伝子の経年変化に関する解析、流行株の毒性・病原性に関与する毒素や因子の遺伝子レベルでの解明などに注力しています。また、次世代シーケンサーを活用した解析により、コレラ菌のゲノム進化のメカニズムを明らかにするための研究も並行して進行中です。このような研究を通して、コレラの効率的な制御方法や予防方法などを開発していきたいと考えています。
研究紹介3:カルバペネム耐性Enterobacter spp.に対するPOT解析の有用性評価
Enterobacter spp.は院内感染症の起炎菌かつ高頻度にカルバペネムに耐性化を発揮する菌種として臨床的に重要な細菌である。従来的には、検出菌株の相同性をトレースする方法はパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法しかなかったが、その煩雑性やコストが高いことから病院検査部で実施することは困難であった。近年、日常微生物検査の範疇でも実施可能なPOT(PCR-based ORF Typing)解析がEnterobacter spp.を対象に開発されているが、その臨床的有効性は未解明である。本研究ではカルバペネム耐性Enterobacter spp.に対するPOT解析の有用性評価を行うことを目的とする。
研究紹介4:カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)におけるセフィデロコル耐性菌の検出頻度および耐性メカニズム解析
CREはWHO(世界保健機関)が薬剤耐性リストのFirst Priorityに設定する、最も注目すべき薬剤耐性菌である。日本で新規開発・上市されたセフィデロコルは、様々な薬剤耐性グラム陰性桿菌に有効であることが報告されているが、国内検出のCRE株に対する有効性は十分に明らかになっていない。本研究では、岡山県内で検出されたCRE臨床分離株に対して薬剤感受性データを提供するとともに、セフィデロコル耐性株における耐性メカニズムを遺伝子学的観点から明らかにすることを目的とする。
研究紹介5:岡山県近隣地域におけるCREの疫学調査
インバウンド人口の増加が著しい現在、海外からの薬剤耐性菌の持ち込みリスクは年々増加しているが、現時点における岡山県及び近隣地域でのCREの疫学については不明な点が多い。本研究では岡山医学検査センターとの共同研究を通してCRE/ESBL産生菌のスクリーニング培養を実施し、ゲノム解析を含めた網羅的ゲノム解析を実施する。