地震を起こさない断層すべりのメカニズムを世界で初めて解明
2011年08月05日
東京工業大学大学院理工学研究科の佐久間博特任助教、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科の近藤敏啓教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の中尾裕則准教授、東京工業大学大学院理工学研究科の河村雄行教授(現・岡山大学)らの研究チームは、KEKの放射光科学研究施設フォトンファクトリー(PF)を利用し、地震を起こさずにすべり続けるクリープ断層*1の要因である鉱物表面が、吸着水によって潤滑するメカニズムを世界で初めて解明しました。
研究チームは、火成岩に普遍的に含まれ、断層に含まれる粘土鉱物と類似の構造を持つ白雲母表面を塩化ナトリウム水溶液で濡らし、詳しく調べたところ、白雲母表面にナトリウムイオンが吸着していることを発見しました。そして、そのナトリウムイオンが水分子に囲まれて白雲母表面に安定して存在し、著しい潤滑性を示すことが分かりました。
このように、断層に含まれる鉱物の潤滑性に水が与える影響について、鉱物表面やイオン種による違いを系統的に理解することは、クリープ断層に限らず一般的な断層の物質科学を構築する上で重要な手掛かりとなります。
本研究成果は米国化学会誌“Journal of Physical Chemistry C”のオンライン版に近日中に掲載される予定です。
研究チームは、火成岩に普遍的に含まれ、断層に含まれる粘土鉱物と類似の構造を持つ白雲母表面を塩化ナトリウム水溶液で濡らし、詳しく調べたところ、白雲母表面にナトリウムイオンが吸着していることを発見しました。そして、そのナトリウムイオンが水分子に囲まれて白雲母表面に安定して存在し、著しい潤滑性を示すことが分かりました。
このように、断層に含まれる鉱物の潤滑性に水が与える影響について、鉱物表面やイオン種による違いを系統的に理解することは、クリープ断層に限らず一般的な断層の物質科学を構築する上で重要な手掛かりとなります。
本研究成果は米国化学会誌“Journal of Physical Chemistry C”のオンライン版に近日中に掲載される予定です。
1. 背景
地球のプレート運動に伴う岩石の破壊や断層すべりは、地震を引き起こす要因となっています。しかし、中には地震を起こさずに非常にゆっくりとすべり続けている断層「クリープ断層」があります。このような断層すべりの一つの要因として、粘土鉱物を主とする層状鉱物表面に吸着した水分子による鉱物同士の摩擦低下が考えられています。佐久間特任助教らはこれまで、火成岩の構成成分であり、断層に含まれる粘土鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム(NaCl)水溶液が、厚さ1 ナノメートル(水分子約3個分の厚み)以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました。しかし、そのメカニズムについては解明されておらず、世界的にも存在が珍しいクリープ断層のような鉱物表面の水による潤滑メカニズムの解明には原子スケールでの電子状態の解明が求められていました。
2. 研究手法と成果
研究チームは、白雲母とNaCl水溶液界面の構造を原子スケールで解明するため、X線CTR (Crystal Truncation Rods)散乱法*2と分子動力学(MD)計算*3を組み合わせて、構造を解析しました。X線CTR散乱法は、界面の電子密度分布を0.1 ナノメートル以下の分解能で求めることができます。しかし、この手法のみでは直接原子密度分布を知ることができないため、精密な原子間相互作用モデルを用いたMD計算の結果とX線CTR散乱の結果を比較することで、白雲母/NaCl水溶液界面の原子分布を求めました。
X線CTR散乱の測定は、KEK放射光科学研究施設PFのBL-4Cを利用し、MD計算は、佐久間特任助教と河村教授らが独自に開発した原子間相互作用モデルを用いました。その結果、白雲母とNaCl水溶液界面では、ナトリウムイオン(Na+)と水が以下の構造を持つことがわかりました。
(1) 白雲母表面から約1.2 ナノメートル付近までは、その表面構造と性質の影響を受けて、NaCl水溶液中の原子密度が表面からの距離に対して振動している(図1)。
(2) Na+イオンに水分子が付加し(水和Na+イオン)、負に帯電した雲母表面上に吸着している(図2)。
(3) 白雲母表面に吸着した水和Na+イオンの第一水和圏*4(イオンの周りにいる最近接の水分子の範囲)は、表面から約0.5 ナノメートルまで広がっている。
これらの結果から、NaCl水溶液による白雲母表面間における摩擦低下のメカニズムについて、「白雲母表面間に挟まれたNaCl水溶液の厚さが1 ナノメートル以下の場合、この距離が白雲母表面に吸着した水和Na+イオンの第一水和圏が接触する距離に相当するため、Na+イオンが水分子に囲まれて白雲母表面間に安定して存在し、水が存在することで著しい潤滑性が現れる。」ことを見出しました。
本研究成果は米国化学会誌American Chemical Societyの学術雑誌Journal of Physical Chemistry Cのオンライン版に近日中に掲載される予定です。
<論文名>
「Structure of Hydrated Sodium Ions and Water Molecules Adsorbed on the Mica/Water Interface (日本語名:雲母/水界面における水和ナトリウムイオンと水分子の構造)」
3. 今後の展開
断層に含まれる鉱物の潤滑性に水が与える影響について、系統的に理解することは、クリープ断層に限らず一般的な断層の物質科学を構築する上で重要です。このしくみを原子スケールで解明したことは、これらの研究に新たな観点をもたらし、今後の研究の発展に寄与するものです。
また、白雲母鉱物表面間に挟まれた水和Na+イオンは、数十MPaの差応力下でも安定に存在することが既にわかっており、更に地殻内の広い温度圧力条件下でどの程度安定に存在するかを調べることにより、地球プレート運動を含めた断層の物質科学の発展が期待されます。
詳細は報道発表資料をご覧ください。
<お問い合わせ>
岡山大学 大学院環境学研究科 資源循環学専攻
河村雄行(かわむら かつゆき)教授
TEL: 086-251-8845
東京工業大学 大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻
佐久間博(さくま ひろし)特任助教
TEL: 03-5734-3636
FAX: 03-5734-3636
お茶の水女子大学研究院 大学院人間文化創成科学研究科 理学専攻
近藤敏啓(こんどう としひろ)教授
TEL: 03-5978-5347
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
中尾裕則(なかお ひろのり)准教授
TEL: 029-879-6025
<報道担当>
岡山大学 総務・企画部企画・広報課
TEL: 086-251-7292
東京工業大学 評価・広報課 広報・社会連携グループ
TEL: 03-5734-2975
高エネルギー加速器研究機構 広報室
TEL: 029-879-6047
お茶の水女子大学 学術・情報機構 広報チーム 広報係
TEL: 03-5978-5104
(11.08.05)