国立大学法人 岡山大学

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白内障術後に予防的抗菌薬(抗生物質)の全身投与は必要か?

2022年12月21日

◆発表のポイント

  • 抗菌薬(抗生物質)が効かない薬剤耐性菌が世界全体で増えており、薬剤耐性菌の感染で死亡する人が増えると予測されています。
  • 世界保健機関 (WHO) では、2015年に薬剤耐性に関する活動計画(アクションプラン)が採択され、日本政府では2016年に薬剤耐性アクションプランを策定し、抗菌薬の適正使用(不必要に使わない、そして、使用量を減らすこと)を推進しています。
  • 白内障手術では、術中、術後に抗生物質の点滴や内服が感染予防として行われてきました。
  • 2016年4月から2022年10月の間に行った白内障手術について、2018年1月から段階的に抗生物質の点滴、内服を中止、2021年11月からは内服を中止しましたが、術後感染はありませんでした。
  • 今回の調査から、術前からの抗生物質の予防点眼など眼局所での感染対策を行えば、術後感染は起こらず、抗生物質の全身投与(点滴、内服)は不要であるという根拠を示すことができました。

 岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野(眼科)の松尾俊彦教授、同学術研究院医歯薬学域(医)総合内科の萩谷英大准教授、岡山県真庭市の落合病院薬局の井口真宏薬局長、森里典康薬剤師、同検査科の村﨏辰也技師長らは、2016年4月~2022年10月までに落合病院で行った2149症例の白内障手術を5つの時期に分けて振り返りました。①抗生物質の点滴を術中に行い、術後2日内服を行った時期、②抗生物質の内服を術前から術後2日まで行った時期、③別の抗生物質を術前から術後まで行った時期、④抗生物質の内服を術前1回だけ行った時期、⑤内服を中止した時期の5つの時期すべてで術後感染は認められませんでした。今回の調査から白内障手術では、感染予防のために抗生物質の全身投与を行う必要はないと言えます。
 本研究成果は、2022年11月28日、スイスの環境科学・公衆衛生学の雑誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されました。

◆研究者からひとこと

 感染症内科が専門の萩谷英大先生が岡山県内の医療従事者のための感染症学習/相談会(O-CAST)を始められ、保健所や病院の医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師など多様な医療職、医療系学生が参加しています。この会に私も参加して学ぶ中、白内障手術など眼科手術で長年行ってきた感染予防のための抗生物質の全身投与は本当に必要なのかと考えてきました。2000年頃、白内障手術の術後感染(眼内炎)訴訟の判例で抗生物質の全身投与が推奨され、全身投与をやめにくい事情もあり、この研究成果が抗生物質の全身投与は不要であるという根拠になればと思います。
松尾 教授

■論文情報
論文名: Are Prophylactic Systemic Antibiotics Required in Patients with Cataract Surgery at Local Anesthesia?
掲載誌: International Journal of Environmental Research and Public Health 2022, 19(23), 15796.
著者: Toshihiko Matsuo, Masahiro Iguchi, Noriyasu Morisato, Tatsuya Murasako, Hideharu Hagiya
D O I : https://doi.org/10.3390/ijerph192315796
U R L: https://www.mdpi.com/1660-4601/19/23/15796


<詳しい研究内容について>
白内障術後に予防的抗菌薬(抗生物質)の全身投与は必要か?


<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域
(岡山大学病院眼科)
教授 松尾俊彦

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