国立大学法人 岡山大学

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細胞の頑健性を再現するコンピュータ細胞モデル世界で初めて作成

2011年12月07日

 本学異分野融合先端研究コアの守屋央朗准教授らのグループが、酵母細胞の増殖・分裂を制御する遺伝子の「頑健性」を測定することに成功しました。また、得られた頑健性の情報をもとに、細胞の増殖・分裂を精密に再現するコンピュータ細胞モデルの開発に成功しました。細胞機能の頑健性を再現できるモデルは世界ではじめてです。本研究の成果である細胞の頑健性情報やコンピュータ細胞モデルは、癌などの疾患治療の効率的なターゲット選定への利用が期待されます。本研究は、オックスフォード大学との共同研究として行なわれ、国際科学誌Molecular Systems Biology(電子版)に、12月6日発表されます。
    <研究の背景>
  • 頑健性(用語解説①)とは、外乱や内乱にあらがって機能を維持する特性の事をいい、長年の淘汰圧のもとで進化した現存の生物の基本的な特性であると考えられています。細胞を操作するためにはこの頑健性の特徴を理解する必要があります。

  • これまで守屋准教授らのグループでは、出芽酵母をもちいて、「遺伝子綱引き法(用語解説②)」という、細胞の頑健性を測定する実験系を世界にさきがけて開発してきました。


<本研究の成果>
  • 本研究では、この遺伝子綱引き法を別種の酵母である、分裂酵母で開発することに成功しました。この技術を用いて、31個の遺伝子の解析を行い、分裂酵母の細胞の増殖と分裂の頑健性の測定を行ないました。

  • 出芽酵母と分裂酵母(用語解説③)は、進化的にハエとヒト程度はなれていることから、両者の頑健性を比較する事で、真核細胞に共通している頑健性の特徴がはじめて明らかになりました。

  • 今回、本研究でえられた頑健性の情報をもとに、分裂酵母の細胞増殖・分裂の頑健性を再現するコンピュータ細胞モデル(用語解説④)を世界ではじめて開発することに成功しました。


  • <今後の展開>
    • 本研究で得られた酵母細胞の頑健性の特徴は、ヒトの細胞にも共通している可能性があり、蛋白質量の変化により生じる疾患の原因を説明できる可能性があります。グループでは、さらに技術開発をすすめ、癌などの疾患細胞でも頑健性の情報を取得することを目指しています。これが可能になれば、疾患細胞を特異的に不活性化するための標的遺伝子(薬剤のターゲット)を効率的に発見できると考えています。

    • グループでは、コンピュータ細胞モデルの開発を更に進め、細胞でおきる事をすべて再現し、予測するような究極の細胞モデルの完成を目指しています。将来的にはこのようなモデルを用いて、生物による物質生産、薬剤の作用機構の解明、薬剤の開発などがコンピュータ上で調べられるようになると考えています。

    <その他>
    • 本研究は、国際科学誌 Molecular Systems Biology(電子版)に12月6日発表します。

    • 本研究は、オックスフォード大学のBela Novak教授らのグループと共同で行なわれました。

    • 本研究は、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、戦略的国際科学技術協力推進事業、文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究)、文部科学省振興調整費(若手研究者の自立的研究環境整備促進事業)の支援を受けて行なわれました。


    <用語解説>
    1. 頑健性(ロバストネス):外乱や内乱にあらがって機能を維持できるシステムの特性の事をいい、長年の淘汰圧のもとで進化した現存の生命の基本的な特性であると考えられています。細胞は数千の蛋白質によって作られていますが、それぞれの蛋白質の操作に対する細胞の反応は異なっています。これは、それぞれの蛋白質の操作に対する細胞の頑健性が異なるためです。したがって、効率よく細胞を操作するためには、細胞の頑健性の特徴をとらえ、どの遺伝子を操作する事が最も効率的かをまずしらなければなりません。守屋研究室で開発された遺伝子綱引き法(下記)は蛋白質の過剰な発現に対する細胞の頑健性を効率よく調べることができるはじめての実験系です。

    2. 遺伝子綱引き法:蛋白質の発現量(遺伝子から読み取られて作られる蛋白質の量)は、それぞれの遺伝子によって決まっています。それを人工的な操作によって通常の発現量よりも過剰に発現させることを過剰発現と呼びます。遺伝子綱引き法では、細胞内の遺伝子の数(遺伝子コピー数)を増やすことによって、蛋白質の過剰発現を引き起こします。そして、この過剰な蛋白質の発現に細胞(のシステム)がどこまで耐えられるか(頑健性:上記)を測定することができます。これまで守屋らのグループでは、出芽酵母でこの実験系を開発してきましたが、今回分裂酵母での開発に成功しました。

    3. 酵母:生命現象の基本原理を探るために用いられる単純な生物。一般的に高等生物よりも優れた実験系を提供します。本研究で用いた分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)は単細胞の真菌で、真核生物としてはもっとも単純ですが、人にまで保存された様々な細胞の機能を備えています。細胞分裂と増殖をつかさどる「細胞周期」と呼ばれる現象もそのような例です。パンやビールを造る出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)も同じ「酵母」と分類されていますが、進化的にはハエとヒトほどはなれています。したがって、両酵母の比較することができれば、ヒトにまで共通の原理が分かる可能性があります。

    4. コンピュータ細胞モデル:微分方程式を用いて細胞の振る舞いをコンピュータ上に再構築したもの。細胞シミュレータもほぼ同じ意味で用いられます。細胞システムの振る舞いを高い精度で予測できるコンピュータモデルが完成すれば、薬剤の効果などをあらかじめシミュレーションによって予測することができると期待されています。

詳細は報道発表資料をご覧ください。

【本件お問い合わせ先】
岡山大学 異分野融合先端研究コア
守屋央朗
TEL:086-251-8712

(11.12.07)

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