岡山大学 法学部

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第6回岡山弁護士会・岡山大学法学部共催 ジュニア・ロースクール岡山 報告

第6回ジュニア・ロースクール岡山開催について(報告)

行事の概要

 2010年11月13日(土),岡山弁護士会・岡山大学法学部共催で,毎年恒例となりました中学生・高校生向け「第6回ジュニア・ロースクール岡山」が実施されました。ジュニア・ロースクールは,法律専門家ではない一般の人々や中高生が,法や司法制度,これらの基礎となっている法の原理原則や法的なものの考え方を身につけることを目的とする法教育実践の一環として行われています。このジュニア・ロースクールでは,岡山弁護士会の弁護士,岡山大学法学部教員等が協議し,内容の企画,教材作成及び指導を行いました。
 本年は,中学生14名,高校生27名,および一般観覧者12名(中学校教諭・司法書士・司法修習生など)の多数の参加をいただきました。また,岡山大学からは,法学部・法科大学院生および教育学部・大学院教育学研究科の学生計16名がチューターとして参加して生徒たちに助言しました。参加生徒たちは5〜8名・チューター2名のグループに分かれ,それぞれのテーマについて大変活発に議論しました。

 第1限目「まちづくりと住民相互の利害調整を考えよう〜福山市鞆の浦景観訴訟」では,生徒たちにも馴染み深い鞆の浦の埋め立て・架橋問題を題材にして,住民たちの景観的利益と生活的利益がなぜ・どのように衝突するのかを理解し,よいまちづくりのために大切な利益とはなにか,これらをうまく調整して地域全体の合意を形成していくためにはどのような手続・道のりを経ていかねばならないかを議論してもらいました。第2限目 刑事模擬裁判「介護疲れ殺人事件〜被害者の同意の有無を判断しよう」では,介護に疲れた男性が母親を殺めた事件の裁判の模様を岡山弁護士会の弁護士と希望した生徒たちが弁護士・検察官らを演じて再現し,この模擬裁判傍聴をもとに被告人の行為が母親の同意に基づくものだったのかを議論してもらいました。

第1限目「まちづくりと住民相互の利害を考えよう〜福山市鞆の浦景観訴訟」

 第1限目は,横田亮弁護士のご指導のもと,「ポニョ」でも有名になった鞆の浦の景観をめぐる訴訟を題材として議論しました(岡山県下で中学校の先生が行われた法教育の授業実践をもとに,スタッフがアレンジを加えて行いました)。広島地方裁判所で鞆湾の埋立事業を差し止める判決があり,これに対して広島県及び福山市が広島高等裁判所に控訴中という生徒・学生たちも知っている事件でしたが,資料として配布された鞆の浦近辺の地図や写真を目にし,また裁判を通して明らかになった住民たちの様々な声を知りながら議論をすすめることで,景観的利益と生活的利益をめぐる住民たちの対立状況をより緊迫感をもって把握できたことだと思います。
 授業の前半では,鞆の浦の問題を考えるための前提知識を得るために,公民科の教科書でも紹介されている大阪国際空港事件訴訟や,「景観的利益」が承認された裁判例である国立マンション事件訴訟をまず勉強しました。これらの事件は,「新しい人権」や景観的利益などの新しい利益の保護を求める市民・住民たちの主張がどのようにして形成され,そして最終的に裁判所に認められるようになったのかを学ぶ題材として重要です。
 授業の後半では,前半での知識をもとに,鞆の浦訴訟において住民相互が主張するまちづくりにとって大切な利益の対立関係(景観的利益 対 生活的利益)を把握し,こうした深刻な対立関係は,どのような機関や手続(裁判所?行政機関?住民たちの粘り強い話し合いを通した自律的な解決?)を通してどのようにして調整するのが望ましいのかを議論してもらいました。
 司法の限界や住民自治という大変難しい問題が根本にある高度な題材でありましたので,限られた時間では議論が尽くしきれなかったところもありましたが,生徒たちの感想には,自分の意見と正反対の意見を論理立てて述べる参加者がいることへ新鮮さと,難しくはあるけれども双方の意見をよく検討したうえで,互いの利益を調整し合意を形成していくことの大切さなどが述べられていました。

第2限目 刑事模擬裁判「介護疲れ殺人事件〜被害者の同意の有無を判断しよう」

 第2限目では,原智紀弁護士のご指導のもと,従前から岡山弁護士会の行事や岡山県下高校での派遣授業で用いられてきたシナリオをもとにした刑事模擬裁判を通して,同意殺人について学びました。裁判官・検察官・弁護士の役割を,岡山弁護士会の弁護士がロール・プレイするとともに,実際に生徒のみなさんにも検察官・弁護士の立場での尋問を疑似体験してもらいました。
 介護に疲れた男性の被告人が母親を殺めてしまったという今日の日本社会の困難を象徴するような事件を設例とし,被告人の行為が母親の同意に基づくものか否かを,班ごとに議論してもらい,その結果を代表者に発表してもらいました。この授業の大きな目標は,罪刑法定主義や「疑わしきは被告人の利益に」という原則を,後半での模擬裁判への参加および傍聴を通して,単に暗記のためのことばとしてではなく,実際の裁判の根本を形成する大切な法的原則として,その意義を自分のことばで説明できるようになってもらうことでした。
 生徒たちは,他の参加者から着眼点の異なる筋の通った意見が出ていることに感心した,自分の意見を言える能力を磨くことの大切さを学んだ,などの感想をよせてくれました。また,「『法に基づく公正な裁判の保障』に関連させて,裁判員制度についても触れること。」との学習指導要領改訂に対応した内容として,今後も実施を望むという学校の先生からの評価も頂きました。