国立大学法人 岡山大学

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平井健太助教、藤村篤史助教、河合穂高助教、中道亮助教、辻本久美子助教に 岡山大学「研究准教授」の称号を付与

2023年06月15日

 このたび、岡山大学病院の平井健太助教、中道亮助教、学術研究院医歯薬学域の藤村篤史助教、河合穂高助教、学術研究院環境生命自然科学学域の辻本久美子助教を研究准教授として選任し、6月7日に研究准教授の称号付与式を開催しました。付与式では、那須保友学長から研究准教授の認定証が手渡されました。

 平井研究准教授は、小児拡張型心筋症に対する細胞治療法について研究しています。小児拡張型心筋症は、重篤な場合には心臓移植が必要となるため、臓器提供者不足が深刻な我が国では、革新的な治療法の開発と早期の臨床実用化が強く望まれている疾患です。
 平井研究准教授らは、心臓内幹細胞を移植することで、心不全に陥った心臓機能が回復することを見出しました。また、第1相臨床研究を実施し、この治療法の安全性や有効性を確認しました。(Sci Trans Med. 2020, 12(573):eabb3336)この研究成果は、保険適応を目指した第2相治験への発展が期待されており、心臓移植しか救命法がない重篤な小児拡張型心筋症に対して、新たな医療法として提供できる技術開発および実施体制の整備を進めています。

 藤村研究准教授は、これまでになかった「tRNAエピトランスクリプトーム創薬」という概念を提唱し、画期的な治療薬の開発を目指しています。藤村研究准教授らは、がん細胞の治療抵抗性や転移能にtRNAによるタンパク質合成制御機構が重要であることを突き止め、これを標的とした創薬概念を「tRNAエピトランスクリプトーム創薬」と命名しました。このtRNAによるタンパク質合成制御機構は、メチル化等のtRNAの修飾によって精密に調整されており、この修飾にはtRNA修飾酵素が関わっています。そのため、「tRNAエピトランスクリプトーム創薬」では、tRNA修飾酵素を標的とした化合物やバイオ医薬品の開発をしています。
 藤村研究准教授らは、極めて治療が難しく悪性度の高い脳腫瘍である膠芽腫(こうがしゅ)の幹細胞において、特定のtRNA修飾酵素が幹細胞性の維持に必須であることを細胞レベル・動物レベルで実証しています。今後は、マルチオミクス解析(網羅的な生体情報の解析)によるtRNA修飾酵素群の統合的な解析を進め、学術/創薬基盤に破壊的イノベーションを起こすことを目指しています。

 河合研究准教授は、「癌微小環境」に着目した癌の病態理解や新規治療法の開発を行っています。「癌微小環境」は、癌細胞とともに、血管や免疫細胞、線維芽細胞などの多彩な細胞が混在した微小環境のことで、腫瘍の生存や浸潤、転移に関与しています。そのため、「癌微小環境」を制御することが癌治療に重要だと考えられています。
 河合研究准教授は、これまで「癌間質細胞由来CCL2(細胞間の情報伝達の役割を担っているサイトカインの一種)が癌微小環境への骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)動員を促す(JCI Insight. 2021, 7(1):e148960)」ことや「新たな治療標的としてのCXCR4陽性腫瘍血管 (Cells. 2019, 8(7):761)」などを見出しました。現在は、「癌微小環境」における細胞間ネットワークの解明を目的とした国際共同研究をスタートしており、「癌微小環境」に着目することで、これまでにない革新的な抗腫瘍・抗転移治療の開発が期待されています。
 また、河合研究准教授らのグループは、骨髄組織から、骨や軟骨に分化する間葉系幹細胞を短時間で多量に採取する新技術を開発しました。この技術は、現在根本治療の存在しない骨形成不全症の患者さんや、高齢者の骨折に対して新たな治療法の確立に貢献できる可能性があり、次世代の再生医療へ繋がることが期待されています。

 中道研究准教授は、幹細胞を用いた腱組織再生を目指して研究を行っています。筋と骨を接合する腱は、自己治癒能力が低いため、一旦傷害を受けると既存の治療法では完全に回復することはありません。また、現在の移植手術では、患者さん本人の組織を移植する場合は健常部位から腱を採取することが大きな負担となっており、ドナーから移植する場合はドナー不足が課題となっています。
 中道研究准教授は、幹細胞の周囲環境による分化制御メカニズムを理解すること、3Dバイオプリンターなど技術革新を利用して、幹細胞から「バイオ腱骨組織」を創出することを目指しており、2022年にJSTの創発的研究支援事業に採択されました。「バイオ腱骨組織」の開発により、これまでの課題のブレイクスルーが期待されています。

 辻本研究准教授は、気候変動下によって深刻化する水危機・食料危機に対して、レジリエントな社会を実現するための研究を行っています。大気と陸面は互いに影響を与えており、例えば、降水や気象条件は土壌の水分量に影響を与え、その土壌の水分量は大気に放出される水やエネルギーに影響を与えています。また、土壌の水分量は植物の呼吸・光合成・生育や土壌有機物の分解にも影響しており、その結果として陸面から大気へのCO2放出量にも影響しています。このような「大気―陸面間の相互作用」を理解するための基礎研究を積み重ねながら、それらを数値モデル化して、地球スケールから農地圃場スケールまでの「気候-水-農業ネクサス(連環)」を観測・予測・制御するシステムの開発に取り組んでいます。
 気候変動下では、世界各地の雨の降り方にも変化が生じ、洪水・渇水等の水災害が激甚化しています。そのような中で、「雨の降り方の変化によって洪水・渇水の頻度・深刻度にどのような影響が生じるか」、「どこにどのような灌漑開発を行うと安定的な農業生産に効果的か」といった問いに高精度に答えるための観測・予測技術を確立することで、「水と食料の安全保障」への貢献が期待されています。

〇研究准教授制度について
 本学では、研究力強化促進と若手研究者育成などの観点から、優れた研究業績を有する研究者の全学を挙げた支援を実施しています。その支援のひとつとして、「准教授」が独立した研究代表者(PI:Principal Investigator)として活躍することを促進するため、「研究教授」の称号と研究費配分や研究活動の充実などのインセンティブを付与する「研究教授」制度を2018年度から実施しています。また、2020年4月からは、講師と助教を対象とした「研究准教授」制度を実施しています。

これまでに称号を付与された方の一覧はこちら

【本件問い合わせ先】
岡山大学リサーチ・アドミニストレーター(URA)室
TEL:086-251-8930

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