二万大塚古墳 第2次調査 概要報告
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5 勝負砂古墳試掘調査

 調査目的 昨年の測量調査の結果、墳形は、周辺の地形とあわせて考えると前方後円形を呈すると思われ(図版7a)、また、表採品はあるものの、墳丘に確実に伴う遺物の検出がなく、勝負砂古墳の正確な築造時期は不明となっていた。

 今年の試掘調査では、墳形の確認、墳丘に伴う遺物からの築造時期の確定という2点を目的として、3つのトレンチを設定した(第8図)。第1トレンチは前方部と想定される高まりの前方、円丘部中心から29.5mの地点に、第2トレンチは前方部と想定される高まり上、同じく13mの地点にそれぞれ1×1mでトレンチ枠を設定し、主として前方部の有無の確認を目的として発掘を行った。第3トレンチは、円丘部の北側面にあたる、同じく12.3mの地点に1×5mで設定し、後に拡張したため1×10mのトレンチとなった。ここでは、円丘部と周辺地形との関係の確認を目的に発掘を行った。

 第1トレンチ  基盤層(赤橙褐色土層)まで掘り下げを行なった。地表面から基盤層上面までの深さは平均約1mである。基盤層上に直接、造成土1層(礫混じり橙褐色土層)が盛られている状態が認められた。つまり、第1トレンチ付近は現在ブドウ畑であり、ブドウ畑造成時に旧地形を掘削した上に造成土を敷いたと考えられる。また、造成土中から遺物として土器片1点が出土した。

 第2トレンチ 1トレンチで確認した基盤層を目標に掘り下げたところ、第1トレンチで確認した基盤層上面のレベルより20pほど高い位置で基盤層を確認した。土層は、基盤層上に表土も含めて9層確認した。セクション検討の結果、第9層の赤褐色土層から弥生土器片2点が出ていることも考慮し、第8層の暗黄褐色土層が、旧表土であると考えられた。

 第6層の赤橙褐色土層は、しまりが弱いものの、この層を墳丘の盛土と考えることができる。しかし、墳丘北側、トレンチ脇の墓地の造成土と色と質が類似しており、墓地を造成した際に削った土を盛った可能性もある。墓碑には、江戸時代の年号も見られ、直上の第5層で近世陶磁器が出土していることとも矛盾がない。

 なお、その他の出土遺物は、埴輪片、須恵器片、土器片があるが、これらの多くは新しい時代の客土であることが明らかな第1〜4層より出土した。

 第3トレンチ  勝負砂古墳に付随する遺構としては周溝が挙げられる。その全幅は推定7mで、断面形は浅く緩やかな弧を描いている。周溝自体は基盤層削り出しであり、その後に流土、造成土が累重している。流土に関しては、まず周堤側より流れ込んだ淡黄褐色土層が周溝底に堆積した後、円丘側より黄橙褐色土層が流れ込んでおり、続いて黄橙褐色土層上に黒褐色土層が自然堆積したと考えられる。黒褐色土層より上位の橙褐色土層および暗褐色土層もまた流土と解釈しているが、その両端で著しい掘削または撹乱を受けており、切合い関係の判断材料が乏しいため、これらが円丘側と周溝側どちらかに帰属する流土であるかを特定するのは難しい。

第3トレンチ付近はかつて耕作が行われていたこともあり(桑畑、後にブドウ畑)、杭T22よりも南方で掘削による大きな地形の改変が認められた。円丘裾部を掘り込んだ後、さらに畑に付属する排水溝を造るための掘削が行われたと解釈できる。暗褐色土層は、この排水溝への最近の埋土である。古墳築造時は、杭T21とT22との中間地点から南方へ円丘が次第に高まっていたと考えられる。

出土遺物には埴輪片・須恵器片・弥生土器片・不明土器片があり、このうち須恵器片は、無蓋高杯の体部で、橙褐色土層に属する。

 まとめ 今回の調査では、円丘部の北側で周溝を発見し、現在の地形から見て、円丘部の北側から東側にかけてはこの周溝が残存している可能性が明らかになった。また、墳丘の南西側にも巡る可能性がある。しかし、この周溝が前方部と想定される側においてはどのように巡るのかについては不明である。少なくとも、今回調査した第1トレンチでは、周溝底よりはるかに高いレベルで地山を検出しており、少なくともこの付近については、周溝が同じ高さのまま巡っていたとは考えられず、前方部の長さや形態については新しい想定が必要である。しかしながら周溝が存在することにより、勝負砂古墳はこの地域における有力な首長墓である可能性が高くなった。

 時期については、墳丘周囲、特に西側のブドウ畑付近にTK43型式を中心とする須恵器と埴輪片の散布を見る。また、東側のブドウ畑では、近年の岡山県教育委員会の分布調査の際に5世紀代の須恵器片が表採されたという(中野雅美氏教示)。さらに今回、墳丘上から高台の付いた須恵器の杯身片が表採されている。いずれの土器が古墳に伴うかについては現状では情報がなく、依然として確実な築造時期は不明である。





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