東京工業大学
岡山大学
◆【要点】
○遺伝子組み換え技術で緑藻クラミドモナスの葉緑体ATP合成酵素の機能制御スイッチ部分を改変
○制御スイッチを構成する2つの構造単位それぞれの機能を解明
○葉緑体ATP合成酵素の合成反応時の回転制御を初めて解析
【概要】
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の秋山健太郎大学院生(日本学術振興会特別研究員)と同 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の久堀徹教授、若林憲一准教授らは、岡山大学の高橋裕一郎教授(特任)、小澤真一郎助教(特任)らと共同で、植物の光合成反応でATP合成を担っている葉緑体ATP合成酵素の機能制御スイッチ部分を遺伝子組み換えによって改変することで、酵素活性の制御のしくみを分子レベルで明らかにした。
光合成を行う葉緑体内の酵素は、自然界で変化する光環境に応じてその活性を調節し、代謝機能を切り替えるのに不可欠な「酸化還元スイッチ」を備えている。中でも、分子モーターとして知られる葉緑体ATP合成酵素は、回転軸になるタンパク質部分に制御スイッチを持っており、このスイッチが回転を制御するしくみは以前から注目されてきた。
研究グループは、この葉緑体ATP合成酵素の制御スイッチのしくみを調べるため、遺伝子改変が容易な緑藻クラミドモナスを用い、遺伝子組み換えによって制御スイッチ部分のさまざまな構造変異体を作出した。具体的には、制御スイッチを構成するアミノ酸配列の部分的な切除・置換を行い、スイッチの動作の詳細を調べた。これまでの研究での構造解析から、このスイッチは大きく2つの構造単位(ドメイン)で構成されていることがわかっていたが、今回の研究により、この2つのドメインがそれぞれ果たす役割と、それによって酵素の活性、すなわち分子モーターの回転を制御するしくみが明らかになった。
この酵素の活性制御の研究では、これまで部分複合体を用いてATP加水分解時の活性変化が調べられていたが、今回の研究では初めて完全な酵素複合体を用いて、ATP合成活性そのものが酸化還元スイッチによって制御されていることを明らかにした。
本研究成果は1月30日付け「Proceedings of National Academy of Science USA」電子版に発表された。
【論文情報】
掲載誌:Proceedings of National Academy of Science USA
論文タイトル:Two specific domains of the γ subunit of chloroplast FoF1 provide redox regulation of the ATP synthesis through conformational changes
著者:Kentaro Akiyama, Shin-Ichiro Ozawa, Yuichiro Takahashi, Keisuke Yoshida, Toshiharu Suzuki, Kumiko Kondo, Ken-ichi Wakabayashi, and Toru Hisabori
DOI:10.1073/pnas.2218187120
●付記
本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B)(21H02502 代表:久堀徹教授)、挑戦的研究(萌芽)(21K19210 代表:久堀徹教授)、基盤研究(B)(22H02642 代表:若林憲一准教授)、基盤研究(C)(21K06217 代表:岡山大学・小澤真一郎)および日本学術振興会特別研究員奨励費(20J22917 秋山健太郎)の支援を受けて行われた。
<詳しい研究内容について>
葉緑体ATP合成酵素の酸化還元制御のしくみを解明-光合成ではたらく酵素の分子モータータンパク質の回転制御-
【問い合わせ先】
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授
久堀 徹(ひさぼり とおる)
TEL: 045-924-5234 FAX: 045-924-5268
【取材申し込み先】
東京工業大学 総務部 広報課
Email: media◎jim.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661
※@を◎に置き換えています。
岡山大学総務・企画部広報課
Email: www-adm◎adm.okayama-u.ac.jp
※@を◎に置き換えています。