家庭と産業における物質フローとストックを明らかにしながら、将来の廃棄物発生量を予測し、今後の循環型社会と廃棄物管理のビジョンを明らかにします。
循環型社会形成への取り組み
家庭ごみはどのように処理されるかご存じですか?家庭ごみは(収集)→(処理)→(処分)の流れで処理されます。家庭ごみは、これまではほとんど焼却処理されていましたが、近年ではどこの地方自治体も、循環型社会の構築を目指して資源化されるようになってきています。一方、産業廃棄物は事業者の責任で処理・処分されていますが、それについても事業者が循環型社会を目指して、自家処理あるいは資源化処理の方向に舵が取られるようになってきています。
日本では循環型社会形成推進基本法、廃棄物処理法、そして5つの具体的なリサイクル法が2000年を中心に整備されました。そして、実施の主体である地方自治体は、循環型社会に向けてた具体的な3R政策を種々やってきました。例えば溶融、RDF、炭化、プラスチック油化、コンポスト、バイオガス化、バイオディーゼル製造と、様々な資源化プロセスを実現してきましたし、その原料を得るために、市民に対しコミュニティによる集団回収、行政による資源ごみ分別回収、拠点回収、小売店による店頭回収を利用することを奨励し、原料化・資源化の決め手としてごみ処理有料化が実施されました。地方自治体は原料化率とリサイクル率の公約を守るために努力をしていると言ってよいでしょう。
循環持続可能社会の一部としての循環型社会
2008年に開催されたG8会議(洞爺湖サミット)に向けて、21世紀環境立国戦略がまとめられました。その中で、日本の目指すべき「持続可能な社会」は3つの社会(低炭素社会、循環型社会、自然共生型社会)として追求されるとしています。
資源や物質の循環だけを考えるだけではだめで、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの排出抑制、そして自然の生態系を守るために環境負荷の排出抑制も同時に考えてゆかなければならないということです。地域環境、地球環境、生活環境、自然環境すべてに適正なレベルである社会を探さなければなりません。 再度、目指す社会の在り方を考えなおす、すなわちリシンク(rethink)する時が来ました。
近頃の経済不況もリシンクを後押ししています。というのも、資源化にかけるコストが肥大化し過ぎて地方自治体の財政を圧迫しているのです。資源化も度が過ぎると消費を助長してしまいます。資源ごみの収集も資源化処理もコストがかかっています。ごみを原料に戻すのが良いのか、バージンの原料を使った方が良いのか、環境負荷やコストを良く考えて決めなければなりません。リシンク・ローカリー・アンド・グローバリー(Rethink locally and golbally)です。
廃棄物処理インフラの決定の重大性
資源化や焼却の処理には、そのための工場がインフラとして不可欠です。既存施設をなるべく長時間使うのは当然ですが、施設は老朽化するにつれて維持管理費が高くなり、ある時期に建て替えた方が良い選択となります。建替えにあたって、どのような処理施設を選択してゆけば良いのでしょうか?何百億円する買い物ですから、誤った判断は許されません。また、新設に際して付近の住民に根気強く説明し、十分な理解を得なければならないでしょう。将来のことを良く考えて、今を決めてゆく姿勢は大切です。
廃棄物マネジメントの長期ビジョン
家庭ごみは住民が生活する上で必然的に発生するものであり、誰にもその処理の責任はあると考えられます。将来に向けて、わたしたちは「ごみの問題」をどのように解決したいのか、はっきりとした意思を持って、廃棄物行政を進めてゆく必要があります。
将来の廃棄物の問題は、日本や地域の社会と経済の将来に依存します。例えば、進んでいる少子高齢化により、家庭から発生するごみ量は減り、質も変化します。製造業からサービス産業に変われば産業廃棄物の種類は自ずと変わります。地域の産業がどのように変わってゆくかによって、産業廃棄物や事業系廃棄物の量は変わるでしょう。
さらに、われわれの生活の習慣、すなわちライフスタイルが変化することで家庭ごみの種類や量が変わってきます。例えば、家族のメンバーが少なくなれば、物品の共同利用の割合が減りますから、一人当たりのごみ量が増えます。現在、単身世帯数が増えていますが、これは未婚者の単身世帯の増加だけでなく、一人身の老人単身世帯が増えていることを表しています。
このように、地域の将来を予想し、どのような社会にしたいのか長期的なビジョンを持つことが必要と考えます。
将来社会のモデル予測と廃棄物マネジメントの検討
将来の夢は簡単に語れるけれど、それを定量的に表すことは難問です。そこで研究室では、経済・社会のモデル、産業構造のモデル、家庭のライフスタイルのモデルを、統計データをもとに求めて、将来をシミュレーションする研究をしています。将来の循環型社会のビジョンを持ち、それに向けたインフラや政策の準備について考えます。処理施設や処分施設のキャパシティは十分あるか、いつ次の施設を検討すべきか、ごみ処理の広域化を考えた収集・輸送・処理・処分システムを適用したらどうなるか、などいろいろな検討が必要です。
現在考えている将来(2030年)のイメージは、「高度技術型社会」と「自然共生型社会」です。前者は、高度技術に支えられた機械分別により家庭内の分別はいらない社会です。すなわち、家庭は分別から解放され、ごみは1種類だけで出してよく、資源化もばっちりでき、埋立ごみ量を減らす社会。デメリットは、自動化する分、高いコストを負担しなければいけないという条件があります。もう1つは、家庭で減量化に努め、時間をかけてごみを細分化して出すことで、ごみ処理や資源化の負担やコストを減らし、埋立ごみ量を減らす社会です。デメリットは分別に時間がかかることです。2つの社会は極端な社会ですが、2つの方向性を明解に打ち出しています。
そんな社会がほんとに実現するのか(スナップショット)、実現するとしてどのように到達すれば良いのか(バックキャスティング)を検討します。このようなシミュレーションを通して、地域の目指すべき循環型社会が見えてこないかを考えます。
廃棄物問題を抱えるアジア・太平洋途上国の都市を対象にして、その国や地域の生活や習慣を考慮しつつ廃棄物の発生を分析し、発生量推計モデルを構築し将来の廃棄物発生量を予測した上で、適正な廃棄物マネジメントについて考究します。
アジアや太平洋諸国では、経済グローバル化によって多くの物質が流出入しています。発展途上国では、採取した天然資源の輸出、観光資源の利用、あるいは日本のように資源輸入、製品生産、そして製品輸出などによって、目覚ましく産業が成長しています。しかし、それに伴って環境が悪化していることは否めません。ときおり報道で、道路脇に山積みされた生ごみ、ごみ投棄で汚れた河川、部品が抜き取られた家電製品の山、埋立場周辺でごみ拾いをして暮らす人々などが紹介されます。途上国の大都市には高層ビルが立ち並びきらびやかな様相を呈していますが、一歩居住区に入ると無造作に捨てられ放置されたのごみを多く見かけます。
アジアの廃棄物問題の原因は多くの場合「都市化」にあります。職や生活の向上を求めて人が都市に集まり、その人口増加に行政が対応しきれていないというのが現状でしょう。人口が正確に把握しきれていない都市もあり、発生するごみ量が正確に把握できてないところにも原因がありそうです。行政のごみ回収が定期的に行われず、ごみがそのまま放置されている都市もあります。ただ、ごみの回収業者がいて、お金になる資源ごみは早々に持っていかれます。
太平洋島嶼国では製造業はありませんが、天然の環境資源を使った観光業が盛んです。島民人口の何倍もの観光客が島を訪れて、食料、お土産、その他を消費して帰ってゆきますが、その多くは、旅行客のために海外から輸入されたものです。島民の消費スタイルは、島古来のものではなく先進国のそのもので、スーパーに並んでいる商品はほとんど海外輸入品です。紙やプラスチックも一括して埋立ごみとして収集され処分されるので、処分量が多いため処分場の寿命が気になるところです。
さて、日本ではどうでしょう?家庭ごみの衛生上の問題は当の昔に無くなり、住民はごみをポリ袋に入れて出せば、多少の料金を払うことはあっても、行政は定期的に収集してくれます。町は常に衛生的であり、われわれが頭を悩ますのはカラスの攻撃ぐらいでしょうか。毎年、途上国の大学関係者や行政官に岡山大学に会議で来てもらうついでに、町の様子を見てもらうのですが、この町の清潔さはごみ問題を抱える途上国の人々にとっては驚きのようです。
日本として、地域として、大学として、廃棄物問題を抱える海外の都市に対して何ができるでしょうか。日本の廃棄物マネジメントの方法はどのように適応できるのでしょうか?その国のごみの考え方、ライフスタイル、習慣、投資可能な資本、リサイクル品の需要などを考慮して、どのような処理の選択が良いかを考えてゆきたいと思っています。
では、日本には廃棄物の問題は少ないでしょうか?日本は早くからごみ焼却処理を取り入れ、自治体は高価な焼却施設導入してきました。埋立処分場の確保が難しいという理由で、焼却灰を溶融する技術が培われました。その結果、ごみ処理に多くのエネルギーとコストを掛けることになりました。3Rの考え方は、ごみ減量化を優先することで、処理・処分の負担を減らすことを基本としています。日本はもう一度、環境負荷とコストの負担の少ない廃棄物マネジメントに改善してゆく必要があるでしょう。また、これまで製品の一部に使われ健康に有害なPCB,
アスベスト, 水銀などが、廃棄物として排出されているため、それらを分別収集して処理したり、灰中に濃縮されたものを安全に処分することが今後も必要になります。
「災害廃棄物の処理対策」
地震や水害などにより発生する廃棄物を災害規模に応じて発生量を予測するための手法を開発します。また、仮置き場を探索して、災害廃棄物の発生場所から仮置き場への移動計画、その後の処理計画を支援します。
作成中です。
世界全体での温室効果ガス削減の達成には、新興国での効果的な対策が不可欠です。マレーシア経済特区・イスカンダル開発地域を対象に、発電・産業・交通・商業・家庭の各部門に関する低炭素化の技術・制度データを整備して、2025年の低炭素社会像を築くためのシナリオと統合評価モデルを構築し、シミュレーションを行い、それをもとに低炭素社会を実現するための政策体系案を作成します。本研究では低炭素社会に向けた廃棄物処理のマネジメントの構築を研究しています。
2009年度 |
9月 |
博士 |
楊金美 Jinmei Yang (京都大学と共同指導) Projection of Municipal and Industrial Solid Waste Generation in Chinese Metropolises with Consumption and Regional Economic Models (消費と地域経済のモデルに基づいた中国大都市の一般及び産業廃棄物の発生量推計) |
3月 |
博士 |
翁御棋 Yu-Chi Weng (京都大学と共同指導) Estimation and Evaluation of Municipal Solid Waste Management System by Using Economic-Environmental Models in Taiwan (台湾における経済環境モデルを用いた都市ごみ管理システムの推計と評価に関する研究) |
修士 |
山本 純吉 Jyunkichi Yamamoto 地域特性政策特性を考慮した一般廃棄物(ごみ)発生排出モデルの構築 |
学士 |
大畠 久美子 Kuumiko Ohata 循環型社会に向けた一般廃棄物処理システムのシナルオに関する研究 |
井上 純也 Jyunya Inoue 3R活動に係る普及啓発の費用対効果に関する検討 |
バイズラ Estimation of Household Waste Generation in Malaysia Based on Socio-economic Statistics |
石川 修作 Syusaku Ishikawa 生ごみの分別収集に係る費用対効果に関する研究 |
吉川 香織 Kaori Yoshikawa 画像処理技術を用いて焼却処理場の安定化を図る |
福井 裕也 Yuya Fukui パラオ共和国における家庭ごみの分別収集のモデリングと評価 |
2008年度 |
修士 |
時崎 温子 Atsuko Tokizaki 生産統計を用いた容器包装材の家庭流入量んの推計 |
田中 伴明 Tomoaki Tanaka 廃棄物中間処理技術におけるプロセスモデルの開発 |
水岡 翔 Sho Mizuoka 広域化計画におけるごみ収集エリアと輸送経路の最適化に関する研究 |
学士 |
石田 俊宏 Toshihiro Ishida 産業廃棄物処理及びリサイクルのための技術評価システムの開発 |
安栄 健 Ken Yasuei ごみの各戸の収集に係るコスト、環境負荷の評価とその影響要因に関する研究 |
藤原 和央 Kazuhiro Fujiwara 塩ビ壁紙・床材の資源化のための効率的な収集・運搬に関する研究 |
日下部 友裕 Yusuke Kusakabe GISを用いた中継基地の最適配置に関する研究 |
宇野 雄二郎 Yujirou Uno 市民の3R活動に係る行動変容方策とその促進効果の検討 |
三輪 拓也 Takuya Miwa 地域コミュニティ特性を考慮した集団回収量のモデリング |
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