未受精卵子・胚凍結まで~妊孕性温存の実際~

1.妊孕性温存のアルゴリズム(女性の場合)
2.年齢別AMH平均値
3.卵巣刺激方法の選択基準
4.AMH/年齢と採卵数
5.卵巣刺激

体外受精における卵巣刺激とは、排卵誘発剤を使⽤して卵胞を複数発育させ、複数の卵⼦を得る⽬的で⾏われます。
卵巣刺激は注射の量や種類により分類すると「刺激周期」「低刺激」の2つに分類されます。
そのほかに、卵巣刺激を⾏わない「自然周期」があります。

6.刺激周期
  • 刺激周期とは、一般的に、月経時から採卵までの間、毎日、排卵誘発剤の注射を行う方法です。
    (これに対して「低刺激」という方法があり、これは、内服薬を併用し、これより注射の回数や量
    が少ない方法です)
  • 採卵の時に、採卵針で卵胞を穿刺し卵子を採取した場合、卵胞1個あたり成熟卵が採取される可能
    性は70~80%程度、成熟卵が得られた場合、受精率は70~80%程度、その後の分割も100%では
    なく質も様々です。
  • 刺激周期のメリットは、(1)複数の卵子を得ることによって、1個も受精卵が得られないなどの
    可能性が低く、複数受精卵があれば、よい受精卵が含まれる可能性も高まること、(2)複数の凍
    結胚を得られる可能性が上がることなどが挙げられます。
  • デメリットとして、(1)毎日注射を打つ必要があることによる身体的・心理的・経済的負担、
    (2)卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の可能性、などがあります。重症OHSSにならないよう十分注
    意して治療を行いますので、重症OHSSの頻度は高くありませんが、100%発症を防ぐことは不
    可能であり、入院加療が必要になったり、血栓症を併発したりすることも考えられます。
7.アンタゴニスト法
  • 標準的な卵巣刺激周期の1つです。
  • 全年齢の多くの方に行える方法ですが、卵巣過剰刺激症候群(卵巣刺激により卵巣が腫大し、腹水・胸水貯留する状態。)を起こしやすい方や、ランダムスタート法の時に選択されます。
  • 前周期ホルモン内服を行うこともありますが、必須ではありません。
  • 目標採卵数は8個以上ですが、年齢や卵巣機能によって個人差があります。
8.低刺激法
  • 低刺激とは、内服の排卵誘発剤を併用することで、月経時からしばらくの間、排卵誘発剤の注射を行わないか、行っても1日おきなど、注射の回数を減らした卵巣刺激方法です。
  • 低刺激のメリットは、(1)注射の回数が少ないため、身体的・心理的・経済的負担が軽されること、(2)卵巣過剰刺激症候群のリスクが比較的低いことなどが挙げられます。また、自然周期よりは採取できる卵子が多いため、自然周期よりは受精卵が得られる可能性があり、リスク、確実性において、刺激周期と自然周期の中間的な方法です。
  • 低刺激のデメリットとして、個⼈差はありますが、(1)1回の採卵が得られる卵子の数が刺激周期と比べて少ない可能性があること、(2)刺激周期と比べて採卵数が少ないことにより凍結胚が得られなかったり、得られても数が少ない可能性がやや高いこと、その結果、(3)刺激周期と比べて再度採卵が必要となる可能性がやや高いことなどがあげられます。
  • クロミフェン周期では、⼦宮内膜が薄くなることが多いため、全ての受精卵を凍結することを前提とする場合に勧められる方法です。この場合、その後の胚の状態によっては、凍結できず、1個も移植できない可能性も考えられます。
  • レトロゾール周期では、排卵を抑制する効果はないものの、子宮内膜が薄くなることはないため、新鮮胚移植(採卵した周期の移植)を希望する場合に勧められる方法です。
9.自然周期
  • 「ホルモンバランスがよくない、卵巣予備能⼒が低いなどで、卵巣刺激をしても複数の卵子が採取できる見込みがない場合」「刺激周期や低刺激で妊娠しなかった場合」などが主な適応ですが、基本的には自然排卵があれば、どなたにでも行える方法です。
  • 自然周期のメリット:(1)ほとんど注射などを⾏わないので、(2)⾝体的・経済的負担を最も軽減でき、(3)毎⽉採卵できる点などが挙げられます。(4)受精卵ができ、胚移植ができれば、胚移植あたりの妊娠率は他の⽅法と遜⾊ありません。
  • 自然周期のデメリット:卵胞が原則1個のため、(1)「採卵前の⾃然排卵による採卵キャンセル」「採卵しても卵⼦が採取できない」というリスクが他の⽅法よりも⾼いほか、卵⼦が採取できても、その1個が受精しなかったり育たなければ移植できないため、他の⽅法と⽐べて(2)採卵を計画しても、受精卵を移植できる可能性が低いこと、移植できなかったり妊娠しなかった場合、再度採卵からやり直しになってしまうことがあげられます。
10.採卵から未受精卵子・胚(受精卵)凍結
11. 採卵後の卵子
12.体外受精における安全性とリスク
  • 卵巣過剰刺激症候群
  • 感染症のリスク
  • 出血のリスク
  • 血栓症のリスク
13.卵巣過剰刺激症候群
  • 体外受精における安全性とリスクの⼀つとして、卵巣過剰刺激症候群があります。
    卵巣が腫⼤し、腹⽔(胸⽔)貯留を引き起こす状態で、リスクや程度にもよるが、頻度は1〜6%
    進⾏すると、⾎管内脱⽔⇒⾎栓症(肺塞栓、脳梗塞)の危険があります。
  • 症状:腹部膨満、腹痛、尿量減少、呼吸困難
  • リスクが高い方:35歳以下、AMH高値、多嚢胞性卵巣症候群、やせている方
  • 卵胞数20個以上、血中E2>3000 pg/mL、OHSSを発症した周期で妊娠した場合
  • 対策
  • 妊娠による重症化を避けるため、胚移植を延期し、全凍結して時期をあけて凍結胚を移植する。
  • 血栓症のリスク状態を随時採血で確認します
  • 血栓症予防のための内服薬、点滴などを行うことがあります
  • 症状が重度の場合は、入院を要することがあります