研究概要

研究テーマ

1) S100タンパク質とその受容体群が制御する炎症性がん進展の分子機構解明

2) がん・パーキンソン病の進展に寄与するPINK1タンパク質の機能解明

3) 新規がん治療法の開発

4) 正常およびがん幹細胞の単離とその応用

 

1-i 1) S100タンパク質とその受容体群が制御する炎症性がん進展の分子機構解明
S100タンパク質はCa結合タンパク質で、ヒトでは21分子種が同定されています。いくつかのS100タンパク質は特定のがんにおいてその分泌が亢進しており、炎症を介したがん進展(増殖、転移)への関与が示唆されています。当研究室では、特にS100A8、S100A9、S100A11とその受容体群を中心とした解析を行い、S100タンパク質によるがん進展の分子機構の解明を目指しています。最近、資生堂との共同研究により、S100A8、S100A9に対するいくつかの新規受容体を発見し、S100A8、S100A9が乾癬病態における細胞増殖制御異常や悪性黒色腫(メラノーマ)の転移能亢進に密接に関与する可能性を見出しました。

 

 

1-ii 2) がん・パーキンソン病の進展に寄与するPINK1タンパク質の機能解明
PINK1(BRPK)は我々が癌転移に関与する遺伝子として同定したミトコンドリアに局在するリン酸化酵素をコードする遺伝子です。その後、この遺伝子の変異が遺伝性若年発症型のパーキンソン病に関与することが報告され、細胞変性疾患に関与する因子として注目を集めています。当研究室ではPINK1の機能解析を行い、パーキンソン病やがん病態の進展にPINK1が果たす役割を解明することを目指します。現在までに、PINK1が細胞の生存に必須であるAktのリン酸化を誘導することで細胞死を抑制するメカニズムを発見しました。またPINK1の新規結合タンパク質としてSARM1、TRAF6を同定し、損傷をうけたミトコンドリア上でPINK1を安定化し、損傷をうけたミトコンドリアを分解する機構(マイトファジー)に寄与することを見出しました。

 

 

2 3) 新規がん治療法の開発(REIC/Dkk-3によるがんの遺伝子治療)
REIC/Dkk-3は、当研究室においてヒト正常線維芽細胞の不死化に伴って発現が低下する遺伝子として同定され、後にXenopusの頭部形成に関わるDkk遺伝子ファミリーと相同であることが判明しました。哺乳類のDkkはこれまで4つの遺伝子が知られており、Dkk-1は分泌タンパク質としてWntシグナルを負に制御すると報告されています。当研究室では、REIC/Dkk-3を癌との関連において解析し、ヒトの非小細胞肺癌、肝細胞癌、食道癌、胃癌、腎細胞癌、前立腺癌などの癌細胞で周辺の正常組織細胞よりも発現が低下していること、そしてヒト前立腺癌細胞株にアデノウイルスを用いて強制発現させると増殖が低下し、アポトーシスが誘導されることを明らかにしました。これらの成績より、我々はREIC/Dkk-3を新規のがん抑制遺伝子として提唱しました。現在、REIC/Dkk-3を用いたがんの遺伝子治療法を開発しています。前立腺がん、腎がん、精巣腫瘍でがん細胞への選択的な細胞死誘導が確認されました。

 

 

3-i 4) 正常およびがん幹細胞の単離とその応用
多様な組織幹細胞を単離・解析し、動物モデルで応用研究を実施しています。骨髄幹細胞から肝細胞を誘導し移植することで、致死的肝不全ラットの救命に成功しました。また温度感受性合成ポリマーを利用した新しい三次元培養法により、マウス皮膚幹細胞、神経幹細胞の単離に成功しています。

 

3-ii がん幹細胞は、様々な抗癌剤や放射線療法に抵抗性を示し、がん再発の原因細胞であると考えられています。当研究室では、単離純化したがん幹細胞の特性を解析することで、がん幹細胞を標的とした新規治療法の創出を目指します。現在、独自に開発したがん幹細胞を特異的に単離するベクターを用いることでがん幹細胞の高純度単離法確立に光明を見出しました。


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