梯子格子物質Sr14-xCaxCu24O41の超伝導
     
           
   

 

1. 1次元系物質

2. 梯子格子系物質における超伝導探索の歴史

3. 梯子格子物質A14-xCaxCu24O41(A = Sr, Ca, Ba, Y, La)の結晶構造

4. 常圧下にける梯子格子物質Sr14-xCaxCu24O41の物理的性質

5. 梯子格子物質Sr14-xCaxCu24O41の超伝導と今後の課題

 

 

1. 1次元系物質

 1次元物質である梯子格子は2次元と1次元がクロスオーバーしている系として大変注目をあつめています。特に、超伝導という観点からはDagottoらが2本のスピン1/2反強磁性ハイゼンベルグ鎖を横に結合させてできるハイゼンベルグ梯子模型において、スピンがシングレット状態を組み、スピン励起にギャップ構造があらわれるという計算結果を示した事により、近年多くの実験および理論研究がなされてきました[1]

 

2. 梯子格子系物質における超伝導探索の歴史

 銅酸化物梯子格子の例としては1991年の広井らのグループによって報告された、SrCu2O3およびSr2Cu3O5といった一連のSrn-1Cun+1O2nがまず挙げらます[2]。図1にSrCu2O3およびSr2Cu3O5の直流磁化率温度依存性を示します[3]。奇数本の1次元鎖を有する3本鎖物質Sr2Cu3O5の場合の帯磁率は温度の低下に伴い一定値に向かうのにたいして、偶数本の1次元鎖を有する2本鎖梯子物質SrCu2O3の帯磁率はスピンギャップを反映して、低温で磁化の落ち込みが観測されRiceらの偶数本の1次元鎖を有する系はスピンギャップが開き、奇数本の場合は開かないという予想と矛盾しない実験結果が得らました。スピンギャップの大きさは2本鎖の実験結果を理論曲線でフィットすることによりSG=420Kと見積もられてます。このようにスピンギャップが理論の予想どおりに観測されるものの、本系は単結晶合成およびキャリアコントロールが難しく超伝導化には至っていません。

また、1995年には広井、高野らにより2本鎖梯子物質LaCuO2.5の報告がなされました[4]Srn-1Cun+1O2n系とは異なり、本系は銅酸化物超伝導体La2-xSrxCuO4と同様、3価のLaサイトを持っていますので、3価のLaサイトを2価のSrで置換する事によりキャリアをコントロールすることができるという利点があります。電気抵抗率温度依存性の結果からSr置換量x=0.180.20の間で金属-絶縁体転が観測されます。金属-絶縁体転移は銅酸化物超伝導体においても観測されており、非常に興味深い現象といえます。しかし、本系は金属的な電気伝導があらわれるにもかかわらず理論の予想に反し超伝導は発現していません。その理由としては、(1)Sr置換によるランダムなポテンシャルの導入による超伝導の抑制してしまう(2)鎖間の有限な相互作用が超伝導状態よりも3次元的なNéel orderを安定化させてしまうといった2つが考えられています。特に母物質LaCuO2.5NMRおよびμSR測定からTN110Kの反強磁性の存在が報告されており(2)とコンシステントな結果といえます[5,6]。このようにスピンギャップや金属-絶縁体転移といった超伝導のkey word といえる物性は観測されるもののこれまで超伝導の発現は観測されていませんでした。しかし、1996年上原らによりSrxCa14-xCu24O41という物質に3GPa以上の超高圧を系に引加することによりTc10Kの超伝導が報告されました。

 

3. 梯子格子物質A14-xCaxCu24O41(A = Sr, Ca, Ba, Y, La)の結晶構造

 A14Cu24O41(A=Sr, Ca, Ba, Y, La)McCarronおよびSiegristらにより初めて物質合成の報告がなされています。結晶構造はCuO2鎖、A層および2本鎖のCu2O3梯子面がそれぞれ積み重なった構造を有しています。

 

4. 常圧下にける梯子格子物質Sr14-xCaxCu24O41の物理的性質

 母物質Sr14Cu24O41はイオン的中性条件からCuの形式価数を求めると、+2.25となりホールキャリアがいわゆるself-dopingした形になっていますが、系は絶縁体的振る舞いを示します。もし母物質Sr14Cu24O41にホールキャリアを導入したい場合、2価のSrサイトを1価のアルカリ金属で置換する事が常識といえますが、本系の場合には2価のSrサイトを同じ2価であるCaで置換することにより電気的物性は劇的に変化することがわかりました。図4Sr14-xCaxCu24O41の電気抵抗率の温度依存性を示します[7]。電気抵抗率はCa置換量に伴い系統的に抵抗率が減少し、x = 9で金属-半導体転移が観測されます。また、金属領域におけるT-linearな振るまいや抵抗率のオーダーは銅酸化物超伝導体と類似している事からも、CuO2鎖による伝導というよりはCu2O3梯子面における伝導を強く示唆した結果といえます。しかし、本系もLaCuO2.5と同様にキャリアドープのみでは超伝導は発現せず圧力印引加が必要です。

 

5. 梯子格子物質Sr14-xCaxCu24O41の超伝導と今後の課題

  図5に多結晶試料Sr0.4Ca13.6Cu24O41.84の高圧下電気抵抗率温度依存性を示します。圧力引加にともない電気抵抗率は系統的に減少し、特にP=3GPaにおいてTc=10Kの超伝導転移が観測されました。
また、近年ではMotoyamaらによりSr14-xSrxCu24O41x-P相図が報告されており、Ca置換量x>10の領域で超伝導が発現する事が新たにわかりました[7]。一方、圧力引加による結晶構造についてはIsobeらの報告があり[9]、少なくともP < 9GPaT 7Kまでは構造相転移は見られておらず、本系はCu2O3梯子面が超伝導を担っているといえます。ただ、実験的には圧力をかけていくことにより、rung方向とleg方向の異方性が小さくなり、2次元性が強くなり、そのような状況で超伝導が起こっている点[10]や圧力印加によりスピンギャップは超伝導の手前で消失する[11]が、これも梯子-梯子間の電子の飛び移り積分が大きくなることにより2次元性を得たためであると考えると、2次元系の超伝導と見たほうが良いとの指摘もあります。このように梯子格子の超伝導メカニズムは現在も明確にはなっておらず、新しい梯子格子超伝導物質の開発といった研究が今後期待されます。

 

[1] E. Dagotto, J. Riera and D. Scalapino, Phys. Rev. B 45 (1992) 5744.
[2] Z. Hiroi, M. Azuma, M. Takano and Y. Bando, J. Solid State. Chem. 95 (1991) 230.
[3] M. Azuma et al. Phys. Rev. Lett. 73 (1994) 3463.
[4] Z. Hiroi and M. Takano, Nature 377 (1995) 41.
[5] S. Matsumoto, Y. Kitaoka, K. Ishida, K. Asayama, Z. Hiroi, N. Kobayashi and M. Takano, Phys. Rev. B 53 (1996) 11942.
[6] R. Kadono, H. Okajima, A. Yamashita, K. Ishii, T. Yokoo, J. Akimitsu, N. Kobayashi, Z. Hiroi, M. Takano and K. Nagamine, Phys.
Rev. B 54 (1996) 9628.
[7] K. M. Kojima, N. Motoyama, H. Eisaki and S. Uchida, J. Electron Spectroscopy and Related Phenomena 117-118 (2001) 237.
[8] M. Uehara, T. Nagata, J. Akimitsu, H. Takahashi, N. Môri and K. Kinoshita, J. Phys. Soc. Jpn. 65 (1996) 2764.
[9] M. Isobe, T. Ohta, M. Onoda, F. Izumi, S. Nakano, J. Q. Li, Y. Matsui, E. Takayama-Muromachi, T. Matsumoto and H. Hayakawa, Phys.
Rev. B 57 (1998) 613.
[10] T. Nagata et al., Phys. Rev. Lett. 81 (1998) 1090.
[11] H. Mayaffre et al., Science 279 (1998) 345.