国立大学法人 岡山大学

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悪性リンパ腫治療薬「bexarotene(ベキサロテン)」のラット胎児奇形や胎児移行性を明らかに〜催奇形性を軽減した新たな創薬に期待〜

2022年09月29日

◆発表のポイント

  • Bexarotene(タルグレチン®)は、皮膚浸潤性T細胞リンパ腫の治療薬であり、最近ではパーキンソン病など様々な疾患モデル動物での治療効果が報告されています。その作用点として、レチノイドX受容体(RXR)へ結合することが知られています。
  • Bexaroteneは催奇形性があるとされることもあって、その有用性にも関わらず、その適応を広げる「ドラッグリポジショニング(DR)」は停滞しています。
  • 本研究では、ラットを用いてbexaroteneにより生じる骨格異常を明らかにするとともに、PETイメージングを用いて、胎盤通過性・胎仔移行性を明らかにしました。
  • 本研究成果は、bexaroteneの毒性学的な評価にとどまらず、催奇形性を軽減したRXR作動性物質の医薬開発を促進すると期待されます。

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士後期課程の大学院生である高村祐太氏、同学術研究院医歯薬学域の加来田博貴准教授らは、皮膚浸潤性T細胞リンパ腫の治療薬のbexarotene(タルグレチン®)により生じるラット胎仔での催奇形性を調べ、その原因の1つとして本薬物の胎児移行性を明らかにしました。
 Bexaroteneは核内受容体の1つであるレチノイドX受容体(RXR)作動性物質であり、皮膚浸潤性T細胞リンパ腫の治療薬として使用されています。加えて、本薬は様々な炎症疾患モデル動物での治療効果が報告されており、その適応を広げる「ドラッグリポジショニング(DR)」が期待されています。しかし、bexaroteneは催奇形性を生じることから、bexaroteneのDR、またbexaroteneの標的であるRXRを対象とした創薬研究は停滞しています。催奇形性の原因は様々ですが、一因として当該物質の胎盤通過能が考えられます。Bexaroteneについては、どのような催奇形性が生じるのか、また胎盤通過能・胎児移行性は明らかとなっていませんでした。そこで本研究では、妊娠ラットを用いてbexaroteneにより生じる胎仔の骨格異常を詳細に調べました。また、bexaroteneをPETイメージング用の放射性標識体に変換し、妊娠ラットへ投与することにより、本薬物の胎盤通過性・胎仔移行性を明らかにしました。本研究成果は、RXRを標的とした医薬開発に有用な知見を提供することに加えて、基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナル・サイエンス(注4)に貢献するものと期待されます。本研究成果は、8月10日に「ACS Pharmacology & Translational Science」に公開されました。

◆研究者からひとこと

 基礎研究が重要視されるアカデミア研究において、トランスレーショナル研究にも通ずる研究に携わることができ、非常にありがたい限りです。本研究成果が少しでも「創薬研究」に貢献できれば幸いです。本研究にご協力いただいた関係者の皆様に感謝申し上げます。
高村氏

■論文情報
論 文 名:Teratogenicity and Fetal-Transfer Assessment of the Retinoid X Receptor Agonist Bexarotene
掲 載 紙:ACS Pharmacology & Translational Science, 2022, 9, 811–818.
著  者:Yuta Takamura, Izumi Kato, Manami Fujita-Takahashi, Midori Azuma-Nishii, Masaki Watanabe, Rui Nozaki, Masaru Akehi, Takanori Sasaki, Hiroyuki Hirano, and Hiroki Kakuta*
D O I:10.1021/acsptsci.2c00126
U R L:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsptsci.2c00126

■研究資金
高村氏は、「岡山大学科学技術イノベーション創出フェローシップ(通称:OU フェローシップ)タイプB」の認定者であり、今後の活躍が期待されています。
 本研究は、(タイプB)JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2126、宇部興産研究助成金、ならびにアイバイオズ株式会社の共同研究費をもとに実施しました。

■COI
 本研究はアイバイオズ株式会社の共同研究費にて実施しておりますが、その研究デザイン、データの収集、分析、解釈、本論文の執筆、および出版に向けた投稿の決定に関与しておりません。


<詳しい研究内容について>
悪性リンパ腫治療薬「bexarotene(ベキサロテン)」のラット胎児奇形や胎児移行性を明らかに〜催奇形性を軽減した新たな創薬に期待〜

<お問い合わせ>
学術研究院 医歯薬学域 准教授 加来田 博貴
(電話番号)086-251-7963
(FAX)086-251-7926

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